CBR1000RR-Rの登場を受け、開発に携わった伊藤真一と、初めて新型CBRに乗る岡田忠之のスペシャル対談が実現! “聖地”鈴鹿サーキットを舞台に、プロ目線でその実力を解き明かす!

前回一緒に走った記憶をさかのぼってみるも…

画像1: <対談動画>伊藤真一×岡田忠之 HONDA CBR1000RR-R FIREBLADE を語り尽くす!  in 鈴鹿サーキット

伊藤真一

鈴鹿8耐では4勝を挙げ、その内2006年、2011年にはCBR1000RRで優勝を果たしているほか、2005年、2006年には国内最高峰のJSB1000クラスでタイトルを獲得している。2020年シーズンはレーシングチーム「Keihin Honda Dream SI Racing」を立ち上げ、監督として全日本ロードレースのJSB1000、ST1000の両クラスにCBR1000RR-Rを投入し奮闘中。

画像2: <対談動画>伊藤真一×岡田忠之 HONDA CBR1000RR-R FIREBLADE を語り尽くす!  in 鈴鹿サーキット

岡田忠之

WGP参戦を果たした1993年には、伊藤真一氏とヨーロッパを転戦していた時期も。CBR1000RRでは鈴鹿8耐への参戦を複数回果たしており、C・チェカ選手とペアを組んだ2007年には2位表彰台を獲得している。世界最高峰のロードレースMotoGPの前身であるWGP500で4勝を果たすなど、最高峰クラスの日本人最多勝利記録を保持する、日本を代表するレジェンドライダーだ。

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対談本編スタート!

画像1: 対談本編スタート!

岡田忠之(以下岡田)久しぶりに鈴鹿サーキットを走ったけど、走りながら伊藤の背中を見たのは何年ぶり? 昔とちょっとフォームが変わったね。

伊藤真一(以下伊藤)え、そう?

岡田 いやらしくなった(笑)。肘が出て、いま風になったというか。

伊藤 若干体幹が緩んで、身体の押さえが利かなくなってるんじゃない?

岡田 確かにそういうことかもしれない(笑)。それにしても二人で走るなんて、いつぶりになるんだろうね。

伊藤 1987年以来かも(笑)。

岡田 そこまで前じゃないでしょ(笑)。全日本とかでも走ってるし。

伊藤 じゃあ世界グランプリで岡田がNSR500Vに乗って速かった頃とか? それでも96年とかじゃない?

岡田 いや、8耐もあったじゃん!

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伊藤 そうだ、8耐で俺、岡田に負けたんだ(笑)。そっちが(アーロン)スライトと組んで、こっちが辻やん(辻本聡)と組んだ時だったっけ?

岡田 8耐はその後もいろいろあったでしょうが。

伊藤 でも岡田は相変わらず、ちょこんとマシンのセンターに乗って、キレイに走るよね。

岡田 ロスなくね。疲れない走り、疲れないライディングポジションで。

伊藤 俺はCBR1000RR‐Rのマシン特性に合わせて、ああいうフォームというか乗り方になったわけよ。

岡田 昔の方が格好良かったような気がするんだけどなぁ(笑)。筋肉が落ちてきたせいかな?

伊藤 ちょっと横幅も増えた気がするしね(笑)。それもあるわ、確かに。でもまだまだ現役には負けないよ?

岡田 そういうこと言ってるからダメなんですよ、あなたは。はやく退きなさいって(笑)。

伊藤 ま、それくらいの気持ちで俺はこのRR‐Rを開発したのよ。

岡田 そういうことね(笑)。でも確かに走りは楽しかった。雨の中でも。

伊藤 そうね、雨スタートから最後はセミドライぐらいまで路面が乾いたから、ほぼ全部の状況で乗れたよね。

画像3: 対談本編スタート!

[注1] 【ユニットプロリンク】サスユニットのアッパーマウントをスイングアームに締結し、リアサス全体がスイングアームと共に動きつつ伸縮する。
[注2] 【プロリンク】リンクプレートを入れることで、リアサスのストローク量に応じてスプリングレートが高まる特性が得られる。

際立つ前後の接地感 その理由は果たして…?

