HINO HARD ENDURO 春の陣
日時:2022年4月30日(土)〜5月1日(日)
場所:日野カントリーオフロードランド
G-NETは全日本格式のモトクロスやトライアルのようなライセンスによるクラス分けが存在しないオープン形式のレースで、誰でも好きなクラスにエントリーできることが魅力。4月30日(土)にはSE-Eクラス、ミニモトクラス、ウーマンクラスが開催され、5月1日(日)にハードクラスとG-NETクラスが行われた。
開幕戦でG-NETクラスにエントリーしたのは全部で55台。そのうち「黒ゼッケン」のエントリーは#1山本礼人、#2鈴木健二、#3原田皓太、#4水上泰佑、#5高橋博、#6佐々木文豊、#7大塚正恒、#8藤原慎也、#9泉谷之則の9名。この「黒ゼッケン」というのは前年ランキング1位〜9位までのライダーに与えられる黒地白文字の固定ゼッケンで、トップライダーであることを示す栄光の数字となっている(ちなみに#10以降はエントリー順に振られる)。つまり、開幕戦に「黒ゼッケン」ライダーが全員集結したことになる。
さらに、北海道からはトライアルIAの佐伯竜が本州開催のG-NETラウンドに初参戦。他にも2012年チャンピオン金子岳や、ダカールラリーへの挑戦を表明している池町佳生など、有力ライダーがエントリーリストに名前を連ねた。また、今年のCGC奈良トラでゲロゲロクラス6位に入賞した21歳、大津崇博もエントリーしており、開幕戦から非常に注目度の高いレースとなった。
日野ハード春の陣、初のG-NET戦
日野カントリーオフロードランドは群馬県藤岡市という首都圏からのアクセスが良い立地でありながら、関東とは思えないほどの広大なマウンテンコースを内包しており、その可能性は無限に広がっていると言える。特にレースでは、フリー走行時には走ることができない特設セクションが拓かれ、毎回大きな話題を呼んでいる。2021年秋に開催されたG-NET第5戦では、過去最高難易度のセクション「エムスリー」が立ちはだかり、優勝した山本以外には2周すら許さなかったことも記憶に新しい。
HINO HARD ENDUROは春と秋に年2回の開催を通例としているが、実は春の大会でG-NETクラスを行うのは初めてのこと。そのためもあってか今大会はハードクラスのコースをベースとし、そこにセクションを付け足したり、ラインを区別して難易度を上げたりしたコースがG-NETクラスとして設定された。
スタートで飛び出した覆面ライダーZERO
この日の天候は曇り。しかし昼過ぎからの雨予報が少し早まり、レース中からぽつぽつと降り出した。レース終盤には本降りとなり、路面コンディションは悪化の一途を辿った。
CGCやケゴンベルグなどでも活躍し、ハードエンデューロファンにはすっかりお馴染みになっている覆面ライダーZEROがゼッケン19を獲得し、最前列でスタート。モトクロス出身のスピードと最前列のアドバンテージを生かして第1セクション・竹藪でトップに出ると、そのまま独走。序盤に立ち塞がった難所・ワイヤーマウンテンもミスなくクリアし、レース序盤を支配した。
レースが動いたのはなんと、ZEROが1周目終盤のウェーブキャンバー手前で停車し、GoPROの電池を交換していたタイミングだった。追いついてきたのは、2021年チャンピオンの山本だ。
そこからは山本が先頭に出てZEROが追走する形に。「チャンピオンの走りを間近で見られる機会なのでアヤト(山本)についていきたかったんですけど、僕がセクションでミスって離されて、続く移動路で追いつく、という展開を繰り返す感じでした」とZERO。
最初に1周目を終えたのは山本。僅差で後を追うZEROは2周目のワイヤーマウンテンで痛恨のミスを喫し、登頂に時間がかかってしまう。その隙に山本がリードを広げ、2周目の中盤BoCヒルの時点では山本とZEROの差は約5分まで広がっていた。
山本が抜群の安定感で優勝
2周目以降は周回遅れのライダーを避けながらセクションをクリアしていかなければならず、さらにコースも荒れるため、難易度はかなり上がる。しかし山本は大きくペースを落とすことなく、そこからさらにリードを拡大。3時間15分46秒で3周目のトップチェッカー受けてそのまま4周目に突入し、4周目の1/3程度でタイムアップ。最終的に2位のZEROに約18分の差をつけて優勝を果たした。
なお、今大会はレース時間が3時間30分とされ、レース時間終了後、計測時間が30分設けられた(レース時間が終了していても計測時間内にチェッカーを受けることができれば、その周も周回扱いとなる)。
山本礼人
「今日はワイヤーマウンテンが一番難しかったですね。とにかくラインが狭くて、去年の秋よりも荒れていたのでバイクに乗っての直登はできず、どうしても押し(ヒルクライムなどでバイクを降りてマンパワーで押し上げるテクニック)が入るのですが、うまく押さないとすごく疲れちゃう、いやらしいセクションでした。7月に出場するルーマニアクス対策で、今回からサスペンションのセッティングを少し変えています。今まではハイスピードで走ってもフルボトムしないように、少し硬めにしていたのですが、ソフトめにして長時間走っても疲れにくいようにしました。ルーマニアクスでは1日10時間くらい走ることになると思うので、一緒に行く佐々木くん(佐々木文豊)と1日40kmくらいハードなコースを走り続けるトレーニングをしていて、体力作りのために登山もしています。今年はG-NETチャンピオンの連覇と、ルーマニアクスでの日本人初となるゴールドクラス完走を目指して全力で駆け抜けます!」
