スペインのマラガでおこなわれたトライアンフTIGER900のグローバルローンチへ。熟成された同社のミドルアドベンチャーは、出色の出来だった

TIGER1200とはまるで違う! どっちも欲しくなる衝撃体験

Off1で連載している通り、編集部は2023年にトライアンフのTIGER1200を購入した。どうも伊井が勘違いしているようだが

画像1: 新型TIGER900インプレ「もしかして3気筒は、ミドルアドベンチャーの最適解なのか?」
画像2: 新型TIGER900インプレ「もしかして3気筒は、ミドルアドベンチャーの最適解なのか?」

 

君のバイクではない。TIGER1200を選んだのは何を隠そうこの僕だ。クセが無くなりコモディティ化していくオートバイ業界の中で、ひときわ強い個性を放つTIGER1200を所有してみたいと思ったのだ。なんせ3気筒。個性的なエンジンに強くひかれる性癖を持った稲垣に、この魅力にあらがうことなどできなかった。実際に所有してみると、プリミティブで面白いバイクだと思う。低速のパルス感は独特で、スロットルを開けていけば虎のごとき咆哮と共に猛ダッシュを決める。どの回転域も、楽しいのだ。

だが、購入時に気になることがあった。トライアンフ浜松の林店長が言っていた「TIGER900ってのは、本当に名車なんですよ。最高によくできている。900にもぜひ乗ってみて欲しいな」という言葉が気になる。そんな折、幸いにもスペイン南部のマラガで開催される新型TIGER900のローンチイベントに招いていただけることになった。さぁ、いったいどれだけいいのか、試してやろうじゃ無いか。

画像: TIGER1200とはまるで違う! どっちも欲しくなる衝撃体験

まる2日もマラガの土地を走り回るローンチイベント、1日目はロード、それも一般公道をひたすら280kmほど走る設定となっていた。ずいぶん長く走らせるんだな、と思ったが、TIGER900の衝撃は会場を飛びだしてすぐ、いやスロットルを開けてすぐに受けることとなった。これはTIGER1200とはまったく別モノだ。900も1200も、TIGERにはTプレーンという不等間隔爆発の3気筒エンジンが載っている。大排気量の1200は、アメリカのV8のようなデロデロしたひっかかりのある低速がとても感触がよくて、実際細かい峠道で3〜4速の使い勝手がすごくいい。排気量を900ccに下げたらこの良さはなくなってしまうのではないか、Tプレーンらしさが無かったらTIGERである意味なんてないのでは、と思っていたのだけれど、TIGER900のTプレーンはさらによかった。まず、上質だ。エンジンの回る感触が1200に比べて圧倒的にスムーズでヒュルヒュルっと回転上昇して、至極気持ちが良い。メカノイズも少なく、クリーンに3気筒エンジンが回る。無個性なのではなく、しっかり不等間隔らしさや、3気筒らしさを備えた上で、とても上質に仕上がっているといった感じだろうか。TIGER1200の荒々しさ、TIGER900のスマートさ。天秤にかけると、とても悩ましい。正直に言って、どっちも欲しい。

オン&オフ。選べるTIGERファミリー

TIGERという車名は実は1937年から存在するのだが、現代のアドベンチャーバイク、つまりデュアルパーパスモデルとしてのTIGERは1993年に発売されたTIGER900をオリジンとする。現在は旗艦TIGER1200を頂点として、TIGER900、TIGER850 SPORT、TIGER SPORT660と豊富なラインナップを誇っており、そのうちの1200/900にはオンロード主体のGTシリーズ、オフロード向けのRALLYシリーズが販売されている。

画像1: オン&オフ。選べるTIGERファミリー

このたび発表されたTIGER900は、3機種展開。ロード向けのTIGER900 GT、さらに装備を充実させたTIGER900 GT PRO、オフロード向けのTIGER900 RALLY PRO。GT/GT PROは19-17インチのキャストで180/170mmのホイールトラベル、RALLY PROは21−17インチのスポークホイールで240/250mmのホイールトラベルを採用。その棲み分けはかなり明確で割り切っている。

