万全の感染拡大防止対策で開幕!

開催が危ぶまれていた――というより、それさえ言わせないほどに主催者側が万全な感染拡大対策を徹底して、いよいよ2021年のMotoGPが開幕しました。
MotoGPを運営するDORNAスポーツの最高責任者、カルメロ・エスペレータさん、開幕前にこうインタビューに答えていましたね。
「今年のMotoGPは全20戦を予定している。その中で少なくとも18戦を出来たらいいね。コロナウィルスのワクチンは、各国まだ感染リスクの高い人から順に摂取しているけれど、GPのパドックメンバーが21年中に終了できたらいいと思う」
GPパドックでのコロナウィルス対策は厳密極まりなく、まずはパドックを出入りする人数が制限され、関係者はサーキットとホテルという風に行動制限され、細かなPCR検査が義務付けられています。
そして今シーズンのレースシーズン開幕前に、カタール政府の好意で、GPライダーへのワクチン接種が実現。これはライダーだけでなく、すべてのパドックメンバーが対象で、もちろんライダーによっては接種を拒否できる。ワクチンを打てるなんて嬉しい、ってライダーも、まだ少し迷ってる、というライダーもいたようです。
このワクチン提供の申し出は、バーレーンでプレシーズンテストを行なっているF1にも打診があったようですが、F1はこの申し出を辞退し、一部ドライバーやスタッフの意思を尊重する、という声明を出したばかり。MotoGP側がこの申し出を受けたのは、2月にコロナウィルス感染のために亡くなった、ファウスト・グレシーニさんの影響もあったでしょう。

その2021年シーズンの特徴として、特別なマシンレギュレーションが挙げられます。去年のいま頃から、テスト期間もマシン開発時間も取れないとの理由で、「2021年型マシンは2020年型と同じエンジンを使用すること」という一文が加えられたのです。
それでも、エンジン単体に手を加えてはならないだけで、吸排気系や電子制御、ボディのエアロダイナミクスは改良していいわけですから、パフォーマンスは2021年型。ちなみにアプリリアには優遇措置が取られ、ニューエンジンを使用してもOKです。これも、アレイシがプレシーズンテストで好調だった理由のひとつでしょうね。

例年と違って、限られたテストだけで迎えた開幕戦。3月6日から計5日間だけ行なわれたテストでは、最終日こそコースに砂が入ってほとんど走行できなかったものの、初日からアレイシ・エスパルガロ(アプリリア)、ファビオ・クアルタラロ(ヤマハ)、ジャック・ミラー(ドゥカティ)、マーベリック・ビニャーレス(ヤマハ)がそれぞれの日のトップタイムをマーク。
もちろん、これはタイヤ本数制限もある、あくまでプレシーズンテストの結果。タイムを出すタイミングも、その時なにタイヤを履いていたかも、誰のスリップで出したタイムかもわからないけれど、プレシーズンテストを通じて好調に見えたのはミラー。

画像: レース序盤のTOP4 まさかまさかのドゥカティ・デスモセディチによる独占です!

レース序盤のTOP4 まさかまさかのドゥカティ・デスモセディチによる独占です!

レースウィークにも、FP1で3番手、FP2でトップ、FP3では15番手、FP4は13番手に沈んだものの、計時予選では2列目5番手を獲得。ポールポジションは、そのミラーのチームメイト、MotoGP2年目のフランチェスコ・バニャイアで、以下クアルタラロ、ビニャーレス、4番手には予選最後の最後にビニャーレスに逆転されてフロントローこそならなかったものの、今年からサテライトチーム、ペトロナスヤマハ入りしたバレンティーノ・ロッシ。2列目の最後の席は、今年から最新デスモセディチを手にしたヨハン・ザルコ(プラマックドゥカティ)が入りました。
チャンピオンチームのスズキは、アレックス・リンスとジョアン・ミルが9番手10番手。ホンダ勢はマルク・マルケス(レプソルホンダ)が開幕2戦の欠場を発表し、ワークスチーム新加入のポル・エスパルガロがQ2最後尾の12番手、11番手の中上貴晶(LCRホンダIDEMITSU)はQ1をトップ通過しての予選グリッドでした。

「ボローニアン・ブレット」ドゥカティのスーパースタート

カタール恒例のナイトレースでMotoGPクラスがスタート。その瞬間、ド肝を抜かれたのはドゥカティ勢のスタートダッシュでした! ポールポジションからスタートしたバニャイアがスルスルスルッと加速していく中、2列目のミラー&ザルコがその後方へ! うわぁドゥカティ1-2-3だ……と思ったら後方からもう一台、なんと5列目14番手スタートのルーキー、ホルヘ・マルティン(プラマックドゥカティ)も上がってきて4番手で1コーナーへ。なんとドゥカティ1-2-3-4! ちょっとGP史上でも経験がないほど衝撃的なスタートシーンでした! 外誌ではもう「ボローニアン・ブレット」(=ボローニャの弾丸)ってニックネームがついてるみたい!
これは、全マシン中もっとも進んでいると言われているローンチコントロールとホールショットデバイス、そして圧倒的なパワーを持つデスモセディチならではのシーンでした!

