去る12月16日、FIM=国際モーターサイクリズム連盟は、E-エクスプローラー SAを、来年からのスタートを予定している「FIM E-エクスプローラー ワールドカップ」の公式シリーズプロモーターおよび商業的権所有者に任命しました。電動車によるモータースポーツの可能性を追求する試みは近年増加傾向にありますが、各種世界選手権を統括するFIMが「推す」E-エクスプローラーがどのようなイベントになるのか・・・注目ですね!
文:宮﨑健太郎(ロレンス編集部)
※この記事は「ロレンス」で2021年12月23日に公開されたものを転載しています。

レース方式は、15分+1周・男女2名のリレー方式になりました

2輪EVを用いたモータースポーツとしてはロードレースの「MotoE」や「トライアルE」が著名ですが、それらイベントを統括するFIMは2010年からMotoEの前身である「FIM E-パワー インターナショナル チャンピオンシップ」をスタートさせているなど、モータースポーツの電動化に積極的な姿勢を昔から示していました。

さらにさかのぼり・・・1994年にFIMは、国際スポーツ連盟組織としては初めて環境規定を制定しており、27年前から持続可能性を追求してきたと自負しています。2022年度からスタートすることが予定されている「FIM E-エクスプローラー ワールドカップ」は、そんなFIMにとっての新たな挑戦といえる試みです。

「FIM E-エクスプローラー ワールドカップ」は、オールテレイン(全地形万能)型2輪EVを使用。ファクトリーおよびプライベーター合計10チームのライダーたち(1チーム2名・全20名)が参加。それぞれのチームは男女混成で、自然と都市部をミックスしたコースで勝敗を競うものです。

今年半ばの開催発表の際には、レース内容はタイムトライアルとヘッド・トゥ・ヘッド・・・つまり競り合いと公表されていましたが、現在は15分+1周・ライダー2名のリレー方式・・・と改められています。つまり、エンデューロ的競技方式から、2名交替式のモトクロス方式に変更されています。

画像: 「FIM E-エクスプローラー ワールドカップ」に使用される車両は、最大重量130kgまでの電動車・・・と公式ウェブサイトには記されています。 www.fimexplorer.com

「FIM E-エクスプローラー ワールドカップ」に使用される車両は、最大重量130kgまでの電動車・・・と公式ウェブサイトには記されています。

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開催国はアメリカからスイスまでの5カ国を転戦・・・とありますが、未だアメリカとスイス以外の開催予定地および年間スケジュールは公表されていません。しかしこの度、運営を担うE-エクスプローラ SAが新たに既存のFIMプロモーター12社のなかに加わることになったわけですから、これらのインフォメーションはやがて明らかになることでしょう。

電動オフロードバイクの「実験場」として機能することを期待!?

またE-エクスプローラ SAは、FIM E-バイクコミッションの最初のプロモーターにもなります。FIM会長のホルヘ・ビエガスは「FIMはこのエキサイティングな新プロジェクトに参加できることを誇りに思い、その成功のために必要なすべてのサポートを提供します」と述べています。

画像: スイスのミーにあるFIM本部で行われた、調印式に出席した3名。中央がJ.ビエガスFIM会長。左がE-エクスプローラーSA CEOのバレンティン・ギヨネ。右が同CCOのカリーナ・ムンテです。E-エクスプローラーSAは男女チームで設立され、経営、運営、そしてスポーツの現場という全ての側面で、男女の代表者を確保する予定とのことです。彼らがハンドリングする「FIM E-エクスプローラー ワールドカップ」は多様性と男女平等を促進することも目的にしていますが、組織作りや運営に関してもその思想は徹底しているわけですね! www.fimexplorer.com

スイスのミーにあるFIM本部で行われた、調印式に出席した3名。中央がJ.ビエガスFIM会長。左がE-エクスプローラーSA CEOのバレンティン・ギヨネ。右が同CCOのカリーナ・ムンテです。E-エクスプローラーSAは男女チームで設立され、経営、運営、そしてスポーツの現場という全ての側面で、男女の代表者を確保する予定とのことです。彼らがハンドリングする「FIM E-エクスプローラー ワールドカップ」は多様性と男女平等を促進することも目的にしていますが、組織作りや運営に関してもその思想は徹底しているわけですね!

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ホルヘ・ビエガス(FIM会長)
「チームにとってもメーカーにとっても、オフロードと市街地が混在する場所で開催される、初の電動車の種目です。さらにこのシリーズでは、各チームが男女各1名のライダーを擁することで男女平等を推進します。最終的には、FIM E-Xplorerワールドカップが"オールテレイン "電動バイク開発のための実験場として、機能することを確信しています」

ビエガスの引用コメントのなかで気になるのは、最後のくだり・・・電動バイク開発のための実験場、というところです。「FIM E-エクスプローラー ワールドカップ」公式サイトのギャラリーコーナーには、オーストリアのKTM、フランスのエレクトリック・モーション、そしてスウェーデンのケーキの2輪EVが登場しますが、MotoEのようなワンメイク方式をこのイベントでは採用しない方針がうかがえます。

