スズキ250ccスポーツのヒットモデルといえばフルカウルスポーツのGSX250R。
けれど2020年には同クラス同カテゴリーにニューモデル、ジクサーSF250を投入した。
スズキの2モデル併売は意外な狙いがあった。
文:中村浩史/写真:赤松 孝、南 孝幸、山口真利、伊勢 悟
※この記事は月刊オートバイ2020年12月号に掲載した「現行車再検証スペシャル」を一部加筆修正しています。

スズキ「ジクサーSF250」試乗インプレ・車両解説

画像: SUZUKI GIXXER SF 250 総排気量:249cc エンジン形式:油冷4ストSOHC4バルブ単気筒 最高出力:26PS/9000rpm 最大トルク:2.2㎏-m/7300rpm シート高:800mm 車両重量:158kg 発売日:2020年4月24日 メーカー希望小売価格:税込48万1800円

SUZUKI GIXXER SF 250

総排気量:249cc
エンジン形式:油冷4ストSOHC4バルブ単気筒
最高出力:26PS/9000rpm 最大トルク:2.2㎏-m/7300rpm
シート高:800mm
車両重量:158kg

発売日:2020年4月24日
メーカー希望小売価格:税込48万1800円

絶対性能だけじゃないバイクの評価基準

スズキGSX250Rのヒットは、ちょっと考えさせられる出来事だった。250ccスポーツのライバルモデルたちに対して、車重もあるし馬力も控えめ、乗りやすさに長けた動力性能となると、スポーツバイクとしては物足りなく感じそうなのに、なぜだか惹かれるモデルなのだ。

月刊『オートバイ』でも、何度もライバル同士の乗り比べインプレッション取材に出かけて、CBR250RRのパワフルさ、ニンジャ250とYZF-R25のシチュエーションを選ばない快活さを楽しみながら、いざGSX250Rに乗り換えると、大きいな、重いかも、もう少しパワーが欲しいな、ってことがあった。

けれど、その取材の帰り道には、みんながGSX250Rで帰りたがる(笑)。行き道にはCBR250RR、YZF-R25を取り合いしたのに、帰りはそっとGSX250Rに近づくのだ。

画像: SUZUKI GSX250R 総排気量:248cc エンジン形式:水冷4ストSOHC2バルブ並列2気筒 最高出力:24PS/8000rpm 最大トルク:2.2㎏-m/6500rpm シート高:790mm 車両重量:178kg(ABS仕様車は181kg) メーカー希望小売価格:税込53万6800円(ABS仕様車は56万9800円)

SUZUKI GSX250R

総排気量:248cc
エンジン形式:水冷4ストSOHC2バルブ並列2気筒
最高出力:24PS/8000rpm 最大トルク:2.2㎏-m/6500rpm
シート高:790mm
車両重量:178kg(ABS仕様車は181kg)

メーカー希望小売価格:税込53万6800円(ABS仕様車は56万9800円)

GSX250Rのフカフカなシートは、ワインディングを走っている時にはソリッド感が足りないけれど、高速道路で距離を稼ぐ時には快適な乗り心地になる。ゆったりした動きはクルージングで絶大な安定感となるし、苦手とする高回転のパンチ力はツーリングでは使わない、むしろ4メーカー中ナンバー1ともいえる3000回転以下のトルクが、街乗りでイージーに扱えるからだ。

私たちは「パフォーマンス」や「性能」をバイクの評価基準にするけれど、それだけじゃないんじゃない? という問題提起がGSX250Rにはあった。その証拠に、GSX250Rのファンは若い層や女性、リターンライダーが多いのだというから、彼らや彼女らの方が、よほどニュートラルに物事を見ているのだろう。

そのスズキ250ccスポーツに変化が起きたのが2020年だった。同じカテゴリーに、新設計「油冷」エンジンを引っ提げたニューモデル、ジクサー250シリーズが登場したのだ。

画像: 左はフルカウルのジクサー250SF/右はネイキッドのジクサー250 www.autoby.jp

左はフルカウルのジクサー250SF/右はネイキッドのジクサー250

www.autoby.jp

油冷と言えば、古くは1980年代中盤にGSX­-R750GSX-R1100に採用された、スズキが誇るスポーツエンジン。しかしジクサーのそれは、ハイパワーを狙わず、250ccらしい小型でコンパクト、さらに燃費性能の良さを狙って開発されたのだという。

