絶対王者の大記録ストップ!

大相撲の双葉山は69番、読売巨人軍はレギュラーシーズンと日本シリーズを9年間、ボクシングのフロイド・メイウェザーは50試合、将棋の藤井聡太竜王はプロデビューから29局、ずっと勝ち続けました。いろんな世界の連勝記録――これは、いかにその選手が強いかを示すバロメーターですね。

そしてヤマハファクトリーレーシングの中須賀克行は、2020年の最終戦で野佐根航汰に敗れてから、2021年に10レース、22年に13レース全てに勝ち、23年もここまで4戦全勝。連勝記録は3シーズンにわたって27まで伸びていました。正確な記録は残っていないとはいえ、これは文句なく日本のオートバイレース史に残る大記録、つまりはこの3シーズンの全日本ロードレースは「誰が中須賀を倒すか」がメインテーマだったのです。

その瞬間がついに訪れました。中須賀の連勝記録に終止符を打ったのは、中須賀のチームメイトであり直属の後輩ライダーである岡本裕生23歳、2回のST600チャンピオンを経て2022年にJSB1000クラスにステップアップ、JSBクラス2年目で大仕事をやってのけましたね!

画像: スタート直後の3コーナー。ホールショットを奪った星野を、中須賀と岡本がパスにかかります

スタート直後の3コーナー。ホールショットを奪った星野を、中須賀と岡本がパスにかかります

このレースウィーク、やはりヤマハのホームコースということもあってか、19日金曜日の事前走行から、中須賀-岡本のヤマハ勢ふたりの速さが目立ちました。ドライ路面の走行となった金曜午後のセッションでは、岡本が中須賀を上回るトップタイムをマークしたり。
けれど、ここまでは特に珍しい風景ではありませんでした。これまでも、中須賀は岡本にタイムで後れを取ることはあったし、それは岡本だけでなくほかのライダーにも。
ただし、それはフリー走行や予選だけのことで、決勝レースでは誰ひとり前に行かせませんでした。だからこその27連勝だったんです。

そして、全日本ロードレース第3戦・菅生大会の公式予選では、ウェット路面のなか、中須賀がポールポジション、岡本はフロントロー3番手タイムで、レース2に向けてのタイム出しでも、中須賀がトップ、岡本は2番手に続きました。ここまでもよくある風景ですね。

画像: レース序盤、中須賀は2番手以下を引き離し始め、水野が2番手に、岡本は3番手へ。

レース序盤、中須賀は2番手以下を引き離し始め、水野が2番手に、岡本は3番手へ。

2レース制で行われる菅生大会、土曜はお昼ごろに雨も上がり、決勝レース1のころにはドライ路面でのレース。スタートでは、雨の予選タイムアタックで2番手タイムをマークした星野知也(TONE RT CYNCEDGE4413 BMW)がホールショットを奪いますが、1周目のバックストレートでは中須賀、岡本が前に出て、これでヤマハ1-2体制が完成。これもまた、全日本ロードレースで見慣れた光景です。

2周目のバックストレートエンドでは、岡本が中須賀にアタックして一度前に出ますが、中須賀も抜き返して再び中須賀-岡本の順に。中須賀、時には「ここでは一度前に出しておいて」って戦術をとることもあるんですが、今日は岡本が前に出るのを許しませんでした。こういう戦術がピタリピタリと当たるのも、また中須賀の強さなんです。

画像: 水野を再びかわして、トップ中須賀にジリジリと迫る岡本。

水野を再びかわして、トップ中須賀にジリジリと迫る岡本。

レースは中須賀を先頭に岡本が続き、その後方に水野涼(AstemoホンダドリームSIR)と亀井雄大(ヨシムラスズキRIDEWIN)がつけ、この4台が先頭集団をつくっていきます。そして中須賀が2番手以降との差をジリジリと広げ始めて、あぁこれはまた中須賀劇場か、また連勝が伸びるのだ、と誰もが思ったでしょう。
2番手の岡本は、さらに水野の先行も許し3番手へ、レース序盤だというのにやや岡本ペースが落ちたようにも見えたんです。

しかし、岡本は再び水野をかわして2番手に浮上。そのタイミングでは、中須賀と岡本の差は約2秒。絶対王者・中須賀に、レース序盤に2秒差をつけられて逆転したレース、なかなかありません。この差はレース中盤には2秒5にまで広がります。

