春のバイクシーズン本番に向けて、そろそろタイヤ選び!
葉月美優 氏(以下、葉月):今日は皆さんにご相談があります。私はもともとホンダのCBR250RRに乗っていたんですが、今年、新しいCBR600RRに乗り換えたんですね。で、いまはブリヂストンのBATTLAX RACING STREET RS11(以下、RS11)を履いて走行会で走ったりしてて。そしてもう一台、アプリリアのTUONO660に乗ってまして、こっちでは走行会も行けば、ツーリングにも行ったりしてるんですが、あらためて私の乗り方だとどんなタイヤを履くのがベストなのか、わからなくなってしまったんです。いま使っているブリヂストンのタイヤの中から選びたいのですが、そのことをwebオートバイさんに相談したら、「タイヤ選びは重要だから、ちゃんとプロに聞いた方がいい」と言われまして。まさか私の個人的な悩みに、こんなに豪華な皆さんが集まってくださるとは思ってもいなかったのですが…。
青木宣篤 氏(以下、青木):ツーリングはどのくらい走るんですか?
葉月:走るのは千葉県が多くて、大体いつも200kmぐらいは走ります。

葉月美優/学生時代はGSR250で毎日通学していたほどのバイク好き。現在はサーキット走行の楽しさに目覚め、日本全国各地のサーキットで練習を重ねており、現在もスキルアップへのモチベーションは高い。2026年はロングツーリングも楽しみたいそうだが、そんなバイクライフをカバーするタイヤは見つかるのか!?

各種メディアで活躍する皆さんに、タイヤ選びについて聞いてきました!

青木宣篤/WGP250、WGP500、MotoGPなどで活躍。鈴鹿8耐では2009年にヨシムラwith JOMOから参戦し優勝を果たしている。現在も各種メディアでロードレースの魅力を発信中!
オールラウンド性能ならT33もオススメです!(佐川健太郎)
佐川健太郎 氏(以下、佐川):一般的には、ツーリングはいろんなシチュエーションを走りますから、特にロングツーリングもする場合、オールラウンド性能が高い、スポーツツーリングカテゴリーのBATTLAX SPORT TOURING T33(以下、T33)を、僕はおすすめしたいとは思いますけどね。ただ、葉月さんのプロフィールをお聞きしたら、CBR600RRはBATTLAX RACING STREET RS11(以下、RS11)で走りまくってるって話だし、お持ちのバイクの車種もかなりスポーティーなので、一概に「ツーリングだからツーリングタイヤ」って感じでもないかなって気はします。
葉月:実は全国をツーリングしたい願望があるので、行ける時間があれば、お泊りツーリングもどんどん行きたいんです。だけど、サーキットも走りたい。かと言って、いちいちタイヤ交換してもいられない。CBR250RRに乗ってた時は、普通の市販車だったんですけど、いまは全部保安部品を外して、完全にサーキット仕様に振っちゃったんですね。だけど今はせっかく600になったので、ツーリングにも行きたくて。どっちもできるタイヤはないのかなと思っています。