2019年からスタートしたMotoEは、運用などの観点からワンメイク方式で実践されて今に至りますが、ワンメイクでは車両の開発競争が激化せず、電動技術の進化を促す効果が期待できない・・・という不満の声が、レースファンの間にはあったりもします。

現時点では10チーム限定という「FIM E-エクスプローラー ワールドカップ」の方針からすると、初年度(2022年)の参加チームはFIMおよびE-エクスプローラ SAが承認したチームのみ・・・となるのでしょうが、将来オープンエントリー化されれば競争のなかでの電動技術進化促進を意図したメーカー系チームが、奮ってこのイベントに参戦することも考えられます。

日本もホンダや無限などが電動モトクロッサーを開発していることは多くのオフロードファンの知るところですが、近い将来に「FIM E-エクスプローラー ワールドカップ」に日本勢が参加して活躍することを、大いに期待したいですね。

電動化は、オフロードレーシング業界への"追い風"となるか!?

現代のMotoGPクラスやSBK(世界スーパーバイク選手権)用の、200馬力オーバーの最高出力を要求される車両に対し、各種オフロードレーシング用のICE(内燃機関)車は100馬力よりはるかに低い出力で世界選手権レベルの最高峰イベントに参戦できます。

そもそもオフロードレーシング車は軽量・コンパクトを旨とする伝統があり、安全性や量産車への技術転用(および開発費高騰抑制)を考慮・意識して、2気筒以上のマルチシリンダー車をレギュレーションで排除してきた歴史の流れもあります。そんな背景もあり、先日公表されたスタルク・ヴォルグのような、60馬力級の4ストローク単気筒450ccモトクロッサーに対抗可能なスペックを有する2輪EVを、現在のバッテリーおよびモーター技術で開発することが可能になっています。

スタルク・ヴォルグを開発するスタルク・フューチャーCEOのA.ワス、そしてスウェーデンのケーキCEOのS.イッターボーンはともに、"欧州ではICE車で走れるオフロードコースおよびレースが、深刻なペースで減少している"という趣旨の問題を訴えており、そのことが彼らの電動オフロード車開発のモチベーションになっていると述べています。

電動ロードレーサーや、公道用量産電動スポーツ車に比べると、電動オフロード競技車は現状でも比較的に"需要・要求とのギャップ"が少ない製品と言えるでしょう。欧州を中心にICE車を許容しないオフロードコースが増えている現況を、20世紀から続くオフロードレーシング文化の転換期と仮定するのであれば、その時代の要請に応えるものとして電動オフロード車に期待が集まるのは、自然な流れなのかもしれません。

画像: スウェーデンのケーキの電動オフロード車、カルクOR。ケーキはこのマシンを使ったジェンダー・ニュートラルなレースイベント、「CAKEワールズ カルク ワン デザイン レース」を今年8月に開催。2022年度には、このイベントのコンセプトを拡大させた世界の主要都市を舞台とする都市型レース「グローバル シティ レーシング」開催を計画しています。 www.fimexplorer.com

スウェーデンのケーキの電動オフロード車、カルクOR。ケーキはこのマシンを使ったジェンダー・ニュートラルなレースイベント、「CAKEワールズ カルク ワン デザイン レース」を今年8月に開催。2022年度には、このイベントのコンセプトを拡大させた世界の主要都市を舞台とする都市型レース「グローバル シティ レーシング」開催を計画しています。

www.fimexplorer.com

多くのモータースポーツは会場まで大都市部から遠く、交通の便もよくないことが常で、そのことを動員面でマイナス視されることが多いですが、ICE車より低騒音でローエミッションな2輪EVは、都市部やその近郊でのレースイベント開催を可能にするポテンシャルを有しています(排ガスを出さないため、インドア会場の開催も比較的容易になります)。

人口の多い都市部で開催できることは、今までモータースポーツ業界が「リーチ」できなかった層にも、魅力的なイベントを披露する機会が得やすくなったことを意味するでしょう。

また「FIM E-エクスプローラー ワールドカップ」やケーキの「CAKEワールズ カルク ワン デザイン レース」のような、ジェンダー・フリーまたはジェンダー・ニュートラルな競技方式は、生まれたころから男女平等の教育に慣れ親しんできた先進国の若い層=1980年代生まれのY世代や1990年代生まれのZ世代からの共感を得る可能性が高いです。

またY世代やZ世代は、サスティナビリティ(持続可能性)に関する教育を受けてきたこともあり、EVに対する関心が高いという調査報告(GfK AutoMobility、2020年)もあり、既存の2輪メーカーが"喉から手が出るほど"欲している若者顧客層獲得の後押しとして、電動モータースポーツが貢献する可能性もあります。

あくまで上述は"希望どおりのシナリオ"に過ぎませんが、2022年度スタート予定の「FIM E-エクスプローラー ワールドカップ」が無事成功し、"新しいモータースポーツ市場"の発展に寄与してくれることを願いたいですね! 

文:宮﨑健太郎(ロレンス編集部)

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