岡田 伊藤はずっとCBRの開発に携わってたんでしょ?

伊藤 うん。このSC82(CBR1000RR‐R)の開発にしばらくずーっと携わってたよ。前のSC77(CBR1000RR)からフルモデルチェンジなんだけど、まったく違うバイクだし、コンセプトも違う。以前はどこで乗っても、トータルで乗りやすいバイクだったけど、今回はサーキットパフォーマンスを重視した作りになってるんだよね。

岡田 エンジンのキャラクターとか、ハンドリング性能とかすべて含めて、よりサーキット向けってこと?

伊藤 もちろん。ホンダがいま持っている技術を全部つぎ込んで、トータルで一番速いスーパースポーツを作ろうと開発したマシンがSC82だから。

岡田 今まで俺らはいろいろなマシン開発に携わってきたわけだけど、ホンダはエンジンを作るのがすごく上手でしょう? 最初こそピーキーだったりする時もあるけども、多くのユーザーが求めるような、乗りやすいエンジン特性に寄せていくのがすごく上手で。

伊藤 元々ホンダのバイクって、パフォーマンスが高いバイク、たとえばRC213V‐Sでも乗りやすいイメージがあるし、実際に乗りやすいじゃん。でも乗りやすいから遅いかというと、そうじゃないよね。

画像1: 際立つ前後の接地感 その理由は果たして…?
画像2: 際立つ前後の接地感 その理由は果たして…?

岡田 そうだね。じゃあCBR1000RR‐Rの武器ってどの辺なの?

伊藤 大きな特徴は最高出力218馬力のエンジン。この馬力を出すためにホンダも結構頑張ったからね。それ以外の部分でいうと、カンタンに言えば「上手くまとめた」ってことになるのかな。っていうのも、どこか突出した部分があると、それが逆にネガにもなるから。まあぶっちゃけ、どれだけすごいかは「乗ればわかる」よ(笑)。

岡田 それじゃ誌面を読む方に何も伝わらないじゃん!(笑)

伊藤 だって岡田のレベルなら、マシンを見ただけでだいたいわかるよね? 何のパーツがどこに付いてて、こういうディメンションで、こういうポジションで、重心がこの辺にあって、タイヤの位置がこの辺で、キャスター角いくつでってなったら、マシン特性もだいたい読めると思うんだけど。

岡田 そりゃ俺はわかるけど(笑)。

でもね、CBR1000RR‐Rに興味がある人にしてみれば、もっと具体的に詳しい情報が欲しいわけですよ。

伊藤 岡田も走ったんだから、岡田も説明してよ(笑)。え〜とね、まず俺がこのバイクでいいなと思うのは、とにかく前後の接地感がわかりやすいところ。常にタイヤが接地してる感じが、手に取るようにわかるわけ。

岡田 そういう接地感って、車体だのエンジン特性だの、全部がうまく噛み合わないと出せないじゃない?

伊藤 そうそう。まず新しいサスペンションが、前までのユニットプロリンク(※注1)じゃなくなって、普通のプロリンク(※注2)に戻ったんだけど、エンジンハンガーにサスペンションの作用点がついたのね(※注3)。

岡田 ああ〜! はいはい。

伊藤 あとフロントのキャスター角が23.2度で少し寝てて、ホイールベースも実はRC213Vくらいに伸びて、ちょっと大きくなった。

岡田 なるほどね。その大きさを感じさせずに、逆にタイヤの接地感や乗りやすさに繋げているわけだ。

伊藤 そう。その辺は開発中にほんとに苦労して、フレームの剛性バランスとかをずーっと吟味したのよ。

岡田 (しみじみと)バイク作るのってほんと大変なんだよねぇ…。

伊藤 大変。フレームにアルミのパテを貼ったりとかね(※注4)。

岡田 それ、俺も昔よくやったな〜。

伊藤 ボルトも普通のトルクレンチで締める何キロとかのレベルじゃなくて、角度締め(※注5)で剛性を見たりとか、本当にいろいろ吟味して完成したのよ。そしてテストと同じ状態を、そのまま市販車として出せるのが、ホンダの凄いところだと思う。普通はバラつくでしょ? CBR1000RR‐Rはどれに乗ってもちゃんと性能が出てるもん。

岡田 それは凄い! ファクトリーチームの同じマシン、同じセッティングでも全然乗り味が違うものなのに、そういうバラつきがないんだ。

伊藤 そう。俺はテストからずっと「これと同じ性能を市販車で出すのは難しいけど、できますか?」って話をしてて。でも本当にちゃんと実現できた。正直ちょっとびっくりした。

画像3: 際立つ前後の接地感 その理由は果たして…?

