ブッチギリにも競り合いにも強いチャンピオン

画像: レース1スタート #1尾野がレース全周回にわたってリードします

レース1スタート #1尾野がレース全周回にわたってリードします

全日本ロードレース第4戦・筑波大会、とはいっても、開催された選手権レースはJ-GP3クラスのみ。
同時開催のJP250はいつまでたっても「MFJカップ」格式だし、マイスター600/250、OVER60Kid'sはイベントレース。それでも1Day開催の日曜には、たくさんお客さんがいらっしゃってました。ありがとうございます。レース進行はきちんと余裕があったものの、でもこれだったら全日本格式のJ-GP3を2レースとはやればいいのになぁ、って何度も言ってるんですけどね。

普段は行なわれているJSB1000/ST1000/ST600クラスがないぶん、この筑波大会ではJ-GP3クラスにたっぷりフォーカスしてみます。第2戦が鈴鹿2&4でJSB1000クラスのみの開催だったため、J-GP3クラスはこれが3戦目。結果から先に言うと、チャンピオン尾野弘樹(P.MU 7C GALESPEED)が3連勝! ランキングトップをひた走っています。

尾野は開幕戦・もてぎ大会で2位以下を14秒引き離すブッチギリの独走優勝を果たしたかと思えば、第3戦SUGO大会では池上聖竜(TN45 with MotoUPレーシング)と木内尚汰(チームPLUS ONE)とのトップ争いを制して優勝。先に出ても速い、競り合いになっても強い、そういうチャンピオンです。7月で31歳、まさにアブラの乗り切った円熟期ですね。

画像: レースで勝つために必要なこと、勝ち方、走る組み立てまで考える尾野。J-GP3の絶対王者だ

レースで勝つために必要なこと、勝ち方、走る組み立てまで考える尾野。J-GP3の絶対王者だ

「レースで一番大事なのは準備」と言い切る尾野は、この筑波大会でも、土曜のフリー走行で総合2番手タイムをマークすると、公式予選では59秒688をマークしてポールポジションを獲得。
そのタイムの出し方も実に尾野らしいもので、まず開始早々に大和颯(BREASTO B-TRIBEレーシング)が1分の壁を破ると、土曜のフリー走行でトップタイムをマークした木内がタイムを更新。そして、セッション終盤に高杉奈緒子(TEAM NAOKO KTM)がトップタイムを更新して、このまま――と思われた残り3分ほどのタイミングで尾野が59秒688を記録し、開幕戦に続いて今シーズン2度目のポールポジションを獲得するのです。

画像: BREASTO B-TRIBEレーシングのNSF250R 手前から松島璃空車、大和颯車、武中駿車

BREASTO B-TRIBEレーシングのNSF250R 手前から松島璃空車、大和颯車、武中駿車

レーシングマシンとはいえ、250ccの単気筒マシンで筑波を1分切るんです! 30年前ではあるけれど、GP500なんてモンスターマシンが57秒後半くらいでしたから、それだけスゴい! あの頃のGP500クラスに参戦しても尾野+NSF250Rはフロントロウにつけるくらいのタイムですね。

「土曜は1分切れなかったので、想定外でしたね。59秒に入れるのも苦しい状態だったんですが、残り5分で出るときに、チームから『今回のポールは賞金10万円だって』って聞いたので、これは行くしかないと(笑)。午後はもう少し気温も上がる、苦しいレースになると思うので、まずはチャンピオンシップを考えて走ろうと。ぼく筑波でまだ優勝してないんですよね。勝ちたい気持ちはあるけど、無理しないように行きます」(尾野)

昼イチにスタートとなった決勝レースでは、まず尾野が好スタートから集団を引っ張ります。尾野の後方に木内、高杉、上江洲葵要(P.MU 7C GALESPEED)、武中駿(BREASTO B-TRIBEレーシング)、大和、森俊也(チームPLUS ONE)がつけます。22年のMiniGP王者で、今シーズンは特別参戦枠でエントリーしている池上はウォーミングアップランのスタートでエンジンストールしてしまい、ピットスタートからの最後尾スタートです。

画像: レース1スタート #1尾野、#3木内、#6高杉、#11大和の4台がレースを引っ張ります

レース1スタート #1尾野、#3木内、#6高杉、#11大和の4台がレースを引っ張ります

レースは尾野が集団を引っ張り、その後方に木内、高杉、大和、武中というオーダー。尾野の後方にピタリと張りつく木内と3番手の高杉の間隔が少し開きはじめ、4番手に大和。上江洲はやや離れて5番手、その後方に若松怜(日本郵便ホンダドリームTP)。大和が高杉をかわして、尾野-木内と大和-高杉の2グループに分かれ始めます。

画像: #3木内が#1尾野の背後にピタリ 一度だけ前に出ますが、尾野もすぐに抜き返します

#3木内が#1尾野の背後にピタリ 一度だけ前に出ますが、尾野もすぐに抜き返します

木内は尾野の後方にピタリ。一度だけ前に出ますが、尾野もすぐに抜き返し、そのまま木内は抜かないのか抜けないのか、この2台はつかず離れず、木内が抜くタイミングをうかがっているようにも見えました。いつ仕掛けるか、レース終盤にドラマがあるかな、と思っていたら、レース中盤に高杉が1コーナーで転倒、レースは赤旗中断。残り周回数14周で仕切り直しとなりました。

