昨今のアフターマーケットホイールは、当然のことながら軽量、剛性の高次元でのバランス、そして生産効率が追求された鍛造製品群が主流だ。一方、ユーザーの中には自分が若かった頃に憧れたバイク、そしてそれを形成したパーツ群に郷愁を抱きカスタムを進める向きもいる。パワーコンプレックスがリリースする「SAKURA SPEED」鋳造アルミホイールは、自分たちがそんなカスタムファンであることを自認し、同じ志向のライダーに向け発信する異色の一品。製品化までの経緯、テーマなど同社でじっくりと話を聞いてみた。

1970年代バイク好きが実現した逸品ホイール

現在に至るアルミやマグネシウムを素材とした鍛造削り出しのホイールがアフターマーケットに出現し始めたのは、2000年前後のこと。それ以前、1990年代中盤から盛り上がったカスタムブームの初期は鋳造ホイールが主流だった。

中でも、ダイマグやカンパニョーロ、マルケジーニにマービック……欧州発の鋳造マグネシウムホイールは、カスタムシーンの最先端を行くアイテムとしてもてはやされた。そしてそれぞれにGPやAMAスーパーバイクで「誰それが履いた」など、カスタム好きが語るべきバックグラウンドもあった。

今も同じ流れはあるけれど、当時のホイールブランドへの憧れはより濃く、熱かったはずだ。そんな往時のホイールへの想いを、現代の素材と鋳造技術で再現したのが、滋賀・パワーコンプレックスによる、「SAKURA SPEED」アルミ鋳造ホイールだ。早速、鈴木正人社長に話を聞こう。

画像: ▲鈴木正人社長(左)と彼を支える伊藤淳一会長(右)。伊藤さんは鈴木さんの父親とバイク好き、レース好きとして知り合い、息子の正人さんとも古くからの関係。ふたりはこのSAKURA SPEED、モトカフェMANOの立ち上げ、またショップの一角でカスタムを行うモト・レガシーの運営など、幅広い活動を行っている。

▲鈴木正人社長(左)と彼を支える伊藤淳一会長(右)。伊藤さんは鈴木さんの父親とバイク好き、レース好きとして知り合い、息子の正人さんとも古くからの関係。ふたりはこのSAKURA SPEED、モトカフェMANOの立ち上げ、またショップの一角でカスタムを行うモト・レガシーの運営など、幅広い活動を行っている。

「ぼく自身、1970年代〜1980年代初頭のレースシーンが大好きで、その頃に見てきたレーシングマシンが強烈に印象に残っているんです。まだバイクに乗れなかった学生の頃は、そんなマシン群のプラモデル作りにも熱中して。各メーカーのホイール、ブレンボのキャリパー、KONIのショックなどの、当時のレースシーンで活躍したパーツブランドやデザインは、そんな時期に覚えました」(鈴木さん)

プラモデル作りで磨いた細部のディテールへの観察眼が、鈴木さんのこだわりの源流だ。

「今のホイール・マーケットを見回すと、大好きだった“あの頃”を表現できる製品もなかなか見当たらない。それなら、と当時のフォルムを再現したいと思い立ちました。あの温もりすら感じる鋳肌の暖かみだったり、美しいRを描いて立てられたスポークのリブデザインは、やはり鋳造しか再現できません。そんな思いから、SAKURA SPEEDのプロジェクトを立ち上げたんです。それが、2018年のことでした。

誰もが手の届きやすいプライス、そして長期使用でも安全性が確保できるアルミ製と素材を決めて、まずは鋳造工場を探すところから。「京都は“ものづくり”の基盤がある地域で、ご協力いただいた工場は、僕の思いや無理な要望も快く受け入れてくれて、一緒にいいものを作りましょう! と。そこから3年の期間をかけて、材質改良や鋳型の修正を繰り返し、納得のいく鋳肌のイメージに至るまで徹底的にこだわりました」

画像: ▲二代に渡り鋳物作りひと筋という企業が共感、製作を担う。

▲二代に渡り鋳物作りひと筋という企業が共感、製作を担う。

画像: ▲多品種少量生産を得意として、740℃にまで熱せられたアルミ素材を砂型に流し込む作業は、時代は変われど職人による手作業。

▲多品種少量生産を得意として、740℃にまで熱せられたアルミ素材を砂型に流し込む作業は、時代は変われど職人による手作業。

使用素材も技術も、当時と比べて飛躍的に進化したが、今も鋳造のキモは熟練した職人の勘に頼る部分が大きい。そして多くの作業は彼らの手による。SAKURA SPEEDホイールはそんな職人たちが丹精込めて紡ぎ出す、ハンドメイドによる希有な逸品なのだ。