[注3] 【作用点】サスペンションユニットの伸縮運動を受け止める場所。タイヤが力点、スイングアームピボットが支点、車体とのマウント部が作用点になる。
[注4] 【アルミのパテ】フレームの部分的な剛性を高める方法。厚みや形状の自由度が高いため、開発段階で剛性バランスの調整用に使われることがある。
[注5] 【角度締め】ボルトの締め付けをトルク数値ではなく、ボルトの回転量で管理する方法。ネジ山の状態に影響を受けずにボルト軸力が得られる。

SPとスタンダードの差が明らかになる場面とは?

岡田 電子制御もすごいでしょ。設定も色々できるって聞いたけど?

伊藤 ライディングモードは3種類あって、モード1がトラック、2がスポーツ、3がレイン。で、エンジンのパワーモードが通常で5段階ある。もっと細かい設定もできるんだけどね。それから、エンジンブレーキ制御が3段階で、ウイリー制御も3段階。トラコンに関しては0から9まであって、あとABSもある。

岡田 ステダンもあるんでしょ。

伊藤 ステアリングダンパーは、減衰力を3段階から選べる。電子制御なんでマウント位置は昔みたいなセンターじゃなくて、下側の方の、どっちかというとオーソドックスなレイアウトになってるよ。

岡田 でもさ、正直なところ、設定ってそんなにいっぱい必要? 伊藤はもともと細かいからいいけど(笑)

伊藤 まあね。これのセッティングをやろうと思ったら、1日中でもやってられるなって感じだけど(笑)。

岡田 だろ?(笑) ま、状況に合わせて設定を選べるのは良いことだよね。俺なんかは、選択肢は少ない方がイイ。モードは【晴れ/スタンダード/雨】の3種類、サスは【硬い/柔らかい】の2種類、みたいな。

伊藤 ライダーによるよね。岡田はどんなマシンでも人間が合わせるけど、俺はどっちかというと、バイクを自分に合わせようとするから。

岡田 今回乗り比べたスタンダードとSPは、サスペンションとブレーキのメーカーが違うんだっけ?

伊藤 そう。SPは電子制御サスペンションがオーリンズで、ブレーキはブレンボ製。スタンダードはサスがショーワで、ブレーキがニッシン。SPにはフルオートで減衰が常に動く、アクティブサスペンション(※注6)みたいな機構が付いてる。

岡田 じゃあ縮みも伸びも。

伊藤 うん、全部オート。通常、レーシングライダーはセッティングでスプリングを変えるでしょ。でもSPはスプリングを変えずにセッティングできる。普通それは成立しないはずだけど、驚くほどうまくできてるよ。制御はA1・A2・A3の3段階あって、それを動かしてしまえば、ブレーキングでフロントを抑えてくれたり、立ち上がりでリアが沈みすぎないようにしてくれたり、全部自動でやっちゃう。本当に調整がいらないの。

画像1: SPとスタンダードの差が明らかになる場面とは?

岡田 ほ〜! 便利になったねぇ。

伊藤 あと、SPはエンジンのバランス取り(※注7)がしてある。

岡田 だからかな? 走ったらエンジンキャラクターがまったく違うから、びっくりしたんだよ。その理由がエンジンバランスなのか、サスの違いなのか、トータルでそういうフィーリングを得たのかはわからないけど、すごく違う。エンジン特性でいうと、モード2でアクセルを開けていくと、スタンダードよりSPの方が全然曲がるし、コントロールがしやすい。アクセルを開けていく時にすぐ前に進まないのが、旋回性に繋がってるんだよね。