佐川健太郎/バイク歴は約40年、モーターサイクルジャーナリスト、ライディングスクール講師。YouTubeチャンネル「ケニー佐川のMOTOCOMチャンネル」では、詳細なライディングテクニックのノウハウを公開しているほか、バイクイベントのトークショーなどでも活躍中。
宮崎敬一郎 氏(以下、宮崎):いま佐川さんが言ったみたいに、ツーリングにもいろんなシチュエーションがあるじゃない。その中で、自分はどう乗るのかというのと、乗るときに自分の求めるものは何か、例えば快適さなのか、グリップ力なのか、安定性なのかとか、そういうのでタイヤ選びは全部変わってくるのよ。いま履いてるタイヤを基準にして、「もうちょっとこういうタイヤが欲しい」とか言ってくれたら、いろいろ僕らもね、回答を出しやすくなるんだけど、サーキットもツーリングも走りたいだけだと、ちょっとまだ漠然としてるんだよね。
葉月:確かにそうですよね。でも「どっちもめちゃくちゃいいよ」ってタイヤがあるなら嬉しいんですけど…(笑)。
タイヤ選びでは「ライフ」も大切です!(宮崎敬一郎)
宮崎:これも一般的な話だけど、普通に乗るならタイヤは耐久性、ライフも大切な要素なのよ。というのも、BATTLAXクラスのちゃんとしたタイヤを交換するとなると、結構お金がかかる。だから「ライフ」って言葉も頭に入れて、タイヤは選んだ方がいいと僕は思います。で、ツーリングでちょっとスポーティーなT33みたいモデルでも、一般的にツーリングタイヤはロングライフなんだよね。でももっとグリップが欲しいなら、葉月さんがいま履いてるRS11のような、レーシングストリートのカテゴリーが良い場合もある。ただ当然、T33より持ちは悪くなるし、雨の日も弱くなるから、そういうのも含めてタイヤ選びって微妙なバランスなんですよ。

宮崎敬一郎/オートバイ本誌をはじめ、専門誌のテストライダーとして長年活躍。誌面ではロードスポーツモデルに乗っている印象が強いが、プライベートでは大のオフロード好き。現在の愛車はヤマハMT-01、WR250Rなど。
葉月:そうですよね。バランス……そう考えると、ますます難しいですね。
青木:でも葉月さんて、ブリヂストンが主催する中級者・上級者向けの走行会「BATTLAX PRO SHOP走行会」で走ってますよね。今年は何回ぐらい参加されました?
葉月:全部です。
青木:全部!? 全7回の開催に全部来たの? そっか〜。いや、僕は講師として参加してるんですけど、葉月さんを「いつもいるな」とは思いながらも、特にお仕事をご一緒したことがなかったんで、遠目で走ってる姿を見させていただいてたんですけど、結構ガチなんですよ。いや、すごいなと思いながらいつも見てて。でもお話を聞いたら、ツーリングも行かれるんですね。あれだけ走れるんだったら、もちろんRS11もいいけど、2024年に登場したBATTLAX HYPERSPORT S23(以下、S23)もいいと思うんです。カテゴリー的には「スポーツ」になるんですけど。
進化した「S」シリーズ! S23は葉月さん向きかも!(青木宣篤)
青木:正直言うと、僕はサーキット走行が99.9%の人間なんですが、それでもずっとBATTLAX HYPERSPORT S22(以下、S22)を履いてきたし、勝手に「S22を世界一履き倒した男」を自称してるんですね(笑)。もちろん、サーキット性能ではRSシリーズに適わないんですけども、サーキットでは晴れだろうが、雨だろうが、どんなシチュエーションでも走らないといけない。現在のSシリーズの排水性能とか、ウェットグリップって、僕みたいに80年代からレースをやってる人間からすると、昔のレインタイヤぐらいの安心感とグリップが与えられているんですよ。雨でも全然不安感もなく、普通に走れるので、S22を履くようになってから走行会が雨でも「残念だな」って気持ちを感じたことがないんです。しかも、どうしても若干弱かったドライグリップ性能がS23でぐっと向上して、「これってもうRS11を食うんじゃないの?」ってぐらいの勢いになってきたんです。なので、今の葉月さんのお話を伺って、もしかしたら、いまの望みを叶えられるタイヤはS23じゃないのかな、なんて思いました。
葉月:そうなんですよ! いままで全然視野になかった選択肢ですが、サーキットもしっかり走れるのなら、S23はすごく「あり」だなと思いました。

