76万8000円で買える中国産のモトクロッサーKOVE MX250を試乗。ローパワーの意味を考えなおさせられた

「世界の工場」で生産されるモトクロッサー

四輪・二輪共に世界的なメーカーを抱えている日本人にとって、アジア圏の見知らぬメーカーに対する心的障壁はまだまだ高い。やっとのことでBYDを街中でも見かけるようになってきたが、他ブランドはめったにみることが無い。実感として日本のオートバイファンにとって、中国製オートバイの印象が薄いのは致し方ないことだ。しかし、15年も連続で工業国世界一位の名を欲しいがままにする中国で、オートバイだけが遅れているなんてことはありえない。マスの小さなモトクロッサー市場に中国製品が出てきていないのは、手を付ける優良な企業が現れなかったからだろう。

画像: 「世界の工場」で生産されるモトクロッサー

KOVE
MX250
¥768,000

今回試乗した中国のバイクメーカーKOVEは2017年創業と若いバイクメーカー。本社がある重慶は内燃機製造の歴史が長く、エンジンやサスペンション、ブレーキなどの補記類調達も難しくはない。たった8年でダカールラリーやロードレースのMoto3で目立つ成績を残し、いまや市販オフロードバイク界へじわじわと浸食しているKOVE躍進には、このような背景がある。

あらためてKOVEのモトクロッサーMX250を俯瞰してみよう。日本に上陸したMX250はGen2と呼ばれる第二世代モデルで、エンジンがスズキのRM-Z250に似ていたGen1とはまるで異なり、ホンダCRF250Rによく似た外観となった。エンジンの生産はロンシンでBMWのOEMもしている巨大な内燃機メーカーだ。スペック上は40.8PSを12000rpmで発揮するとされているが、これは近年の4スト250モトクロッサーとしては控えめな数値で、例えばKTMの47PSと比べると2割弱の差がある。なお、パーツリストまで目を通してみると最新モトクロッサーをはじめとするハイパフォーマンスなエンジンに採用されることが多いフィンガーフォロワーらしき機構が取り入れられている上、圧縮比も13.9:1と高く、まごうことなきレーシングエンジンと言える。フレームはクロモリ製、ホイルベースや全長・シート高などのディメンションは既存のモトクロッサーと大差ないのだが、ハンドル幅だけ短く805mmとなっている。サスペンションは重慶の地元企業であるYU-AN製、ブレーキも同様でTAISKO製だ。だが、EFIにはBOSCH製を採用しており、肝心な部分には信頼のおけるサプライヤーを選んでいるようだ。車重は101kgと、これもライバルメーカーのモトクロッサーと同レベルに仕上がった。エメラルドグリーンの外装は、どことも似ておらずコースで非常に目立つ。

想像を裏切るフィーリング、パワー感はごく普通のモトクロッサー

エンジンに火を入れると、バッフルが装着されたエキゾーストからかなり派手な音が響く。FIMの騒音規制にあわせたマフラーが主流になってきた2025年以降のバイクにしては、相当元気のある弾けたサウンドだ。十分に暖められていない状態でエンジンをストールさせてしまうと、バキッと高圧縮エンジンの音が響き渡ることからも、いわゆる根っからのレーサーエンジンであることが理解できる。

スペック上のパワー値からすると、てっきりトレールに近いパワーフィーリング、あるいはエンデューロバイクのような感触なのだろうかと思い込んでいた。KOVEのラリーバイク450RALLYがエンデューロバイクとトレールの中間地点くらいのフィーリングだったからというのもある。ところが、乗ってみるとMX250は明らかにモトクロスバイクだった。エンデューロバイクのように開け口がマイルドになっているわけではなく、爆発の1発1発にしっかり荒々しいパンチが乗っている。

画像: 想像を裏切るフィーリング、パワー感はごく普通のモトクロッサー

20年間初心者でありつづけた僕がモトクロッサーに慣れ始めたのはつい最近のことだ。以前は開け口でしっかりパンチが乗るモトクロッサーの反応が苦手で、エンデューロバイクのおっとりした開け口が好みだった。一年間、真面目にKTM 125SXに乗り、その後ヤマハYZ125に乗り換えたら、だいぶモトクロッサーに慣れることが出来た。人によるかもしれないけれど、モトクロッサーはエンデューロバイクと比べてだいぶパンチに差があるバイクだと思う。KOVE MX250はパワーが控えめというから、トレールから乗り換えても違和感のないようなバイクなんだろうと思っていた。ところが、実際に乗ってみるとそうではない。むしろ、今時の乗りやすく進化したモトクロッサーよりもモトクロッサー的と言えるかも知れない。なかなかに元気なエンジンなのだ。

