モト・グッツィ「V7 SPORT(2025年型)」インプレ(太田安治)
エンジンを始動した瞬間にドルン! と横に揺れる縦置きクランク特有のトルクリアクション、膝の前に鎮座するシリンダー、ヘッドから聞こえるバルブ周りの駆動音、爆発ごとに路面を蹴り出す加速感……。「そう、これこそグッツィだよな」と思わず唸ってしまう。各種の電子制御が導入された最新モデルであっても、流行に媚びることなく伝統を守り続ける孤高の存在がモト・グッツィV7シリーズだ。
イタリア語発音では「モト・グッツィ」と聞こえるが、日本では「グッチ」と呼ばれることが多いMoto Guzzi は、1921年に創業したイタリア最古のオートバイメーカー。クランクシャフトを車体と同じ前後方向に置き、シリンダー挟み角を90度としたVツインエンジンがグッツィブランドのアイデンティティとなっている。

特徴的な空冷縦置きVツインエンジン。
同社のラインアップには水冷DOHC4バルブのエンジンを搭載したアドベンチャーの『ステルビオ』やスポーツツアラーの『マンデッロ』もあるが、人気を集めているのは伝統の空冷・OHV・2バルブ・853ccのエンジンをオーソドックスなダブルクレードル構造のスチールフレームに搭載した3タイプのV7。日本国内では25年8月から新型の発売が開始されている。
試乗したのはシリーズ唯一の倒立フォークとダブルディスクブレーキ、6軸IMUによる高精度なトラクションコントロールとコーナリングABSを備え、スポーツライディングにも対応した装備が与えられた『V7スポルト』だ。

新型V7シリーズは「Stone」「Special」「Sport」の3種類。今回は写真の「Sport」でワインディングを走ってみた。
最新の制御が生み出す快適性! 高速道路もワインディングも楽しめる!
ミドルクラスらしく車体はコンパクト。シート高は780mmで、縦置きによるクランクケース幅の狭さ、ライダー乗車時のサスペンション沈み込み量の大きさと合わせて足着き性は抜群にいい。押し歩きやすいハンドル形状と倒立フォークながら充分なハンドル切れ角で、約220kgという装備車重から想像するよりもはるかに取り回しやすく、気軽に乗り出せことミドルクラスの利点と言える。
都内の市街地から高速道路経由で箱根の峠道までを往復という走り慣れた試乗ルートだったが、無意識のうちに普段よりゆったりしたペースで走っていた。ダルルッ……といった力感のある鼓動と歯切れのいい排気サウンド、ハンドルやステップから伝わってくる低周波振動、上体に浴びる風圧がなんとも心地よくバランスするポイントが2000回転台、速度にして60㎞/hあたりにあるからだ。
カタログに記されたエンジン出力は65馬力で、目を惹くような数字ではない。しかし最大トルクは79Nmと大きく、3500回転で最大トルクの95%を得ているという。そもそも高回転まで引っ張ってパワーを絞り出すことなど考えず、独自のエンジン形式によるクラシカルな乗り味を守ったキャラクターなのだ。
高速道路の6速・100㎞/hでは約3800回転となり、2000回転台で感じる濃厚な味わいは薄れるものの、力強さはいっそう増す。さらに4000回転を超えると徐々に振動が減ってくるので120㎞/hクルージングも心地いい。とはいえ上体に風圧をダイレクトに受けるので、快適速度は50~110㎞/hあたりになる。全開加速を試してみると、トップエンド近辺でもフリクション感が少なく、想像以上に軽やかに回る。180㎞/h程度まではストレスなく伸びていきそうだが、その速度域に楽しさはないはずだ。

高速道路でのクルージングでは、振動も少なく快適性を堪能できる。
峠道の上り勾配やRの小さいコーナーでは3000回転台を多用するが、ライダーを急かすことのない乗り味は保たれる。ロール方向(車体の左右方向)の動きが軽く、スロットルオフでゆったりとコーナーにアプローチし、早めにスロットルを開いてリアタイヤを軸に旋回させる走り方が合う。スロットルの微妙な開閉操作でもギクシャク感が皆無なのは、重めに設定されたクランクマスとインジェクションセッティングの妙だろう。
不本意? ながらペースを上げていくと、ソフトな設定の前後サスペンションゆえにピッチングモーションが大きく、動きに慣れるまでは旋回タイミングを取りにくい。しかし前後ブレーキを使い分けてサスペンションの動きをコントロールしてやると旋回力やバンク中の安定性がぐっと増す。こうした現代的なスポーツモデルとはまるで質が違う旋回性もV7の魅力。コーナーの楽しみ方は速く走ることだけではない、ということを改めて思い知らされる。
試乗したV7スポルトにはコーナリングABSと高度な制御のトラクションコントロールが装備されている。ライディングモードを「スポーツ」に設定すると電子制御の介入が最小限に抑えられ、併せてECUのマップもレスポンス優先に変わってスポーツライディングの幅が広がる。全てのモードを試したが、常識的な公道走行なら「ROAD」のままで何の不足もない。「スポーツ」はサーキット走行会などで変化を感じたいときにお試しを、といったところだ。