青木:宮崎さんが仰ってたタイヤの持ち、マイレージも、僕の感覚ではS22から倍近く伸びたように感じます。もちろんタイヤの形が違うので、サーキットでRS11と同じラインを走れるか、同じ倒し込みができるかと言ったら違うんですけど。でもとにかく全方位に万能なタイヤだと思いますよ。
葉月:そうなると、RS11はどういう乗り方をする人におすすめになりますか?
青木:葉月さんよりもう少しサーキット重視の方に走っていただくと、満足度が高いかなって思います。
宮崎:その分、雨に弱いとか、どうしても偏りは出てくるんだけど、その代わり、バッチリ合うところに行けば、もう本当に気持ちのいい、接着剤でひっついてるようなグリップ感で走っていくよ。
葉月:そう聞くとめちゃくちゃ迷います……。
佐川:僕のスクールに来る人達によく言うんですけど、最初からハイグリップタイヤを履いて、グリップに頼る走り方ばかりしちゃうと、まずタイヤ温度を上げてとか、そういう走り方しかできなくなっちゃったりするんですね。ワインディングを含めたツーリングも走りたいのであれば、最初はオールラウンドのタイヤの性能を使い切って走るところから始めた方が良くて。もちろん、葉月さんはその段階はもう卒業してると思うので、いまのRS11のままでも全然いいとは思いますが、もっとツーリングも楽しみたいのであれば、確かいちばん合ってるのはS23なのかなって気が、僕もしますね。
葉月:例えばですけど、この先日本一周をするとか、ツーリング重視の走り方になったとして、でもたまにはサーキットも走りたいと思ったときに、T33でもスポーティーな走りはできますか?
佐川:公道レベルだったら、T32でも、T33でも、もう全然スポーティーに走れますよ。今年の3月に、R 1250 RSにT33を履かせて房総に行ったんですけど、まだ結構寒かったんですね。アクアラインとか風が吹き抜けるところを走って、冷め切ったタイヤでそのままパッとワインディングに入ったんですけど、その時もね、ウォーミングアップが必要ない感じなんです。
葉月:え、3月だったら路面も冷えてますよね?

佐川:冷えてます。ひと昔前のツーリングタイヤだったら、もうちょっと熱を入れないと、接地感も何も感じられなくて怖いような状況で。でもT33だとね、2つ、3つ、4つと、コーナーを走っていくと、結構ちゃんと接地感が感じられてくるんですよ。もちろんハイグリップタイヤのベタッとした接地感じゃないけど、「これはいけるな」って信頼できる感触が伝わってくる。まるでT33の宣伝みたいになっちゃうけど(笑)、要するに、ワインディングを含めてツーリングレベルだったら、季節を問わず、場所を問わず、気温とか、ウェットだとかの天候にも限らず、T33でも十分スポーティに走れますよ。
宮崎:うん。普通に長距離をいろんなところで走りたいなら、T33が間違いないだろうと俺も思う。あとは、葉月さんの心が何を求めるかじゃない?
青木:あははは! 確かにどのくらいのモードで走るかで変わりますね(笑)。
宮崎:うん。要するに、カーブでは常にグッと肩を入れて走りたいというのであれば、ツーリングタイヤは頑丈だけれども、カーブでちょっと固く感じたり跳ねたりして、「なんか違うな」となるかもしれない。それにもともとCBR600RRって軽いバイクだし、葉月さん自身も軽いじゃん。そこで600をキンキンに回したら、峠道なんかコーナーからコーナーまでほとんど飛ぶような感じで走ることになるわけじゃない? そんなことしてたら命がいくつあっても足らないし、長いスパンで走る中では、やっぱり中域からうまく使って、穏やかに乗る時間もあるわけ。その辺の、どう乗るかとタイヤとの相性っていうのもあって、その意味でツーリングタイヤは、普通に乗るなら非常に安定してていい感じだし、少し肩を入れて走るような「飛ばすぞ!」って時のココイチの力は、Sシリーズとかの方があるのね。でも逆に、肩を入れないで走るなら、ツーリングタイヤよりさらにひらひらしてて軽くなっちゃうから、「落ち着きがない」って感じるかもしれない。だからどういうタイヤにするかは、「何を求めるか、あなたの心次第です」ってところもあるんだよ。

