Off1では、今年のG-NETシーズン開幕を前にしてオフロードパーク白井で行われた10人限定のプレミアムスクール「G-CAMP」の内容を、特別にちょっとだけお伝えできることになりました。G-NET全日本ハードエンデューロ選手権5連覇を成し遂げた高橋博(ロッシ)選手のマシンをモデルに、ロッシ選手とAD/tac(和泉拓)選手がこだわりのセッティングポイントを伝授してくれました!
ハンドルバー、レバー、スイッチ類
まずはハンドル周りから。高橋の場合は角度がちょっと立っているものが好みのため、トライアル用のハンドルバーを使用しており、ハンドル幅は770mm。トライアル時代からずっとこの長さを使っているとのこと。ハンドル周りのスペースが広く、スイッチ類がたくさん装着できるのもポイント。
高橋
「角度が立ってることで、モトクロスのような乗り方をすると腕上がりしやすいですが、ハードエンデューロではコーナーを攻めたりはしないので問題ありません。ハンドルバーは自分の体型に合った、一番しっくりくる長さや角度を見つけることが大事です」
和泉
「スタンディングに良いポジションに合わせると、どうしてもシッティングには合わなくなるので、スタンディングでもシッティングでも扱いやすい、ちょうど良い長さや角度を見つけましょう」
レバーの角度はハンドルよりもちょっと下がオススメ。斜度の急なヒルクライムやステアケースをやる時に、レバーが高いと身体が前に入らなくなるためです。逆に下げすぎてしまうと下りの時にレバーに指が届かなくなり、疲労の原因になります。
和泉
「3時間のレースをずっとスタンディングで走ることができれば一番いいですが、疲れてきて座った時にレバー位置が下すぎると腕上がりしやすくなってしまいます」
また、レバーで一番大事なのはクラッチミートのポイントです。人差し指の第一関節と第二関節の間の「指の腹(上の写真の赤丸部分)」でレバーを操作できるようにします。ハンドルをしっかり握りつつここでクラッチが完全に切れる状態、かつ半クラも使える状態にセッティングするべきなのです。手の大きさは人によって違うので、自分の一番握りやすい位置を探すといいとのこと。
ロッシ選手は、レバーの指が当たる部分(上の写真で指が触れている部分)を少し削って滑らかに加工しています。これは使用しているレバーの角が少し立っているため、削った方が操作感が向上するとのこと。モトクロスでも、ファクトリーは専用レバーが存在するくらい好みが分かれるところです。レバーを個人にあわせて削り込むのは、かなり有効な手法だと言えますね。
ハンドガードのオープン、クローズは好みも大きいが、ロッシ選手の場合はウッズなどで木に弾かれにくいオープンタイプを選択しています。
和泉
「オープンハンドガードでバーエンドをつけている人は、グリップのゴムがバーエンドに接触しているとそれがフリクションになってしまい、アクセル操作が鈍くなるので、必ずグリップとバーエンドの間に少しのスペースを空けるようにしてください。また、グリップを装着したら必ずいろんな握り方を試してみて、どの方向に力を入れてもスムーズに回ることを確認しましょう。さらにレース前に少し潤滑剤を塗布するだけでも疲れ方が全然変わってきますよ」
また、ロッシ選手はハンドルバーの空いているスペースにクローズドハンドガード用のステーのみ取り付けています。これは過去に木に激突してブレーキホースの根元が折れてしまった経験から、ガードとして使用しているそう。
セルスイッチは左側の、指がすぐに届く位置に。これはヒルクライムの途中でエンストしてしまった時などに、右手でブレーキをかけながらアクセルを開けつつ、左手でセルを回すことができるようにと、まさにハードエンデューロならではのアイデア。初心者にも、オススメできるセットアップですね。
隣に付いているON/OFFはファンのスイッチ。
和泉
「ファンは沢に入る前に先に回しておきます。また、下りなどの高速セクションでは回さなくても自然とエンジンが冷えるので、もったいないので切っておくために手動がオススメです」
ファンは、全部ネジで止めてしまうとクラッシュした時に力の逃げ場がなくなり、ベースが破損してしまうため、一箇所だけタイラップで止めています。
ステップ、ペダルの高さ
ステップは純正よりも3cmほど下げています。フットペダルはステップよりも少し上。ペダルを踏んだ時にちょうど水平になる高さが良いとのこと。その理由は、ハードエンデューロならではの下りのコントロールにあります。
和泉
