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2023年、全日本トライアル選手権に唯一電動トライアルバイク「TY-E2.1」で参戦するヤマハとライダーの黒山健一。その挑戦に込められた想いを取材しました

車やバイクの電動化が進む昨今。オフロードバイク界にもその流れが来るのは必然で、サーロンやCAOFEN、ヨツバモトなど電動オフロードバイクが日本でも浸透し始めています。ヤマハも電動オフロードバイクを開発しているメーカーの一つ。2010年代から電動トライアルバイクの開発に着手すると、2017年には世界選手権(電動バイクが参戦するTrialEクラス)に出場。その後も世界選手権への参戦を重ね、今年、2023年は全日本トライアル選手権(エンジン車と同じ通常のIASクラス!)にフル参戦しています。2023年4月2日(日)に行われた開幕戦では、唯一の電動バイクとして注目も高く、その結果は5位。さらに、2023年4月23日(日)に開催された第2戦では4位と好成績を収めました。

今回、TY-E開発プロジェクトのリーダーである豊田氏、チーム監督代打の小野氏、そしてライダーの黒山健一選手にインタビュー。開発のきっかけやレース参戦の経緯、今後の目標などを聞きました。

TY-E開発に込められた熱意

YAMAHA
TY-E2.1

画像1: YAMAHA TY-E2.1
画像2: YAMAHA TY-E2.1

編集部(以下、編)―― 「そもそも何をきっかけに開発がスタートしたのか、なぜトライアルバイクだったのでしょうか?」

TY-E開発プロジェクトリーダー豊田氏(以下、豊田氏)――「ヤマハ発動機の研究部門に『エボルビングR&D活動(通称5%ルール)』という業務の5%を使って自分の好きなことや興味があることに取り組みましょうというものがあります。私自身趣味でトライアルをやっていて、山の中を排気ガスを出しながら走っているというのも気持ちがよくなかったので、電動のトライアルバイクに目をつけて、開発したいなと思ったのがきっかけです。自分でメンバーを集めて開発したのが2017年に完成した初代TY-E。賞典外でも良いから、このマシンを全日本トライアル選手権で走らせたいと思っていました。そうしたら、ちょうどFIM世界選手権に電動トライアルバイクで競うTrialEクラスができて、世界選手権を目指そうと方向転換をしました。TrialEクラスは当時年2回の開催で、最初に出たフランス大会で優勝を獲得しましたが、2戦目で2位となり、年間チャンピオンを逃してしまいました。翌年こそ絶対に勝つという思いで挑みましたが、そこでも優勝することができず……。2年連続で2位という結果に終わりました」

編―― 「2度の世界選手権の経験を通して、さらに開発が進みそうですね!」

豊田氏――「実は、世界選手権への挑戦が終わった後、プロジェクトの期限もあり一旦取り組みが終了しました。でも、やっぱりもう一度チャレンジしたいという思いもありましたし、周りからもなんでやめちゃうのと言われていました。そんな時に、FUN EVの開発担当に選ばれて、FUN(楽しさ)の要素技術をトライアルで開発させてくれと言って、なんとかトライアルにこじつけて挑戦を再開しました。その後TY-E2.0で世界選手権に再び挑んだのですが、その時にはTrialEクラスが発展的解消になり、電動バイクもエンジンバイクと一緒のクラスで戦うというルールに変更されていて、初めてエンジンバイクと混合のレースを迎えました。結果は40台中31位。コテンパンにやられてしまいましたね。この結果ならもうプロジェクトを続けることが難しいだろうなと思っていました」

編――「そこから全日本選手権に参戦することになったきっかけとは……?」

豊田氏――「帰国したらプロジェクトは終わりにするよう言われるんだろうなと思っていましたが、帰国して役員の方々とお話した時に、ちゃんとチームを作ってやってみな、と後押ししていただきました。そこから今季全日本選手権にフル参戦することが決定しましたね。開発としても1戦1戦積み上げていきたいという思いがありましたが、世界選手権は一発勝負で挑むという感じでした。その点、全日本選手権は毎戦追うことができるので最適だと思いました。今となってはあの時コテンパンにやられたことが現在に繋がったと思います」

エンジンとバッテリー、一番の差は「出力」

画像: エンジンとバッテリー、一番の差は「出力」

編――「電動バイクを開発する中で、エンジンバイクとの差を感じる部分はどこでしょうか?」

豊田氏――「出力の差ですね。開発している中でも、エンジンバイクと同じ重量でエンジンと同じだけの出力を出すという点が課題です。トライアルの場合、長い距離を走るわけではないので、電池の容量はある程度絞ることができて、エンジン特性に近づけやすいカテゴリではあるのですが、それでも難しいです。重量は軽量なカーボンフレームを使用することでなんとかエンジンバイクと同等の軽量さを確保しています。ただ、最大出力がちょっとだけ低くて、特にIASクラスになるとその差は大きく出てしまいますね。黒山選手に聞いても、エンジンバイクはオーバーレブの部分を使う場面が多くあるので、差を感じることがあるそうです」