葉月:なるほど〜。私、サーキットを走るようになって、ツーリング走りはめちゃくちゃ落ち着いたんですよ。高速道路も飛ばさないし、ちゃんとしっかり景色を楽しもうとか、最近は特にそっち側になってます(笑)。
青木:いいことです(笑)。そうそう、僕はこの間、BMWのS1000RRにT33を入れてツーリングする企画をやってきたんです。最初は「その企画どうかな?」なんて思ってたけど、ある時、街中でCBR250RRに乗ってるおそらく若者の女性を見かけて、後ろにパニアケース的なボックスをつけてたんですよ。なんていうか、もう業界人の悪いクセでね、「CBR250RRに乗るなら、絶対サーキットに来るよね」的な先入観があって。でも「この子はCBRの形が気に入ってバイクを買って、CBRでツーリングをしたいんだ」って気づいたら、その感覚がすごく新鮮で、好ましく感じたんです。業界の内側にいる人たちが思うバイクの使い方って、わりと恩着せがましいというか、「スポーツバイクならタイヤはRSだよ」「最低でもSだろ」みたいなところから始まるじゃないですか(笑)。でも「そういうんじゃなくて、CBRでツーリングしたいだけです」と言ってるかのような若者の姿を見て、自分たちのバイクのすすめ方や、タイヤの選び方って、一般ユーザーのみんなの心を掴んでなかったなって、ちょっと反省しました。その意味で、S1000RRにT33を合わせるってすごくいい企画だなと考えが変わったし、実際、熊本のBMWモトラッドにバイクとタイヤを搬入した時に聞いたら、「実はS1000RRをサーキットじゃなくて、ツーリングで楽しみたい人は結構いらっしゃるんですよ」って話を聞きました。

様々なジャンルのタイヤを見比べながらタイヤ雑談してきました。
葉月:やっぱり「このバイクだからこのタイヤ」というより、「こういう使い方をするならこのタイヤ」って選び方が重要ってことですよね。
青木:そういうことですね。あと今日話に出たタイヤのシリーズは「T」「S」「RS」とありましたが、表面上だけでなく内部のお話もちょっとすると、構造自体がもう違うんですよね。タイヤの「固い」「柔らかい」って、単純に押してどうこうの話じゃなく、ブレーキをかけていって、フロントに荷重が集まっていき、タイヤが潰れてくる、その流れの中での耐荷重性による変化を言うじゃないですか。で、ツーリングタイヤの「T」は、ちょっとのブレーキでもすぐ、フロントタイヤに安心感を感じる反応があります。でも「S」だともう少しブレーキを握ってあげないと反応しなくて、「RS」になるともっとブレーキを握らないと反応しない、そういう性質があるんですね。僕らレーサーはいろんなタイヤに乗ってきてるので、乗ればすぐ「あ、このタイヤはこのくらいの荷重が必要ね」ってわかる。でも、RSを履いてるライダーの方を見てると、「もしかしたら、RSのおいしい荷重までたどり着けてないかもしれないです」って思うときがあります。さらには、「その走り方ならS23が設定してるフロント荷重数値の方が、もしかしたらドンピシャかもしれない」と感じることもよくある。その場合、タイヤを変えると、オートバイの素質もガラッと変わる可能性があります。そういう変化がわかるようになると、「バイクって超楽しいじゃん!」って感じる幅が増えると思いますよ。
葉月:あの……青木さんのお話を伺うと、たぶん私、RSのレベルじゃないんだと思います。
青木:いやいやいやいや!! そういう意味で言ったんじゃないんですよ? そうじゃないんです!!
葉月:それでも私、もうすぐ「BATTLAX RACING STREET RS12(以下、RS12)」が登場するという話を聞いて、試してみたくて仕方なくなってるのですが、どうすればいいでしょうか?
「私はRSに乗れるレベルのライダーじゃない」とは?
佐藤 潤 氏(ブリヂストンタイヤソリューションジャパン株式会社):まずは、「私はRSに乗れるレベルのライダーじゃない」と落ち込んでいた葉月さんの誤解を解きますね。
タイヤにはバイアスタイヤとラジアルタイヤがあります。現在はほぼラジアルタイヤが使われるようになりましたが、それは世の中のバイクと自動車が軽量化し、エンジン性能がアップしたことで、バイアスタイヤでは車両を抑えきれなくなってしまったからなんですね。でも、バイアスタイヤの時代にタイヤの限界を知った我々おじいさん世代のライダーは、タイヤが限界をむかえたときに最後、どういう動きをするか、どうよれて、跳ねたら、この先が危ないんだってことを身を以て知ってるんです(笑)。だから、ラジアルに乗っても、どんどん荷重が抜けていったときの「あ、こっから先はヤバいな」がわかる。で、要はそのヤバいところであるタイヤの限界値がRSシリーズはすごく高くて、Tの方が早めにわかるから、使われ方も違うんですね。
宣篤さんが言ってたことの意味は、乗るオートバイがスーパースポーツであれ、まずはタイヤの限界値が知りやすいものを使った方が、よりスキルも上がるし、経験値も上がるし、次のステップに上がった時も「こんなにタイヤで違うんだ」とわかりやすい、ってことなんですよ。
いま葉月さんはRS11でサーキットを走ってて、もちろんそれが悪いわけではないんです。でも、タイヤの限界値がもっとわかりやすいSに変えてみたら、例えば “たわみ感” がどういうものかわかるとか、そういう意外な変化があるかもしれないよってことを、宣篤さんは言ってくれてたわけです。

