一人のエントラントによる呼びかけで、Twitter上で勝手に開催が決定した「M-net」とは一体なんなのだろうか。この記事ではCROSS MISSION勝沼XXクラスと併催された第一回M-netの熱いバトルの全貌をお届けする。なお、この記事はM-netの意向を尊重し、登場するエントラント全員をエントリー時のハンドルネームにて記載する

豆バイクが集まりすぎて、いつの間にかM-net開幕戦となった
CROSS MISSION勝沼XXクラス午後の部

CGCハードエンデューロ選手権から生まれた「ミニバイぱにっく」はもはや一大ムーブメントとなっている。CRF125FやTTR-125LWEなどのいわゆるミニモトを使用したハードエンデューロレースで、カブやスクーターを用いる「ビジバイぱにっく」と共にスキルの高さに大きく左右されずレースを楽しめることで、中部地方を中心に大きな盛り上がりを見せている。

こういったミニバイクでハードエンデューロを楽しむ文化は関東にも派生している。7月15〜16日に山梨県クロスパーク勝沼で開催されたCROSS MISSION勝沼では、初級者向けのXクラスと中級者向けのXXクラスが募集された。ところがXXクラスでは120台のエントリー中、40台がミニバイクという事態が発生。これはオフロードパークSHIRAIを中心にミニバイクでハードエンデューロ遊びをしているライダーたちが腕試しにエントリーし、SNSで呼びかけを行った結果だった。

いつの間にかこのCROSS MISSION勝沼XXクラスは「M-net(豆バイクのMと全日本ハードエンデューロ選手権G-NETを掛け合わせた造語)」と呼ばれ始め、中部からも「ミニバイぱにっく」の猛者たちが遠征する事態へと発展した。「ミニバイぱにっく」はレクリエーション的なワイワイお祭り系のレースイベントだが、「M-net」はあくまで真剣勝負ということで、「豆バイク(M-netではミニバイを豆バイと呼称)で一番上手いヤツを決める」場となった。

画像: 豆バイクが集まりすぎて、いつの間にかM-net開幕戦となった CROSS MISSION勝沼XXクラス午後の部

CROSS MISSIONでは120台のエントリーを午前・午後に振り分け2レース制にして開催したが、主催の石戸谷蓮は彼らの趣旨を理解し、豆バイクのエントラントを午後に集めることで豆バイク同士のバトルができるように采配した。台数の都合で20台のフルサイズも混走になってしまったが、フルサイズのライダーを前列スタートにすることで差別化を図った。

しかしあくまでもCROSS MISSIONは通常のハードエンデューロレースだ。石戸谷は豆バイクのためにコースを簡単にすることはしないし、豆バイクのエントラントたちも誰もそれを望んでいなかった。石戸谷はレース前のブリーフィングで「XXのコースは少し難しくなりすぎてしまいました。おそらくM-netの方々は誰もCP1に辿り着けないでしょう」と漏らした。しかしこれが逆にM-netのライダーたちに火をつけてしまった。

なお、筆者はXXクラス午前の部にフルサイズのBETA RR2T200でエントリーしていたが、3時間かけて中間チェックポイント手前まで行くのが精一杯だったことを記しておく。当然、午後の部も同じコースで行われる。午前の部のレースで動くガレが弾かれ、少し走りやすくなっていたが、代わりに根っこの手前などは掘られており、むしろコンディションは悪化していたと言えるだろう。さらに悪いことに、この日の山梨県は37度の茹るような猛暑だった。

優勝候補ライダー紹介
盛り上がる東西対決

画像: シライのニノケン CRF125F M-netを開催するJMC(全日本豆バイクチャンピオンシップ)代表

シライのニノケン
CRF125F
M-netを開催するJMC(全日本豆バイクチャンピオンシップ)代表

画像: メイドちゃん RM85 CGCからの刺客で優勝候補。2スト125cc以上しか登頂できないと言われるフレアラインヒルの最小排気量記録を塗り替えられるか……

メイドちゃん
RM85
CGCからの刺客で優勝候補。2スト125cc以上しか登頂できないと言われるフレアラインヒルの最小排気量記録を塗り替えられるか……

画像: サカオニbot TTR-125LWE CGCからの刺客その2。Twitterのフォロワー3000人ながらその濃さからミニバイ界のインフルエンサーとして知られる

サカオニbot
TTR-125LWE
CGCからの刺客その2。Twitterのフォロワー3000人ながらその濃さからミニバイ界のインフルエンサーとして知られる

集まった豆バイクはCRF125FとTTR-125LWEが多いものの、KX85やRM85などの2ストロークモトクロッサーも多く、中にはKX65やTTR-50Eなどという変わり種もいた。ライダーもライセンスなしの一般ライダーはもちろん、モトクロスIAやエンデューロIB、トライアルNA、JNCC COMP-A、ロードレースIA、全日本ハードエンデューロ選手権G-NETのポイントランカーまで様々。

