400cc=4気筒、って時代が確かにあった。けれど、現行モデルの4気筒モデルは1992年デビューのホンダCB400SFの一機種のみ。CB400SFデビューから20年、新世代400ccは海外仕様500ccと基本設計を共にしたツインスポーツだった。
文:中村浩史/写真:折原弘之
※この記事は月刊オートバイ2021年5月号に掲載した「現行車再検証」を一部加筆修正しています。

脱「スーパー」スポーツ これが本来の使い方なのかも

旧世代──つまり、普通二輪免許のことを中免と呼び、ノーヘルで走ってよかった時期を知っている世代にとっては、400ccイコール4気筒がアタリマエだった。

ヨンフォアを知っている世代はさらにひとつ前だけれど、FX、CBX、そしてその後のXJもGSXも、レーサーレプリカブームも知っている、1960年代後半くらいまで生まれの世代、いま50歳代だ。

その旧世代たちは「オニも逃げ出す限定解除」に立ちふさがれて、ナナハンなんて夢だった。だから自分たちでも手の届く400ccで最強、そういうモデルが憧れだったのだ。

フルスペックは水冷並列4気筒DOHC4バルブ。4メーカーすべて、こんなモデルをラインアップしていた。ピークは90年代中盤。最高出力59PS、乾燥重量160kgそこそこのスーパースポーツたちだ。

それから、大型二輪免許が取りやすくなったことも一因に、400ccというカテゴリーそのものが勢いを失って、メインモデルだったレーサーレプリカにとってかわったネイキッドモデルも衰退。残ったのはCB400スーパーフォアだけで、そのCB400SFすら1992年の誕生だから、もう30年も前の話だ。

そのホンダが2013年に発売したのが、このCBR400R。CB400F/400Xとともに発売されたCBRは、海外向け500ccを400ccにスケールダウンした水冷並列2気筒エンジンを搭載していた。

画像: Honda CBR400R 総排気量:399cc エンジン形式:水冷4ストDOHC4バルブ並列2気筒 最高出力:46PS/9000rpm 最大トルク:3.9kgf-m/7500rpm シート高:785mm 車両重量:192kg 税込価格:80万8500円

Honda CBR400R

総排気量:399cc
エンジン形式:水冷4ストDOHC4バルブ並列2気筒
最高出力:46PS/9000rpm
最大トルク:3.9kgf-m/7500rpm
シート高:785mm
車両重量:192kg

税込価格:80万8500円

開発コンセプトは「生活をより楽しく、便利にするバイクを買いやすい価格で」というもの。これは「サーキットで勝つ!」というバリバリのスポーツスピリットなファイアーブレードシリーズとは一線を画すもので、700cc、のちに750ccになったNCシリーズがS/X/インテグラとの3本立てでデビューしたのと似ている。

なんだよ、2気筒の400ccかぁ──。旧世代からのそんな声は少なくなかった。けれど、そんな時代はもうとっくに終わっているのだ。

画像: 脱「スーパー」スポーツ これが本来の使い方なのかも

斬れるようなハンドリングよりも乗りやすさ、大馬力よりも好燃費が大事なライダーも増えた。峠やストリートでもスリルある走りを楽しむなんて時代じゃない、狙うはツーリング好きのエントリーライダーとダウンサイズしたいベテランたちだ。ばりばりのスーパーバイクに乗りたいならば、大型免許を取ってファイアーブレードを買ってサーキットへ行こう!

400ccのよさ、400ccならではのメリット、そして400ccに与えられた使命。CBR400Rに乗ると、そこがよくわかる。同じ免許枠で車検のない250ccと、同じ車検ありクラスなのに免許種類が違う大型モデルに挟まれた「どっちつかず」の400ccは、実は「どっちのよさも持つ」クラスだって言い換えることもできる。

250ccのコンパクトさで、600〜750ccのハイパワーさ、ってモデルじゃない。CBR400Rは250ccの経済性と乗りやすさで、600〜750ccの安定感を併せ持つロードスポーツなのだ。

ミドルクラスツインって、見栄やイバリを排除すると、気持ちよくちょうどイイ大人のオートバイなのだ。

全域でシャープで力がある2気筒エンジンの完成形!

