2022年7月、ドゥカティは来シーズンからMotoEに採用される「V21L」プロトタイプのスペックを公開しましたが、プレス向けのプレゼンテーションの場で同社CEOのクラウディオ・ドメニカリは、カーボンニュートラルな製品造りへの手法は「電気」以外の道も模索していることを明かしました。
文:宮﨑健太郎(ロレンス編集部)
※この記事は「ロレンス」で2022年8月6日に公開されたものを転載しています。

ドゥカティが考える、カーボンニュートラルへの"3つ"の選択肢

初年度の2019年から、電動車によるロードレースシリーズ「MotoE」にワンメイク競技車両を提供してきた伊エネルジカが2022年限りでMotoEから撤退し、代わりに伊ドゥカティが2023〜2026年の間、MotoEのプロバイダになるというニュースが世の中を驚かせたのは昨年10月のことでした。

ドゥカティがMotoEプロバイダに名乗りをあげたのは、MotoEマシン開発をとおして電動バイク作りの技術開発の促進とノウハウ蓄積がそのねらいですが、先日の「V21L」に関するプレス向けプレゼンテーションの場でCEOのクラウディオ・ドメニカリは、ドゥカティのカーボンニュートラルへの模索の道は、電動だけではないと語りました。

画像: 開発中のドゥカティV21Lプロトタイプ。同社はこれまでの歴史のなかで、レース活動を積極的にR&D、そしてプロモーションに利用してきました。電動バイク開発についても、その伝統は不変といえるでしょう。 www.ducati.com

開発中のドゥカティV21Lプロトタイプ。同社はこれまでの歴史のなかで、レース活動を積極的にR&D、そしてプロモーションに利用してきました。電動バイク開発についても、その伝統は不変といえるでしょう。

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2008年創設の人気ウェブメディア、アスファルト&ラバーの記事によると、C.ドメニカリは電動バイクのほか、eフューエル(再生可能エネルギーなどによる可燃性燃料)、そして燃料電池やICE燃料としての水素を3つの選択肢として考えていることを明かしています。

C.ドメニカリは、燃料としての「水素」のファンなのかもしれませんね!?

eフューエルについては、ドゥカティが参戦しているロードレースシリーズの最高峰「MotoGP」が、2024年から40%、2027年以降は100%のeフューエルを使用することが決まっています。当然ドゥカティはこのルール変更をにらんで、eフューエルで高性能を引き出せるICE研究を進めているでしょう。

ドメニカリの発言のなかで、何よりも驚かされるのは水素燃料を使ったICEを選択肢のひとつにしている点でしょう。水素燃料電池の活用は世界中の多くの自動車メーカーが放棄していない選択肢といえますが、水素をエンジンの燃料として使うことは日本のメーカーしか興味なさげなのが、今明らかになっている現状といえるでしょう。

クラウディオ・ドメニカリ(ドゥカティ・モーター・ホールディングCEO)
「水素を従来のエンジンで燃焼させることは、モータースポーツファンにとって非常に興味深いことです。日本のメーカーもテストをしているし、我々も経験を積んでいるので、とても興味深い分野です」

ドメニカリは「水素はとてもいい燃料です」と、そのポテンシャルを前向きに評価しています。そして「時には良すぎる・・・というのも、すぐに火が着くので、なかなか大変です」と水素ICE開発の難しさに触れつつも、「水素を燃焼させたピストンを観察すると、非常にクリーンでどこにもカーボンの残骸を見ることはありません」と、水素燃料ICEは汚染物質の排出が少ないだけでなく、燃焼室内をクリーンに保ちメンテナンスが容易な点が魅力であることを主張しています。

画像: ドゥカティのCEOであるC.ドメニカリ(左)は、ボローニャ大学を卒業し機械工学の学位を取得。1991年にドゥカティ入社後に順調にキャリアを積み上げ、1999年に同社レース部門のドゥカティ・コルセCEOとなります。2013年のアウディによるドゥカティ買収後に、CEOに就任しました。 www.ducati.com

ドゥカティのCEOであるC.ドメニカリ(左)は、ボローニャ大学を卒業し機械工学の学位を取得。1991年にドゥカティ入社後に順調にキャリアを積み上げ、1999年に同社レース部門のドゥカティ・コルセCEOとなります。2013年のアウディによるドゥカティ買収後に、CEOに就任しました。

www.ducati.com

着火エネルギーが低く、燃焼範囲が広く、消炎距離の短いというのがICE燃料としての水素の特性ですが、ドメニカリは「水素は燃焼が速いので、高回転のエンジンにはとても向いています」とやはり前向きに水素を燃料として高く評価しています。

大きなマーケットであるEU圏では、EU議会とEU委員会が2035年から4輪ICE車の新車販売禁止を支持していることが昨年話題になりましたが、ドメニカリは2輪ICE車に関してはメーカーの経験と技術蓄積をベースに、将来の法律・政策に影響を及ぼすことができると考えているようです。

クラウディオ・ドメニカリ(ドゥカティ・モーター・ホールディングCEO)
「つまり、さまざまなオプションがあるということです。ですから私たちはEU委員会に、カーボンニュートラルを目指しますが、それぞれの車両に最適なオプションを選択させてくださいと伝えようとしているのです」

カーボンニュートラル時代のドゥカティの"戦略"に、注目しましょう!

上述のドメニカリの引用コメントのなかで気になるのは、水素燃料のICEについて「我々も経験を積んでいる」という部分です。これはドゥカティ内の話なのか、それともアウディ含むVW=フォルクスワーゲングループ全体の話・・・なのでしょうか?

MotoE用のV21L開発に関して、VWグループの電動技術を活用していることはすでに明らかになっています。しかし水素については、VWグループの水素燃料電池車開発の話はいろいろありますが、水素燃料ICEについては積極的に取り組んでいるという話は聞きません。

画像: アウディのコンセプトモデル「h-tronクワトロ」。最高速は200km/hで、600kmの航続距離をマークする水素燃料電池車です。 www.audi.com

アウディのコンセプトモデル「h-tronクワトロ」。最高速は200km/hで、600kmの航続距離をマークする水素燃料電池車です。

www.audi.com

VWグループの意向を無視して、ドメニカリが自由に采配できるわけではないのはわかりますが、ともあれ、ドゥカティのCEOが電動車以外のカーボンニュートラルへの選択肢として、水素燃料ICEに関心を持っているというのは・・・「エンジン好き」の人にとっては嬉しいニュースに違いないでしょう。

パイクスピークの2輪部門が停止中の今、MotoE以外の電動車によるメジャーなロードレースといえばマン島TTの1カテゴリーである「TT-ゼロ」が上がりますが、来年2023年には再開されないことがすでに明らかになっています。そしてマン島政府の現財務大臣のアレックス・アリンソンは、2021年12月のメディアのインタビューに対し、2024年のTT-ゼロ再開を検討していること・・・そして電動車だけでなく水素を燃料とする2輪車についても言及しています。

かつてドゥカティは、マイケル・ラッターの父であるトニー・ラッターによるマン島TT・TT-F2での活躍で、パンタ系モデルの開発とプロモーションに成功した経験を有しています。もし再開したTT-ゼロに水素燃料車の参加が認められるのであれば、ドメニカリの鶴の一声で開発した"ハイドロ-ドゥカティ"の参戦を期待したいですね! これはカンペキに、妄想に近い願望ですけど・・・(苦笑)。

文:宮﨑健太郎(ロレンス編集部)

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