2016年で生産終了した後、現在もカスタム市場で根強い人気を維持するカワサキのZRX1200DAEG。その理由を改めて探ろうと試乗したのは、K-Factoryのスーパーチャージャー仕様のデモ車だ。すると、このシリーズは今のネオクラシック系ネイキッドとは一線を画していることを再認識し、同時に完成域とも思えたDAEGの新しい可能性を感じることができたのだった。
文:中村友彦/写真:富樫秀明

熟成が進んだZRX 3代目の素晴らしさと難しさ

1994年にシリーズ初モデルの400、1997年に1100が発売されたZRXは、カワサキにとってはゼファーに次ぐ第二のネイキッドだった。スタイリングのモチーフは、1980年代前半に市販されたZ1000R=エディ・ローソン/AMAスーパーバイクレプリカで、そう考えるとこのシリーズには、今で言う「ネオクラシック」的な素養が備わっていたのだが……。

ゼファーとの差別化を図る意味で、スポーツ性を重視して開発されたこと、そして1100にはチューニングパーツが豊富なGPZ900R〜ZZR1100系エンジンを搭載したことが功を奏し、ZRXはカスタム市場で絶大な支持を得る。ただ3兄弟すべてが人気車になったゼファーとは異なり、ZRXの主役は兄貴分という印象で、400は大きな変更を行うことなく、2008年に販売が終了。一方のリッターオーバーモデルは、2001年に排気量拡大版の1200R/Sにと変わり、2009年に第3世代のDAEGがデビュー。最終的には2016年型まで、都合20年のロングセラーとなった。

画像1: 熟成が進んだZRX 3代目の素晴らしさと難しさ

DAEGが発売された直後の話題として、今でも覚えているのは、いくつかのショップから、「初代/2代目と比較すると、カスタムの素材としての資質はいまひとつ?」という疑問が出てきたことである。その最大の原因は、燃料供給がキャブレター→インジェクションに変更されたことだったようだが、乗り味が適度に粗削りだった2008年型以前と比べると、ハンドリングが上質で親しみやすくなったこと(古い話で恐縮だが、カワサキが’70年代に販売した500SSやZ1系も、後期型で同様の変貌を遂げていた)も、チューナーがDAEGに興味を持ちづらい一因だったのかもしれない。

だがその後、サブコンなどによるインジェクションチューンが徐々に認識され、2008年型以前と同様の手法で車体各部に手を入れればSTDを上回る運動性能が得られるという認識が広まっていくと、こうしたDAEGの評価は徐々に変わった。誕生から10年が経過した現在、DAEGをカスタムに不向きと感じる人は、もうほとんどいないだろう。

それでも、2009年から約5年に渡ってDAEGの長期試乗企画を担当したこともある。またZRXシリーズのカスタムも数多く体験した身としては、DAEGのカスタムはちょっと難しいんじゃないかという印象を抱いている。

画像2: 熟成が進んだZRX 3代目の素晴らしさと難しさ

前述したように、2008年以前のZRXには1980〜1990年代車的な適度な粗削りな部分があって、だからこそ各部に手を加えると、性能向上が体感しやすかった。でもカワサキ自身が完成度を高めたDAEGの場合は、全体のバランスを考えずに、安易にパーツ交換を行うと、場合によっては乗りづらくなることがあるのだ。

逆に言うならDAEGは、チューナーにとっては挑みがいがあるバイクなのだと思う。このモデルに徹底的なカスタムを施して、STDに対するマイナス要素が生じないのであれば、チューナーが正しいセットアップを行っている証明になるのだから。そういう点では、今回試乗したケイファクトリーのDAEGは、MSセーリングが担当したスーパーチャージャーも含めて、実に正しいセットアップが行われていた。

▶▶▶ヘリテイジ&レジェンズが取材した最新のカスタム・バイクはこちら!