走り出すと、まずはCBR400Rの軽量な車体に感心する。ボディサイズは、たとえばひとクラス上のCBR600RR的な大きさなんだけれど、600RRは中身がギッシリ詰まっている感じで、400Rは心構えをしてサイドスタンドから車体を起こした瞬間に、アレッ?軽い!と拍子抜けするような感覚。

そう、これが2気筒モデルのよさなのだ。同じ400ccツインのカワサキニンジャ400は、250ccと車体を共通としていることもあって、CBRより25kgほども軽いが、重量物のレイアウトや重心高さの設定なのか、CBRもきちんと「軽い車体」の部類に入っている。ちなみに4気筒のCB400SFはハーフカウルでCBRよりも15kgほど重いが、こちらはズッシリとした手応えがある。

走り出すと、やはり2気筒のエンジン特性を強く感じる。4気筒に比べて回転が軽く、アイドリングすぐ上からトルクが出て、特に3000回転を越えた常用回転域で、アクセルを開ける→リアタイヤが反応する、のタイムラグがない。開けたら反応、開けた分だけ進む、のドライバビリティがよくて、街乗りでスピードを乗せて、減速して、のアクションが楽しいのだ。これが2気筒のメリットのひとつ。

画像: 全域でシャープで力がある2気筒エンジンの完成形!

3〜5000回転くらいのエリアで街乗りをこなして、高速道路に乗り入れてのクルージング。ここでもCBRの2気筒は、スムーズに吹けて結構なパワフルさを感じさせてくれる。

グッとパワフルになるのが8000回転あたりからで、レブリミットは1万回転。このエリアはアクセル操作にスゴくシャープで、パワーを感じさせてくれる。低回転、中回転、そして高回転と、きれいにパワーを出して、それもきちんと盛り上がりを感じさせてくれるエンジン特性なのだ。

CBRの2気筒は180度クランクと呼ばれる爆発間隔で、本来ならばこの形式は低回転トルクが弱く、高回転の回り込みが得意なんだけれど、その低回転での非力さを感じさせない。これが、全域で「扱いやすい」と感じさせてくれる要因で、どのギアでどこの回転域でも力が出てくる、そんなキャラクターに仕上がっている。

今回の試乗でも、走っていて早めのシフトアップで低回転域を使ってもトルクが出ているし、各ギアをひっぱって高回転域に入れるとパワーが出るし、という両面のよさが感じられた。
2気筒エンジン完成の域に達している──そう言っていいのかも。

行き過ぎる心を制止するやさしいスポーツツイン

どんなスピード域、回転域で走っていたって、ついつい4気筒エンジンと比較してしまう旧世代の私だけれど、このCBR400RRの2気筒は、掛け値なしに完成度が高く、同じ排気量の4気筒CB400スーパーフォアと比べても、なんら魅力に欠けるところがないと思う。

ひとつ感じるのは、やはり回転のスムーズさで、たとえば6速100km/hあたりで走っている時の「無振動」さ。ここは、やはり4気筒に軍配が上がる気はする。それでもCBRの2気筒に振動が多いわけではなく、粒だったパルス感ある回り方が、むしろ力感があって気持ちがいいとさえ思う。

トップギア6速で走って、80km/hは4250回転、100km/hが5250回転あたり。このエリアで、CB400SFが無音無振動に近い感覚なのに対し、CBRはタタタタッとエンジンがいかにも働いているような手応えがある。これは好みの問題で、私はむしろCBRの2気筒の手応えが好きなタイプだなぁ、と思うのだ。

画像: 行き過ぎる心を制止するやさしいスポーツツイン

気になったのは、ついついペースを上げてワインディングに入ると、時々ブレーキングで止まり切れず、おっとっと、ってシーンがあったこと。

これはシングルディスク+片押し2ピストンキャリパーの特性で、ダブルディスクの重量増が嫌ならば、せめて対向キャリパーが欲しかったなぁ。

ハンドリングは安定性重視で、CBR600RRなんかと比べれば、ライン1本ぶん外を回るような印象。これは、もっとブレーキングでフロントに荷重をかけて──って動きができればグリグリと曲がって行ってくれるんだけれど、そんなアクションもブレーキが制止してくれる感じなのだ。

もちろん、度を超えたペースで走らなければいいんだけれど、時々CBRがその気にさせるからね。そういう元気な素質を持ったスポーツツアラーだ。

CBRは、スポーツとツーリングのちょうど中間にいるモデルだと思う。 4気筒との比較をもうひとつ。400ccの4気筒となれば、やはりちょっと急かされてしまうんだけれど、CBRの2気筒はのんびり走るならのんびり、ペースを上げたい時には応えてくれるフレキシビリティを持っている。

特にこのCBRは、初期モデルでは落ち着きのあるスタイリングとしていたけれど、現行モデルは、スーパースポーツを思わせるアグレッシブな形をしているのもイイ。CBRはそれで正解。スタイリッシュで色っぽい、才色を兼ねたモデルなのだ。

This article is a sponsored article by
''.