真っ赤なマシンがトップ4、その後方につけたのはクアルタラロ、ビニャーレス、そしてロッシ! ドゥカティvsヤマハという、大方の予想通りのレーススタートとなりました。その後方には、アレイシをはさんでリンス、ミルというスズキの2台。ここまでのトップ10、きれいにメーカーごとに並ぶポジション取りでしたね。
この辺がテストが少なく、20年型エンジンのままのシーズンスタートという感じですね。つまり、例年のシーズン開幕直後のような混乱が少なかったわけです。シーズン開幕すぐあたりから、想定したパフォーマンスを出しやすい、ということ。逆に言えば、最初から完成に近い状態でシーズンインできるわけで、開幕戦から下位に沈んでしまうマシンは、この先の上積みが期待できないかもしれない、というわけです。

画像: バニャイア後方の2番手争い 5ザルコ、43ミラー、20クアルタラロ、12ビニャーレスです

バニャイア後方の2番手争い 5ザルコ、43ミラー、20クアルタラロ、12ビニャーレスです

レースはバニャイアが逃げ、その後方につけていたザルコ、ミラー、マルティンのドゥカティカルテットを、クアルタラロ、ビニャーレスがひとりずつ崩していく展開。3周目にはマルティンをヤマハデュオがかわし、6周目にはクアルタラロがミラーを撃墜。8周目にはビニャーレスもその後方について、レース折り返しの11周目にはバニャイア→ザルコ→ビニャーレス→クアルタラロの順。
ここからペースが落ちなかったのがビニャーレスで、15周目にはバニャイアをパスしてトップに浮上。そのまま2番手以下を最大1秒7ほど引き離し、開幕戦WINを飾りました。

画像: レース中盤、うまくペースメイクしたビニャーレスがトップに浮上! 絵にかいたような完璧な勝ちかた!

レース中盤、うまくペースメイクしたビニャーレスがトップに浮上! 絵にかいたような完璧な勝ちかた!

激しかったのが2番手争いで、ビニャーレスがトップに立ったあたりからバニャイア、ザルコ、ミラーのドゥカティ勢にクアルタラロ、そしてスズキの2台が集団になり、クアルタラロ、ミラーがペースを落とし始めるのと同時くらいにリンス→ミルの順でポジションアップ! ビニャーレスが2番手以下を引き離し始めると、逃がしてなるかとザルコがバニャイアをパス、リンスとミルのうち、ミルのペースが衰えずにラスト3周でザルコ&バニャイアの後方につけ、まずバニャイアを、そして最終ラップのコーナーあと3つ、ってところでザルコをとらえてとうとう2番手に浮上!

しかし、ロサイルのフィニッシュラインは、最終コーナーからやや距離があり、ドゥカティのトップスピードがあれば充分に逆転は可能! ミルは最終コーナーまでに背後にいる2台のドゥカティを引き離しておきたい、と猛然とラストスパートしますが、ミルは最終コーナーでやや膨らむようにインにつけずに立ち上がって、フィニッシュライン前に悠々とザルコ&バニャイアがパスし、これでレースはビニャーレス→ザルコ→バニャイアの順でフィニッシュ。ミルが4位、レース後半からペースが落ちたクアルタラロが5位、6位にミルと一緒にポジションを上げていたはずのリンスが入りました。

画像: バニャイアを追撃する42リンスと36ミル ここからミルがぐいぐい上がってきます!

バニャイアを追撃する42リンスと36ミル ここからミルがぐいぐい上がってきます!

マーベリック・ビニャーレス
「レースでこんなにライバルたちをパッシングしたのは本当に久しぶり。FP4と予選でもマシンにいいフィーリングがあって、それがレース序盤から感じられたんだ。スタートはちょっとウィリーして出遅れてしまったけど、レース展開もきちんと考えられて、タイヤのセービングも出来た。Fantasticウィークエンドだった! マシンはフロントがよくなったよ。(今年からテストライダーになった)クラッチロウが、僕と走り方が似ていて、それがいい効果を生んでくれてるね。でも、もっとマシンを改良するとこはあるから!」

ヨハン・ザルコ
「スタートからじっとペコ(バニャイアのことです)の後ろについて走ってね。それからなかなかペースが上がらなくてビニャーレスにも抜かれたんだけど、最後はミルにも抜かれたけど、最後の逆転はもう、エンジンパワーに感謝だね。カタールでは初めて表彰台に上がったね」

フランチェスコ・バニャイア
「ザルコとミルにかわされた時、リアタイヤがもう消耗しきっていて、ラスト3周くらいはペースをためていたんだ。最後はふたりのジョアン(ミルとザルコですね)に先行されたけど、ミルがちょっと膨らんで、僕はベストラインを通れたね! ファクトリーチームに上がってポールポジション、3位表彰台はいい結果だったね。来週のレースはちょっと戦略を変えて、誰かの後ろについてレースしてみよう」

ジョアン・ミル
「この週末、ちょっと問題を抱えていたんだけど、今朝のウォームアップで解決して、いいフィーリングでレースができたね。あのまま2位で終われたらよかったんだけど、ドゥカティのトップスピードはほんとうにスゴかったから、最後にスリップに入られたら抜かれちゃうだろうなぁ、とは思っていたよ。最後はインにつけずに膨らんだわけじゃなくて、最後の直線で早くアクセルを開けたかったラインだったんだけどね。今日の4位は自分のなかでとても価値あるものだと思ってるよ!」

やっぱり予想通り、開幕戦からの超接近戦。トップから2位のザルコは1秒0差、2位のザルコから4位のミルは0秒130差でした!