トップ争いを繰り広げるM-netの猛者たち

レースは20台のフルサイズが前列でスタートし、後から豆バイクが追いかける形式。スタートしてすぐ、クロスパーク勝沼のエンデューロコースのウッズを次々と登っていく。豆バイクを嗜むライダーは、フルサイズで一通りハードエンデューロを経験した実力者がほとんどだ。小排気量、小径タイヤなど物ともしない。

画像1: トップ争いを繰り広げるM-netの猛者たち

KX65で走るのはエンデューロIBの和田。

画像2: トップ争いを繰り広げるM-netの猛者たち

フルサイズでも苦戦するヒルクライムを豆バイクで挑むG-NETライダー、ばるばる。

画像3: トップ争いを繰り広げるM-netの猛者たち

M-net代表、シライのニノケンも流石の走りでトップ争いに加わる。

フルサイズのみで行われた午前中のクラスでも20台ほどしか到達できなかった中間CP手前のガレ上りセクションでは、フルサイズが苦戦する中を豆バイクがイゴりながら登っていく姿が見られた。フローティングターンや押し上げは軽量かつパワー特性の穏やかな豆バイクの方に利があるとも言える。

画像4: トップ争いを繰り広げるM-netの猛者たち

CP1までは総合2位を走っていたおかけんはフレアラインヒルにアタックし続けたが、ここを登りきれず完走に及ばず。

画像5: トップ争いを繰り広げるM-netの猛者たち

真夏日の午後に、フルフェイスヘルメットにメイド服でバイクを押すメイドちゃん。

画像6: トップ争いを繰り広げるM-netの猛者たち

ルーマニアクスのブロンズクラスを完走しているokanivaも出場。

画像7: トップ争いを繰り広げるM-netの猛者たち

エンジンパワーは豆バイク最高を誇るか、TE105を駆るペーちゃん。

画像8: トップ争いを繰り広げるM-netの猛者たち

暑さに負けずサカを押し切る、サカオニbot。

画像9: トップ争いを繰り広げるM-netの猛者たち

CRF150RでエントリーしたもりーはCP1下までかなり上位で走るも、クラッチが限界を迎え、無念のリタイヤ。

画像10: トップ争いを繰り広げるM-netの猛者たち

「G-NETよりもキツイ」と漏らすのは、現在G-NETランキング21位のはちょり。

画像11: トップ争いを繰り広げるM-netの猛者たち

「押しは苦手」と言いつつも熟練のテクニックが光る菅賢。

体力と排気量の限界に挑む
フレアラインヒルの死闘

最終セクションはクロスパーク勝沼名物、フレアラインヒル。これまで数多くのハードエンデューロライダーが挑んでいるものの、2ストローク125ccでも登頂するのはかなりギリギリというロングヒルクライムだ。

画像1: 体力と排気量の限界に挑む フレアラインヒルの死闘

トップ争いで死闘を繰り広げていたのは、メイドちゃん、和田、おかけん、シライのニノケン、サカオニbot、菅賢。続いてばるばる、okaniva、はちょり、ペーちゃんらも追いついてきた。レース時間は2時間30分+計測30分で合計3時間のうち、まだ半分ほどしか経過していない。時間は十分に残されていた。しかしそれでもこのフレアラインヒルが登れなければ、完走はない。

モトクロスIAのスキルを持つメイドちゃんがRM85で直登を目指してフルスロットルするも、7割ほどで失速し、どうにも登れない。のちに「キャブセッティングが合ってなくて。セッティングがバッチリ決まれば、直登できるかもしれません」と漏らしていたが、レース中にはどうにもできない。

画像2: 体力と排気量の限界に挑む フレアラインヒルの死闘

何度目かのトライで直登を諦め、左側に広く取られたイゴり(バイクから降りて力と繊細なアクセルワークで押し上げる行為)ラインへ進入したメイドちゃん。この時点で、M-net暫定トップだ。

画像3: 体力と排気量の限界に挑む フレアラインヒルの死闘

フレアラインヒルの上の方は斜度がキツく、通常であれば押し上げることは不可能とされている。しかしM-netを考慮してか、石戸谷がコース幅を広く取ってくれていたため、7割ほど登ったところから直登ラインを外れ、左側の斜面をジグザグに登ることで、なんとか押し上げることができるような設定になっていた。

しかし誰も走行していないため、路面は固められておらず、キャンバーはすぐに崩れてしまう。特にピーキーなRM85は低速のコントロールが難しく、メイドちゃんは自らの足でキャンバーのラインを踏み固め、慎重に、ジワジワと上を目指した。

そしてついにメイドちゃんがM-netとして一人目のフレアラインヒル登頂を果たす。そのまま順調に周回すると、さらに2周目の中間CPまで到達。M-netでは文句なしで優勝。フルサイズクラスと合わせても総合2位に入ったのだった。