ZERO
「僕が2周目のワイヤーマウンテンでミスしていたら、アヤト(山本礼人)が渋滞を抜けてスイスイ行ってしまいました。ちょっと彼はもう別格ですね。そのあとも自分なりにハイペースで追いかけていたのですが、途中で観戦していた知り合いに5分も差があると教えてもらって、ペースダウンしました。あれ以上のペースで飛ばしたら、怪我しちゃいます。今回はタイヤにVE-33s GEKKOTAを使っていて、すごくグリップもしていたし、トラブルもなかったです。コースもめちゃくちゃ楽しくて、3周も走ることができて最高でした」
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こちらの動画の52分30秒のところに、山本が追いついてきたシーンが映っている。
エルズベルグロデオを目指す2人が3番手争い
山本とZEROは抜け出ていたが、その後ろでもまたバトルが繰り広げられていた。3番手を争っていたのはエルズベルグロデオに参戦する藤原慎也と鈴木健二、そして2020年G-NETチャンピオンの水上泰佑だ。しかし、実際に3位に入ったのは、成長著しいあの男だった。
水上は1周目のワイヤーマウンテンでミスを繰り返し、トップから大きく離されてしまったが、後半にはペースを取り戻し、追い上げのレース。しっかり3周を回り、4位に入賞した。
水上泰佑
「慎也くん(藤原慎也)と健二さん(鈴木健二)と3番手争いをしていて、3周目に入った時には僕が3番手だったのですが、最後に追い上げてきたコータ(原田皓太)に抜かれてしまいました。最近は仕事が忙しくてあまり練習できていなかったのですが、僕自身の調子は良くて、しっかり実力を出し切れた上でこの順位なので、納得しています」
水上のコメントにあるように、昨年からメキメキと腕を上げてきている原田皓太が3位入賞。
原田皓太
「前半は思ったよりもタイヤが滑ってしまい、うまく走れませんでした。1〜2周目は8番手くらいを走っていたのですが、3周目にプッシュしたらBoCヒルでロッシさん(高橋博)やタイスケさん(水上泰佑)に追いつけて、ガレキャンバーで健二さん(鈴木健二)が見えました。その先で3位に上がったので、絶対抜かれないように必死に走りましたね」
全日本トライアル選手権を主戦場とする現役IASライダーの藤原は、例年ではトライアルのシーズン中はハードエンデューロには出場しない。そのためレースで優勝する実力者でも黒ゼッケン入りには遠い存在だった。しかし、昨年はコロナ禍の影響でシーズン期間が短かったため、開幕戦と特別選抜戦に出場。その2戦だけで40ポイントを獲得し、黒ゼッケン8番を獲得。さらに特別選抜戦での優勝に手応えを感じてエルズベルグロデオ参戦を決意したことから、今年はトライアルのシーズン中にもハードエンデューロに出場している。ところが藤原は計測時間30分のルールを把握しておらず、レース時間3時間30分が経過した時点でレースを離脱。3番手を走っていたが、順位を5位まで落としてしまった。
藤原慎也
「今日はかなり早い段階で電動ファンが回らなくなってしまって、エンジンパワーをフルで使えない状態で走っていました。去年の特別選抜戦ではリアタイヤの中身にチューブを使ってパンクしてしまったので、今年はずっとムースを使っているのですが、まだノウハウ不足です。(タイヤの)センター部分はまだグリップするのですが、サイド部分の圧力が全然高くてグリップしないんです。リザルトは残念ですが、そういう意味ではとても有意義なデータが取れたレースだったと思います。本番はあくまで6月のエルズベルグロデオなので、そこをターゲットにしっかり調整を進めていきます」
もう1人のエルズベルロデオ・チャレンジャー、鈴木健二は3周目の終盤まで水上や原田とバトルを繰り広げたが、惜しくも3周ならず、6位でレースを終えた。
G-NETクラス ライダーピックアップ
G-NETクラス リザルト
ハードクラスとSE-Eクラスを両制覇
また、G-NETクラスと並行してハードクラスのレースも開催された。G-NETよりは比較的難易度の低いセクションが用意されたものの、優勝したライダーでも周回数は2周。いかにもハードエンデューロらしいリザルトとなった。
今大会では表彰台に登った中から2名のライダーに感想を聞いてみた。まずは優勝した「みやけ」こと三宅英幸。
三宅英幸
「午後から雨予報だったので、できるだけ前半で飛ばして順位を上げておくつもりでしたが、運よく早めに前に出ることができたので、渋滞の影響もなく思い通りのレースができました。去年の秋もハードクラスに出場したのですが、今日はその時とそれほど難易度は変わらなかったように思います」
三宅は前日の土曜日にもSE-Eクラスに参戦し、優勝している。軽量な2ストロークマシンが好まれる傾向にあるハードエンデューロにおいて、4ストロークのYZ250FXでのダブル優勝は、見事。
そして4位に入賞した「しゅが」こと佐藤慶一。
佐藤慶一
「日野の広大なフィールドを活かしたとても長いコースで、かなり疲れました。思ったより早い時間に雨が降り始めたのですが、気づいたらやんでいて、雨の影響はほとんど感じませんでした。初めてのハードクラスにレース前はドキドキしていたのですが、終わってみれば上出来の成績だったと思います」
と笑顔を見せてくれた。このように日野ハードエンデューロはG-NET戦であってもさまざまなクラスを設立し、多くのライダーが楽しめるレースとなっている。
G-NET次戦は6月5日、第2戦 Mt.Monkey Scramble。福島県チーズナッツパークで開催される。