今やロングツーリングバイクのカテゴリーと言えばすぐにアドベンチャーが頭に浮かぶ。けれど、かつてロングツーリングバイクといえば大排気量ヨンパツ、と相場が決まっていたのだ。恐竜は、絶滅するのか。大艦巨砲は、健在なのか。
文:中村浩史/写真:松川 忍
画像: YAMAHA FJR1300AS 総排気量:1297cc エンジン形式:水冷4ストDOHC4バルブ並列4気筒 シート高:805/825mm 車両重量:296kg 税込価格:187万円

YAMAHA FJR1300AS

総排気量:1297cc
エンジン形式:水冷4ストDOHC4バルブ並列4気筒
シート高:805/825mm
車両重量:296kg

税込価格:187万円

日本の大排気量ツーリングバイクの歴史

時代がFJに追いついた
高速道路、2人乗りのビッグバイク

ネイキッドにスーパースポーツ、オフロードバイクにアドベンチャー。そして日本には「ツーリンバイク」というカテゴリーがある。文字通りロングツーリングが得意なオートバイで、大排気量、マルチエンジンモデルというイメージが強いカテゴリーだ。

日本にビッグバイクが生まれたのが1969年のホンダCBナナハンだとすると、その頃は「世界最速のオートバイ」を作りたいという覇権争いが繰り広げられていた時代。カワサキはZ1、スズキはGS1000、そしてヤマハはXSイレブンがライバルだった。

画像: ホンダ「CB750Four」 www.autoby.jp

ホンダ「CB750Four」

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そしてロングツーリングに特化したオートバイが生まれたのは、やはりカウル付きモデルがきっかけだろう。

国産ビッグバイクのツーリングカウル付きモデルの発祥は、1980年デビューのGL1100インターステーツで、しばらくはアメリカ向けにホンダ・アスペンケードやスズキ・カバルケード、カワサキ・ボイジャー、ヤマハ・ベンチャーロイヤルといったモデルが続々と誕生。ビッグカウルにキング&クイーンシート、パニアケースやラジオを標準装備した大陸弾道ツーリングバイクたちだ。

その熱気がヨーロッパに伝わっていったのは1980年代中盤。カワサキがZシリーズの最高峰モデルGPZ1100を発表すると、スズキはGSX1100EF、ホンダはVF1000Fを投入。ここにライバルとして登場したのが、ヤマハの高速クルーザーFJ1100だったのだ。

ヤマハ「FJ1100」

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セカンダリーロード、つまり日本で言うバイパスや幹線道路を2人乗りで素早く走り抜ける操縦性と、アウトバーンでの安定性──。1984年登場のFJ1100は、操作性と安定性の両立という考え方を、ヤマハで開発に初めて織り込んだモデルだったという。1986年には1200化され、1987年にはFZR1000という強力なスポーツツーリングも発売されたが、FJ1200のラインアップは続けられた。

そして日本のオートバイ事情と言えば、オーバーナナハンの国内販売が可能となり、1991年にはFJ1200の国内販売もスタート。1996年には大型二輪免許が教習所で取得できるようになり、2005年には高速道路のタンデムも一部解禁となった。時代が、一気にFJに追いついてきたのだ。

そしてトップofスポーツツーリングことFJがバージョンアップ。FJのコンセプトをさらに進化させ、水冷1300ccエンジンを搭載したモデルが、FJR1300だ。

画像1: FJR1300AS

FJR1300AS

日本では正当に評価されなかった唯一無二のロングツーリングバイク

名車ぞろいのヤマハビッグバイクにあって、FJ1100/1200は、日本では正当な評価をされてはいないモデルだと思う。というより、このビッグツーリングは、さほど知られていない存在だったと言っていい。

実は筆者も、ほとんどの国産モデルに試乗しているつもりなのに、FJは後期型の1200cc日本仕様に数えるほどしか乗ったことがない。低重心、圧倒的な安定性のある、トルクあるエンジンのツーリングバイクだったなぁ──くらいの印象しかないのだ。

というのも、実はこの頃のツーリングバイクと言えば、ホンダCBR1000FやZZ-R1100、後にCBR1100XブラックバードやZX-12R、そしてハヤブサといったあたりが目立っていて、FJ1200はそう注目される存在ではなかったのだ。

その後継モデルたるFJR1300も、2001年のデビュー当初は、ヨーロッパ向けのツーリングモデルだと解釈され、やはり日本では「知られざる強豪」だった。専用設計の水冷4気筒1300ccエンジンを搭載し、タンデムでのロングツーリングにも対応する、ヨーロッパではスポーツGTとまで呼ばれていたモデルだ。