伊藤 モード2はモード1より少しトラコンの介入が多めなんだけど、アクセルイチイチ(※注8)に近いモード1に比べて、モード2はパワーが出るまで少しタメを作ってるから。

岡田 それが向きを変えやすくしてて、立ち上がりでパワーが欲しい時にパァーッて出るから、そのつながりを上手くセッティングしたら、さらに乗りやすくなるって感じた。

伊藤 SPは電サスが常に動いてるから、1周走った時のアベレージが、圧倒的に速いのよ。たぶんエンジン回転数も違って、SPの方がいい感じのところを上手く使えてて。やっぱりスタンダードは自分でセッティングしないといけない分、今日みたいに路面が濡れてる時だとか、コンディションが悪い時ほど、SPとの差が大きく出る。

岡田 SPはモードに加え、サスでも雨用にアジャストしてくれるわけだ。

伊藤 ただ、スタンダードのショーワのサスペンションも良くできてるんだよ。サーキットでタイムアタックをしたら、スタンダードも減衰をセットしていろいろ合わせていけば、そこそこSPと同じようなタイムになるのよ。今日だって路面が乾き始めたら、なんとなく2台の差が近づいてきたなって俺は感じたし。ブレーキだって、ニッシンとブレンボだとちょっと特性は違うけど、制動力は変わらないからね。

画像2: SPとスタンダードの差が明らかになる場面とは?

[注6] 【アクティブサスペンション】電子制御バルブによって減衰力を可変する機構。伸び/縮みの量とスピードを検出し、走行状況に最適な減衰力特性を自動的に調整する。
[注7] 【バランス取り】エンジン内部で回転するパーツの抵抗を減らすための作業。
[注8] 【アクセルイチイチ】スロットル操作に対するエンジン回転数の変化がダイレクトな状態。セットアップ時にライダーとメカニック間で使われる。

モトGPマシンの数式投入
市販車初の試みも!

岡田 話をエンジンに戻すけど、路面が乾いてきて、モード1で走ったじゃない? その時もSPは、なんの違和感もなくスムーズに走れて。このバイク、サーキット経験が豊富な人なら雨でもモード1で全然走れちゃうよね。

伊藤 ちょうど7700〜7800回転辺りでマフラーのバルブが切り替わるんだけど(※注9)、そこを超えれば全然普通に走れるよね。ちょっと切り替わり感はあるけど。

岡田 メインストレートを5速で走ったけど、確かにこれは速いわ。俺らみたいなレース経験者でも「ちょっと速すぎるな」と思うくらい(笑)。

伊藤 まあね。フルウエットのストリートタイヤ(ピレリ/スーパーコルサSP・V3)で、ストレートエンドに288㎞/hとか出てるから。誰もが買えるバイクなのに、ここまでのパワーが出るなんて、ちょっとやばい市販車だよね(笑)。

画像1: モトGPマシンの数式投入 市販車初の試みも!

岡田 回しながら、谷もなく、とめどなく加速してくのがほんとに凄いと思ったよ。このRR‐Rってエンジンのボア・ストロークが変わってるの?

伊藤 いや、RC213Vと同じ設定。ボア・ストロークに関しては、この数字じゃないと馬力が出ないっていうのが、だいたい決まってるらしいんだよ。

岡田 そうなんだ。ほら俺たちの経験上、車体でもエンジンでも、ベースが悪いと直すのに苦労するじゃない? このエンジンキャラクターのベースは、どんな特性だったの?

伊藤 そうだなぁ…。やっぱり218馬力近く出すのは結構大変で、どうしても回転で馬力を出すところも多少あったから、高回転型に振ってあったかも。ほんとにトップエンドの1万2000回転から上は相当力が出てくるけど、最初は上しかないようなエンジンみたいな。ただ下から上へのつながりに関しては、開発でちゃんと、ほぼフラットな感じにできたんだけど。

岡田 あと俺が少し心配だったのは、サスがユニットプロリンクからプロリンクに変わってアッパークロスがない分(※注10)、剛性バランスが取れるのかってことだったんだけど、うまく取れてたね。レース領域だと剛性不足の要素はあるかもだけど、市販車としては何の違和感もなかった。タイヤの感触も良かったし。

