スズキが国内発表したVストローム250SX。世界的にみても珍しいことに、日本では既存のVストローム250も継続販売されるため、一見すると旧型と新型を併売するようにも見える。しかし、実のところはそうではない。「新型」「旧型」と考えるのがそもそもの間違いなのだ。ではなぜスズキが250ccのVストロームを両方ともラインナップに残したか、というとこの2台は全く性質の異なるバイクだからだ。

なお、Vストローム250がGSX250Rをベースに開発されているのは有名な話だが、Vストローム250SXはジクサー250をベースにしている。どちらもオンロードモデルをベースに持つゆえ、オフロードだけでなくオンロードでの快適性も抜群に良いのが特徴だ。では、なぜスズキはわざわざVストロームの250ccモデルにまったく別のエンジンを搭載したのか。実はこのVストローム250SX、生まれが違うのである。Vストローム250は日本生まれだが、Vストローム250SXはインド生まれ。開発時から日本販売も視野に入れていたとのことだが、インドスズキでは1年前に先行発売しており、人気モデルになっていたものを日本市場にも持ち込んだ、というのが事の真相なのだ。

ここではこの2つのモデルを詳細に比較しながら、Vストローム250SXの特徴を紐解いていく。

画像: “未舗装路を100%保証するーーー”土の匂いがするVストローム250SX

SUZUKI
Vストローム250SX
¥569,800(税込)
カラー:チャンピオンイエローNo.2、パールブレイズオレンジ、グラススパークルブラック

型式8BK-EL11L
全長 / 全幅 / 全高2,180mm / 880mm / 1,355mm
軸間距離 / 最低地上高1,440mm / 205mm
シート高835mm
装備重量 ※2164kg
最小回転半径2.9m
エンジン型式 / 弁方式EJA1・油冷・4サイクル・単気筒 / SOHC・4バルブ
総排気量249cm3
内径×行程 / 圧縮比76.0mm × 54.9mm / 10.7
最高出力19kW 〈26PS〉 / 9,300rpm
最大トルク22N・m 〈2.2kgf・m〉 / 7,300rpm
燃料供給装置フューエルインジェクションシステム
始動方式セルフ式
点火方式フルトランジスタ式
潤滑方式圧送式ウェットサンプ
潤滑油容量1.8L
燃料タンク容量12L
クラッチ形式湿式多板コイルスプリング
変速機形式常時噛合式6段リターン
変速比1速2.500
2速1.687
3速1.315
4速1.111
5速0.954
6速0.826
減速比(1次 / 2次)3.086 / 3.076
フレーム形式ダイヤモンド
キャスター / トレール27°00' / 97mm
ブレーキ形式(前 / 後)油圧式シングルディスク[ABS] / 油圧式シングルディスク[ABS]
タイヤサイズ(前 / 後)100/90-19M/C 57S / 140/70-17M/C 66S
舵取り角左右35°
乗車定員2名
排出ガス基準平成32年(令和2年)国内排出ガス規制に対応

2つの250ccVストロームを徹底比較

画像1: Vストローム250SX

Vストローム250SX

画像1: Vストローム250

Vストローム250

まずはエンジン。Vストロームシリーズはこれまで250ccから1050ccまで多くの排気量帯でリリースされているが、その全てにおいて2気筒エンジンを採用していた。Vストローム250も例に漏れず、水冷4サイクル2気筒SOHCエンジンを搭載している。ところがVストローム250SXでは油冷4サイクル単気筒SOHCエンジンを採用。小型のエンジンを搭載することで車体全体をスリムかつコンパクト、そして軽量に仕上げてきた。

なお、Vストローム250がGSX250Rをベースに開発されているのは有名な話だが、新型のVストローム250SXはジクサー250をベースにしている。どちらもオンロードモデルをベースに持つゆえ、オフロードだけでなくオンロードでの快適性も抜群に良いのが特徴だ。

画像2: Vストローム250SX

Vストローム250SX

Vストローム250SXではエアインテークカバーを撤去して空気の吸入量を増やしているとのこと。

画像3: Vストローム250SX

Vストローム250SX

画像2: Vストローム250

Vストローム250

マフラーは形状が全く異なる。Vストローム250SXではベースとなったジクサー250と同じショートタイプのマフラーを採用している。つま先でスタンディングすると、右足の踵がちょっとマフラーカバーに当たることがあったが、邪魔になるほどではない。

画像4: Vストローム250SX

Vストローム250SX

画像3: Vストローム250

Vストローム250

次にハンドル。Vストローム250は絞りがキツく、極端に言えばセパレートハンドルに近いポジションになっていたのに対し、Vストローム250SXはオフロードバイクに近い形状。そのため、実に自然なフォームでスタンディングが可能となっている。また、ディスプレイ搭載位置も少し前方に張り出したようなVストローム250に比べて、ハンドルに近くなっており、フロント周りの軽さにも繋がっているように感じた。