TIGERシリーズ最大の個性は、3気筒のエンジンだ。オートバイには奇数バンクになじみがあまりないが、4輪ではV6やインライン3など一般的な形式である。4ストロークのエンジンはクランクが720度回転することで行程を終えるわけだが、その720度の中で通常4気筒の場合は180度ごとに爆発し、3気筒の場合は240度ごとに爆発する。クランクをみると120度ずつ正三角を描いてピンが組み込まれる3気筒は機会損失が少なく高効率。非常にスムーズに回り、トラクションを掴みやすいことから、トライアンフフリーク達はこのフィーリングの虜になるという。そのスムーズさをあえて捨て、クランクピンを0−90−180度と二等辺三角形を描くように配置した“Tプレーン”がTIGERシリーズの3気筒エンジンである。昨今並列2気筒でも270度位相の不等間隔爆発が主流になりつつあるが、狙いはそれと同じ。よりトラクションのつかみやすさを向上させるために位相をずらしたのだ。

画像2: オン&オフ。選べるTIGERファミリー

世界で4万5000台を販売してきたというTIGER900。2020年にフルモデルチェンジされたことで車体・エンジンともに見なおされており、このたびの2024モデルは「メジャーアップデート」とリリースには書いてあるのだが、エンジン細部にまで手が入り出力や効率を向上したビッグマイナーチェンジと呼べる。世界各国からジャーナリストを集めて二週間に渡ってローンチをおこなうだけあって、自信のほどがうかがえる。

パワフルに、そしてコンパクトに

リッターオーバーのアドベンチャーバイクでは、思ったように乗りこなせない。そんなライダーの声を反映して800クラスのミドルアドベンチャーが隆盛を誇ったのは、もう10年ほど前の話だ。レッドオーシャンとなった今では、各社が凌ぎを削って扱いやすさとパワフルさを両立しようとアップデートを重ねている。

画像1: パワフルに、そしてコンパクトに

TIGER900はこの2024モデルで最高出力を13PSアップ、大台を超えて108PSに進化。最大トルクも3Nm向上し、90Nmとひとまわり上の出力を手に入れている。スペック上、8000rpmより上のレンジで大幅にパワーが出ており、しっかり開ければリッターに勝るとも劣らない加速をしてくれるようになったという。その上、燃費が9%向上したことで航続距離は425kmに。これらの性能向上は、新ピストン、新シリンダーヘッド、新カムシャフト、新バルブやエキゾーストによって実現したとのことだ。

画像2: パワフルに、そしてコンパクトに

ライダーインターフェースでは、ハンドルを15mm手前に持ってきて(RALLY PROのみ)ラバーマウント化。より多くの体格に対応するだけでなく、微細な振動をも嫌ってコンフォート性能を向上しようという開発陣の意欲がみてとれる。

試乗前の技術説明会でプロダクトマーケティングマネージャーの、ジェームス・ウッド氏が盛んに繰り返したのは、「このタイガーがミドルクラスのアドベンチャーバイクにおいて、ベンチマークである」ということ。それを証明するかのごとく、スペインのエンデューロスター、イヴァン・セルバンテスはTIGER900でモロッコの1000 DUNAS RAIDを圧勝。車体・エンジン共に性能的にもクラス最高峰であることに疑いの余地はない。

オフロードで思い通りに振りまわせる、かも

週1くらいのペースでトランポにYZ250FXを積んでコースへ行き、タイムを0.01秒詰めてはにんまりするようなオフロードどっぷり生活を送っているものの、筆者は自他共に認める万年ビギナーだ。先日、関東の草モトクロス「ヒーローズアダルト」のノービスクラスではじめて表彰台に乗った。とても嬉しかった、が20年乗り続けているものの「ベテラン」にはほど遠い。1000cc付近のアドベンチャーバイクを土の上で自由に振り回せるような腕はまったくもっていない。8年前、大晦日にアフリカツインで宗谷岬へ向かったが、走ってる間ずっと「なぜオレはセローでこなかったのか」と自問自答し続けた。でかいアドベンチャーバイクでオフロードを走るのは、とても難しく、特殊な行為である。TIGER1200を持っていても、林道に行くことすら稀だろうと思っているから、TIGER1200はGT(ロード向け)をチョイスしたほどだ。

