現在、電動バイクプロジェクトの「TE-1」を進めている英国のトライアンフが、同じく英国に本拠を置くトライアル用などの電動車を製造販売するメーカー、OSET(オゼット)を買収したことを公表しました! オンロード用モデルをメインに製造するトライアンフが、オフ寄りのブランドであるOSETを傘下におさめた、その意図はどういうものなのでしょうか・・・?
文:宮﨑健太郎(ロレンス編集部)
※この記事は「ロレンス」で2022年6月22日に公開されたものを転載しています。

創設者の息子の名が入った、OSETのブランドは存続する方針とのこと

そもそもOSETは、創設者のイアン・スミスが息子のオリバーのために、電動車を作ったことがきっかけで生まれたブランドです。イアンはトライアルDVD製造販売などのビジネスをするほどの熱心なトライアル愛好家で、その血をひいたオリバーが近い将来に自分用のバイクをきっと欲するようになるだろうと考えました。

その考えは、イアンにとってはひとつのプレッシャーになりました。当時のイアンの目には、市場には貧弱な足まわりの安っぽい子供用モデルしかないように映ったのです。市場になければ、それを作れば良い・・・2004年、息子にふさわしいバイクを作ろうとイアンは思い立ち、電動トライアル車のコンセプトを描きました。

イアンは電動スクーターや電動マイクロモビリティの動力を使って、小さな電動トライアル車を作るという自身のアイデアを、トライアル仲間で引退したエンジニアのマイク・ブッフホルツに相談。そして最初の1台は、オリバーが3歳3ヶ月のときに完成しました。

画像: OSETの電動車、3〜5歳対象の12.5レーシング。3歳だったオリバー・スミスが最初に手にしたOSETは、現行モデルであるこの12.5レーシングの原型でした。 osetbikes.com

OSETの電動車、3〜5歳対象の12.5レーシング。3歳だったオリバー・スミスが最初に手にしたOSETは、現行モデルであるこの12.5レーシングの原型でした。

osetbikes.com

幼いオリバーは自身の名が入ったOSET(オリバー・スミス・エレクトリック・トライアルの意味)に完成初日から乗り、その1週間後には初めてのトライアル競技に参加しました!! 開発ライダー役をオリバーがつとめることでイアンたちはOSETを熟成させることになりますが、その流れからイアンらは会社を設立したり、特許や商標を取得したりしつつ、OSET市販の道を整備することになりました。

画像: 8歳以上対象の電動モデル、OSET 20.0R MKⅡ。OSET登場以降、英国のモータースポーツを統括するACUのユースメンバーはそれ以前より300%も増加!! 英国ではOSETカップ戦が開催されており、10歳以下の大会ではICE搭載車の参加比率が極めて低くなる・・・という現象を起こしています。 osetbikes.com

8歳以上対象の電動モデル、OSET 20.0R MKⅡ。OSET登場以降、英国のモータースポーツを統括するACUのユースメンバーはそれ以前より300%も増加!! 英国ではOSETカップ戦が開催されており、10歳以下の大会ではICE搭載車の参加比率が極めて低くなる・・・という現象を起こしています。

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質素なファミリービジネスとしてスタートしたOSETですが、現在ではブライトン大学と協力してテスト体制を整えたりと、かなり洗練された開発環境を構築するメーカーに成長。そして世界25カ国以上に販売網が構築されており、今まで4万台以上の製品を販売した実績を誇ります。

なおトライアンフ買収後もOSETのブランドは存続し、従来どおり電動トライアル車およびオフロード車の製造販売は継続されるとのことです。既存のOSETユーザー、そしてOSET製品に興味ある人たちにとっては、このステートメントを聞いてホッとしたことでしょう。

オフロードと電動・・・一石二鳥の効果をねらったもの、と推察されます

先述のとおりトライアンフは電動プロジェクトの「TE-1」を進めており、すでに最終フェイズ4・・・試験フェイズまで進捗していることが明らかになっています。また今年の7月12日には、TE-1最終プロトタイプの動力性能や航続距離、そして充電性能などのスペックほか詳細を公にすることを予告しております。

画像: Project Triumph TE-1 | Electric Prototype Completes Final Testing | Tease Trailer www.youtube.com

Project Triumph TE-1 | Electric Prototype Completes Final Testing | Tease Trailer

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トライアンフが独自にTE-1という電動車開発を進める一方で、すでに電動業績での実績を積み上げているOSETを買収するねらいは、どこにあるのでしょうか? それは「オフロード」と「電動」という、今後トライアンフにとって重要になっていくと思われる、2つのジャンルへの高い効果を期待してのものでしょう。