佐藤 潤 氏(ブリヂストンタイヤソリューションジャパン株式会社・常務執行役員 MCタイヤ販売担当 兼 MCタイヤ販売本部長)
青木 そう! そうなんです! 言いたかったことを全部解説してくれてありがとうございます(笑)。
葉月 なるほど。そういうことだったんですね。私はツーリングも好きですが、サーキットでももっとスキルアップしたいので、タイヤの限界値をちゃんと見極められるように成長したくなりました。
そしてそこはちゃんと理解したうえで、やっぱり現RS11ユーザーとしては、新しいRS12がどんな進化を遂げたのか興味津々なのですが……。
「BATTLAX RACING STREET RS12」の構造説明

林 孝記 氏(株式会社ブリヂストン タイヤ開発第3部門 MCタイヤ設計第2課)
林:では、RS12の構造の話からご説明させていただきます。
まず基本は、RS11からの進化系です。
ですが青木さんが話されていたように、2024年にS23が登場したことで、SシリーズとRSシリーズの差がわかりにくくなってしまった。そこでまず、「ツーリングのT」「スポーツのS」「レーシングストリートのRS」という3つのカテゴリーを、もう一度きちんと差別化すること必要だとなりました。Sシリーズはすでに新しいS23がありますから、RSシリーズの特長を際立たせるには、得意とするサーキット方向に性能を上げていくのがわかりやすい。そのためにはまず、サーキットクラスで寝かせた時のドライグリップ性能を高めることが1番だとなりました。うちのタイヤはどちらかと言えばコンサバなつくりなので、一般公道走行が可能なモデルで水はけ性能を減らすのは、かなり大胆な決断です。
ドライグリップ性能を上げる手段は、まずひとつがトレッドパタンの溝を減らすこと。もうひとつが使用するゴムを変えることで、RS12ではレースクラスのゴムを積むことにトライしています。とはいえ全面をレース系ゴムにすると、さすがに街中で走行に不具合が出てしまうので、サーキットで使うショルダー領域にレース直系のコンパウンドを採用しました。


