約45年に渡って月刊『オートバイ』でのインプレライダーを担当する太田安治氏。これまでに試乗したバイクの数は5000台を超える。当連載では、そんな太田氏が過去に実際に乗った絶版車をピックアップし、当時の衝撃やいまの想いを綴る。第1回は発売から40年以上の時を経て、注目を集めている250ccネイキッド、ホンダ「ホーク CB250T」を振り返る。
以下、文:太田安治

「東リベ」で活躍する“バブ”、発売時には苦戦を強いられていた

画像: Honda HAWK CB250T 1977年 総排気量:249cc エンジン形式:空冷4ストSOHC並列2気筒 最高出力:26PS/10000rpm 最大トルク:2.0kg-m/8500rpm 車両重量:178kg 発売日:1977年7月5日 当時価格:29万9000円

Honda HAWK CB250T
1977年

総排気量:249cc
エンジン形式:空冷4ストSOHC並列2気筒
最高出力:26PS/10000rpm
最大トルク:2.0kg-m/8500rpm
車両重量:178kg

発売日:1977年7月5日
当時価格:29万9000円

ホークの発売当時の印象と周りの評判

映画やテレビドラマに登場したオートバイがにわかに注目を浴びて伝説化する、なんていうのは昔からある現象。『ローマの休日』のベスパ、『大脱走』のトライアンフTR6、『西部警察』のカタナ1100、『トップガン』のニンジャ900、『ビューティフルライフ』のTW200……と、挙げ始めたらキリがない。そして昨今話題になっているのがホンダのホークCB250T。『東京卍リベンジャーズ』という漫画・アニメの影響だという。

ホークの市販開始は46年前の1977年。子供達はブラウン管テレビの中で歌って踊る沢田研二やピンク・レディーに熱狂し、お父ちゃんはスナックで歌詞本をめくりながら8トラックテープのカラオケで憂さを晴らし、学生はアップルIIの登場で「これからパソコンとかいう電子計算機が世の中を変えるらしい」とワクワクしていた時代だ。

その頃オートバイ編集部で車両運びや撮影手伝いのアルバイトをしていた僕は、ホークにも何度か乗っている。でも正直なところ、これといった印象は……ない。

当時は免許制度の関係から400ccモデルが圧倒的な人気で、250ccモデルは400cc車をベースにエンジンのボア×ストロークを縮めて排気量を減らす、という造り方が主流。現代の250ccロードスポーツモデルとは生い立ちが異なり、400ccモデルの「弟分」とか「お下がり」なんて言われていた。

画像: HAWK CB250T 1977年7月5日発売

HAWK CB250T
1977年7月5日発売

画像: HAWK-II(CB400T) 1977年5月25日発売

HAWK-II(CB400T)
1977年5月25日発売

ということで、「ホークII」のペットネームで登場したCB400Tに続いて登場した弟分が「ホーク」ことCB250T。初期型はホークIIが「コムスター」と名付けられたホンダ独自のホイールを履いていたのに対し、ホークは1インチ小さいスポークホイールだったから、さらにお下がり感が強かった。

初代のホークシリーズは丸みを帯びた車体デザインが不評で、「やかんタンクに大根マフラー、殿様乗りハンドルに座布団シート……。ホーク(鷹)じゃなくてポーク(豚)だろ!」と、さんざんな言われよう。あえてCB400Fourのカフェレーサースタイルとは異なるイメージを打ち出したメーカー側も、市場の反応に「やっちまった!」と思ったんだろうね。わずか10カ月後にマイナーチェンジを行ってタンク形状をガラッと変え、ホイールもコムスタータイプに替わった。

画像: HAWK CB250T(2代目) 1978年4月20日発売

HAWK CB250T(2代目)
1978年4月20日発売

ホークIIの走行性能は4気筒エンジンのCB400Fourを大きく越えていて、実に乗りやすくて意外なほど速かったけれど、250ccのホークは26PS/10000回転で、車重180kg(この頃はガソリンやオイルを抜いた乾燥重量表記)。お世辞にもスポーティとは言えない運動性能。現代のレブル250が26PS/9500回転で車重171kgだから推して知るべし。「速さ」が求められた時代だけに、ハッキリ言って売れなかったね。

 

ホークが一部で「バブ」と呼ばれる理由

「東リベ」の作中でホークが「バブ」と呼ばれているのは、その吸排気音が特徴的だったからなんだろう。ちょっと難しくなるけど、並列2気筒エンジンの場合、クランクシャフトの位相角は180度、270度、360度の3パターン。現在の並列2気筒エンジンを見ると、250ccは高回転まで軽やかに回る180度クランク、650cc以上では鼓動感とトラクションを得やすい270度クランクという不等間隔燃焼の位相角が主流。ホークが採用している360度クランクは、等間隔燃焼により低回転から安定したトルクを出せるのがメリット。

ただし2個のピストンが同時に上下する(単気筒エンジンを2個並べたイメージ)ので振動が大きく、これを打ち消すためにはエンジン内にバランサーと呼ばれる「重り」が必要。高回転/高出力化には不利だけど、市街地で扱いやすい特性なので現行車ではヤマハTMAX、カワサキW800、ベネリTNT249Sなどが採用している。

画像: HAWK CB250Tのエンジン

HAWK CB250Tのエンジン

で、360度クランクは等間隔燃焼だから排気音が揃う。スロットルを開けると「バ~ッ!」と弾ける音、閉じると「ブ~」とこもった音になり、スロットルを開閉すると「バァ~ブゥ~」って感じに聞こえるというわけ。

しかも当時は騒音規制がユルユルで、ノーマル状態でも吸気・排気とも音量が大きかったし、東リベに登場するような仕様なら、さぞかし「バァ~ブゥ~」サウンドが際立ったことだろうね。ホーク/ホークIIの発売当時は誰も「バブ」なんて呼んでいなかったはずだけど、今聞くと妙に納得できちゃいます。

文:太田安治

画像: 【動画】Honda Collection Hall 収蔵車両走行ビデオ HAWK CB250T(1977年) www.youtube.com

【動画】Honda Collection Hall 収蔵車両走行ビデオ HAWK CB250T(1977年)

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