伊藤 常に前後に接地感があったでしょ? このフレームテストだけでずーっと頑張ってきたからね。

岡田 そういえばさっき、バイクが少し大きくなったって言ってたけど、それは感じなかったな。

伊藤 このくらいの大きさで、こういうディメンションじゃないと性能が出ないんだって開発の方から言われて、それがいまのRC213Vに当てはまる数式らしいんだけど、このマシンには市販車として初めて、そういうMotoGPマシンの数値が入ってるんだよね。

岡田 今までそういう現役のレーシングマシンをフィードバックした市販車ってなかったよね? でも実際、鈴鹿のシケインを走っても、全然長さも大きさも気にならなかった。切り返しも重くなかったしね。とは言え、バイクって軽いからいいってもんでもないんだけど。軽いと確かにラクだし、レーサーなんかは軽さを武器にコーナリングスピードを上げたりもするけど、軽さと重さとのバランスがあるよね。

伊藤 あるある。軽過ぎると加重が乗らないもんね。それを言えばこのRR‐Rも、リアタイヤを今までの190/50から200/55に変えてるんだよ。フロントは変わらず120/70なんだけど、あんまり後ろから〝押される〟感じや、タイヤが太すぎる印象はないでしょ?

岡田 全然ない。たとえばハードブレーキングをした時にリアが浮いてくる、俺らがよく言うところの「リアが押される」状態にはならなくて。それはどこで上手く逃してる?

伊藤 そこはもうやっぱディメンションだね。重心高も含めて全部。従来よりもグリップバランスを少し前の方に持ってきたと言えばいいかな。フロントでよく曲がるバイクになったから、さっきも言った、常に自分が手で路面を触ってるような接地感があるわけ。

岡田 確かに鈴鹿の2コーナーなんかも入りやすいし、シケインの切り返しをした後もちゃんと行きたい方向を向ける接地感があった。ストレートを走っていても、フロントの接地が全然抜けなかったんだけど、その辺は空力も利いてるのかな?

伊藤 うん。ああそうだ、空力の話もしておかなきゃいけないね。

画像2: モトGPマシンの数式投入 市販車初の試みも!

[注9] 【バルブが切り替わる】エキパイ集合部とサイレンサーの間に電子制御式バタフライバルブがあり、排気の流れを可変させることで低回転トルクと高回転パワーを両立。
[注10] 【アッパークロス】ユニットプロリンクのサスを取り付けるパイプで、スイングアームピボット上部でメインフレーム左右を繋ぐように配置されている。

「ホンダとしては、今までで
一番前傾が強いかも」 (伊藤)

岡田 いまやMotoGPでも全メーカーが採用して、ウイングやカウル形状で空力を考えるのは当たり前になってるけど、CBR1000RR‐Rも風洞(※注11)はいろいろやった?

伊藤 もちろん! ずっと言ってるこの接地感は、ウイングレットの影響もかなり大きいよ。

岡田 ウイングレットをつける理由は、ブレーキング時に安定させるためとか、ストレートの加速で前輪が浮かないようにするってことでいい?

伊藤 その両方だね。ブレーキで羽が下がることで、もっと押さえつけようとする力が出るのと、あとは常にダウンフォースが利いてるからこの接地感に繋がってて。具体的な数値はわからないけど、200㎞/hを超えたら10〜20㎏のダウンフォースは利いてるはず。特にSUGOのレインボーコーナーとかSPコーナーとか、Gが抜けるような下りコーナーを走るとフロントの接地が感じられるはず。だから峠の下り坂なんかもすごくいいよ。

岡田 俺は今日、特に雨の時にウイングの効果を感じたかな。鈴鹿の裏ストレートの上りって、接地が抜けて車輌が振られやすいんだけど、RR‐Rはピターっとしたまま上まで走れて、頂点でフラフラすることもなかった。でもさ、俺が開発やってた頃もウイングのテストはしたけど、「そんなのサスが動いちゃうから、効果ないんじゃない?」とか言われてたのにね(笑)。

伊藤 いまや当たり前になっちゃって(笑)。むしろ逆に羽のおかげで、ブレーキで縮んだサスが、ブレーキを離した時に急に戻ることを防いでるからね。入ったら、ジワ〜っと戻っていくし、それがこの接地感に繋がってる。

岡田 なるほどね。どうせなら、角度調整もできたら良かったんじゃない?