「後ろにつかれていて、スピードは木内君の方があるな、と思っていたので、僕としてはタイヤをセーブしながら長期戦に持ち込みたかったんですが、赤旗でいったん中断。ぼくがダンロップ、木内君はブリヂストンと、タイヤ銘柄が違うと、特性も速い場所も違いますからね」(尾野)

画像: 仕切り直しのレース2でも、まず尾野がペースメイク

仕切り直しのレース2でも、まず尾野がペースメイク

画像: 2番手争いの#3木内がスリップダウンする瞬間、撮ったッ! この後木内は再スタートして13位フィニッシュ! ナイスファイト!

2番手争いの#3木内がスリップダウンする瞬間、撮ったッ! この後木内は再スタートして13位フィニッシュ! ナイスファイト!

仕切り直しのレース2でも、尾野がホールショットを奪い、その後方に木内、大和、若松。尾野が少しだけ後続を引き離しつつ、大和、木内、若松の順で2番手争いかと思ったものの、この2番手3台が尾野に迫って4台によるトップ争いとなりかけたタイミングで木内がスリップダウン! 路面温度が上がったからかな、そんな転び方でした。

尾野がレースをリードし、若松が徐々に離されての、尾野vs大和の一騎打ち。尾野はレース1の木内に続き、このレース2でも大和に突っつかれますが、ガンとして抜かさせず、トップを死守。結局、大和は何度も真後ろから尾野に並びかけるところまではいったものの、パッシングできないまま2位に終わってしまった。

画像: 特に第1ヘアピン 立ち上がりでグーッと#1尾野の背後につく#11大和 観客熱狂!

特に第1ヘアピン 立ち上がりでグーッと#1尾野の背後につく#11大和 観客熱狂!

「尾野さんのうしろにずっとついていて、何か所か僕の方が速い区間はあったんですけど、並びかけてフロントをねじ込んでも抜きまでには至らず、って感じの連続だったんです。特に第2へアピンがよくなくて、バックストレッチで抜かれてしまう。一度も抜けなかったんが悔しいです」(大和)
これで3連勝を決めた尾野だが、レース後には「僕の方が遅かった」と衝撃告白!
「僕の方が遅かった、大和君の持ちタイムの方が良かったんで、抜かれたらすぐに抜き返さないとな、出たとこ勝負のつもりだった」
――え、遅かった?
「はい。ペースは大和君の方がぜんぜん良かった」
――でも抜かれなかった。
「何回も並びかけられてギリギリだったんですよ。タイヤも僕がダンロップ、彼はブリヂストンで、ラインも違うし、速い箇所も違う。やりにくかったんです」

画像: #11大和を半車身振り切って#1尾野がトップでゴール! しかしレース後に大和は黄旗提示区間での追い越しによるペナルティで30秒加算。若松が2位、#50池上が3位に繰り上がりました

#11大和を半車身振り切って#1尾野がトップでゴール! しかしレース後に大和は黄旗提示区間での追い越しによるペナルティで30秒加算。若松が2位、#50池上が3位に繰り上がりました

尾野の言葉でわかったのは「速いライダーが勝つ」ではなく「勝ったライダーが速い」ってこと。いくら予選が速くたって決勝で遅かったら意味はないし、序盤どれだけ後方を離したって、最後に抜かれたら負け。レースは、どんなにタイムが出ていても出なくても、フィニッシュラインをほんの一瞬でも先に踏んだ方が勝ち。
極端な話、タイムが出なかったらずーっとスリップについて、最後の最後だけひょいと前に出ればいい。そういうレースを、僕は2000年の世界グランプリ、最終戦のフィリップアイランドで見たことがある。中野真矢vsオリビエ・ジャックの世界チャンピオン決定戦だ。

「タイヤマネジメントをうまくやって、長い距離で、レース後半にみんなのタイヤが苦しくなってきたときに勝負をかけようと思っていました。でも赤旗仕切り直しで、14周の勝負だと短い。スタートから前に出よう、逃げようと思ったんですが、大和君が速かったし、真後ろにいてどこからでも抜けるぞ、って雰囲気だった。自分でもよく抑えられたなぁ、って思います。SUGOが終わってから、ずっと筑波の準備をしてたんです。一週間前にテストに来たときも、ぜんぜん筑波を攻略できなかったんだけど、やっと筑波で勝てました!」(尾野)

これでJ-GP3クラスも長いサマーブレイクに入り、次のレースは9月のオートポリス大会。尾野はきっと、筑波で優勝した後、オートポリスの攻略法でも考え始めたに違いない――。

画像: 3連勝を決めた尾野(左)に、昨年はMFJアカデミーを走ってた若松(右上)、池上(右下)は特別参加ながら今シーズンの台風の目になってきている

3連勝を決めた尾野(左)に、昨年はMFJアカデミーを走ってた若松(右上)、池上(右下)は特別参加ながら今シーズンの台風の目になってきている

画像: ブッチギリにも競り合いにも強いチャンピオン

写真/木立 治 中村浩史 文責/中村浩史

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