画像2: FJR1300AS

FJR1300AS

FJRはその後、2003年にABS装着車をモデル追加し、2006年にはクラッチワーク不要のYCC-Sも追加。スクリーンの可動範囲を拡大し、ミドルカウルも可変で、ハンドル&シート高も簡単に変えられ、前後連動ブレーキも採用した、インテリジェント・ハイパフォーマンスツアラーへと進化。

そして2013年には国内販売もスタート。この2013年モデルからスロットルバイワイヤ方式となって、トラクションコントロール、クルーズコントロール、パワーセレクトも追加。果たして日本で実力をフルに発揮できるのか、というほどロングツーリング性能を充実させたモデルとして日本に登場したのだ。

画像3: FJR1300AS

FJR1300AS

1000ccをゆうにオーバーするマルチエンジンツーリング──。FJRのライバルと言えば、ハヤブサやCB1300SB、生産は終了してしまったがZX-14Rと言ったところだろう。ZX-14Rは生産終了され、ニンジャ1000やH2 SXにとってかわられるように、時代はどんどんダウンサイジングに流れている。そして、FJRも誕生20年でついにファイナルエディションが発表され、生産終了がアナウンスされてしまった。

消えるには、あまりにも惜しい、FJRはどのライバルとも違うのに。

ヤマハ「FJR1300AS」インプレ

画像1: ヤマハ「FJR1300AS」インプレ

大排気量4気筒エンジンは、やはりロングツーリング適正が高い

まずもって、FJR1300は重い。またがってずっしりと質量を感じるビッグボディで、低速時やエンジンオフ時の取り回しにはかなり気を使う。登場時には「このクラスとしては軽量な」と紹介されていたが、現行モデルはAS仕様で296kg。これはハヤブサの264kg、CB1300SBの272kgに比べると、ズッシリと重い。

けれど、こういったヘビー級のモデルは、やはり動き出すとこの質量が気にならなくなる。FJRも低回転から湧き出てくるようなトルクが、ヘビー級のボディを軽々と押し出すのだ。

画像2: ヤマハ「FJR1300AS」インプレ

そして今回試乗した「AS」。これはホンダのDCT(=手動変速可能の自動変速)とは違って、手動変速で車速に合わせて自動シフトダウンしてくれる、というもの。乗り始めてすぐは、アクセルONのままノークラッチでシフトアップ、その変速ショックでギクシャクしたが、通常のシフトペダルを操作するように、変速時にはアクセルを一瞬戻すようにしてハンドチェンジするとスムーズなのが分かった。

シフトアップが自動で行なわれないことで、イージーライドは望めないと考えていたのに、これが慣れたら快適そのもの。特に大排気量にはつきもののクラッチの重さ、発進時の半クラッチを気にすることなく、シフトダウン側だけが自動変速で、理論上エンストしないというシンプルなシステムの恩恵は充分に感じられた。

もちろん、このイージーさもエンジンの基本設計がしっかりしているからこそ。半クラッチに神経を使うことなく、高いギアで回転をギリギリまで落としてみても、6速2000回転からでもトルクが湧き出てくるエンジンで、ズ太い力で加速しようとする。

画像3: ヤマハ「FJR1300AS」インプレ

これが高速クルージングとなるとさらに快適で、6速120km/hが3500回転ほど。いざ高速巡行に入ったら、電動スクリーンをハイポジションにセットして、クルーズコントロールをON。ただし、クルーズコントロールが110km/hまでしか設定できないのはアップグレードしてほしかった。今や日本でも120km/h制限の高速道路区間があるのだから。

その時のFJR1300は、ビタリとした安定性。6速110km/hを超えるあたりでエンジンノイズが収まって、まるで無音状態のようなクルージングを味わうことができる。

上半身がほぼ前傾しないポジションもリラックスできて、この速度域での快適性は国産モデルで1~2を争うと思う。しっかりクッション厚のあるシート、路面のうねりや凹凸を吸収してくれるサスペンション特性もあって、ガソリンがなくなるまでいつまででも走り続けることができそうだ。そういえば、遥か昔に試乗したFJ1200のテイストも思い出す。そうそう、こんなバイクだっ!

画像4: ヤマハ「FJR1300AS」インプレ

「北海道までバイクで行くなら?」
これがロングツーリングバイクの条件だと思っている。かつてはハヤブサやZX-14Rを、最近はアドベンチャーモデルを推していたが、FJR1300も充分にその候補に入ってくる。

大排気量4気筒のよさを最大限に生かしたツーリングバイクなのだ。

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