今シーズンのMotoGP後半戦もスタート! 

そんなタイミングですが、現在Moto2&Moto3クラスに参戦中の「IDEMITSU Honda Team Asia」の岡田忠之監督による、チームの前半戦を振り返るスペシャル企画をお届けいたします!

画像: ちなみに、岡田さんは根がジェントルマンなため、取材モードとなると最初はきっちりと敬語モードで話してくれます。ま、話が進んだり、飲んだりすると自然と崩れて来るのですが(笑)。そんなわけで、後半ではだんだん“素”のモードになってる口調でお楽しみください。

ちなみに、岡田さんは根がジェントルマンなため、取材モードとなると最初はきっちりと敬語モードで話してくれます。ま、話が進んだり、飲んだりすると自然と崩れて来るのですが(笑)。そんなわけで、後半ではだんだん“素”のモードになってる口調でお楽しみください。


今回は「Webオートバイ」の限定記事としてお届けいたします!

編集部:前半戦の中上選手は表彰台には上ってるし、予選は好調な時が多いのに、なかなか勝てない、というパターンが続きました。昨年競り合ってたライバルのフランコ・モルビデリが、今年は絶好調なわけですし。

岡田:僕は最近、あえてタカに何も言わないようにしてるんですよ。チーメカと2人で自由にやらせてる。というのも、結局解決するのは自分しかいないんです。いまMotoGPにしろ、Moto2にしろ、アドバイザー(ライディングコーチ。その多くは元ライダー)をつけるライダーが増えたけど、所詮ライダーって、自分で納得しないと人の言うことなんて上の空で聞くだけなんで(笑)。選手は「自分が1番」だからね。タカももう子供じゃないし、Moto2がどういうレースかってこともよくわかってる。もともとのポテンシャルは高いんだから、自信を持って、焦らなきゃ勝てますよ。だから僕はいつもライダーに、「なるべく緊張しないようにセッションを持っていけ」って言うんです。

画像: 中上貴晶 選手(Moto2)

中上貴晶 選手(Moto2)

編集部:緊張するなと言われてしなければ、苦労しないんだよ!って私などは言いたくなりますが(笑)

岡田:あはは! でも、いかに緊張しないように本番までの準備をするかって、本当に大事なんですよ。それができるかどうかは、自分を信用できるかどうかにかかってる。

編集部:そういう話を聞くと、ライダーは本当にアスリートなんだなと思います。ところで、さっき中上選手はポテンシャルが高いと言ってましたが、やはりライダーとしての資質は優れているんですね?

岡田:うん。走りも体格もね。あとはもっともっと自信をつけるだけだと思う。

編集部:なるほど。中上さんは体型もライダーとして理想的なんですか?

岡田:いまパウイ(中上選手のチームメイトのカイルール・イダム・パウイ選手)が成長期なんで、どんどん食わせて、トレーニングさせてるんですよ。だからすごく身体が大きくなったんだけど、体質がすごくタカに似ていて、2人とも筋肉質なの。それにタカは、少ない体脂肪をキープできる。(加藤)大治郎もそうだったけど、体脂肪を低くしたままキープできるライダーってあんまりいないんだよね。だいたい風邪をひいちゃったり、ムリして減量すると体調を崩しちゃう。

編集部:は〜、減量はできても維持する方が難しいんだ。ちなみにMoto2で成績が良い選手でも、MotoGPにステップアップすると、そのまま活躍できる場合とできない場合に分かれますよね。中上さんは、MotoGPにフィットするタイプのライダーなんでしょうか。

岡田:彼の走り、ポテンシャルは間違いなくそうですね。逆に大きいクラスに行った方が、今より安定するかもしれない。Moto2って、それだけ難しいクラスなんですよ。なんて言えばいいのか難しいんだけど、Moto2のタイヤとマシンを、タカのスキルの方が超えちゃってるところがあるので。

編集部:う〜ん…素人には理解できない世界ですが…何はともあれ、中上選手が実力があるライダーだということを岡田さんから聞けて、後半戦への期待がさらに膨らみました!
中上貴晶選手について聞いた、岡田監督スペシャルインタビュー、いかがでしたか?
続いては、チームアジアの残り3選手についてお聞きしました。

編集部:中上選手のチームメイト、今年Moto2クラスに昇格した、カイルール・イダム・パウイ選手についてはどうなんですか。昨年Moto3のウェットレースでは2勝を挙げたので、Moto2でもいけるのか!? なんて期待していたんですが…。

画像: カイルール・イダム・パウイ選手(Moto2)

カイルール・イダム・パウイ選手(Moto2)

岡田:そんなにレースは甘くないよ。っていうか、まだパウイはMoto3の走りだもん。コースは去年も走ってるからわかってるけど、やっぱりまだまだMoto2の走りができてない。例えばタカが、あるコーナーの150m看板でブレーキングして、トップタイムを出したとするでしょ。でもパウイはそれより奥の120mとか、100mとかまで行っちゃって、転倒したりするの。感覚が、まだMoto3のままなんですよ。