DAEGの試乗は様々なシチュエーションで行った

テストの主な舞台は高速道路で、峠道や市街地は、様子見で済ませておいた方が無難かな……。今になってみると恥ずかしい話だが、乗る当初はそう思っていた。何と言っても今回の試乗車の最高出力はSTD+ 90 ps の200ps! だが、このケイファクトリー/MSセーリングチューンのDAEGは、ノーマルDAEG同様のフレンドリーな特性を備えていた。

まずは最も気になるスーパーチャージャーの効能を述べると、とにかくもう、猛烈に速くなっている。しかも単純に速いだけではなく、回転数やギヤ段数に関わらず、どんな場面でどんな開け方をしても、エンジンの反応は至って実直で、扱いづらさは微塵も感じない。

書けばこれだけだが、これは、じつは凄いことなのだ。過給仕様のカスタム車に公道で乗るとなったら、ひと昔前は周囲の状況に注意しながら恐る恐る……が普通だったのに、このバイクにそんな気遣いは不要。今カワサキが販売しているH2/SXのように、スロットルを閉じた際に発生するブローオフバルブの作動音以外は、過給が妙な主張をすることはなく、ごく普通に乗れてしまうのだ。

画像: DAEGの試乗は様々なシチュエーションで行った

こういった特性は、燃料噴射量を緻密に制御できるインジェクションならではで、昔ながらのキャブレターでは、絶対に実現できないだろう。改めて考えると、インジェクションチューンが一般的になった今は、過給を楽しめる条件も整っているのだ。

もちろん、今回の試乗の好印象は、ケイファクトリーによって手が入れられセットアップが行われた、車体を抜きにして語ることはできない。と言うより、STDのDAEGにスーパーチャージャーを装着したら、車体の挙動に何らかの不安を覚えるはずだ。でも足まわりも全面変更されたこのDAEGは、曲がることと止まることに絶対的な自信が持てるから、臆することなくスロットルを開けられる。

中でも感心したのは、制動力の引き出しやすさとフロントのセルフステアの分かりやすさ、スロットルをワイドオープンした際に感じるリヤまわりの手応えで、乗り手に伝わる情報の質では、この車両はSTDを上回っていたのだ。

2017年末に発売されたZ900RSは、ネイキッドという意味でカワサキにとってはDAEGの後継車的な位置づけなのかもしれない。とは言え今回の試乗を通して、Z900RSとは趣が異なる、DAEGのカスタムベースとしての資質といったものが再認識できたし、同時にカスタム化への新しい可能性を感じさせられた。

なおDAEGの中古車相場は、昨年あたりからジワジワ上昇しているようなので、購入を考えているライダーは、なるべく早めに動いたほうがいいと思う。

▶▶▶ヘリテイジ&レジェンズが取材した最新のカスタム・バイクはこちら!

K-FACTORY・ZRX1200DAEG Detailed Description【詳細説明】

K-FACTORY ZRX1200DAEGインプレッション005
チタンコートが施されたスクリーンとカーボンボディのバックミラーはマジカルレーシング。ヘッドライトはLEDに変更。

K-FACTORY ZRX1200DAEGインプレッション006
ラジアルポンプのブレーキ/クラッチマスターシリンダーはブレンボ。

K-FACTORY ZRX1200DAEGインプレッション007
K-FACTORY ZRX1200DAEGインプレッション008
ガソリンタンクとシートはSTD。カラーリングは2014年型だ。

K-FACTORY ZRX1200DAEGインプレッション009
K-FACTORY ZRX1200DAEGインプレッション010
カスタム感を高めるフォークガード、ポジション可変式ステップキット、ステアリングステム、レバーガードなどは、K-Factoryのオリジナル製品。

K-FACTORY ZRX1200DAEGインプレッション011
K-FACTORY ZRX1200DAEGインプレッション013
スーパーチャージャーはデンマークのROTREX製だが、基本的には汎用品のため、サージタンクやオイルタンク、コグドベルトカバー、各種パイピングなどはMSセーリングがワンオフしている。

K-FACTORY ZRX1200DAEGインプレッション012
φ34mmスロットルボディはSTDを使用。過給に合わせインジェクターは大容量品に変更。

K-FACTORY ZRX1200DAEGインプレッション014
燃料噴射マップ補正にはRAPID-BIKE EVO(サブコン)を使う。

K-FACTORY ZRX1200DAEGインプレッション015
113.50-17/6.00-17のカーボンホイールはJWL認定品のBST。ショックは前後ともオーリンズ。

K-FACTORY ZRX1200DAEGインプレッション016
前後ブレーキはサンスター・ワークスエキスパンド+ブレンボレーシング。チタンマフラーとスイングアーム、リヤフェンダーレスキットはK-Factory。

取材協力:ケイファクトリー

記事協力:ヘリテイジ&レジェンズ

文:中村友彦/写真:富樫秀明
本企画は月刊『Heritage&Legends』2019年11月号に掲載された記事を再編集したものです。

▶▶▶ヘリテイジ&レジェンズが取材した最新のカスタム・バイクはこちら!

This article is a sponsored article by
''.