オートバイのドライブチェーンで世界No.1のシェアを誇る日本の企業を知ってる? それは石川県加賀市に本社を置く大同工業の「D.I.D」チェーンだ。今回は、D.I.Dのマイスターにバイク用ドライブチェーンの疑問質問を答えていただいた。広大な工場も見学してきたよ。MotoGP用チェーンの秘密から純正チェーンの舞台裏まで! 知ってトクするチェーンのウンチクを大公開!
まとめ:オートバイ編集部/写真:関野 温
  1. 【Q&A】二輪用チェーンに関する23の質問・疑問
画像: 今回取材に協力していただいたのは、大同工業株式会社M&S本部モビリティー営業部補修営業課・大石義次氏(写真左)、大同工業株式会社モビリティー製造部チェーン製造課・山川翼氏。

今回取材に協力していただいたのは、大同工業株式会社M&S本部モビリティー営業部補修営業課・大石義次氏(写真左)、大同工業株式会社モビリティー製造部チェーン製造課・山川翼氏。

「D.I.D」とは?

大同工業はとても歴史のあるチェーンメーカーなのだ

バイク乗りなら一度は「D.I.Dチェーン」を耳にしたことがあるだろう。市販チェーンはもちろんのこと、純正チェーンとしても採用されるD.I.Dは世界一のシェアを誇る日本の企業だ。D.I.Dの歴史は古く、1933年に「国益チエン株式会社」として石川県で創業し、いまでは二輪、四輪、産業用チェーンをはじめ、二輪のホイール、ホイールリム、ハンドルなども製造する歴史のある会社なのだ。今回はJP北陸本線 大聖寺駅の目の前に広大な敷地面積を持つ本社工場を訪れた。

敷地内に建つ歴史を感じさせる風貌の資料館には、貴重な部品や資料などが展示されている。二輪工場は、そこからクルマで5分くらい離れた場所にあり、24時間フル稼働で国内外向けのチェーンが生産されている。

ピンやシールなどの細かい部品で構成され、さらに強度やフリクションレスが求められる精密な部品だけに、切断、焼き入れ、研磨などの高い技術力をまじまじと確認することができた。

画像: 長い歴史を感じさせる建物のチェーン工場と本社は、JR北陸本線の大聖寺駅の線路沿いに建っている。

長い歴史を感じさせる建物のチェーン工場と本社は、JR北陸本線の大聖寺駅の線路沿いに建っている。

画像: D.I.Dはチェーンだけではなく、純正ハンドルも作っている! ホンダ・アフリカツインには、D.I.Dのチェーンはもちろんのこと、アルミテーパーハンドル、前後アクスルシャフト、前後ホイールリム、前後スポークなど、多数のパーツが純正採用されている。

D.I.Dはチェーンだけではなく、純正ハンドルも作っている!

ホンダ・アフリカツインには、D.I.Dのチェーンはもちろんのこと、アルミテーパーハンドル、前後アクスルシャフト、前後ホイールリム、前後スポークなど、多数のパーツが純正採用されている。

【Q&A】二輪用チェーンに関する23の質問・疑問

Q.1 バイクのチェーンはどんな素材でできているの?

A.二輪用チェーンは特性上、特殊鋼が使われている

二輪用のチェーンは通常の鉄よりも強度のある特殊鋼でできている。しかし、チェーンを構成するプレート、ローラー、ピン、ブシュに使われている特殊鋼はそれぞれ種類が異なり、適材適所の素材が使われている。以前は、マフラーに使われている「チタン」などもレース用チェーンへの使用をテストしていた時期もあったが、特殊鋼よりも靭性が弱く破断する性質もあるため、今は使用されていない。