つまりは、GSX250Rと同じセグメントに、再び絶対性能を狙わないスタンダードスポーツを投入したのだ。

さらにジクサー250は、これもスモールクラスで人気を得ているジクサー150の兄弟車として、多くの共通パーツを使用しての開発だったため、ライバルよりグッと抑えたプライシングも話題になった。

画像: 左は油冷エンジンのジクサー250/右は空冷エンジンのジクサー150 www.autoby.jp

左は油冷エンジンのジクサー250/右は空冷エンジンのジクサー150

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スズキは、250ccクラスをそういうカテゴリーに育てたいのだ。刺激的なスーパースポーツを作って、先鋭化した少数派に支持されるより、もっと間口の広いライダーに魅力を訴えることで、たくさんのライダーに乗ってほしい、と。実にスズキらしい!

今回いざ乗り出したジクサーは、フルカウル仕様のSF250。簡単に考えれば、同じ「250ccフルカウルスポーツ」という市場でGSX250Rとユーザーを食い合わないか、と要らない心配をしてしまうけれど、ジクサーはGSXよりも俊敏、軽く小さいスポーツバイク。

スズキは、ジクサーとGSXをハッキリと色分けしてきた。

画像1: ジクサーSF250

ジクサーSF250

好印象の新設計油冷機で新しい世界を切り拓く

スズキのお家芸「油冷エンジン」が話題になったジクサー250シリーズだったけれど、なにもこれは「あの初代GSX­­‐R750直系の!」なんてメカじゃない。250ccらしい車格、重量の中に収めようとしたときに、単気筒がふさわしく、その冷却方法にラジエターなどの水冷補器類は不要なんじゃないか、という理由からの採用なのだ。

とはいえ、GSX250Rの水冷2気筒とは大きく特性は変わっている。GSX250Rは大らかで、回転上昇が鋭すぎない、アイドリングすぐ上のトルクが強大な特性だったけれど、ジクサーSF250のそれは、低回転から高回転まで回転フィーリングが軽やかで、静かにスムーズに回る印象が強かった。

パワーを絞り出してはいないが、時折は高速道路を使うようなストリートバイクとしては充分に力強い。特に7000〜10000回転あたりの力感は、GSX250Rでは味わえなかったもの。ここでも決してライバルと同じ土俵に上がろうとしないのか、おそらくサーキットで限界性能比較テストをやったら、ライバルたちとは違った面が際立つだろう。しかし、そこを狙っているのだ。

ハンドリングは、GSX250Rよりも車重が20kgも軽いことが生きて、ヒラヒラな中にもしっとり感があるタイプ。シャープではないが、重ったるくもない、絶妙なセン。取り回しやコーナリングでのバンクでも、手応えを残しながらも、扱いやすいと感じるのは、ビギナーやリターンライダー層のことを考えた特性としているんだなぁ、という狙いが分かりやすかった。

画像2: ジクサーSF250

ジクサーSF250

さらに印象的だったのは車体の動きで、運動性よりも乗り心地をきちんと重視した仕上がりだったこと。リアサスが少しハード目に感じたけれど、これはライダーの体重に合わせてリアサスを調整すればいい話で、特にフロントフォークのしっかり感と動きのソフトさが、長時間乗れば乗るほどよくわかる。しっかりとした接地感は、GSX250Rには採用されなかったラジアルタイヤの標準装備のおかげかもしれない。

もちろん、この仕様でワインディングを攻め込むと、動きすぎ、減衰力不足を感じるシーンもあったが、この時のレベルで走ろうとするオーナーは少数派だろう。やはりジクサーSF250はストリートバイクで、ツーリングにも出かける──そんなバイクだった。

スズキは、250ccクラスをバイクを好きになる入り口、と捉えているのだろう。この新設計油冷エンジンの素性をもってすれば、もっとスポーティなキャラクターにするのは可能だろうし、サスペンションの設定もしかり。それも味わってみたいけれど、ジクサーSF250は、250ccのファン層を広げよう、バイク乗り全体に向けた商品づくりをしていこう、というモデルなのだ。

たとえばこのエンジンを使って、次はトレッキング系のオフロードモデルの姿も見てみたい。もちろん、カリカリにハイチューニングされたスーパースポーツも見てみたいけれど、それはあくまで二の次の、三の次。

この油冷エンジンを使用したバリエーションモデルが登場して欲しいと思うし、そのモデルがまた、250ccの楽しさを教えてくれる気がするのだ。

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