パワーがない、トルクがないという表現を良く見かけるが、人が感じるパワーやトルクというのは、多くの場合「過渡特性」にあると僕は思っている。本来、パワーとは何度も語られている公式、トルク×回転数で導き出される仕事量であって、スペックで書かれる最高出力というのはパワーを稼げる高回転域の瞬間値だ。このMX250は実は結構早い段階でエンジンが頭打ちする。最高出力を12000回転で発揮するとあるが、レブまではしっかり加速していくのでほとんどレブ域の落ち込みがないものとすると、13000回転ほどがレブリミットなのではないだろうか。最新のモトクロッサーが14000回転以上回り、そのレブ付近でピークを迎えることを考えてもだいぶ低い。この差がスペックの最高出力の差として現れている。かといってMX250は低中速重視のエンジンには感じない。トルクはしっかりあるけれど、いわゆる低中速に振ったエンジンとも違う。回して気持ちいい高回転型エンジンだと感じる。2020年あたりから、主要な4スト250モトクロッサーはレブ域のフィーリング改善に力を入れていて、レブで失速する感触がなく2ストライクに引っ張り回して走ることが出来る。そのような高回転域の伸び感は、MX250は持ち合わせていない。ただそれだけのことで、実際に必要な領域の回転数までは気持ちよく回るのだ。

他メディアでパワーに劣ると書かれてしまう理由はおそらくこの辺にある。ピークパワーを多用するような大きなコースに持ち込めば、その差はかなり出てしまうかも知れない。もちろん、そもそも性能を使い切れるライダーが語るのと僕のようなホビーライダーが書くのでは大きな違いがある。スキルがあればレブ付近のおいしい部分ばかりを使う乗り方をするから、そういう人たちはパワー不足を感じるはずだ。だが、レブに至るまでの過渡

に大きな違いを体感できるほどのパワー差を感じない。頻繁にレブに入るわけではない僕のようなライダーにとっては、早めのシフトアップが必要になったりはするものの、大きく性能を損失しているようなところは見あたらないのが実情だ。はっきり言って、普通である。これは、一般のライダーが想像する、「普通のモトクロッサー」であると言っていい。

コンパクトに感じる車体、ほどよいサス

車体についていえば、エンジンで感じた「これでいい」という評価から、「これがいい」に変わった。前述した通り、ディメンションは既存のモトクロッサーと差が無いのだが、クロモリフレームならではのシュラウドの細さ、ハンドルの短さから来るものなのか、ひとまわり小さく感じるほどにコンパクトで低い。この扱いやすさのおかげでライントレースはとてもしやすく、だからこそ開けていきやすいなと感じた。もしかすると、このあたりは実感として感じられなかった、わずかな過渡特性上のローパワーがいい方向に働いているのかも知れない。

画像: コンパクトに感じる車体、ほどよいサス

サスペンションの仕上がりも上々だ。ハードパック路面には硬さを感じるかもしれないが、ソフト路面のコースを走る分には、特に硬くも柔らかくもなく中庸。入りすぎるような嫌な動きもせず、自然にライディングを楽しむことが出来る。事前情報ではかなり硬めと聞いていたので最初は身構えてしまっていたが、徐々に慣れていくうちにちゃんと攻めていけるようになった。ただ、僕の腕前でほどよいと感じたくらいなので、もしかするとこれはモトクロス向けとしては若干柔らかいのかもしれない。

全体を通して、さすがに全日本モトクロスで成績を残すには心許ないのだろうが、サンデーレースを楽しんだり、JNCCやWEXに参戦する分にはいいバイクだと感じた。国産のモトクロッサーが80万円台中盤から手に入る中、76万8000円というプライスは安いには安いが激安とまではいかず、450ラリーが登場した時ほどの価格インパクトは無い。だが、単純にコストパフォーマンスだけで見るのではなく、このブン回せる乗り味がいい、と指名して選べるバイクだと評価しておきたい。個人的には、とても面白い素材だと思った。

画像2: 中国産モトクロッサーKOVE MX250「これでいい、これがいい」

KOVEジャパン 大塚さんのGen1インプレッション
昨年9月、MX250のGen1にタクラマカン砂漠で試乗しました。『サスペンションはしっかりしている。車体の剛性は高く小柄でコントローラブル。エンジンは扱いやすい特性だけど、開けた時のパンチや高回転でのパワーはモトクロッサーとしては少し物足りない』と感じました。そしてKOVEはGEN2で新形エンジンを投入し一気にパワーアップを図りました。
いま私は怪我をしていてGen2に乗れておらず、Gen1→Gen2へのエンジンの進化を体感できていません。なので憶測にすぎないのですが、海外で『MX250はパワーが低め』と言われているのはGEN1の印象に引きづられているのではないか……とも思います。
ちなみに、KOVEが初めてダカールラリーに参戦した2023年、450RALLYに搭載されたゾンシェンエンジンは市販車としては扱いやすくて良いエンジンだと思いますが、ダカールレーサーとしてはパワー不足で、明らかに他メーカーより最高速が低かったです。そこで、2024年には自社新開発エンジン(45PS→65PS)を搭載した450RALLY EXのプロトタイプを投入。メイソン選手はトップ争いを展開するステージもあり、450RALLY EXの戦闘力の高さをラリー界に知らしめました。

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