画像5: Vストローム250SX

Vストローム250SX

画像4: Vストローム250

Vストローム250

ウインドシールドの形状にも変更が加えられている。先端に向かってスリムになっているVストローム250に対し、Vストローム250SXは上端まで幅がほぼ一定で、防風効果の高さが伺える。

画像6: Vストローム250SX

Vストローム250SX

画像5: Vストローム250

Vストローム250

Vストロームの代名詞とも言えるクチバシ形状のフロントデザインも、大きく変化している。Vストローム250SXには先にデビューした兄貴分のVストローム800DEを彷彿とさせるスタイリッシュさがある。

画像7: Vストローム250SX

Vストローム250SX

画像6: Vストローム250

Vストローム250

オフロード目的のライダーにとって、エンジンの次に大きな違いはフロントタイヤだろう。Vストローム250はオンロードモデルと変わらない17インチだが、Vストローム250SXでは19インチを採用。さらにアクスルシャフトの位置をフロントフォークよりも30mm前方にシフトすることでトレール量を延長、未舗装路での安定性を確保している。なお、Vストローム250SXはジクサー250に対し大型のフロントブレーキを搭載している。

画像8: Vストローム250SX

Vストローム250SX

画像7: Vストローム250

Vストローム250

タイヤのパターンも大きく異なっている。Vストロームで採用されているのはIRCのRX-01、フルカウルツアラーなどにも使われている普通のツーリングタイヤだが、Vストローム250SXではマキシスのブロックタイヤを採用。なんとスズキではこのVストローム250SXを開発するにあたり「未舗装路を100%保証する」というテーマを掲げており、ガレ場やサンド路面でも実走テストを行なっているという。

画像9: Vストローム250SX

Vストローム250SX

画像8: Vストローム250

Vストローム250

アンダーガードはVストローム250の方が大きい。だがこれはエンジンサイズの問題で、Vストローク250SXはエンジンがコンパクトなため、アンダーガードも小さい面積でカバーできるようになっただけのこと。もちろん、本格的にオフロード走行をする場合はより大型で強固な社外品への交換をすれば良い話だ。

画像10: Vストローム250SX

Vストローム250SX

画像9: Vストローム250

Vストローム250

ナックルカバーはどちらも標準装備。サイズ的にはVストローム250の方が大きく、保護面積も広い。

画像11: Vストローム250SX

Vストローム250SX

画像10: Vストローム250

Vストローム250

シートはVストローム250が一体型だったのに対し、セパレート式を採用している。インドでは日本に比べてタンデム需要が高く、パッセンジャーシートに乗る女性はサリーという民族衣装で足が開けないため、横乗りする。そのため、Vストローム250SXではシートレールが長めに設計されている。なお、インド仕様ではリアタイヤのチェーン側にサリーの裾を巻き込まないためのサリーガードが装着されているが、日本仕様では撤去されている。シート高はVストローム250が800mmなのに対し、Vストローム250SXは835mmと、35mm高い。

画像: VストロームSX(インド仕様)

VストロームSX(インド仕様)

こちらがインド仕様のVストロームSXに装着されているサリーガード。

画像12: Vストローム250SX

Vストローム250SX

画像11: Vストローム250

Vストローム250

リアキャリアの形状も異なっている。Vストローム250SXではタンデムシートとリアキャリアの座面を同じ高さにすることで荷物を積載しやすくしている。

画像13: Vストローム250SX

Vストローム250SX

画像12: Vストローム250

Vストローム250

燃料タンクはVストローム250が17Lなのに対し、Vストローム250SXは12L。スペックではVストローム250の燃料消費率が38.9km/L(60km/h・2名乗車時)、Vストローム250SXは44.5km/L(60km/h・2名乗車時)となっているため、計算上ではVストローム250SXの方が燃費は良いが、Vストローム250の方が給油回数は少なくて済みそうだ。

画像14: Vストローム250SX

Vストローム250SX

画像13: Vストローム250

Vストローム250

フットペグとブレーキペダル。Vストローム250SXの方が幅広で過重をかけやすくなっている。また、裏のボルトを外すことでラバーを外し、スチールステップにすることも可能。

画像15: Vストローム250SX

Vストローム250SX

画像14: Vストローム250

Vストローム250

アクセサリー電源はVストローム250はシガーソケット、Vストローム250SXはUSBソケットを装備している。位置はどちらもほぼ同様で、ディスプレイ左脇だ。

画像16: Vストローム250SX

Vストローム250SX

画像15: Vストローム250

Vストローム250

リア周りはまるで印象が違う。実際にはVストローム250SXの方がシートレールが長いはずだが、むしろ短く見えるのはデザイナーの力によるところだろう。

画像17: Vストローム250SX

Vストローム250SX

画像16: Vストローム250

Vストローム250

Vストローム250はセンタースタンドとサイドスタンドを装備しているが、Vストローム250SXはサイドスタンドのみ。

画像18: Vストローム250SX

Vストローム250SX

画像17: Vストローム250

Vストローム250

フロントサスペンションはどちらも正立フォーク。Vストローム250SXはジクサー250ベースではあるものの、フロントタイヤサイズが大きくなっているため、リセッティングを行なっている。