画像: 巨大なロール状の鉄板からプレートが生産される。

巨大なロール状の鉄板からプレートが生産される。

画像: 見てのとおり、ひょうたん型のチェーンプレートが打ち抜かれた後の鉄板。資源保護とロスを考慮し、無駄がないように計算されて打ち抜かれている。

見てのとおり、ひょうたん型のチェーンプレートが打ち抜かれた後の鉄板。資源保護とロスを考慮し、無駄がないように計算されて打ち抜かれている。

画像: 打ち抜かれたプレートは1カ所に集められ、検査員によって既定の穴が開けられているかを定期的に確認される。

打ち抜かれたプレートは1カ所に集められ、検査員によって既定の穴が開けられているかを定期的に確認される。

ピンは太い針金状のロールを適切な太さにまで引き伸ばしながら生産され、ほとんどの工程がオートメーション化されている。

画像1: バイクの「チェーン」について知っておきたい23のこと|メンテナンス方法・交換時期・おすすめの選び方をプロに聞いてみた!
画像2: バイクの「チェーン」について知っておきたい23のこと|メンテナンス方法・交換時期・おすすめの選び方をプロに聞いてみた!
画像: Q.1 バイクのチェーンはどんな素材でできているの?

Q.2 チェーンはどんな部材で構成されているの?

A.シールチェーンは5つの部品で構成されている

大まかにチェーンは5つの部品で構成されている。

1つ目は「プレート」。これは「内プレート」と「外プレート」で構成され、ピンと共に荷重を支える。

2つ目は「ピン」。これは内と外のプレートにかかる全荷重を支えるため、せん断や曲げ、衝突等に耐える硬い材質が使われ、リンクの屈曲と軸としての役目をする。

3つ目は「ブシュ」。これはピンを支える軸受けとなる。

4つ目は「ローラー」。これはスプロケットの歯と噛み合う部分なので、衝撃吸収とブシュやピンをワレや異常磨耗から保護する役目を担う。

5つ目は「シールリング」。ピンとブシュの間に封入されているグリスは、ピンとブシュの間を潤滑することで磨耗抵抗を下げ摩擦を防ぐ。これを保持するのがシーリング。

画像: Q.2 チェーンはどんな部材で構成されているの?

X-Ring®とは?

画像: D.I.Dが独自開発した「X-リング」は、4カ所のシールポイントでグリス抜けを防止する。これにより、Oリングに比べて約50%の低フリクションを実現する。

D.I.Dが独自開発した「X-リング」は、4カ所のシールポイントでグリス抜けを防止する。これにより、Oリングに比べて約50%の低フリクションを実現する。


Q.3 チェーンサイズの数字の意味を教えて

A.チェーンサイズは3桁の数字で表示される

チェーンサイズは3桁の数字で表示され、上一桁が長さ(ピッチ)、下二桁は内プレートの幅を意味する。たとえば520・525・530は全て同じピッチ長だが、それぞれ幅が異なる。このとき使われる「長さ」とはピッチのことで、1インチ(25.4mm)を8等分している。つまり「5」とは5/8インチの5(15.875mm)を意味する。4は、4/8インチの4(12.7mm)を意味する。

画像: Q.3 チェーンサイズの数字の意味を教えて

Q.4 チェーンのリンク数とはなんですか?

A.ひょうたん型のプレート1枚が1リンク

リンク数とはコマ数とも呼ばれ、内プレートと外プレートの枚数のことを言う。つまり、ひょうたん型の内プレートと外プレートで構成されるチェーン全体の長さを表した数を意味する。リンク数が分からない場合、ピンの数でリンク数を数えることもできる。

画像: チェーン交換するときは必ず指定されているリンク数を守ろう。1リンクでも少ないと短すぎて装着できなくなる可能性がある。

チェーン交換するときは必ず指定されているリンク数を守ろう。1リンクでも少ないと短すぎて装着できなくなる可能性がある。


Q.5 どんなチェーンを選べばいいの?

A.排気量にあったチェーンの選択が一番大事

現在使われているチェーンサイズは、420、428、520、525、530の5種類。昔は極太の630サイズも一部の旧車に存在したが、今は使われなくなった。420と428サイズは50cc~125ccの小型車両。520は中型車両まで、525は中型車両以上、530は大型車両となる。ちなみに近年のリッタースーパースポーツには、525サイズが純正採用されている。

そしてD.I.Dの商品ラインアップは、大まかに公道用・公道上級用・レース用の3種類。ツーリングがメインなら小型車両から大型車両まで「VXシリーズ」で問題ない。たまにサーキットを走ったり、1000cc以上のメガクルーザーならプレミアムチェーンの「ZVM-Xシリーズ」が最適。VXシリーズとZVM-Xシリーズの違いはプレートの厚さで、同じサイズでもZVM-Xシリーズの方が、VXシリーズより厚みがあるので強度は増すが、その分重量も増す。