画像1: オフロードで思い通りに振りまわせる、かも

マラガの試乗で用意されたオフロードルートはだいぶテクニカルで、見た目にも雨が通った轍などの多い手強いものだった。路面コンディションはハードパックで非常に滑りやすく、ところどころガレもある。TIGER900にはミシュランのアナキーワイルドが装着されていて、あとはあなたの勇気次第と言われている気がした。

オフロードを走るにはTIGER900 RALLY PROの場合、オフロードモードかオフロードプロモードの2択。前者はトラクションコントロールの介入度が多く、ABSがオフロードモードになる。後者はトラクションコントロール(TC)、ABSともにオフになり、TIGER900そのままの性能を発揮させることができる(余談だが、ABSをオフにできる仕様はEUの法律上難しかったところ、トライアンフがロビー活動をおこなったことで実現したとのこと)。僕のスキルだと、オフロードモードの電子制御に助けられることが多かった。スリッパリーな路面では、意図しないTCの介入で吹けないような時があるし、リアブレーキを引きずりながら走っているとABSの介入を感じることがあったものの、リアを振り回せないことで曲がるきっかけをつかめない……ことに苛立ちを覚えるほどの上級者ではない。900ccもあるバイクでは、僕はオールグリップ走行しかできないのである。ただ、オフロードプロモードの楽しさも十分に理解できた。リニアにスロットルに反応するリアタイヤは、ズバッと滑りすぎることがない。ぐぐぐっとゆっくりスライドし出すから身体の反応が遅れてしまうようなことは皆無だ。これはライドバイワイヤの出来がいいのだと思う。一昔前はライドバイワイヤのダイレクト感がない、なんて不満も多かったけれど、このTIGER900に関してはとてもリニアだ。

画像2: オフロードで思い通りに振りまわせる、かも

100km以上続く、オフロードマニア垂涎のルートは、TIGER900の3速ととても相性がよかった。3速が維持できるスピードで走っていると、スムーズにコーナーをまわることができる。もしかすると現代のアドベンチャーバイクの主流である2気筒よりも、3気筒のほうが僕のようなスキル不足のライダーと相性がいいのかもしれないと感じた。ツインエンジンよりも爆発の一発一発を細かに使えるため、大排気量車ならではのギクシャク感がでづらいのだ。2気筒に比べて重さを感じることも無いし、3気筒のデメリットは特に見い出すことができなかった。また、たしかにTIGER1200に比べてトルクやパワーは小さく感じるものの、アップダウンが激しいマラガのダートロードを3速低回転域で走っていてトルク不足を感じることも一切ない。このエンジンとオフロードとの相性は、想像以上にいい。

SHOWA製のサスペンションを装着することで、フロント250mm、リア240mmのホイールトラベルを持った足回り、そしてパイプで組まれたフレームも好印象だ。いつも乗っている250クラスのクロスカントリーマシンと同じような感覚でギャップに突っ込んでいってしまっても、なんのことなく収束してくれる。斜めに轍を横切るようなシチュエーションにも強く、正直なところ「これ以上は破綻してしまう」というリミットラインが見えてこなかったほどだ。不思議だったのは、スタンディングで走るほうがシッティングよりも自分なりにビタッと決まったことだ(普段はベタ座りが多い)。最初の内はコーナーに入る度に座っていたのだが、そのうちスタンディングで外側のももでバイクを押し込んでやるように曲がると、素直に恐怖感なく曲がれることに気づいた。滑りやすい路面でも、タイヤに負担をかけずに素直に転がせるので、怖さがない。それにステップ周りの車体はとてもスリムだった。乗れば乗るほど、TIGER900 RALLY PROはオフロードバイクなのだという認識が深くなっていった。