青木:サイドを見ると、ほぼスリックみたいな印象ですもんね。
林:そうなんです。そしてRS12で注目して欲しい点はもうひとつありまして、フロントタイヤの内部構造です。
T33のフロントは違いますが、RSとSシリーズのフロントは、基本的にどのタイヤも鉄の細い針金をグルグルと巻いたスパイラル構造を採用しています。RS12では、その鉄の針金の撚り(より)方を工夫しているんです。
メーカーによってはケブラーを使ったりする中、うちがなぜタイヤに鉄の針金を入れるかというと、耐久性とかいろいろなメリットがあるからですが、ご想像いただくととわかるように、鉄を入れたら、どうやってもタイヤは固くなります(笑)。でも、鉄の細い糸の撚り方をうまく工夫することで、かなりストロークが出せるようになるんです。RS12では、この伸び縮みするスチールスパイラルが中に入った、世界最高峰レースでも使用実績のある「HE-MS BELT」という新構造を、市販タイヤとして初めて採用しました。
伸び縮みするスチールスパイラルを入れることにどんなメリットがあるかというと、接地面の接地圧をより均一にできます。というのも、タイヤの接地面の中で接地圧のバラつきがあると、接地圧が低い部分はグリップ力が仕事をしなくなってしまう。「HE-MS BELT」の採用によって接地圧を均一化することで、タイヤのグリップ力をさらに高めることができるんです。
青木さんもおっしゃっていたように、RSクラスのタイヤでサーキットを走ると、それなりにがっつりフロント荷重をかけないと、タイヤのたわみを美味しいところまで持っていけません。上手い人だったら簡単にできますが、RSを使うお客さんはガチのレース経験者というよりも、葉月さんのようにサーキット走行を楽しみたい一般ライダーの方が多いと思うんですね。Sだとちょっと物足りないけど、スリックタイヤだと上手く荷重をかけきれない。その中間ぐらい荷重のかけ方、技術でも、接地面をグッと広げられて安定するような、よりフレキシブルなタイヤの剛性をめざしました。


佐川 その接地面の違いは、一般的なライダーでも感じられるものなんですか?
林:スチールの基礎開発をやっていた頃から、大勢のライダーにRS12を試していただいたのですけど、正直、皆さんがいちばん「おっ!」てなるのが、新しいスチールスパイラルによる接地感の違いですね。トピックスとしては、レース用ゴムを採用したことのインパクトが大きいとは思うのですけど。
佐藤:走り出しの感触はS23に近いんですよ。走り出したときに「あれ、なんでこんなにクッション性がいいの?」と感じるのは、トレッド中央の溝が多くて、深いから。そしてRS11と比較した時に、サーキット性能は上げたのにたわみ感がわかりやすくなったのは、いま林が言ったような部分の技術なんです。
林:うちのタイヤはどちらかといえば、しっかり、がっつりのガッツ系のタイヤなんですよ。それが好きなお客様もいらっしゃるし、もうちょっと優しく、とっつきやすいタイヤを望まれるお客様もいて。今回のRS12は、ちょっと後者の雰囲気を醸し出したタイヤだと思います。その理由はやっぱりフレキシブルさ。ただ単に剛性を弱くするんじゃなくて、きちんと伸び縮みさせてあげることで、均一な接地面を取れるようにしています。