編集部:Moto3の方がコーナーでのブレーキングはツッコむんですね? いま初めて知りました(笑)。

岡田:そう。本人もMoto2の感覚に慣れたつもりだけど、集中して走ってると、ふとMoto3の感覚に戻っちゃうんだろうね。特に1年に1回のレースでしか走らないコースでは、感覚が戻っちゃうんだと思う。テストで何回か走ったコースだと、走りが全然違うんですよ。実際、事前テストのあったヘレスなんか、途中8位とか9位くらいまで追い上げて、いいパフォーマンスを見せた。結局そのレースは転んじゃったけど、長い目で見ないといけないでしょうね。

編集部:ポテンシャルとしては、長い目で見る価値があるライダーなんですね。

岡田:ライダーはみんな頑張ってるけど、頑張るのは誰でもできる。だから頑張る中身が大切なんだけど、パウイのレースへの貪欲さは、アジア人ライダーの中では突出してるんじゃないかな。実家がオイル屋さんでロードコースを持ってたり、お父さんが今度自宅の敷地にダートコースを作るって言ってたりして、環境的に恵まれてる部分もあるんだけど、レースへの取り組み方、貪欲さは、なんだか昔の日本人みたいですよ。もちろん、本人の上手さだとか、センスとか、どれかひとつ欠けても、トップにはなれない世界だけど、最終的には本人がどれだけ貪欲かどうかにかかってるからね。

そしてMoto3は…

編集部:Moto3クラスの鳥羽海渡選手と、ナカリン・アティラブババト選手についてはどうですか?

岡田:Moto3の2人については、まさに育成中ですね。まだまだ若いライダーだもの。とにかく2人に言ってるのは、「人の後ろを走るな」ってこと。人の走りを真似してたら、自分の走りを確立できないし、ステップアップできないからね。ただねぇ、いまの若いライダーって、そういう子が多いのよ。それはルールの弊害もあって、現在のMoto3のレギュレーションだと、一周が4つのセクターに分かれてて、そのうちの1つのセクターでも、ベストラップから110%以上遅いタイムだとペナルティを受けるんです。

編集部:そんなルールがあるんですね。

岡田:そう。だから速いライダーが走りだすのを、コース上で待つライダーがとにかく多くて。ひどいと、ピットロードの出口で待ってたりする。確かに速いライダーの後ろでスリップを使うと、ラップタイムが1.5秒くらい速くなるのはわかるんだけど、それをやっても本人の上達はないからね。

編集部:タイムさえ良くなればいいわけじゃない?

岡田:人の後ろを走ってると、マシンのセッティングができないんだよ。レースはいかに単独走行で、他のライダーより速いタイムを出せるか。そしてFP1、FP2、FP3とこなして行く中で、その時の不具合をいかに調整できるかが大切なんですよ。でも人の後ろを走ってると、タイヤの限界、コーナリングスピードの限界がわからない。ライダーは走りながら、常にタイヤと相談してるものなんだけど、そういうのが一切なくなっちゃうわけ。

編集部:まず速いライダーの後ろについて、タイムを上げるのがサーキット走行で速くなる近道だと思ってました。

岡田:もちろん、初めて走るコースはそうだよ。うちでもナカリンなんかはまだ初めてのコースがあるので、そういう時は積極的に後ろにつかせてる。それでリズムを覚えて、ラインを覚えて、ブレーキングポイントを覚えるのが、1番速いから。でもその走り方を、すでに知ってるコースでもずっとやってしまうライダーが多いから、レベルが上がらないんだよ。速いライダーは絶対に人の後ろにつかないからね。単独でタイムを出す。それをうちのライダーたちには、徹底して言ってますね。

画像: ナカリン・アティラプワパ 選手(Moto3)

ナカリン・アティラプワパ 選手(Moto3)

画像: 鳥羽海渡 選手(Moto3)

鳥羽海渡 選手(Moto3)

編集部:とはいえ、やっぱりラクにタイムが出るとなると、誰かの後ろにつきたくなる気持ちも分かる気がしちゃいますねぇ(笑)。

岡田:そういうライダーをどうするかも、チームのスキルだったり、育て方でもあるんだけど。ただ、それを直接ライダーに言えるかどうかはまた別でねぇ…。あんまりスタッフがライダーにあれやこれや言いすぎると、チーム内がギクシャクしたりもするのよ。いまほとんどのチームが、元ライダーのアドバイザーをつけてるけど、そういう面のメリットもあるだろうね。うちは俺がアドバイザー兼監督なんで、そこは強制的に言うんだけど(笑)。

編集部:MotoGPのダニ・ペドロサにセテ・ジベルナウがついたり、V・ロッシにルーカ・カダローラがついたり、最近、急にライディングコーチの存在がクローズアップされた気がします。昔からそういうアドバイザーはいたんですか?

岡田:あんまりいなかった。今年が1番増えたんじゃない? Moto3ライダーにもかなり増えたからね。たぶん、アドバイザーが必要になった理由のひとつに、ライダーの弱年齢化もあるんじゃないかな。10代の選手も珍しくないけど、スキルもメンタルもまだ追いついてない年代だからね。

編集部:最終的にはライダー次第だけど、その環境もすごく大切なんですねぇ。今回は貴重なお話をありがとうこざいました。
後半戦もチームの活躍に期待してます! あと、単独でタイムを出せてるライダーなのかとか、フリー走行から注目してみますね!

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