ライディングモードは3種類。「スポーツ」があるのは、シリーズの中でも「Sport」のみ。
モト・グッツィを語る際によく出てくるのが縦置きクランクによるハンドリングの左右特性差と、シャフトドライブによる加減速時のリアタイヤ上下動。理屈的には言われるとおりで、エンジン始動時と低回転域から空吹かしたときの横揺れは誰もが感じるはず。しかしそれが公道走行の弱点になることなどなく、シャフトドライブによる上下方向のトルクリアクションもよほど注意していないと判らないレベルに抑えられているから、初めてV7に乗るライダー、経験の少ないビギナーでも乗りにくいとは思わないだろう。
個人的に好ましく思ったのは意外なほど高いツーリング適性だ。ソフトなサスペンションとシートで乗り心地が良く、高めのハンドルでライディングポジションも楽。シートバッグやタンクバッグが装着しやすく、21Lという大容量タンクで満タン航続距離は400kmを優に超える。
車名は「スポルト」だが、スーパースポーツモデルのそれとは意味合いがまったく違う。ウエア類をコーディネートしてスタイリッシュに街を流す……。独自のエンジン特性とハンドリングを味わいながら遠くまでツーリングする……。どんなシーンでもライダーを穏やかな気持ちにさせてくれるのが、モト・グッツィV7の魅力だ。

モト・グッツィ「V7 SPORT(2025年型)」の各部装備・ディテールをチェック







最新の環境基準であるEuro 5+ をクリアしたV7エンジン。、MGCTトラクションコントロール、コーナリングABS、クルーズコントロールなどと組み合わさることで、安全で快適なスポーツ走行&ツーリングを実現する。

特徴的なシャフトドライブ駆動は、走りのスムーズさにも大きく貢献する。

赤いステッチが印象的な、快適性に優れるシート。後部には「MOTO GUZZI」の刺繡がおごられる。

シート下の積載性に大きな期待はできないが、車検証など書類の保管場所として活用できそうだ。

シンプルな形状のテールランプと、こぶりなウインカーを組み合わせたリアビュー。

ブレーキはbrembo製 4 ピストン モノブロックキャリパーとΦ320mm フローティングディスクが組み合わされる。軽量な6本スポークアルミホイールは、軽快なハンドリング性能に寄与する。

プリロード調整機能付きΦ41mm倒立フォーク。

リアはφ260mmのシングルディスク。コーナリングABSも搭載する。

LCDデジタルメーターパネルには、ギアポジション、ライディング モード、クルーズ コントロールの設定速度などが表示される。操作はハンドルバースイッチで行なう。

ワイドなハンドルが生み出すライディングポジションは、快適なツーリング走行をサポート。

デザイン面はもちろん、視認性の良さも光るバーエンドミラー。

ヒーター付きのハンドルグリップもオプションで設定されている。


ボディカラーは今回試乗した「レニャーノグリーン」のほかに、落ち着いた雰囲気の「ラーリオグレー」をラインアップ。
ライディングポジション
ごく自然な位置にあるハンドルと低めのステップ位置で上半身/下半身ともリラックスしたポジションが取れる。シリンダーヘッドが膝に近いが、走行中に当たることはなかった。
足着き性もミドルクラスのロードスポーツモデルの中ではかなり良好で、小柄なライダーでも不安なく扱えるだろう。
シート後部の長さに余裕がなく、グラブバーも装備していないのでタンデム向きとはいえないが、「乗り心地が優しいし、膝の曲がりが緩いので見た目より快適でした」とのこと。

太田安治:身長176cm

太田安治:身長176cm

平嶋夏海:身長154cm

平嶋夏海:身長154cm

太田安治:身長176cm、平嶋夏海:身長154cm
モト・グッツィ「V7 SPORT(2025年型)」の主なスペック・価格
全長 | 2165mm |
全高 | 1100mm |
ホイールベース | 1465mm |
シート高 | 780mm |
車両重量(燃料を除く) | 220kg ※走行可能状態(燃料は90%搭載時) |
エンジン形式 | 空冷4ストローク縦置き90°2バルブV型2気筒 |
総排気量 | 853cc |
ボア×ストローク | 84×77mm |
圧縮比 | 13.1 |
最高出力 | 67.3 HP (49.5 kW) / 6,900 rpm |
最大トルク | 79 Nm / 4,400 rpm |
燃料タンク容量 | 21L |
変速機形式 | 6速リターン |
ブレーキ形式(前・後) | Φ320mmダブルディスク・Φ260mmシングルディスク |
タイヤサイズ(前・後) | 100/90-18・150/70-17 |
乗車定員 | 2名 |
メーカー希望小売価格 | 159万5000円(消費税10%込) |
「Special」も国内販売スタート
エキゾーストシステムや、パッセンジャー用グリップなど、伝統的なクロームのテイストが散りばめられている「V7Special」も国内上陸。かつてのオリジナルモデルに近いスタイリングとなっているのが最大のポイント。スタンダードグレードの「Stone」も含め、全モデル各2色のカラーバリエーションとなっている。

V7Sport(左)と、V7Special(右)。兄弟モデルとは言え、見た目のイメージは大きく異なっている。
MOTO GUZZI V7 Sport(¥ 1,595,000)
専用のライディングモード“SPORT”を備えているほか、フロントブレーキのダブルディスクや、倒立フォークなどスポーツテイスト溢れるモデルとなっている。

Colour: レニャーノグリーン

Colour: ラーリオグレー
MOTO GUZZI V7 Special(¥ 1,518,000)
かつての伝統的なスタイルとカラーを、シリーズ内で最も色濃く反映しているのが「Special」。ワイヤースポークのホイールも印象的。

V7 Special Colour: エメラルドブラック

V7 Special Colour: 1969ホワイト
MOTO GUZZI V7 Stone(¥ 1,452,000)
スタンダードモデルとも言うべきポジションの「Stone」。世界中で愛される縦置きV型エンジンのフィーリングを堪能できる。他モデル同様、多様な純正アクセサリーパーツが用意されている。

V7 Stone Colour: ルビードブラック

V7 Stone Colour: プロフォンドブルー
モト・グッツィ公式サイト
平嶋夏海&太田安治の試乗インプレは動画でチェック!
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