画像19: Vストローム250SX

Vストローム250SX

画像18: Vストローム250

Vストローム250

Vストローム250SXはジクサー250からスイングアームを延長。それに合わせてリアショックもストローク量を増やし、ホイールトラベルを大きくしている。GSX250RをベースとしているVストローム250と見比べると、違いは一目瞭然だ。

画像: 2つの250ccVストロームを徹底比較

Vストローム250SX開発陣のみなさん。左からデザインを担当した村松晶さん、テストライダーを担当した大庭繁さん、チーフエンジニアでエンジン開発担当の鈴木一立さん、艤装設計担当の久野雅明さん。

ゲレンデで実走インプレッション!

今回、ゲレンデを使ったオフロードコースでの試乗が可能と聞いていて、非常に楽しみにしていた。それだけVストローム250SXのオフロード性能に自信がある、ということだと思ったからだ。試乗時間の前半は舗装路を30分ほど走り慣熟走行を行ったのだが、ジクサー250が持っているスポーツ性能はVストローム250SXになっても衰えていないように感じた。エンジンは高回転までスムーズに回るし、フレームの剛性がとても高いおかげでサスペンションやハンドルバーが太くなくても脆弱さは感じない。タイヤもブロックタイヤではあるものの、舗装路でヨレを感じるほどのものではなかった。

画像1: ゲレンデで実走インプレッション!

「さぁ、いよいよ」と思い、ゲレンデに向かった。他にも試乗しているメディアがいたのだが、この時はゲレンデは誰も走っておらず、どこを走っていいのかよくわからないまま「スタート」という看板に従ってコースインしてみた。

コースインした途端に「え、こんな狭いの? こんなミニモト用みたいなコースで走っても良さがわからないよ!」と戸惑った。コース内にはやたら間隔の狭いフープスがあったり、めちゃくちゃタイトなターンがあって、下りではずっとリアタイヤのABSが効いていて、正直転ばずに走るのが精一杯だった。

それでも3〜4周走ってちょっと楽しくなっていた時に、ふと隣を見ると気持ちよさそうなゲレンデが目に入った。そこで遠くで見守ってくれていた係の人に「あっちって走っちゃダメなんですか?」と聞いてみると、「Off1さんが今走っていたのは常設のBMXコースで、試乗コースではありません。あっちのゲレンデが我々が用意したコースです」とのこと!!

なんてこと……!

しかしこの間違いのおかげでVストローム250SXがミニモト用のモトクロスコースのような狭いBMXコースでも走れることがわかった。

画像2: ゲレンデで実走インプレッション!

気を取り直して、ゲレンデへ。本当の試乗コースはなかなか荒れていて、登りも下りも石がゴロゴロ。何度もJNCCでゲレンデレースを経験している僕でもちょっと嫌だな、と思うレベルだった。しかしだからこそ、Vストローム250SXの走破性の高さがしっかりと実感できた。

登りながらタイヤが石を弾くので、マシンは暴れるのだが、ポジションがしっかりしているので、ニーグリップしてアクセルさえ開けていればバランスを崩すほどではない。フロント周りが軽いのでハンドルも取られず、普段エンデューロバイクでやっていることを、そのまま生かすことができた。

画像3: ゲレンデで実走インプレッション!

一番スピードが出る登り坂はしっかりと助走が取れたので3速で登っていたのだが、登りながら曲がる時や、ちょっとラインを外して修正したい時などにアクセルを開け直しても、ほんのちょっとクラッチに指をかけてやるだけでしっかりと回転が付いてくる。

普段はオフロードレース専用のゴツいブロックタイヤを履いているので、タイヤのグリップにはあまり期待していなかったのだが、驚くことに石の上を走っても不足を感じない。しかし、ある程度スピードが乗って高回転を使えていれば未舗装路でも難なく走れるが、坂道など滑りやすい路面で一度停まってしまうと再発進には少々苦労する。とはいえ普通の林道ツーリングであれば十分だし、オフロード優先で低速トルクをあげてしまうとオンロードのツーリングで扱いづらくなり、快適性が失われてしまう。つまりVストローム250SXが狙ってる用途としてはこれが正解なのだと感じた。

なるほど「未舗装路を100%保証する」と言うのは伊達ではない。念の為、スズキの言う「未舗装路」とはこういうゲレンデやエンデューロコースは想定しておらず、あくまで林道の話だ。とはいえ、林道を100%カバーするためにはこういったレースで用いられるようなコースでもある程度走れる性能が必要ということだろう。

いずれにせよ、スズキの現行ラインナップに限りなくオフロードバイクに近いアドベンチャーモデルが追加されたのは、実に喜ばしいことだ。

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