スーパーバイクや鈴鹿8耐など、数々のレースに参戦して来た「ヨシムラ」と「モリワキ」の歴代のレーシングマシンやヒストリーを一冊に集結した、日本のバイク遺産シリーズMOOK「ヨシムラとモリワキ」が絶賛発売中!今回はヨシムラ「GSX-R750 8耐仕様」-1987年-を紹介する。

Photos:Teruyuki Hirano

【詳細解説】全日本3連覇、8耐2位の'87年F1仕様車

全日本TT-F1で3年連続タイトルを獲得し、8耐でも連続表彰台を得るなどの華々しい活躍の裏には、ハンディを背負ったマシーンからライバルに負けない性能を引き出す、極限のチューニングがあった。

1987 YOSHIMURA GSX-R750 8耐仕様

画像: 1987 YOSHIMURA GSX-R750 8耐仕様

1987 YOSHIMURA GSX-R750 8耐仕様

鈴鹿8耐で、7時間55分までトップを快走しながら転倒し、再スタート後2位に入賞するという、8耐史上に残る劇的なドラマを演じたのがこのマシーンだ。

'87年のヨシムラは、大島行弥と高吉克朗の2人を、全日本の国際A級TT-F1/TT-F3の両クラスに走らせ、F1では大島がチャンピオン('85、'86年の辻本聡に続く3連覇)、高吉がランキング9位。F3では、高吉が3位、大島が5位という成績を収めている。

鈴鹿8耐には、ケビン・シュワンツ/大島行弥組、ギャリー・グッドフェロー/高吉克朗組の2チームで参戦。19周にシュワンツがリタイアするという波乱のレースとなったが、中盤あたりでトップに立ったグッドフェロー/高吉組が好走。残り5分というところで高吉が転倒するまでトップを守り、ヨシムラによる、'78,'80年に続く3回目の8耐制覇を期待させた。

ベースマシーンは、'84年に登場(国内販売は'85年から)したスズキGSX-R750.ショートストローク化(ボア×ストローク:67×53㎜を70×48.7㎜とした)と油冷方式の採用により、TT-F1のベースマシーンとしてのポテンシャルを一気に高めたモデルである。

画像: 【詳細解説】全日本3連覇、8耐2位の'87年F1仕様車

現在の世界選手権や全日本選手権のスーパーバイクとは異なり、TT-F1(全日本選手権では'93年以前がTT-F1、'94年以後がスーパーバイク)クラスの車両規定では、エンジンの改造の自由度がかなり広く、車体まわりに至っては完全な新造も許されていたから、このマシーンももちろん、レギュレーションで許される限界までエンジンに手を加え、車体まわりはスズキとの共同開発によるフレームやサスペンションをはじめとする、レーサー専用パーツで固めていた。

ライバルの日本製4気筒マシーンがすべて水冷エンジン+ツインスパーフレームという組み合わせを採用するなか、空油冷エンジン+ダブルクレードルフレームという構成のマシーンは、特に8耐では、エンジンの発熱と車重の重さとの闘いをしいられた。

画像: 空油冷方式の特徴である短いフィンを持ったエンジンは、塗装部分の下地にサンドブラスト加工が施される。放熱効果を高めるため、少しでも表面積を増やすのが狙いだ。クラッチは、スズキ本社の設計となるRGV-Γと同方式の乾式。ヨシムラならではの、1-2/3-4気筒のエキパイをチャンバーで連結したデュプレックス方式、そして排気順序に従って集合するサイクロン方式を採用したEXシステムを装備。

空油冷方式の特徴である短いフィンを持ったエンジンは、塗装部分の下地にサンドブラスト加工が施される。放熱効果を高めるため、少しでも表面積を増やすのが狙いだ。クラッチは、スズキ本社の設計となるRGV-Γと同方式の乾式。ヨシムラならではの、1-2/3-4気筒のエキパイをチャンバーで連結したデュプレックス方式、そして排気順序に従って集合するサイクロン方式を採用したEXシステムを装備。

