この秋のダートバイクに関する話題といえば、CRF450Lデビューとこのセロー250復活。Off1でも、「変わらないで出てくれた」と表現しているけど、いざ旧型と乗り比べると若干ながら元気になっていることに気付かされた。環境性能を向上させたことで犠牲になった部分を、底上げするための施策と考えられる圧縮比アップによるものではないかと推測される。今回は、南米ダカールラリーのフィニッシャー、風間晋之介にテイスティングしてもらった。
風間晋之介
俳優であり、ライダー。2010年代後半において、日本を代表するダカールラリーチャレンジャー風間晋之介。モトクロスは国際A級のライセンスを持ち、2017・2018のダカールラリーを完走。2018年は、KATSU-do配給の映画「カーラヌカン」に出演
旧セローと異なる、極低速のフィーリング
2018年に発表、発売された新型セロー250は、様々な憶測が立てられブルーコアエンジンの採用なども噂されていたところだったが、リアフェンダー、テールランプ、および環境性能の向上といったマイナーチェンジにとどまった。
しかし、見た目と裏腹に、上記レポートでも表現したとおり走行フィーリングが違ってくるはずだ。
比較検討材料になったのは、Off1編集部が所有する旧セロー250。写真はエンデューロタイヤを履いているけど、純正のタイヤに戻してテストへ持ち込んだ。走行距離は13000km超えだが、タフなセローだけにヘタったフィーリングはない。
正直なところ、当初風間は「特に変わらないですね。どこにでも入っていけるような、すごく親近感のあるキャラクターで、とても乗りやすい。所有したことはないのですが、僕がセローに抱いていたイメージにぴったり合う」とべた褒めだった。テストコースは、山梨県イーハトーブの森で湿った路面はかなり難しいコンディションだったが乗りやすさが際だった印象だ。
だが、1時間ほどのりこんでいると「いや、よく乗り比べてみると極低速から低速にかけてパンチがあるように思えてきました。ワダチを超えるような時にアイドリング付近からボンっと吹かした時に、明らかに前に出るフィーリングがある。だからかな、サスセッティングも変わっていないのに、サスペンションも若干柔らかくなっているような印象すらあります。トラクション性能も、ほんのわずかに上がってるように感じますね。
一般的なセローの使い方って、たぶん山の中をとことこ走るようなことを想像しているんですが、そういう使い方によりフィットする性能になったんじゃないかなと思います」と風間。モトクロスのような「明確に前モデルより進化した」ものとは異なるが、新型になってより洗練されたと言ってもいいのではないだろうか。
あらためて新旧のマフラーを比べると、排気口の太さも若干違う。このあたりも、おそらく風間が感じた極低速のパンチに影響しているのではないだろうか。
編集部稲垣も、しっかり乗り込んでみたけれど「言われてみれば違う」というレベルではなく、ちゃんと前にでるバイクになったなという印象を受けた。ただ、風間は感じなかったものだが、アイドリング付近でアクセルを「揉みすぎる」と、時々トルクが出てこないようなことがある。この特性は、旧モデルでもあったのだけれど、圧縮比が上がっている分少し出やすいような気もした。いずれにせよ、超特殊な試し方をしないと出てこないものなので気にとめる必要はないだろう。
セーフティに、遊びにトライできる
「このイーハートーブの森は、丸太を超えるような遊び方もできるのですが、セローだとそういうセクションでの遊びがセーフティにトライできますね。レーサーだと、失敗したときに挙動も大きく、派手に転倒してしまうこともあるので、気負ってしまいますが、セローには許容でいる懐の深さを感じます。その分、思い切り遊べるなと。
その辺が、マウンテントレールである理由かな、って思いました。
あと、セローってフロントがすごく軽いですよね? 少し不安に思うくらいなんですが、森の中に分けはいってみると、その特性の意味がよくわかりました。低速で遊ぶ時の性能としては、最高にこのハンドリングがいい。上れなくてリトライする時とか、ウッズの間を縫って走る時、このキレ角と軽さは本当に助かる。高速でぶっとばすバイクじゃないなと、よくわかりました」と。モトクロス以上に直進安定性が求められるラリーバイクを操る風間ならではだが「最初、ステアリングダンパーがほしいと思ったくらい」と笑う。「不安に思えた部分が、長所に感じて、目から鱗でしたね」
実燃費は高速メインで37.8km/L
イーハトーブの森まで、東京都練馬区から高速をつないで走行したところ、ガソリンは3.5Lで満タンになった。つまり、トリップから計算して37.8km/Lだ。
旧ツーリングセローで東北道を全行程一気に走ったことがあるが、さすがに素のセローだとツーリングセローの快適さには敵わない。また、一般道や高速道路では旧セローとのパンチの差は一切感じ取れなかった。しかし、アクセルを急に戻した時に、旧セローだとわずかに出ることがあったバックファイヤが、一切なかったことは印象に残る。O2センサーを駆使した燃焼マネジメント性能がいいのかもしれない。
「セローは本当に楽しいですよね。うちの親父(風間深志)なんて、一番セローが好きだって言ってますけど、本当に遊べるし、バランスがいいから攻め込んでも危なくない。コンパクトで身長が低くても問題ない。
僕らはコースにバイクをトランポで運んでいきますけど、自分でバイクに乗ってきて、ここで遊んで帰れるのって、もしかして贅沢なのかもなって思いました。道中でもバイクを楽しめるじゃないですか。僕、コースにバイクを置いておいて、他のバイクでコースに行きたいなと常々思ってたんです。アドベンチャーバイクだと、さすがに遊べないけど、セローなら問題ないじゃないですか。贅沢なやつですよ、これ」
細分化されるホビーのカテゴリーは、ツールに個性を与えていく。モトクロス、エンデューロ、トライアル。各々のレーサーもしかりだ。だが、セローにはそのカテゴリーの垣根を越えた個性が光る。「バイクが好き」という風間の根源的な部分に、訴えかけてくるセローだからこそ、セロリスト達はセローを愛してやまないのだ。