画像1: 「ホンダとしては、今までで 一番前傾が強いかも」 (伊藤)

伊藤 いやいや、この角度もちゃんと一番いい角度なんだって!(笑) 羽が外側のカウルと離れてるのも、空力を考えてわざとなんだよ。作った人に聞くと、こういうバイクにしたいってCBR1000RR‐Rのコンセプトを決めた時点で、ウイングレットを導入することは決まってたんだって。普通、ウイングがついてると前面投影面積が大きいから、空気抵抗がある気がするでしょ? でも実際は逆に羽のおかげで空気抵抗が少なくなり、最高速も伸びていく。それは後から付け加えたんじゃなく、最初からカウルデザインすべての空力性能を考慮して作ったからなんだよ。

岡田 進化してるね。あと俺が印象に残ったのはクイックシフター。SPだけの装備だけど絶対あった方がいい。

伊藤 スタンダードにもオプションですぐ付けられるんだけどね。シフトアップもダウンも、それぞれソフト・ミディアム・ハードの3段階に制御タイミングを詰められるようになってる。

岡田 ブリッピングもしてくれるしね(※注12)。昔のブリッピングって回転が合わなくてギクシャクしてたじゃん? でもこのクイックシフターは回転が上がりすぎず、ちょうどいいところでまとめてるから、切り返しながらローに落としても姿勢変化がなくて、そのままコーナーに入っていけるのがすごいラクだった。ストレートでポンポン入れてくと怖いくらい速いから、逆に戻したくなったけど(笑)。

伊藤 そうね、岡田がSPで俺がスタンダードで走った時、やっぱクイックシフトあると速いなってあらためて思ったよ(笑)。カチッカチッて入る接続感もいいし、シフトアップもダウンもこのままレースで使えるでしょ?

岡田 使える使える。それにポジションもさ、伊藤が「ステップが後ろに下がって、ハンドルも下がった」と言ってたから覚悟してたんだけど、俺は意外と違和感がなかったんだよね。

伊藤 ほんと? たぶんホンダとしては、今までで一番前傾が強いかもしれないんだけどね。上半身だけ下げるんじゃなくて、身体全体、脚も下げて、要は立ち上がりの加速に備えたポジションになってるの。シートも結構凝っていて、薄くて接地感がわかりやすいのに、乗り心地も良いものが選ばれてて。だから普通にパッとサーキットを走っても、違和感がないんだよ。

岡田 そう言われると、確かにそうかも。まあ大概サーキットを走るレーサータイプってさ、痛いじゃん?(笑)

伊藤 普通、5㎜とか10㎜くらいの薄いクッション材だけだから。でもこれはツーリングで300㎞くらい走ってもたぶん疲れないし、なおかつ接地感が伝わりやすい。このマシンの試乗会って、海外も含めてタイムアタックする人が多いのよ。そうなると「タイム出すからシートを変えろ」とか言い出すヤツがいてもおかしくないんだけど、全員このシートのままアタックしてたもん。カタール・サーキットでの試乗会とか、レオン・ハスラム(※注13)が全開でタイムアタックに入って、コースレコードのほぼ1秒落ちまでいったらしいよ。

[注11] 【風洞】風洞実験のこと。この場合は閉鎖された施設内の送風機によって走行時の空気の流れを再現し、空力特性を検証、調整すること。
[注12] 【ブリッピング】空吹かしでエンジン回転数を瞬間的に高めてシフトダウン時のショックを抑え、リアタイヤのホッピングなど、駆動系の負担を抑える操作。
[注13] 【レオン・ハスラム】ホンダのワークスチーム(チームHRC)からスーパーバイク世界選手権に参戦中のベテランライダー。

画像2: 「ホンダとしては、今までで 一番前傾が強いかも」 (伊藤)

「今ってトラコン利いてるの? 自然すぎる…」 (岡田)

画像1: 「今ってトラコン利いてるの? 自然すぎる…」 (岡田)

伊藤 なんか褒めすぎってくらいだけど(笑)、俺は今回のCBRに対してはNSR250が出た時のようなイメージを持ってるんだよね。今までとはレベルが違うというか。

岡田 市販車と言うよりも、本当に攻めたくなるようなマシンてこと?