編――「電動バイクの出力特性は低回転域寄りだという話を聞きましたが、やはり高回転域に寄せるのは難しいのでしょうか?」

豊田氏ーー「難しいですね。エンジンは回転数が上がるほどトルクが出るため高回転域にトルクを出しやすいのに対し、電動バイクは低回転域のトルクは出るけど、高回転域が出しにくい。もちろん、低回転域でトルクが出やすいという点は、エンジンバイクにはない、電動バイクの強みになります。しかし、それだけでエンジン車に勝てるかというとそうではないので、今の特性を生かしつつ、高回転域のトルクも出していこうと試行錯誤しています」

電動バイク特有のフレーム

画像: 電動バイク特有のフレーム
画像: ELECTRIC HAZARDのマークがある下に、このバッテリーが入っている

ELECTRIC HAZARDのマークがある下に、このバッテリーが入っている

編ーー「TY-E2.1のフレームの形状は、エンジン車をベースにしているのではなく、一から構想したと聞きました。フレームはどのように作られたのでしょうか?」

豊田氏――「エンジン車のジオメトリーも参考にもしましたが、私自身個人的にトライアルが好きで乗っているので、最初は自分で『ここはこうあった方が電動の特性を生かしやすいのではないか』というように想像を膨らませて作りました。黒山選手も気に入ってくれていて、一番初期に作ったジオメトリーが良くて、エンジン車にもフィードバックされています。自分の予想はまあまあ当たりだったなと思いました。

編ーー「なるほど。どのような構造になっているのですか?」

豊田氏――「構造としては、フレームの中にバッテリーが入っている状態です。その下にパワーユニットを置いているのですが、重量物が上にあるので重心も高くなります。その重心をどう落とすかというのがフレームの肝ですね。初期に比べたらバッテリーの位置はだいぶ下がり、4サイクルのエンジン車と同じくらいまで落とせています。

また、フレームにはカーボンを使用しています。アルミフレームだと、一番強度や剛性が欲しい部分を考慮するとあの形になるのが必然。しかし、カーボンフレームはモノコック構造で剛性を取るので、強度を保ちつつも、アルミや鉄では絶対に作れない剛性バランスが作れるんです。どういう剛性バランスがトライアルにとってベストなのか、というのは正直まだ手探りではありますが、アルミフレームとは全然違う方法で試すことができるので、そこがすごく面白いところですね」

エンジンバイクを超えるマシンを作る、TY-E開発が掲げる目標

編ーー「TY-Eの開発を通して感じる電動バイクの可能性はありますか?」

豊田氏――「ヤマハはTY-Eを作る前からE-Vinoなどの電動バイクを作ってきました。しかし、移動手段(コミューター)として作られていて、楽しむという面のオフロードマシンとは離れたところにあると感じていました。しかし、TY-Eを開発する中で自分でも多少乗らせていただいて、これは楽しいなって思ったんです。EVで楽しいものが作れないと思っていた訳ではなく、EVでも楽しいものを作れるんだということを確認することができました。電動車の動きが加速した根源にはパリ協定※があって、これに向けてEVがベストな正解かどうかは議論がありますが、何かやっていかないといけないというのは確実で、そのためにヤマハらしい一歩として取り組んでいます。可能性云々よりも、やらないといけない、という風に個人的には思っています」

※バリ協定:国連により制定された気候変動問題に対応する国際的な枠組み

編ーー「豊田さんが考える、TY-Eの今後の目標を教えてください」

「エンジンバイクと同じことができる、というのはゴールではないと思っていて、エンジンバイクをこえるコントロール性や運動特性、電動バイクでしかできないものを作るということを目標にしています。ただ、現時点ではエンジンバイクに劣る部分はまだまだあるので、マイルストーンとしてエンジンバイクを目指している状況です。しかし、そこで満足するつもりはないですし、さらに先を見たプロジェクトとして考えています」

まずはランキング10位以内、チームとしての今後の目標

編ーー「全日本選手権参戦するにあたり、チームとしての想いやコンセプトはありますか?」

チーム監督代理 小野氏(以下、小野氏)ーー「我々は”挑戦”という言葉をキーワードにレースに取り組んでいます。全日本トライアル選手権には、市販車ではないプロトタイプで参戦しています。つまり、商売に直接結びついていない分、思い切ったことができるカテゴリということ。トライアルはこれまで市販車へのリンクが弱かったので、電動バイクの最先端の技術を全日本トライアル選手権で試すことで、制御技術などを市販車にも反映させることができたらベストだと考えています。レースで散々な結果になって、『何やってるのヤマハ』と言われることもあるかもしれませんが、挑戦しているという姿を伝えることに意味があると考えています」