画像: ビニャーレス開幕戦優勝! ただしクアルタラロ、ロッシは「リアタイヤ終わっちゃった」とコメント モルビデリはトラブルでペースを上げられなかったのだそうです

ビニャーレス開幕戦優勝! ただしクアルタラロ、ロッシは「リアタイヤ終わっちゃった」とコメント モルビデリはトラブルでペースを上げられなかったのだそうです

ヤマハはここから、昨シーズンに見られた「レースごとの浮き沈み」がなくなるのが課題だし、ドゥカティはロサイルみたいなパワーサーキット以外でもいかに勝てるか、スズキは、今の驚異的なレース後半のペースを維持しつつ、予選とレース序盤のペースをいかに上げるか、でしょうね。まぁ、レースではそれがいちばん難しいんだけど。
7位に入ったアプリリアはサプライズでした! 優遇措置で新2021年型エンジンを使っていいメーカーだし、昨年ドゥカティを離脱したアンドレア・ドビツィオーゾがアプリリアのテストをすることも発表されました。たとえばドビツィオーゾがアプリリアのパフォーマンスに可能性を感じてアプリリア入り、そしてワイルドカード出場――なんてことになったら最高に面白いですね!
心配なのはホンダとKTMです。ホンダはマルケスが開幕2戦を欠場、チームメイトは新加入ってことで、本調子を取り戻すのはシーズン後半からだろうし、KTM勢はポル・エスパルガロが移籍したことで、ミゲル・オリベイラ、ブラッド・ビンダーのふたりがいいところなし。ふたりとも、他メーカーが話していない「フロントタイヤが終わっちゃって……」というコメントを残しているのが気がかりですね。

ひとまず開幕戦は無事終了! 第2戦はもうこの週末、2週連続でところは同じ、ロサイルサーキットで行なわれます。2週連続で同じコースとなると、コンディションの急変さえなければ、もうセットアップが仕上がっている状態からのスタートになるわけですから、開幕戦よりもっとガチの戦力比較ができますね。
第2戦もヤマハとドゥカティが先行、スズキが追いついて――という展開ならば、アプリリアは? ホンダはどうなる?ってところが注目ポイントになるかもですね。開幕戦は転んじゃいましたが、われらがタカがホンダ希望の星になれるチャンスだぞー!

■MotoGP 開幕戦正式結果
1 マーベリック・ビニャーレス モンスターエナジーヤマハ
2 ヨハン・ザルコ プラマック ドゥカティ
3 フランチェスコ・バニャイア ドゥカティLenovo
4 ジョアン・ミル チームスズキ エクスター
5 ファビオ・クアルタラロ モンスターエナジーヤマハ
6 アレックス・リンス チームスズキ エクスター
7 アレイシ・エスパルガロ アプリリア レーシンググレシーニ
8 ポル・エスパルガロ レプソルホンダ
9 ジャック・ミラー ドゥカティLenovo
10 エネア・バスティアニーニ エスポンソラマ ドゥカティ

■Moto2 正式結果
1 サム・ロウズ ElfマークVDSレーシング
2 レミー・ガードナー レッドブルKTM-Ajo
3 ファビオ・ディ・ジャンアントニオ フェデラルオイルグレシーニ
4 マルコ・ベッツェッキ SKYレーシングVR46
5 ラウル・フェルナンデス レッドブルKTM-Ajo
6 ジョー・ロバーツ イタルトランスレーシング
17 小椋 藍 IDEMITSUホンダTeamアジア

■Moto3 正式結果
1 ジャウミ・マシア レッドブルKTM-Ajo
2 ペドロ・アコスタ レッドブルKTM-Ajo
3 ダリン・ビンダー ペトロナススプリンタ ホンダ
4 セルジオ・ガルシア GASGASガビオータAspar
5 ガブリエル・ロドリゴ インドネシアグレシーニ ホンダ
6 ニッコロ・アントネッリ Avintiaエスポンソラマ KTM
8 鈴木竜生 SIC58スクアドラコルセ ホンダ
9 鳥羽海渡 CIP グリーンパワー KTM
14 山中瑠聖 CarXpertプルーステルGP KTM
16 國井勇樹 ホンダTeamアジア ホンダ
Ret 佐々木歩夢 レッドブルKTM-Tech3

写真/Michelin motogp.com HONDA YAMAHA CUCATI KTM
文責/中村浩史

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