画像: マグネシウム製のジェネレーターカバーが特徴的なエンジン左サイド。ACジェネレーターを撤去したうえでスタータードリブンギアを小型化しているため、ケースカバーはSTDよりも浅い。さらに、対地角を稼ぐために、中央部のみ円錐形に盛り上がった形状としている。

マグネシウム製のジェネレーターカバーが特徴的なエンジン左サイド。ACジェネレーターを撤去したうえでスタータードリブンギアを小型化しているため、ケースカバーはSTDよりも浅い。さらに、対地角を稼ぐために、中央部のみ円錐形に盛り上がった形状としている。

画像: メインボア径40mmの、ミクニ製TM(フラットバルブ)キャブレター(当時はマグネシウムボディのワークスマシーン専用品が装着された)。4連キャブの左端にある大きな蝶型をしたスロットルプーリーが特徴的。フロントカウルのナックルガード部下にある開口部から取り入れた空気を、エンジン上部を通したホースによってキャブレター上部に導いている。これは、吸入する新気の温度を下げることで、混合気の充填効率の向上とエンジンの冷却の両方の効果を狙ったものだ。

メインボア径40mmの、ミクニ製TM(フラットバルブ)キャブレター(当時はマグネシウムボディのワークスマシーン専用品が装着された)。4連キャブの左端にある大きな蝶型をしたスロットルプーリーが特徴的。フロントカウルのナックルガード部下にある開口部から取り入れた空気を、エンジン上部を通したホースによってキャブレター上部に導いている。これは、吸入する新気の温度を下げることで、混合気の充填効率の向上とエンジンの冷却の両方の効果を狙ったものだ。

画像: エキパイの途中に適切な容量を持つチャンバーを設け、1-2/3-4気筒を連結するのがデュプレックス方式。高回転型エンジンでは不足しがちな低中速トルクを補う効果があり、当時のヨシムラは、ストリート用の排気管はもちろん、レーシングマシーンにも採用していた。

エキパイの途中に適切な容量を持つチャンバーを設け、1-2/3-4気筒を連結するのがデュプレックス方式。高回転型エンジンでは不足しがちな低中速トルクを補う効果があり、当時のヨシムラは、ストリート用の排気管はもちろん、レーシングマシーンにも採用していた。

画像: 集合方式は、現在の4気筒マシーンに多く見られる4-2-1方式ではなく、4-1方式。しかも排気順序に合わせて集合するサイクロン方式を使うため、#2、#3気筒のエキパイの曲がり具合に特徴が表れる。

集合方式は、現在の4気筒マシーンに多く見られる4-2-1方式ではなく、4-1方式。しかも排気順序に合わせて集合するサイクロン方式を使うため、#2、#3気筒のエキパイの曲がり具合に特徴が表れる。

画像: サイレンサーには、耐久性重視のアルミ製と軽量化重視のカーボンFRP製の2種類があったが、8耐本番でもカーボンFRP製を使用。

サイレンサーには、耐久性重視のアルミ製と軽量化重視のカーボンFRP製の2種類があったが、8耐本番でもカーボンFRP製を使用。

画像: クランクケースカバーやレリーズ機構のホルダーにマグネシウム製パーツを用いた乾式クラッチ。耐久レースでは途中でオイルの補給を行うため、クイックチャージが可能なフィラーキャップを備える。

クランクケースカバーやレリーズ機構のホルダーにマグネシウム製パーツを用いた乾式クラッチ。耐久レースでは途中でオイルの補給を行うため、クイックチャージが可能なフィラーキャップを備える。

画像: フリクションプレートは6枚、クラッチプレートは7枚で構成される。容量的な問題はなかったが、熱による歪みのためにタッチの悪化や滑りを起こしやすく、頻繁なメインテナンスが必要不可欠だった。

フリクションプレートは6枚、クラッチプレートは7枚で構成される。容量的な問題はなかったが、熱による歪みのためにタッチの悪化や滑りを起こしやすく、頻繁なメインテナンスが必要不可欠だった。

→後編へ続く

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