エンデューロが牙をむくのは二日目だ。なぜなら、コースが変わらないならば、深くなったワダチやあれたギャップが二日目にはひどくなるからだ。台数が限られているとは言えど、61kmで構成されたドイツGPのフィールドは、一日目とはまったく異なる難易度だった。走りきった増田の言葉を借りるなら「バイクがみえなくなるくらいのワダチがあるくらい」。参考までに、一日目1本目のCTベストタイムは5分5秒(A・サルビーニ)。二日目最後のCTベストタイムは5分29秒(S・ホルコム)。GPのトップランカーがこの有様の状況を、ジャパニーズウィメンズ生き残りの増田が完走できる可能性などあるのだろうか。
「増田まみは、スタンディングを覚えた」
どう走ったらいいのかすらわからない、日本にはない荒れ具合のコース。増田は、苦戦するなかでコースマーシャルに「こういうエンデューロは立って乗らなきゃ」とアドバイスを受けたという。スタンディングにそこまで自信が無かった増田は、いきなり対応できるはずもなかったけれど「今後のトレーニングのつもりで、スタンディングで走ることを心がけましたよね。私たち、遅いスピードだと、特にギャップをもろに体で吸収しちゃうので、スタンディングの恩恵は大きく、立たなくてはいけない理由もよくわかりました」と。
スタンディングだけではなく、細かなエンデューロならではの所作をこの2日で次々に会得していったことで、飛躍的にスキルを伸ばしていくことが端からみてもよくわかった。1日目は1周目でほとんど使いきったタイムだったが、2日目にはだいぶ余裕が出てきた。
だが場慣れしていないエクストリームテストでは、ヒルクライムでバイクを投げてしまう場面も。
危ないくらい遠くに飛んでいくRR2T 125。
臨機応変が、Enduro GPのスタイルなのか
取材班や、今日はライダーではなく見ることに徹した菅原は、増田がターゲットタイムから遅れ始めた2周目の最初のテストで、後続のクラスと重なってしまい、テストのスタートを遅くされたことを目撃している。おそらく、これはスタッフの温情で「タイムアウトしているけど、最後だし走りなよ」とスタートを切らせてもらったのだと思っていた。
だが、実際は違った。
増田は、このとき22分遅れていてスタートでスタッフにこう言われたという。「22分遅着で、まだあなたには走ることができる権利がある。でも、いまは後続のテストがはじまってしまっているから、迷惑をかけないでほしいんだ。だから、僕がいいといったらスタートしてほしい。遅れた分は、このタイムカードに書いておくから22分遅着のままだ。いいね」
後続は併催されているドイツ選手権なのだけれど、Enduro GPが重んじているのはあくまで「走る場の公平性」のように思えた。後ろに迷惑をかけることを極端に嫌うけれど、規則は柔軟に対応する。増田・菅原ともにこんなことも言う。「雰囲気がすごくよくて、おおらかです。競技だけど、相手を蹴落としてでも前にいくような感じはない。エンデューロが好きな仲間があつまって競技会をしているようなムード」
かくして増田は、22分の遅着のまま競技を進め、最後のテストで大幅に遅れて30分をオーバー(最終的に56分の遅着)するものの、最後のテストを走りきり、規定の2周をフィニッシュした。
リザルトとしては、6本分のタイムが残っているものの完走扱いではなく「Exclsusion」(除外)扱い。9名のエントリーのうち、スタートしたのは6名で、4名はオンタイムだった。優勝であり、チャンピオンである栄えある1位は、フィンランドのサナ・カルカイネン。1日目同様、モトクロスのスーパースタであるリビア・ランスロットを下しての勝利だった。
「2kmくらいあるウォッシュボードがあるんですけど、今日は1.5倍くらいの深さになってて、もうとにかく大変でした。走ってるうちは3周だと思ってたので、帰ってきてこれで終わりっていわれた時に拍子抜けしちゃいましたよ。とはいっても、ほんと持ってる力を全部出し切らないとどんどん遅着が増えていくんですよ。辛かったですね。
選手とはあまり話していないのですが、元選手やスタッフの女性と仲良くなって、また来いよって言ってもらえました。アテンドしてくれたイリスって女性はウィメンズトライアルの元チャンピオンなですって。教えてもらって、シックスデイズにも挑戦してみたいですね!」と増田。
菅原も、しっかり1日をかけてトップライダーや走り続ける増田の姿をみて触発されている。「スタンディングで走らないと、ダメなんですね。そのことがよくわかったし、これまでと同じように練習しててもダメだと思いました。特にびっくりしたのは、ユースの125ccのライダー達で、ライン取りの自由自在さに驚きを覚えましたよ」とのこと。
GPでオーバーオールのタイトルを得た、S・ホルコム。増田、菅原ともにトップ集団の走りには舌を巻いていた。