2010年、熊本県御所オートランドで伝説のハードエンデューロレースが開催された。当時まだハードエンデューロを知らなかった人でも名前だけは聞いたことがあるだろう、「G-IMPACT」だ。優勝は日本人唯一のエルズベルグロデオ・フィニッシャー、田中太一。準優勝は水上泰佑。現在の全日本ハードエンデューロ選手権G-NETの歴史はここから始まった。そして、それから12年を迎えようとする2021年12月、特別選抜戦として行われた「BIKEMAN Presents Ultimate Enduro Cup」は、このG-IMPACTのコンセプトを受け継ぐ記念すべきレースだったのだ。

上下に分割される沢
体力の限界に挑戦

今大会は3時間レースとして始まっていたのだが、実はレース中に二度、30分の延長が決定されていた。これは「『スタジアムヒル』から『やり直しキャンバー』のセクションの通過に思ったよりも時間がかかってしまったのですが、せっかく作ったコースをもっと走って欲しかったため」とレース後に藤田は説明した。

また、レース開始から1時間と2時間で、規定のCPに到達できなかったライダーは足切り(レース終了)というルールがあった。最初の1時間半で脱落となってしまったのは11台。そして次の2時間半でさらに6台が脱落していた。G-NETチャンピオン経験者の高橋や水上でさえ、ここでレースを終えている。これは各セクションに配置されるスタッフの人数の問題で、ライダーが通過した前半のセクションのスタッフが、後半のセクションに回り込み、監視やチェックを担当していたからだった。

つまりこの時点で走っているのは先頭の藤原と、それを追う山本、柴田。そしてマーシャルの田中の計4人だけだったのだ。

画像: 惜しくもCP1でレースを終えたトライアルIAの波田が、沢を歩いて登りながら藤原のマインダー役を務めた。もちろん、決して手は触れない。

惜しくもCP1でレースを終えたトライアルIAの波田が、沢を歩いて登りながら藤原のマインダー役を務めた。もちろん、決して手は触れない。

そんなわけで、藤原が後半のメイン「爽沢会」(名前に反して全く爽やかではない沢)に到達した時、コース脇にはレースを終えたライダーたちが詰めかけ、藤原に声援を送っていた。

画像: 藤原のリアタイヤはDUNLOPのAT81EX。沢にたどり着いた時にはもうパンクしていたという。なお、TUBLISS仕様でレース開始時の空気圧は0.08kgf。なおフロントもAT81EXで空気圧は0.3kgfとのこと。

藤原のリアタイヤはDUNLOPのAT81EX。沢にたどり着いた時にはもうパンクしていたという。なお、TUBLISS仕様でレース開始時の空気圧は0.08kgf。なおフロントもAT81EXで空気圧は0.3kgfとのこと。

「トライアルマシンなら、クリーン(地面に一度も足をつかずに走破すること)だよ」レースを離脱して観戦に来ていた波田はこの沢を見て、こう言った。難易度としては現在のIAレベルだそうだ。しかし、慣れないエンデューロマシン(藤原がライドするのはGASGASのEC250。今回のレースのためにビバーク大阪が貸与したもので、この日初めて乗ったマシンだという)と、ここまで約2時間半戦ってきたスタミナ、そしてパンクしたリアタイヤで挑む藤原にとって、ここはまさに「難所」だったに違いない。

画像: この状態の藤原に、藤田がコース外から「俺の愛情、伝わってる?」と笑顔で声をかける。

この状態の藤原に、藤田がコース外から「俺の愛情、伝わってる?」と笑顔で声をかける。

約30分かけて沢を中段まで登ってきた藤原。コース脇でレースを見ていた藤田は二度目の30分延長を決断した。コースマップを見てもらえればわかるのだが、この沢はまだ最終セクションではなく、セクション24。34あるセクションの7割にしかならないのだ。それでも「パンクさえしていなければ、完走できたかもしれない」と藤田。

画像1: 上下に分割される沢 体力の限界に挑戦

流石のトライアルテクニックを活かし、果敢に岩に挑む藤原。しかしこの時、沢の入り口に2人のライダーが姿を現した。

画像2: 上下に分割される沢 体力の限界に挑戦

山本と田中だった。最後尾からスタートした田中が柴田を抜いて山本にすぐ後ろまで迫っている。なお、田中のタイヤはシンコーの540DCだったが、まさかのムース仕様。「540DCでベストパフォーマンスを求めるならムースはありえない」と藤田は言うが、田中は「世界のハードエンデューロでは100%ムースなんです。エルズベルグロデオのような絶対に結果を残さないといけないレースでパンクこそありえない」と世界基準でライドすることの重要性を教えてくれた。

画像3: 上下に分割される沢 体力の限界に挑戦

藤原は沢の下流の最後の岩を、足で木を蹴りながら押し上げ、クリア。

画像4: 上下に分割される沢 体力の限界に挑戦

この頃、柴田も沢に到着した。

画像5: 上下に分割される沢 体力の限界に挑戦

そしてレース開始から4時間が経過。藤原はセクション26「エスカレーター」と名付けられた沢の上流の中段まで進み、レースを終えた。

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