宮崎:新しい内部構造はフロントだけですか?
林:フロントだけです。リアにはいままで通りの、しっかり目のスチールコードをベルトに採用しています。
宮崎:昔からブリヂストンさんのリアタイヤって、駆動力をかけた時にタイヤを前にグリップさせて、押し出すような工夫をしてるじゃないですか。
林:はい。うちがもともと使っていたそのスチールの基本的な撚り方は、ガッツのある撚り方です(笑)。ガッツのあるスチールを使っているから、トラクションをグッとかけた時に「はい、すぐ行けます!」ってなる(笑)。
宮崎:ですよね(笑)。昔、アクセルを開けたら明らかにリアタイヤが前に出してくれて、特に開け始めがすごく違うから「すげえな」って感激した記憶があります。リアタイヤのスチールにも、ねじりはあるんですか?
林:ねじりはあります。でもフロントのねじりの何が違うかは撚り方で、それがフレキシブルにつながっているってことですね。
佐川:技術的なことだから言えないこともあると思いますけど、もう少し詳しく、その新しい撚り方の工夫がどういうものかを聞きたいです。
林:編み物に使う糸と一緒なんですけど、3本とか、4本の糸を撚って編んでいきますよね。で、毛糸の糸をぎゅっと引っ張って編んでいけば、撚りがギュッと詰まって、あまり伸びなくなる。単純にいうと、はじめからそのギュッと詰まった状態を作るのか、はじめはもっとホワンとゆるく編んでいくのかの違いです。同じ1cm引っ張るにも、1cmならまだホワンと伸びしろがあるのか、1cmでもうピンと張っているのかは全然違うじゃないですか。それを撚り方のピッチと言うんですが、はじめにホワンと撚ってあげると、グッと荷重がかかってもまだ余力があるので、もうひと踏ん張りが出せるというイメージです。同じバネレートで、バネ長がちょっと伸びたというとわかりやすいですかね。同じストロークで、まだ奥があるんじゃっていうイメージ。
青木:じゃあ懐が深くなった感じですね。やっぱり鉄ワイヤーだと、1回タイヤが潰れてから、戻ろうとする力でまたグリップが出るじゃないですか。
佐藤:それがスチールラジアルの良さでもありますよね。
青木:やっぱり反発するところでもう1回グリップするのがブリヂストンのフロントタイヤの良さというか、僕が思うに、世界一のフロントタイヤだと思うんですよ。いまのMotoGPでみんなスポンスポン転んでるのも、鉄ワイヤーにすれば転ばないのにねって思います。結局あれって、ブレーキを離した瞬間に伸びないから戻らない。へこたれたまんま戻らないからフロントからいかれちゃうんですよね。
宮崎:要するにタイヤが抜けちゃうわけですね。
青木:そうなんですよ。
林:RS12ではスチールの撚り方を新しく、ふわっとさせましたが、BSタイヤとしてガッツ感みたいなものは、良くも悪くも残しているので、そこはご安心いただければと思います。