たとえば250ccにZVM-Xシリーズを装着するとチェーンが重くなるので、エンジン性能をスポイルしてしまうのだ。またハイクラスチェーンだからと言って耐久性が向上することもないので、排気量に合ったチェーン選びが一番大切なのだ。

画像: ツーリング派に最適な「VXシリーズ」は、428・520・525・530を設定。カラーはゴールド・シルバー・スチールの3色。

ツーリング派に最適な「VXシリーズ」は、428・520・525・530を設定。カラーはゴールド・シルバー・スチールの3色。

画像: ミドルクラスとリッタークラスを中心とした「ZVM-Xシリーズ」は、520・525・530を設定。3色の他にブラックを用意。

ミドルクラスとリッタークラスを中心とした「ZVM-Xシリーズ」は、520・525・530を設定。3色の他にブラックを用意。

画像: 写真はレース用チェーン「520ERV7」で、全日本や鈴鹿8耐などのマシンが装着する。VXやZVM-Xよりも寿命は短い。

写真はレース用チェーン「520ERV7」で、全日本や鈴鹿8耐などのマシンが装着する。VXやZVM-Xよりも寿命は短い。


Q.6 レース用チェーンと公道用チェーンは何が違うの?

A.レース用は軽量で低フリクションだが、その分、寿命も短い

D.I.Dの「520ERV7」は、全日本ロードレース選手権をはじめ、鈴鹿8耐やスーパーバイク世界選手権などでも使用されている最新のレース用チェーンだ。サイズは520のみで公道用の520チェーンと比べるとプレートが大きくなっているが、ピンの中心を削ることで公道用チェーンよりも軽量で、フリクションが発生しにくい設計になっている。そのため寿命が短いのも事実。「高性能だが寿命が短いレース用」、「性能は必要十分で寿命を重視したストリート用」という区別だ。

ちなみに全日本選手権に出場しているマシンは、走行距離約500km、つまり1レースごとに交換しているそうだ。今では当たり前になった電子制御システムが採用されはじめた頃、チェーンが片伸びする現象が報告されるようになったと言う。コーナーの立ち上がりでアクセル全開にしたとき、CPUは点火などを制御して最適なアクセル開度に調整している。CPUがアクセルの全開・全閉を繰り返しながら制御することが、チェーンのローラーなどに計り知れないほどのダメージを与えていたことが判明したという。この問題を解決するために仕様や材質を変更してレースで試し、問題がなければすぐに市販品にフィードバックしてきたそうだ。

画像: 最新レース用チェーン「520ERV7」は、軽量化を考慮してサイズは520サイズのみ。プレートは市販用の520サイズより若干薄く、ピンの端も肉抜きされている。

最新レース用チェーン「520ERV7」は、軽量化を考慮してサイズは520サイズのみ。プレートは市販用の520サイズより若干薄く、ピンの端も肉抜きされている。


Q.7 MotoGPマシンはどんなチェーンを使ってるの?

A.超精密なMotoGP専用「鍛造チェーン」を提供している

D.I.DはヤマハのMotoGPチームに専用チェーンを供給している。専用チェーンのプレートは鍛造で製作することで軽量化と高剛性を両立し、300馬力以上もあるモンスターマシンにもかかわらず520サイズが使用されている。鍛造はとにかく手間がかかるのと、それ専用の精密な金型も作らなければならない。

さらに内プレートはスプロケットと噛み合う部分なので、その抵抗を減らすために面取りされるだけでなく、シール部分を丸く削るなど、コスト度外視で開発されている。その代わり使用したチェーンはすべて回収し、分解調査が行われ市販品にフィードバックされる。もしこのチェーンを発売するとしたら、10万円くらいの価格になるそうだ。

画像: Q.7 MotoGPマシンはどんなチェーンを使ってるの?

MotoGP専用に開発されたチェーン。モンスターエンジンを搭載しながら520サイズと言うのは驚きだ。とにかく限界まで肉抜きされた裏表の鍛造プレート形状に注目だ。

画像3: バイクの「チェーン」について知っておきたい23のこと|メンテナンス方法・交換時期・おすすめの選び方をプロに聞いてみた!
画像4: バイクの「チェーン」について知っておきたい23のこと|メンテナンス方法・交換時期・おすすめの選び方をプロに聞いてみた!