画像3: オフロードで思い通りに振りまわせる、かも

超高速ツーリングにも対応する懐の深さ

こういったグローバルローンチイベントは、オフロードはともかくオンロードのペースがやたら速い。オフロード以上に万年ビギナーである筆者としては、マスツーリングについていくのがやっとというか、むしろ少し離れ気味に走ることになった。いかんせん、ここでははっきり数値を書けないほどの速度からぎゅーんと20km/hくらいのタイトターンが急に現れる、日本ではありえないシチュエーション。ガードレールがない場所も多く、調子にのったら、どっかに飛んでいってしまうかもしれない。世界各地から集まった多くのモーターサイクルジャーナリストたちが相当なハードブレーキで突っ込んでいるらしく、TIGER900のテールランプが赤く点滅するのを遠く後ろから見ていた(ABSが介入すると赤点滅する)。

画像1: 超高速ツーリングにも対応する懐の深さ

とはいえ、道も良く知らぬ間に速度も出るので、僕自身も右足先に何度もカタカタカタというABSの反動を感じながら走ることになる。つまり車体やサスペンションには、何度も大きな負荷がかかり、時にはハイグリップタイヤによってよじれるような状況が生まれていたわけだが、まるでアルミフレームで強靱に組まれたロードバイクのようにがっしり入力を受け止めてくれている安心感があった。かといってもちろんフレームが固く感じるわけでは無い。GT PROは19−17インチのキャストホイールを採用しているのだけれど、ロードでのコーナリングがとても素直だ。逆に21−17インチのRALLY PROは、GT PROに比べてだいぶコーナリングでダルな反応を見せるし、19インチの粘りのあるコーナリング特性が少し薄れてしまう。特にオンロードが苦手な僕にとっては、GT PROの曲がりやすさは福音だった。

このGT PROモデルにもオフロードモードが搭載されていて、荒れたアスファルトでは「オフロードモードにしてから走ってくれ」と試乗会スタッフから指示されたのだけれど、とても秀逸だった。TIGER1200のように電子制御サスではないので足回りまで変化するわけではないが、ABSやTCの効き方は相当に荒れた路面でも問題なく走破できるもの。RALLY PROに比べてストロークの短いサスペンションでも、かなり懐が深いなと感じた。

画像2: 超高速ツーリングにも対応する懐の深さ

2機種を通じて感じたのは、トライアンフがいかに実直で真面目なオートバイメーカーかということだ。これは一緒にローンチイベントへ向かったモータージャーナリストの大先輩、柏秀樹さんが言っていたことなのだけれど、トライアンフは3気筒を採用したり、ボンネビルのイメージが強かったりと、個性派で奇をてらったメーカーに見えるが、実際に乗ると「これがスタンダードなのだ」と言わんばかりにかっちりした完成度の高いものを作ってくる。3気筒Tプレーンは理に適っているし、前述した通りエキスパート向けと言うよりビッグバイクビギナーにも優しい懐の深さをあわせもつ。

買うとしたら、どうだろう。TIGER1200ほどRALLY PROを持て余すようなイメージはないから、RALLY PROでもいいかもしれない。だけど、よりロードを快適に走れるGT PROはやはり魅力的だ。今は19-17でもミシュランのアナキーワイルドなど、本格的なオフロードタイヤをチョイスできるから、よほどのオフロードフリークでなければGTで十分に満足できる。ただ、OFF1読者諸兄はその「よほどのオフロードフリーク」だろうから、ここまでオフロードで走れる900なら、オフ向けのRALLY PROのほうがもっと楽しめるかも知れない。これを買ったら、もっと北海道や九州へ出かけるような日々が待っているのではないか、と思うと悩ましいところだ。

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