異例のシーズンを迎えているAMAプロモトクロスは、毎週連戦が続いている。一般人には理解不可能なレベルのスピードリカバリーが求められ、さらにその最中で成長していくことがキャリアを積むうえで必須。下田丈の今回のリザルトは、明らかに着実な「一歩」だ。一時5番手を走行、フィニッシュは7位。キャリア初のシングルフィニッシュをマークした。
スピードに自信。100%ではない状態で引き寄せたチャンス
「最初の2ラウンドでいろいろあって、アンラッキーでもあったんですが、結局自分のミスだってこともわかってました。今回、ようやく乗り越えられたように思います」と下田は言う。3戦連続で、実はマディであった。荒れる路面は、昨年走ったアイアンマンとほとんどワダチのできかたなども同じだった。「クオリファイの時から乗れてて、タイムも出てました。スピードに自信がありましたね」
下田によれば、ロレッタリンのような狭いトラックはブロックされてしまえば、パッシングは難しいが、アイアンマンのようにプロモトクロスで通常つかわれる広大なトラックは、スピード差があればそこまでパッシングに苦労を強いられないそうだ。実際「デカイテーブルを飛んで、左、右とコーナーが続き、フィニッシュ前にS字コーナーがつづきます。そのあとの3コーナー目くらいまでの間、今回はよく前走車を抜いてました」と言うだけあって、勝負ポイントの幅はとてつもなく広い。めまぐるしくかわっていくレースの展開にあわせて、クリエイティブにラインを組み立てていくことが重要だが、下田の場合は圧倒的にアイアンマンのようなコースのほうが、得意だし好みだ。
モト1は、スタートで10番手くらいに落ち着いてしまった。競って12位でのフィニッシュ。前半のペースがあがらず、後半に調子を取り戻したときにはすでに時遅しであった。開幕前に負傷した肩は、もう痛みがほとんど無いが、乗り込めなかったことがまだ響く。
前のほうで走れることで、急速に成長できる
モト2は、スタートが決まり3~4番手での立ち上がりだったが、エンストして12番手まで後退。これまでと同じパターンかと思いきや、そうではなかった。序盤にペースがうまく作ることができ、じわじわと集団を抜け出していく。「前のほうで走れば、勝手にペースが上がります。だから、スタートは本当に大事ですね」と下田は言う。
開幕から、下田がNBCの中継に映ることはなかったのだが、実況のジェイソン・ワイガントも驚いたのかもしれない、中盤になって6番手を走るジェット・ローレンスの背後までやってきた下田の姿をセンセーショナルに伝えた。ジェットは、プロサーキットのピンチヒッターであるミッチェル・ハリソンを追い詰めていて、下田が追いついたことで三つどもえの様相に。「ハリソンのブロックが多くて、あの時はかなり詰まってしまってましたね」と下田は言う。それがなければ、もしかしたらさらに好レースだったのかもしれない。ハリソンが蓋をしたことで、このモトのスタートで転倒したディラン・フェランディスらが背後に迫った。
下田は、終盤にフェランディス、アレックス・マーティンに刺され7位でのフィニッシュ。「ちょっとずつ成長しています。まずはトップ5、できれば表彰台までとれたら最高ですね。今回、前のほうで走れたことで、どのくらいのペースが必要なのかがわかりました。トレーニングにも、この経験を活かすことができますし、急激に伸びるはず。日本のみなさんも、応援よろしくおねがいします」と下田。2020年スーパークロスも、立ち上がりから急成長を遂げてルーキーオブジイヤーに輝いたが、これは同じ勝ちパターンに入ったのかもしれない。次戦、レッドバッドは早くも週末。さらには、このレッドバッドではたった中2日で次のラウンド5「レッドバッド2」がやってくる。休まる暇はなく、下田は前進を続ける。