Q.8 新車に使われている純正チェーンと市販チェーンは違うの?

A.純正チェーンと市販チェーンは、まったくの別物

純正採用されるチェーンは、その車両専用に作られている。車両に対して必要な性能とコストをバランスさせたチェーンとなっているのに対し、市販チェーンは様々な車両に装着されることを想定して、純正チェーンよりもおおよそ20%程度性能を向上させており、より強度の高い部品が使用されている。

画像: Q.8 新車に使われている純正チェーンと市販チェーンは違うの?

Q.9 メッキ加工されたチェーンは何がいいの?

A.性能は変わらないがメッキはサビを抑制してくれる

メッキは薄い皮膜ながらとても強固なのが特徴で、さらにサビの発生も抑制してくれる。メッキの有る無しで性能は変わらないので見た目と好みの問題。基本的に純正チェーンはコストの関係でメッキ加工はされていないので、防錆性や耐久性を考慮するなら市販のメッキチェーンに交換するのがいいだろう。

画像: スチール・シルバー・ゴールドの3色展開のD.I.D「VXシリーズ」。ブラックはZVM-Xシリーズのみ。

スチール・シルバー・ゴールドの3色展開のD.I.D「VXシリーズ」。ブラックはZVM-Xシリーズのみ。


Q.10 ブラックチェーンはどのような特徴があるの?

A.防錆効果もあるがカスタム的な要素が強い

D.I.Dのブラックチェーンは、防錆加工の上に黒い塗料で焼き付け塗装されている。強度や性能は他のモデルと変わらないので、ドレスアップ要素が強い。ちなみにレースでは塗装されたチェーンは厚い被膜が重量増につながるのであまり使用されない。

画像: D.I.D「ZVM-Xシリーズ」のブラックチェーンはメッキ加工ではなく、焼き付け塗装されている。

D.I.D「ZVM-Xシリーズ」のブラックチェーンはメッキ加工ではなく、焼き付け塗装されている。


Q.11 既定のチェーンサイズから変更してもいいの?

A.サイズダウンすると運動性能は向上するが負担も増大する

530から520サイズへコンバートすると運動性能は飛躍的に向上するが、レース以外での使用は推奨しない。530から520へ変更するとチェーンとスプロケットで約20%も軽量化でき、また回転部分のジャイロ効果も低減されることからコーナーでの切り返しが軽快になり、車両の運動性能が向上する。

しかし、チェーン幅が狭くなるので、スプロケットにかかる面圧は高くなる。たとえるならスプロケットの歯を3本指で押していたのが、1本指で押すようになるので同じ馬力でもチェーンにかかる面圧が高くなる分、スプロケットの摩耗が早くなる。また摩耗したスプロケットがチェーンを攻撃するので相対的に寿命が短くなるのだ。D.I.Dの社内テストでは約30%~50%も寿命が短くなった例もあるそうだ。

画像: 上から520・525・530サイズ。長さは同じでも横幅が異なるので、サイズダウンするとチェーンの負担も大きくなる。

上から520・525・530サイズ。長さは同じでも横幅が異なるので、サイズダウンするとチェーンの負担も大きくなる。


Q.12 「チェーンが伸びる」とはどのような状態なの?

A.ピンとブシュが摩耗して隙間が発生することを言う

「チェーンが伸びる」とは、チェーンのプレートが伸びるのではなく、屈曲の摺動によりピンとブシュが摩耗して隙間ができることで「伸び」が発生する。たとえば1コマあたり0.1mmの隙間ができると、100リンクのチェーンでは1cm伸びたことになる。この1cmの伸びがアクセルレスポンスに悪影響を及ぼし、ライダーの思うような走りをスポイルする。

新品チェーンは「初期伸び」が発生するので、500〜1000kmで張りを調整する必要がある。現在のチェーンは昔のチェーンとは異なり、生産時にある程度の力でチェーンを引っ張りながら生産しているので、伸びにくくなっている。

画像: Q.12 「チェーンが伸びる」とはどのような状態なの?

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