「遊びがあって、実際に油圧がかかる時に最低でも水平か、ちょっと上くらいじゃないと下りでブレーキできません。通常の位置だと、ブレーキを踏むために膝を曲げないといけなくなり、結果的にステップ荷重ができなくなってしまうのです。不意に踏んでしまうことはありますが、そこは慣れです。それよりも下り重視で」
シフトペダルの位置もステップよりも少し上。スタンディングですぐに足をかけられる位置に。
高橋
「クロスカントリーだともう少し下でもいいかな。シッティングで前に座った時にシフトアップしやすい位置にしましょう」
チェーン上部のガイドはチェーンが外れてしまった時にクランクケースを破損してしまうのを防ぐために装着しているとのこと。
グリップしやすいシート加工
シートは足つき性を優先して真ん中をアンコ抜き。リブシートでグリップを向上。
抜いたアンコをそのままお尻の後ろに移設。
高橋
「ここが膨らんでいることで座ってイゴる時に、ここに尾てい骨を当てて体重をかけることができるので、腕に力を入れなくてもすみます。お尻が引っかかってマシンを押しやすいんですよ。あとウィリーする時にも楽ですね」
前後スプロケットは超ショートセッティング
スプロケットはフロント12丁、リア52丁。BetaのRR2T300の純正はフロント14丁、リア49丁なので、おおよそリアで9丁分もショートにしています。
高橋
「このセッティングだと6速全開でも80kmくらいしか出ません。ただローギヤがとてもショートなので、沢とかでイゴる時はすごく良いです。このファイナルだと3〜4速でヒルクライムとかもできちゃいますよ」
超低速での扱いやすさや、トルクの使い勝手を考えた仕様です。チェーンは少し伸ばしてホイールベースを延ばしているそうです。
チャンピオンのタイヤ、空気圧は?
タイヤはもちろんガミータイヤ。今回はガレの多いオフロードパーク白井でのスクールということでIRCのiX-09w GEKKOTAをチョイス。空気圧はフロント0.6kgf/㎠、リア0.35kgf/㎠。中身はヘビーチューブを使用。ちなみに2018年のG-NET戦では全戦、フロントにiX-07s(空気圧0.6kgf/㎠)、リアにVE-33s GEKKOTAを使用し、空気圧は0.22kgf/㎠くらいの使用が多かったとのこと。チューブのエアバルブは空気圧が低いとどうしてもタイヤの回転でズレるので、最初からタイヤの回転と逆方向に曲げておきます。
和泉
「最近僕は軽さを追求したマシン作りをしていて、ヘビーチューブではなくノーマルチューブにチューブサドルを併用しています。これだとヘビーチューブの半分くらいの重さになります」
サスペンションはオーリンズTTXをリバルビング
サスペンションは前後ともにオーリンズのTTXをリバルビングしたもの。初動は柔らかく、奥でしっかりと粘るようなセットアップ。
初動の柔らかさに驚きを隠せないスクール参加者。
高橋
「僕はサグは出さないんですよ。ショップさんに好みの仕様にリバルビングしてもらったら、ひたすらガレを走ってセッティングを煮詰めていきます」
その他、ワンポイントアドバイス
エアクリーナーの上に被せているのは百均とかで売っているクイックルワイパーのシート。これをするだけでエアフィルターが汚れにくくなり、メンテナンスの頻度がかなり減らすことができます。ただし、このシートは毎回変えること。
プラグは純正が7番に対し6番を使用。低速でのプラグカブリの対応策です。
和泉
「G-NETだと沢からヒルクライムを登るシーンがよくあるのですが、7番だと沢でプラグがカブり気味になるからヒルクライム前でクラッチを切って空ぶかしするんです。それだと、ただでさえ沢でイゴって熱いエンジンをさらに熱くしてしまいます。でもプラグが6番だとそのままヒルクライムに入れます。最近のG-NETはヒルクライムの前にちょっと一呼吸おいていると抜かれてしまうので(笑)」
リユースバリューも考慮
高橋は、フレームやサイレンサーなどには養生テープを貼り、傷防止。リユースバリューも考えています。
マシン以外のアドバイスも
口にはマウスピースを装着。こちらは歯科で保険適用されると3000円ほど。ヒルクライムでは歯を食いしばって登ることが多く、年齢を重ねると奥歯がガタガタになってしまうのを防ぐ意味があるそう。もちろんクラッシュ時にも歯を守ってくれます。モトクロスでは、標準的になってきましたね。
ゴーグルのスポンジを抜くことで通気性がよくなり曇り防止になります。ただし、砂埃の激しいモトクロスやクロスカントリーには不向き。前走者が少ないハードエンデューロやオンタイムエンデューロにはオススメですね。