画像: とうとうレース終盤で中須賀をかわし、岡本がトップに浮上。この差がジリジリと広がります。

とうとうレース終盤で中須賀をかわし、岡本がトップに浮上。この差がジリジリと広がります。

しかし、安定したハイペースで周回を重ねる中須賀に、岡本が少しずつ迫り始めます。2秒5あった差が2秒2に、1秒6に、1秒4に、そして1秒1に。
届きそうで届かない中須賀の背中が少しずつ大きくなりはじめると、僕らレースメディアをはじめ、中須賀の無双っぷりを何度も見てきたファンもまた、岡本が背後に迫ったら、そこでペースを上げて引き離して、心を折るのだろう――それが中須賀のテなのだ、と思い始めます。

レースは後半、終盤へ。岡本はファステストラップを自分でガンガン更新して中須賀の背後に迫り、残り5周あたりのバックストレートで、ホームストレートで中須賀のスリップストリームについて並びかけるも、馬の背と1コーナーへの中須賀の深い深いブレーキングに先行を許されず、ふたたびバックストレートで並びかけるもパスできず、そしてホームストレートエンドでついに中須賀のインを刺すことに成功するのです。
刺された中須賀も、すぐにクロスラインで抜き返す……には至らず、岡本の背後へ。ははーん、このまま背後にびたづけして最後の最後に逆転して心を折るか――と思い始めたものの、岡本に先行を許した周のハイポイントコーナーで、明らかにその前の周よりも激しくリアをスライドさせ、岡本の背後につけない。スリップにも微妙に入れない距離となり、岡本は中須賀を0秒5リード、そして最終ラップに入る周にはその差は1秒3となり、フィニッシュラインではついに3秒961の差をつけて、岡本がJSBクラス2年目で初優勝を達成!

画像: 負けてサッパリ!か絶対王者・中須賀。いやいやその何十倍も悔しいはずです!

負けてサッパリ!か絶対王者・中須賀。いやいやその何十倍も悔しいはずです!

岡本の初勝利は中須賀の連勝を27でストップさせ、ヤマハYZF-R1の連勝記録を36にまで伸ばす大記録となりました。形あるものはいつか壊れるというし、連勝はいつかは止まるもの、と阪神タイガースの岡田彰布監督も、連勝が7でストップした5月19日に言ったばかりです。

「やっと勝てました。素直にうれしいです。けど明日のレースも残ってるから気は抜けないな、と思います。バイクもしっかり仕上がっていたし、レース終盤にはちょっと雨がぱらついたりもしてたんですけど、自分のリズムを崩さずに、はじめから終わりまでおちついて、100%、MAXの力を出せました。正々堂々と勝てたレースだったんで素直にうれしいです。これで明日のレースもよかったらいいですけど、気を抜かずにしっかり。日本の最高峰のレースで、まだ1勝ですけど、勝てました。ファンのみなさんのおかげです。けがをした時にもたくさん応援してくれて、ありがとうございます。明日も頑張ります」(岡本)

「結果は2位ですけど、今回は岡本君が本当に速くて、自分の100%の力を出して負けたんで、負けは負けでしっかり受け止めて、次につながる課題も見えてますし、また明日レースがあるし、きょう岡本君が速かったところもわかってるので、しっかりデータを見直して、明日もがんばります」(中須賀)

岡本が連勝を終わらせたからといって、すぐに絶対王者・中須賀陥落とか、世代交代、なんてことになるわけじゃありません。中須賀も、負けてやっと「ずっと勝ち続ける」というおかしなプレッシャーからも逃れられるでしょうし、負けてさっぱり、かわいがっている後輩に敗れてうれしい気持ちもほんの少しだけあり、もちろんその何倍も悔しいはず。
同じ仕様のマシン、同じタイヤでファクトリーチームという最高の体制で走るふたり。いちばん近くにライバルがいる環境の中で、ひとまず中須賀の連勝記録にひとクサビを打ち込んだ岡本が、あすのレース2でどんな走りを見せるのか、チョーたのしみです!

みなさん、天候も回復傾向のスポーツランド菅生へどうぞ! またはMFJ公式youtubeチャンネル「motoバトル」=https://www.youtube.com/@motolive1994をご覧ください!

画像: 絶対王者の大記録ストップ!

写真/木立 治 文責/中村浩史

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