MotoGPを運営するドルナスポーツ推奨の育成プログラムに!
「世界トップレベルのレースで活躍する人材の育成を目的としている」鈴鹿サーキットレーシングスクール(略称:SRS)の開校式が3月29日、鈴鹿サーキット(三重県)で行なわれた。注目はSRSの2輪部門で、2016年から「SRS-Moto」と名称も新たに(2015年まではSRS-J)、講師陣、使用車両をリニューアル。国内最高峰というか、世界レベルでも遜色の無いシステムを採用したと言われており、卒業生をより「世界選手権」へ近づけるための進化を果たしている。
中でもポイントはスカラシップ制度(奨学制度)の導入だろう。成績が優秀な生徒は、同スクールが運営するレーシングチーム「TEAM SRS-Moto」で2017年シーズンからMFJ全日本ロードレース選手権に参戦でき、実戦の場で経験を積むことが可能となる。将来有望なライダーが集まるスクール内が、熾烈な競争となることは想像に難くないが、世界を目指すキッズライダーや若手ライダーにとっては、歓迎すべきシステムの誕生だろう。
ドルナスポーツ・ライダー育成計画リーダー アルベルト・プーチ氏 コメント
「私はこの育成プログラムを心から歓迎します。私の世代のライダーにとって鈴鹿は、競争力のあるオートバイレースの聖地であるからです。当時の全てのヨーロッパ人ライダーは、鈴鹿サーキットに対して大きな尊敬の念を持っています。ドルナも、この取り組みを喜んで支持します。我々が昨年から進めているシェルアドバンス・アジア・タレントカップとともに、SRS-Motoからきっと出てくるであろう新しい才能に会えることを楽しみにしています」
岡田忠之 校長の講話
○入校式挨拶
2016年、入校おめでとうございます。今年から、SRS-motoの校長を勤めさせて頂きます、岡田です。私は普段、世界グランプリの、今年はMoto2クラスとMoto3クラスのチーム監督をしていて、ヨーロッパにいるんですけども、世界に通用するライダーが何をしているのかを見ている立場を活かして、皆さんがどういうふうにしたらもっと速くなれるのか。もっと楽しく、高いレベルで、スキルを磨いて欲しいと思いますので、講師、それから鈴鹿サーキットの皆さんと協力しあって、情報を共有して、これから見ていきたいと思いますので、どうぞ宜しくお願いいたします。
○生徒保護者に向けた講話
新たに校長になりました、岡田です。僕が見たSRSスクールの指導の印象は、講師はじめ皆さんが、ライディングもそうなんですけども、(生徒を)一人の人間として、キッチリ育ててくれているな、という印象を受けました。ただ、やはり乗る環境としては限られた環境です。いま僕はMoto2クラス、Moto3クラス参戦チームの監督をやらせて頂いて、拠点がHRCと同じスペイン・バルセロナになります。で、チームのライダーには、ヨーロッパに滞在する間は、毎日バイクに乗せています。トライアルバイク、ダート、基本的には土の上ですね。なぜそういうことをさせるのかと言うと、やっぱりいま速いライダーは、みんなダートをやったり、いろいろ土の上でやってるんですね。ダートをやってるライダーは、僕らの知らないテクニックを非常に持っています。僕もライダーと一緒に乗るんですけども、新たに覚えることも多いです。で、「これを現役の時にやってたら、もっと速くなってたかな」とか感じます。ロードと違う部分で、彼らは基本的に体を使ってバイクを操作しているんですね。
大きなバイクになればなるほど、8耐や、MotoGPがそうですけども、体のどこを使えば上手に走れるのか、そのバイクに合った走りができるかが大事になってくる。やっぱり、日本人も含めてアジア人選手は、まだまだその引き出しが少ない気がします。スペイン人なんかは乗る環境が整っているし、乗る時間が多いので、誰が教えなくても、必然的に自分で覚えていく。そういう良い環境にあります。SRSではその環境に近づけるために、僕が向こうで感じたことだったりを、生徒さんに伝えていって、それがより(世界への)近道になればいいな、と思います。
ライディングについては、先ほどの入校式で、SRSカート・SRSフォーミュラの中嶋悟校長が「人の走りを盗んで自分のものにしなさい」と言ってましたけども、常にアンテナを張って、自分が速く走るために何をしなくちゃいけないのかを考えることが、大切になってくる。そういう姿勢が世界のトップライダーたち、マルク・マルケスだったり、バレンティーノ・ロッシだったりにはあります。それは、誰も教える人はいないです。彼ら本人が気づいていく。彼らは「負けたくない」って気持ちがあるから。そういうことを考えるのに費やす時間も多いんだと思います。
だから、これから言うことは、親御さんたちはちょっとカチンと来るかもしれないんですけど、去年、スクールを見ていて感じたのは、模擬レースとかセッションの練習をしていて、目標をクリア出来なかった生徒さんに、悔しがる生徒さんがいないんですね。なぜそういう状況なのか。まあ、今のご時世、学校にしろなんにしろ、あまり子供に痛い思いをさせたくない、と考える親御さんは多いです。これは親なら誰もが当然なんですけども、僕はある意味、この勝負をする世界では、合わない考えだと思うんですね。だから、目標をクリア出来なかったらば、お子さんたちが「こんなペナルティはやりたくないな」とか思うことをやらせたり。そういう目標を達成するための緊張感ていうんですかね。そういうものを持たせた上で指導していかないと…、ちょっと不安になる部分がありますね。
なので、ある程度SRSでは、厳しいこともやらせてもらうつもりでいます。いま生徒さんたちは、バイクに乗って「楽しい」という感覚が1番のお子さんが多いと思うんですね。それをいかに勝負の世界、プロの世界に持ち込んでいくのか。そういう指導の部分に関しては、親御さんには一歩引いて頂き、専門部分では、僕らSRSに任せて欲しいなというのは、思いとしてありますね。
レースに直結するスクール車両の導入
スクール車両は2モデル。入門クラスである「SRS-Motoベーシック」ではHonda CBR250R、全日本選手権へのスカラシップ選考対象となる「SRS-Motoアドバンス」ではHonda NSF250Rを使用する。
講師陣は若手ライダーの育成経験が豊富な、中野真矢 氏(特別講師)、玉田誠 氏(専任講師)、上田昇 氏(専任講師)、高橋裕紀 氏(専任講師)など、豪華な布陣となっているSRS-Moto。2016年度は定員を大きく超える応募があった中から、書類選考などで絞りこまれた19人の生徒が受講予定となっている。また、来年度の選考方法については未定だが、書類選考だけではなく、在校生とのレースによって実力を図るというプランも、かなり具体的なレベルで調整しているという。
いずれにせよ、世界のトップレベルで戦う日本人ライダーの登場は、ファンにとっても待ち遠しいところ。モータースポーツ界の「虎の穴」とも言うべきSRS-Motoの今後に注目していきたい。
(写真/島村栄二)