伊藤 そう。だってこのまんまミラーとナンバーを外せば、それだけで2〜3年前のJSBのタイムが出ちゃうくらい速いからね。

岡田 違和感がないと言えば、俺はトラコンの違和感が全然なくて。雨の中で走っても利いてる感じがなかったから、伊藤に聞いちゃったもんね。「今トラコン利いてるの?」って(笑)。

伊藤 たぶんピットロードを出て、水たまりに乗った時にはもう利いてる。自然でわかんないでしょ?

岡田 そう! 自然すぎてわからないから、逆に怖くなった(笑)。なんかそういうとこもレーサーみたいなバイクだよね。トータルパフォーマンスの高さが市販車じゃないもん。実際、SPは全日本のJSBや8耐とかレースのベース車になるわけだけど、その辺の感触はどうなの? 伊藤監督としては。

伊藤 市販モデル中で最速になったと思っているけど、レース仕様にするとなると、やっぱりほぼイチから作るみたいな話になるんだよ。

岡田 市販車とレース車では問題点が変わるし、また別の話だもんね。

画像2: 「今ってトラコン利いてるの? 自然すぎる…」 (岡田)
画像3: 「今ってトラコン利いてるの? 自然すぎる…」 (岡田)

伊藤 そう。だから今はマシンの良いとこを活かしつつ、ネガを潰していったりとか、トータルで良くするようにするしかないんだけど、まだちょっと、試行錯誤して探してる最中かな。

岡田 なるほどね。でもさ、スタンダードとSPって、トップスピードの差はほとんどないよね?

伊藤 そうね。差があるとしたらシフターと電制サスくらい?

岡田 あとは味付けの違いくらいだけど、値段差は36万3000円か…。

伊藤 でも岡田はSPが好みでしょ?

岡田 うん、好み! 俺は何でも制御してくれるSPを買って、ラクに乗りたい(笑)。伊藤はすでにスタンダードモデルを買ってるじゃん。購入の決め手は何だったの?

伊藤 ショーワさんとニッシンさんにはうちのチームがお世話になってて、製品の信頼性の高さはよく知ってたっていうのもある。

岡田 なるほどね。

伊藤 それに俺はバイクは自分でいじって遊ぶ素材みたいなもんだとも思ってるから、SPだと逆に「なんかいじりたいな」と思った時にできないんだよね。油面変えたいとかイニシャルを変えたいと思っても…。

岡田 制御に任せっきりだから逆にできないんだ(笑)。じゃあやっぱり俺は、こっち(SP)の方がいいな。

伊藤 見た目も金ピカピカだしね、岡田さんにピッタリじゃない?(笑)

岡田 なにその理由(笑)。でもやっぱり走り方の好みじゃない? スタンダードが向いてるのは、初期からブレーキのタッチがあって、サスの動きも自分で感じたい人や、さらにそれを自分でいじって合わせていきたい人だと思うし。で、俺はどっちかというとスムーズに走るタイプだから、ブレンボとオーリンズでスムーズにしっとり動いてくれるSPの方向性が好きだし。

伊藤 そうだね。俺はさっきも言ったように市販車の中ではこれ以上のバイクはないと思うし、ほぼ自分が望むスーパースポーツ系のバイクができたと思う。岡田もパッと乗ってみて、ネガを感じた部分がないだろ?

岡田 ないね。

伊藤 それ自体が良く出来てるってことなんだよ。岡田はあんまりバイクを褒めない人だからね(笑)。

岡田 確かに昔から褒めるタイプじゃないから、そうかもね(笑)。

画像4: 「今ってトラコン利いてるの? 自然すぎる…」 (岡田)

PHOTO:赤松孝・柴田直行・南孝幸 まとめ:齋藤ハルコ
取材協力:本田技研工業・ホンダモーターサイクルジャパン・鈴鹿サーキット
レースクイーン:梅本まどか

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