アルパインスターズのハイエンドブーツであるTECH10にエンデューロバージョンが登場。早速レースでインプレしてみた
エンデューロブーツとは
エンデューロ用のブーツとはどうあるべきか、という命題は10年ほど前に一応の決着が見られたように思う。エンデューロ・クロスカントリーの速度域が世界的に年々あがっていき、求められるプロテクション性能がモトクロスと同等になったからである。そのため、アルパインスターズのハイエンドモトクロスブーツであるTECH10が「エンデューロにはオーバースペックだ」とは言われなくなった。しかしそれは、ハイエンドブーツ自体がただ硬くすることでプロテクション性能を確保するのではなく、足首部分のヒンジの作りやブーツ全体の剛性バランスなどを見なおし続けることで、プロテクション性能と動きやすさを両立できるようになったことも大きな要因だろう。
一方、エンデューロ専用のブーツもそれまでと違った進化を遂げるようになった。ごついビブラム製のブロックソールは、オフロードライディングのスムーズなステップ操作を妨げるため、より操作をしやすいパターンを持ったエンデューロソールが開発された。最近のエンデューロレースシーンで「谷地(やち ※泥炭湿地などを指す言葉)」の人気があまり無くなったこともあるかもしれない。ぬかるみでのグリップ性能をそれほどブーツに求められなくなったこともあり、エンデューロブーツもプロテクション性能を重視したモデルが開発されるようになったのだ。ちなみに、20年前にエンデューロブーツと呼ばれていた類いのブーツは、現在ではアドベンチャー向けブーツとして独自のジャンルを作り上げつつある。

alpinestars
TECH10 ED
そんな事情の中、アルパインスターズの最高峰Tech10にエンデューロブーツ「Tech10 ED」が登場した。しかも、このTech10 EDは今をときめくAMAモトクロスのスーパースター、ヘイデン・ディーガンが好んで履いていると言うから興味深い。
ほんの少しの柔らかさを求める
Tech10 EDの商品説明にはエンデューロ向けソールのことが中心に書かれているのだが、実際にはブーツの構造そのものがモトクロス用と少し違っていてフロント部分の3本のTPUブリッジが省略されている。アルパインスターズの説明は特に柔らかさの部分に触れてはいないのだが(モトクロス用として見た場合にネガととられかねないからだと思われる)、このブリッジが無いせいなのかTech10に比べると足首が動かしやすくなっている。体感で言うとTech7と同じ、あるいはナラシが済んだTech10と同じくらいと言えばいいだろうか。


ジャンプでショートした際にステップの上で足首が曲がってしまわないだけの硬さがモトクロスブーツには必要だと多くのライダーから聞いている。逆にアクティブセーフティを大事にするライダーは、足首の可動域に少し余裕を持たせたいという事情もある。本人に聞いたわけではないので真相のほどはわからないが、ディーガンは積極的にステップによるバイク操作をするタイプのライダーだから、足首に余裕がある方がアドバンテージがあったのかもしれない。個人的には、TECH10 EDはエンデューロという名前を付けるよりも、TECH10 SOFTと命名した方がより時代に合っていたのでは無いかという気がしてくる。
実走。違和感なくTECH7から移行できるハイエンドブーツ
2足に渡って愛用してきたTECH7からTECH10 EDに履き替えてみると、まずインナーブーティの存在がありがたい。靴下に直接履くよりもインナーブーティがあるおかげで、クッション性が高いというか履き心地がワンランク上がるのだ。足を入れた時に素直に「いいブーツだな~」と思える高級感がある。ちなみに、TECH10を愛用してきたラリーストの話によれば、ラリー期間中はインナーブーティだけ洗えばいいし、塗れてもインナーブーティだけ乾かせばいいから、運用がすごく楽。2DAYSのレースで朝濡れたブーツ履くのっていやでしょ? とのことだった。目から鱗である。TECH7の4本ベルトに比べて、3本ベルトになっているのも好印象。ベルトを締める手間とストレスが少なくなった上で、もちろん理に適っているのだろう、3本でもしっかりと固定される。


今回はクロスカントリーレースであるJNCC木島平で実走してみたのだが、TECH10 EDを履いていることは走り始めて5分くらいで忘れてしまうほど自然なフィーリングだった。それでいて、バイクから降りて歩いてみたりすると、TECH7に比べて斜め方向・横方向の剛性がしっかりあってプロテクション効果が高いことが感じ取れる。実際にクラッシュすると、この剛性が効いてくるのだろう。そのあたりは、そのうちレポートできればいい(いやしたくない)なと思っている。
本来のアピールポイントである新型ソールの感触も良好だ。モトクロスブーツのそれとほとんど変わらずバイクを操作できた。泥濘地が無かったので路面グリップの性能は試せなかったが、急斜面などではつまさきのグルービングが深い部分をキックステップのように挿しながら移動することができそうだった。登山靴のような性能を求めているわけではないので、ほんのわずかに土に引っかかる分にはこれで十分だと思う。ただし、林道の終点でバイクを降りて山を歩きたい、といったような用途を求める人にはさすがに向いていない。足首はそれなりに硬く、重量もそこそこあるからだ。


エンデューロという名前は付いているが、どんなエンデューロにも向いている、というわけではなく、シーンを選ぶブーツだな、と感じた。しかし、質は高く、TECH10の名にふさわしくプロテクション性能も高い。エンデューロ向けと言うより、ハイエンドのプロテクションと足首の余裕を両立したいライダー向け。硬さを嫌ってTECH10のフロント部分にある3本のTPUブリッジを切除して調整するライダーも今までは見受けられたことを考えると、新TECH10 EDは、より万人に向けたハイエンドブーツ、という解釈も十分にできそうだ。