ホイールの開発にはアクティブが全面協力

こうして生産についてはメドが立ったSAKURA SPEEDだが、販売に向けてもうひとつ、超えなければならない壁があった。公道使用での安全性を担保する、JWL規格への適合がそれだ。

画像: ▲2021年10月末からデリバリーが開始されるSAKURA SPEED。サイズはフロント:2.75-18 リヤ:4.50-18。色はブラックとゴールドの2色を用意する。価格は28万3800円。

▲2021年10月末からデリバリーが開始されるSAKURA SPEED。サイズはフロント:2.75-18 リヤ:4.50-18。色はブラックとゴールドの2色を用意する。価格は28万3800円。

「こちらは鍛造ホイールブランドとして知られる、ゲイルスピードの開発・製造・販売を手がける、あのアクティブさんがバックアップしてくれました。

担当者の方に、僕がこだわる5本スポーク、鋳造こそが可能なリム部まで伸びるスポークリブデザインなど、細かな話をさせていただくと意気投合して、全面協力してくださることになったんです。 同社とは長年のレース活動でも交流があり、2社で設計を詰めることで、ゲイルスピードホイールと同様にレースフィールドでの使用にも耐え得る強度設計を持たせ、車検取得にも必要となるJWL規格も取得できました」と鈴木さん。

画像: ▲SAKURA SPEED。前後18インチでリム幅はフロントが2.75、リヤは4.50。今の主流となったラジアルタイヤが履けるサイズで、もちろんチューブレスタイヤに対応し、デリバリー時にはハブダンパーもセットされる。こだわりは持つ喜びが感じられる温もりある鋳肌と、美しい曲線を描きながらリム部にまで伸びたスポークのリブだ。

▲SAKURA SPEED。前後18インチでリム幅はフロントが2.75、リヤは4.50。今の主流となったラジアルタイヤが履けるサイズで、もちろんチューブレスタイヤに対応し、デリバリー時にはハブダンパーもセットされる。こだわりは持つ喜びが感じられる温もりある鋳肌と、美しい曲線を描きながらリム部にまで伸びたスポークのリブだ。

そしてここに写真紹介するのは今秋、いよいよデリバリーをスタートする製品版だ。「装着を想定するのは、ZやGS、CBといった今も人気の1970〜1980年代の人気モデル群です。フロントは2.75、リヤは4.50幅の18インチとしました。当時そのままのサイズではなく、ラジアルタイヤが履けるようにしています。オーナーの皆さんも、せっかくホイールを履き替えるのなら安心・安全な現代のタイヤを履きたいでしょうし、カスタムとしての見栄えの良さも獲得できます。

ただし、小ロットで生産するものですから、大手メーカーさんのように各車種それぞれにすぐにボルトオン製品を広くラインナップするというわけにはいきませんが、先の車種に向けての取り付け用アタッチメントについては、順次開発を進めているところです。

画像: ▲こちらは伊藤会長の愛車、GS1000に装着された、SAKURA SPEEDのブラック仕様の試作品だ。リム部はシルバーとした当時の純正ホイール風。こうした渋めのカスタムもアリだろう。

▲こちらは伊藤会長の愛車、GS1000に装着された、SAKURA SPEEDのブラック仕様の試作品だ。リム部はシルバーとした当時の純正ホイール風。こうした渋めのカスタムもアリだろう。

憧れだった往年のホイールが持つ独特の薫りを引き継ぐ、「熟練した職人の手仕事」による鋳造品。パワーコンプレックスが愚直なまでに理想を追い求めたSAKURASPEEDホイールは、アフターマーケットで高性能・軽量性を競う鍛造ホイール群とは一線を画すものだ。深化・細分化が続く現代のカスタムシーンの中で、ホイールにも味を求めるライダーにこそ、手にとってその“味”を確かめてもらいたい。

レポート:ヘリテイジ&レジェンズ編集部

※本企画はHeritage&Legends 2021年11月号に掲載された記事を再編集したものです。

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