編ーー「挑戦の最終的なゴールとしては、どこを目指しているのでしょうか?」

小野氏ーー「2023年の目標は、ランキング10番以内に入ること。そして3年後の2025年にはチャンピオン獲得を目指しています。2023年の最終戦となるシティトライアルにはランキング10番以内の選手しか出ることができないので、まずは最終戦に残ることを目標に1戦1戦挑んでいきます」

開発ライダー黒山健一の挑戦

開発当初からライダーとしてプロジェクトに携わっている黒山健一。電動バイクで初めて挑んだ全日本トライアル選手権開幕戦。2ラップを終えて表彰台獲得圏内に位置した黒山の活躍は、チームとしても黒山自身にとっても予想を上回る結果だったといいます。

画像1: 開発ライダー黒山健一の挑戦

編ーー「開幕戦お疲れ様でした! TY-E2.1のデビュー戦、振り返ってみていかがだったでしょうか」

黒山健一(以下、黒山)ーー「僕が知っている範囲では、TY-E2.1は国際A級スーパークラスを走るには性能が足りていない部分が多くあって、僕としてもヤマハとしても、今季は10番以内に入れたらいいねという気持ちで、チャレンジの1年として挑みました。今回5位で終えて、昨日までの僕ならもう万々歳な結果だったんですけど、人間やっぱ欲の塊ですね(笑)。今回表彰台にちょっと足がかかったことで、もっと上の順位を目指す気持ちが沸々と沸いてきました。

事前にテストを重ねてきたものの、全てのセクションを回るという感じではなく、同じラインを何度も試すということを繰り返していました。なので、実はこの開幕戦がセクションをちゃんと走る初めての場となりました。全部で10個のセクションを走り、その内6〜7割は『これはいけるかな……どうやっていけばいいんだ……』と模索しながらトライしていた感じです。チャレンジとしてはすごくよかったですね。新しいことにチャレンジする緊張感を感じて、とても楽しかったです」

画像2: 開発ライダー黒山健一の挑戦

編ーー「開幕戦で初めてちゃんとセクションを走ったとのことですが、電動バイクの強みを感じた所はありましたか?」

黒山ーー「僕が今まで乗っていたエンジンバイクでは、セクション6・7がすごく走りづらいポイントでした。グリップは良いんだけど、どこか安定しないセクションで。電動バイクも同じように動くんですけど、エンジンバイクより走りやすく、ここは電動バイクが有利だと感じました。特に、モーターのぐーって上がる回転とチェーンから伝わるリヤタイヤの動きが、過度じゃなく、かといって足りないわけでもない。パワーがないという表現ではなく、その丁度良い動きがすごく走りやすくてびっくりしました。

全体を通して、もうちょっとこうすればよかったと反省する部分も多くありましたが、逆にここまでいけるんだという驚きも多くありましたね。スペシャルセクションもいけないだろうと思い、挑戦するかすらも悩んでいたのですが、挑戦したら意外といけちゃって。ここもいけるんだ! と驚きました。それと同時に、もっとマシンの性能を知る必要があると思いました。この電動バイクは、僕の知らない性能をまだまだ秘めているので、これからもっと探っていきたいと思います。バイクもアップデートし続けていくと思うので、ここから良くなることしか無いんですよね」

編ーー「エンジンバイクと電動バイクは全く異なるものだと思うのですが、TY-Eに乗り換えてみて、どんな印象を持っていますか?」

黒山ーー「エンジンバイクっていうのは性能が固まってきていて、よっぽどの画期的な技術的ブレイクスルーが出てこない限り構造もそんなに変わらない。一方で、TY-Eは毎戦改良を重ねていて、回転の上がり方やアイドリングの導入など、毎回全く別物のように改善されてきます。これは良い意味で捉えてほしいのですが、ヤマハが本気出したらこうなるのか! と実感しています」

編ーー「ヤマハの本気が見れるのは今後も楽しみです。最後に、今シーズンの目標を教えてください」

黒山ーー「どこまで先に行けるかはわかりませんが、ヤマハの進歩にまず僕がついていかないといけないな、と必死になっています。今シーズンの目標としては、1回は3位以内に入りたいですね。あとヤマハのチーム内でトップに立ちたいので、野崎さんにも負けられません!」

インタビューを通して感じたのは、開発、チーム、ライダー、全員がTY-Eでの挑戦に全力を尽くし、その挑戦を楽しんでいるということ。3年後には全日本トライアル選手権でチャンピオンを獲る、という目標に向かって進化し続けるヤマハに、今後も目が離せません。

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