トップチームであるKTM、ハスクバーナは市販車とは異なるラリー専用マシンを開発してきた。そして、ホンダは2014年からラリー専用マシンを開発してきた。どちらも、KTMはオーストリアで、ホンダは日本で、メーカー本国のいわば「ファクトリー活動」をおこなってきたわけだ。ところが、ヤマハの場合はそうではない。長い参戦歴史を誇るものの、同社のエンデュランサー(モトクロッサーをベースにして、公道走行を可能にしたエンデューロ用パッケージ)WR450Fをヨーロッパヤマハがモディファイする形でファクトリーマシンを作ってきた。
The 2019 WR450F Rally
今年は、ステージ3でトップタイムを出したX・ソルトレート、2018年には勝ち目も見えていたA・ビバレン、他2名の計4名が新型のWR450F Rallyにライドする。例年、新型のWR450Fで仕立て上げられるのが常なのだが、2019 WR450F RallyはフルモデルチェンジしたばかりのWR450Fをベースとしてはいない。フレームワーク、エンジン(2019 WR450Fはキックスターターが軸から廃止されている)ともに、2018モデルのものを使用する。
ヤマハWRのエンジンの耐久性には、元来定評があったことから、長距離の対応力は充分、GYT-Rのパーツや、内部パーツのモディファイによって、よりパフォーマンスを向上させることに注力したという。EFIには、GETのシステムを組み込んだ。
2cmロングなスイングアーム
2018年にOff1.jpで紹介している風間晋之介のWR450F Rallyでも、やはりスイングアームを伸ばしていたが(風間が乗ったマシンは、実は前年のファクトリーマシンベースで、つまりは2017 WR450F Rallyと同スペックだ)、2019モデルも同じように2cm延長してハイスピードでのスタビリティを向上させている。
究極にこだわったライダーインターフェイスは、WR450Fベースでわずか25mmのタンクのオフセットにとどまり、ほとんどWR450Fと同様のニュートラルなポジションが得られ、そのタンク容量は実に33L。タンクは2019年モデルで新造されており、マスの集中化をつきつめた。マシン自体の感想重量は142kgだとのことだ。
Engine | WR450F Rally | WR450F |
Engine type | Single-cylinder, liquid-cooled, 4-stroke, DOHC, 4-valves | Single-cylinder, liquid-cooled, 4-stroke, DOHC, 4-valves |
Displacement | 449 cc | 449 cc |
Bore x stroke | 97.0 mm x 60.8 mm | 97.0mm x 60.8mm |
Compression ratio | 12,5 : 1 | 12.5:1 |
Lubrication system | Wet sump | Wet sump |
Fuel system | Fuel injection + GET system | |
Clutch type | Wet Multiple Disc | Wet Multiple Disc |
Starter system | Kick + Electric | Kick + Electric |
Transmission system | Constant Mesh, 5-speed | Constant Mesh, 5-speed |
Chassis | ||
Frame | Semi double cradle | Semi double cradle |
Front suspension system | Telescopic forks 52 mm diameter | |
Front travel | 310 mm | 310 mm |
Caster angle | 26º 20 | 26º 20 |
Trail | 114 mm | 114 mm |
Rear suspension system | Swingarm, KYB Factory rear shock | Swingarm, KYB Factory rear shock |
Rear travel | 318 mm | 318mm |
Front brake | Brembo, Hydraulic single disc, Ø 300 mm | Hydraulic disc, 270mm |
Rear brake | Hydraulic single disc, Ø 245 mm | Hydraulic disc, 245mm |
Front tyre | 90/90-21 | 80/100-21 |
Rear tyre | 140/98-18 | 120/90-18 |
Dimensions | ||
Overall length | 2,185 mm | 2,165 mm |
Overall width | 845 mm | 825 mm |
Overall height | 1,290 mm | 1,280 mm |
Seat height | 975 mm | 965 mm |
Wheel base | 1,485 mm | 1,465 mm |
Minimum ground clearance | 325 mm | 325 mm |
Complete weight (including fuel and oil) | 162 kg | 123 kg |
Fuel tank capacity | 33 litres | 7.5 litres |
Oil tank capacity | 1,2 litres | 0.95 litres |
スペックを並べてみると、WR450Fとの違いはとても少ない。しかし、長年培ってきたモディファイの技術や、元々YZ系の後方排気エンジンがポテンシャルに優れることもあって、現代ラリーで奇跡的に戦えるチームを作り出していると言えるのかもしれない。
現ダカールにおいて、KTMは巨人だ。なにしろ圧倒的なシェアを誇り、参加台数もホンダやヤマハの比ではない。ヤマハの場合、この新型を4台だけエントリーさせているのだが、チーム戦と言われる現代ダカールにおいて、この状況のいかに難しいことか…。