2020年にトライアンフは、モトクロスとエンデューロという分野への新規参入に向け、開発を進めていることを公表しました。アドベンチャーやスクランブラーといったモデルを除けば、オンロードモデルがラインアップの中心だったトライアンフが、世界中のメーカーがしのぎを削る激戦区である「オフロード」の分野に、殴り込みをかけるという報は世界を驚かせました。

画像: トライアンフは2020年、新型車を開発してモトクロスおよびエンデューロ両方の、最高峰の選手権へ挑戦することを表明。開発のために、エンデューロ世界チャンピオンに5回輝いたイヴァン・セルバンテス(左)と、米国AMAモトクロスのレジェンドライダーであるリッキー・カーマイケルの両者を迎え入れました。 www.triumphmotorcycles.jp

トライアンフは2020年、新型車を開発してモトクロスおよびエンデューロ両方の、最高峰の選手権へ挑戦することを表明。開発のために、エンデューロ世界チャンピオンに5回輝いたイヴァン・セルバンテス(左)と、米国AMAモトクロスのレジェンドライダーであるリッキー・カーマイケルの両者を迎え入れました。

www.triumphmotorcycles.jp

トライアンフは、OSET買収はオフロードセグメント参入戦略の一環と説明しています。モトクロスおよびエンデューロの選手権用モデルはICE搭載車と予想されますが、キッズ向けのオフロードモデルについてはOSETとの共同開発で電動モデルをラインアップすることになるのでしょう。

ニック・ブロア (トライアンフCEO)
「私たちは、OSET Bikesと協力する機会を得てとても感動しています。OSET Bikesは、長年にわたり子どもたちをモーターサイクルの世界に導いてきたダイナミックなブランドであり、遊びや競技に使える電動トライアルバイクの開発で最先端を走ってきました。
今後も2つのブランドはそれぞれ独立して活動していきますが、トライアンフとOSETは、若いライダーをオフロードライディングに駆り立てる最先端の新製品を双方の強みを生かして共同開発し、世界最高のモーターサイクルを製造していきます」

イアン・スミス(OSETバイクスCEO)
「初めて息子のオリバーに『ガレージ』でバイクを作ったとき、それがこのような機会につながるとは思いもしませんでした。トライアンフファミリーの一員としてOSETの将来がどうなるのか、私たちは皆とても楽しみにしています。
OSETブランドは今後もOSETとして存続し、引き続きトライアルやオフロードバイクのコミュニティーに貢献していきます。トライアンフがOSETに提供できるスケールメリットと市場での地位を活用しながら、当社製品全体の開発と革新を行うことができるより良い体制が整いました」

英国などでのOSETの成功が示すとおり、今後子供向けモトクロス/トライアル車両のカテゴリーでは、静粛性に優れ、メンテナンスが楽な電動モデルの普及が進むことが予想されます。子供たちが初めて乗るモデルは、その子供たちに「ブランドへの忠誠心」を刷り込む役割を果たす重要な製品ですので、ライバルたちから大幅に遅れるもののこれからオフロードに新規参入するトライアンフとしては、子供向け電動車の世界で実績を持つOSETを傘下におさめるメリットは非常に大きいです。

画像: カワサキが先日公開した、子供向け電動バランスバイク「エレクトロード」。ホンダやインディアンが新興電動ブランドと組んで子供向け電動車をリリースしたり、もともと電動専科のCAKE(ケーキ)が子供向けのバランスバイク、eバイク、そしてキッズモトクロッサーを用意したりと、近年は各社が次世代を担う「子供たち」をターゲットにした戦略を、活発に展開するようになっています。 www.kawasaki.com

カワサキが先日公開した、子供向け電動バランスバイク「エレクトロード」。ホンダやインディアンが新興電動ブランドと組んで子供向け電動車をリリースしたり、もともと電動専科のCAKE(ケーキ)が子供向けのバランスバイク、eバイク、そしてキッズモトクロッサーを用意したりと、近年は各社が次世代を担う「子供たち」をターゲットにした戦略を、活発に展開するようになっています。

www.kawasaki.com

近い将来には、今回の買収の産物としてトライアンフのロゴ付けた電動キッズモトクロッサーが市場に並ぶことになるのでしょう。それがシンプルにトライアンフロゴを付けた既存のOSET製品なのか、それとも共同開発によって生み出されたまったくの新型車(トライアンフおよびOSETの、それぞれのロゴを付けた製品)なのかは現時点ではわかりませんが、どのような「子供向けトライアンフ」が登場するのか・・・その日を楽しみに待ちたいです。

文:宮﨑健太郎(ロレンス編集部)

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