佐藤:まとめますと、RS12ではフロントタイヤの構造の違いによって、ブレーキを握った時の安心感が大きく変わりました。ブレーキを触ったときのタイヤの接地感がすごく高くなって、路面を掴んでいる感覚が格段にわかりやすくなったので、まずそれを身体で感じていただきたいです。
その後に、フルバンクに向けていった時の、サイドに溝がないことで起こるたくましさというのかな。もっと頼っていいよ、信用していいよと言われているような、RS11との頼りがいの違いを味わってもらえたらいいなと思いますね。今までと同じ走りをするんじゃなくて、RS11との違いをわかるために、もっとブレーキを奥まで触ってみようとか、もうちょっと早くアクセルを開けてみようかとやってみれば、それぞれのたくましさの違いがわかるでしょうし、そういうチャレンジをする気にさせてくれるタイヤになってくれるといいな、と願っています。
葉月:もっと倒していいし、もっと開けていいよってタイヤが教えてくれるなんて、すごく楽しみですね。

佐藤:RS11が発売され6年になりますけど、ありがたいことにずっと売れ行きはいいんですよ。なかなかこのジャンルで6年は頑張れないんですけど、ブリヂストンファンの皆様にも愛されていますし、よそのタイヤを履いて戻ってきた人も多かった、ニーズの多いゾーンなので、RS12が出ることで、さっき林も言ったように、「T」と「S」と「RS」の3つのカテゴリーの違いをより明確に感じていただければ嬉しいですね。
佐川:お話をうかがって、先ほど葉月さんにはS23をおすすめしたんですけれど、いまの彼女の思考というか、目的を考えると、これはRS12もいいんじゃないかなって、あらためて思いました。僕も初級・中級者向けのサーキットスクールをやってるんですけど、そのクラスに参加する皆さんて、トランポじゃなくて自走で来る人が7割ぐらいいるんですね。レザースーツを大きなバックに入れて自走で来て、その場で着替えて、おそるおそる乗り始める。俗にいうアマリング、僕らはビビリングって言ってたんですけど(笑)、が残りまくってる人達だったりするんだけど、そういう人達が今よりもう1歩先に進んで、もうちょっとエッジのところまで使えるようになってきたときに、まさにRS12はドンピシャなタイヤになると思いますね。
宮崎:RS11はいろいろテストでも乗ってるし、自分でも使ってた時期があるんですけど、フロントはあれよりさらにしっとり感が出て、なおかつ丈夫になったって話を聞くと、扱いやすくなってるのはもう絶対に間違いないと思うんですよ。こうやってタイヤがどんどん扱いやすく、グリップも良くなってるのを見聞きすると、俺なんかすぐ「これって逆に人間を堕落させるよね」って思う方なんだけど、RS12に関してはもう、自分も実際に使って堕落したくなるよね(笑)。自分は万能タイヤであるS23の良さに本当に感激したので、そのS23に追いかけられて、突き放すために性能を上げたのがRS12って聞いたら、やっぱ試したくなるのが人間じゃないですか。もちろんRS11のすごさや尖り具合も知っているから、そこからさらにスポーツ性能を上げて、乗り味は優しくなったタイヤがどんなものなのか、非常に興味があります。

青木:S23に追い詰められて、RS12がスポーツ性能に特化したというのは、もう見た目の印象からもプンプン伝わるんですけども、内側構造の話で出てきたスチールの撚り方の違いというのが非常に面白そうだなと。僕もね、先ほど葉月さんにS23を勧めましたけど、いまのRS11からRS12に付け替えたら、その構造の違いによるしなやかさを体感できるのかなと思ったら、RS12もすごくいい選択の気がしてきたんですね。トップ性能は上げつつ、ちょっと失礼な言い方かもしれないですけど、葉月さんが走っている層の方達でも、グリップの良さを感じながら接地感の良さを感じ取れるような話もあったじゃないですか。だとしたら、次に選ぶタイヤはRS12でもいいのかなとは思いましたよね。というか、もともとご自身も興味があったわけですし、RS12でいきましょう!(笑)
葉月:はい(笑)。私、もともとCBR250RRにRS11を履いて走ってたので、なんかその、ツーリングとサーキットの両用タイヤで寝かすのが、ちょっと怖かったんですよ。さらに、その後サーキットで1000ccに乗った時に、スピードも出し過ぎたし、たぶんバンク角も深すぎて転んでしまって、そこから寝かすのがちょっと怖くなっちゃったんです。やっぱり転びたくないから、すごいビビった走りをずっとしてて。で、あまりバンクさせないようにしてたら、アクセルを開けるのもちょっと怖くなっちゃってたんですね。だけどRS12を履いたら、もっと開けられるし、もっと寝かせられるっておっしゃってたじゃないですか。だったら自分も安心させてもらえるのかなと思ったら、それはすごく楽しみなことだし、すごくRS12に興味が湧いて、絶対履いてみたいなと思いました。それに今日は皆さんに本当にいろんなお話を伺うことができて、すごく勉強になったと思います。ありがとうございました!


タイヤについて学べる博物館!!
Bridgestone Innovation Gallery
今回の対談メンバーで、東京小平市にある「Bridgestone Innovation Gallery」にも立ち寄らせていただきました。西武国分寺線の小川駅から徒歩5分の位置にあるこちらの施設は、事前予約なしで自由に見学できるギャラリー。ブリヂストン創業時からの歩みとDNAを表現したエリアから、モータースポーツに関連するギャラリーまで展示は様々。時期によっては企画展が開催されていることもあるので、訪問希望の方は事前に公式サイトでスケジュールチェックを。駐車場も完備されているので、バイクや車でも安心です。
東京都小平市小川東町3丁目1−1
TEL:042-342-6363
(⽉曜⽇〜⼟曜⽇ 10:00-16:00)


写真/松川 忍、対談まとめ/斎藤春子