画像4: 体力と排気量の限界に挑む フレアラインヒルの死闘

次にフレアラインヒルを登ったのは、KX65の和田。5割ほどからひたすらに押し続けてきた和田は、終盤になって観客のヘルプを借りたものの、M-net的にはこれはルール違反ではない。M-net2位、総合4位。表彰台で和田は「ヘルプを借りてしまったので、実際は6位くらいだと思います」とコメント。それでも扱いづらい65ccのマシンでここまで戦い抜いたのは賞賛に値する。

画像5: 体力と排気量の限界に挑む フレアラインヒルの死闘

次にクリアしたのはTE105のペーちゃん。CP1到達はM-netで8番手だったものの、フレアラインヒルで大逆転を果たし、M-net3位、総合5位でゴール。

画像6: 体力と排気量の限界に挑む フレアラインヒルの死闘

そして4スト125cc同士の東西対決、シライのニノケンとサカオニbotの押しバトルが始まった。いや、彼らはメイドちゃん、和田、ペーちゃんが直登にトライしている間もずっと、遥か下の方から押し続けて、ようやくここまで登ってきたのだ。

本来のラインの外である左側に無限かのように広げられたスペースを使って、倒木に阻まれながらもラインを探し、ほんのわずかずつ前進を続けてきた。

ニノケン「サカオニ! 俺の走った轍を使って来い!」

サカオニbot「お前が全部崩してるんじゃ!」

わずかに先行するニノケンがサカオニを鼓舞するも、サカオニはそのラインが崩れていて使えないと憤慨。この煽り合いこそが彼ら流のコミュニケーションであり、当人同士にはわかる、120%の信頼が込められた会話なのだ。

しかし神は無慈悲だ。彼らが登っている左側のスペースは7割ほど登ったところに真横にテープが張られており、それを迂回しなければ登頂はできない設定になっていた。メイドちゃんやペーちゃんは直登ラインをそのテープより上まで登り、そこからキャンバーを押し上げていった。しかし、最初から左側を押し上げてきた彼らが直登ラインに戻るべき道は倒木によって塞がれており、ここから本来のラインに戻るのはとても不可能だった。

しかし、テープの左端にわずか50cmほどの隙間があるのを、観客が発見し、ニノケンに伝えた。なんと、左側のコース端まで伸びていると思われていたテープは、斜めに生えた木に結ばれており、その根本から上にはほんのわずかな隙間が生じていたのだ。

画像7: 体力と排気量の限界に挑む フレアラインヒルの死闘

ニノケンは、そのほんの僅かな隙間をフロントアップしながら通した。コースアウトは無しだ。

画像8: 体力と排気量の限界に挑む フレアラインヒルの死闘

そこからキャンバーをゆっくりと登っていく。ここまでくれば、CRF125Fの低速特性が生きる。こうして、ニノケンは4st125ccでただ一人フレアラインヒルを時間内に登頂し、ゴール。M-net4位、総合6位に入った。

画像9: 体力と排気量の限界に挑む フレアラインヒルの死闘

サカオニbotはその後もしばらくライン探しに苦戦してしまい、無念のタイムアップ。しかしレース終了後にも登坂を継続し、時間外とはいえ最後まで登り切ってオンコースでゴールに辿り着いた。

画像10: 体力と排気量の限界に挑む フレアラインヒルの死闘

CROSS MISSION勝沼XXクラス午後の部、表彰式。完走はわずかに6台。なんと上位12台中、10台が豆バイクという異常事態に。これには主催の石戸谷も脱帽し「深く反省しております。豆バイクの力を侮っていました」とコメント。なお、この日のCROSS MISSION勝沼XXクラスは午前・午後合わせて120台エントリーがあったが、完走率は10%以下だった。

このM-net開催のきっかけを作ったシライのニノケンは表彰台のコメントで「今日は朝のブリーフィングの時に石戸谷さんが豆クラスは全滅だろうと読んでいたんですが『みくびるなよ』と思っていました。まぁ結果を見ていただければ、石戸谷さんの読みが甘かったということがわかると思います。なんとか周回できて、フレアラインヒルも100回くらいZ切って、押し上げられて良かったです。サカオニさんには僕の背中を見て、もっと強くなってほしいと思います」と発言。

M-netについては「僕が豆バイクにハマっていて、何かレースに出たかったんです。たまたまこのCROSS MISSION勝沼が面白そうだったからエントリーしてTwitterで盛り上げたら、どんどん拡散されてこんなに集まってくれました。石戸谷さんも特に連絡はしていないのですが、趣旨を理解してくださり、M-netという最高の形でやらせてもらえました。また面白そうなレースがあったら開催したいと思います」とのこと。

M-netはまたTwitter上で突発的に開催が告知されると思われる。現時点では細かい車両規定などは定められていないが、「我こそは!」と思うライダーはぜひ彼らのTwitterアカウントをチェックしておいてほしい。

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