モトGP初年度の2002年にスポット参戦、2003年からフルシーズンを戦うも上位グループに届かなかったカワサキワークス。しかし、中野選手が加入した2004年から急速に力をつけ、最終年の2006年には完全新設計のマシンで上位に食い込む。

Photos:Kawasaki and Yushi Kobayashi

並列4気筒が本来的に持つ個性で世界の頂点に挑む、カワサキ渾身のモトGPマシン

ZX-RRは、モトGP初年度の2002年、柳川明選手が全日本選手権に参戦(プロトタイプとして)する形で開発を行い、同年のもてぎにおけるパシフィックGPでモトGPにデビューした。しかしこのデビュー戦では転倒、フル参戦を開始した2003年にも目立った成績を残すことはなかった。

しかし、2004年に中野真矢選手がエースライダーになると頻繁に上位争いに顔を出し、この年のもてぎでは3位に入賞、マシンが急速に進歩していることを印象づけた。それでも2005年は苦戦、ライバルチームの進歩に追いつけなかった。

画像1: 並列4気筒が本来的に持つ個性で世界の頂点に挑む、カワサキ渾身のモトGPマシン

そこでカワサキは、990㏄での最終シーズンとなる2006年にまったく新しいマシンを投入した。設計は2005年2月に始まり、シェイクダウンは最終戦終了の2日後に行われたという。エンジニアの松田義基さんによると、目指したのは“負けないマシーン造り”であったという。なんとも意味深長な言葉である。

それはともかく、彼らがテーマとしたのは、基本性能の向上と、並列4気筒らしいマシン特性だった。V型エンジン車のコーナリングパターンは、加減速による荷重移動を明確とせず、フラットなトルクで立ち上がっていくイメージ(かつてのRC45がその典型で、D16やRC211Vはそれほどは極端ではない)だが、ZX-RRでは、進入でフロントに荷重を集中させて向きを変え、立ち上がりではリアに移動した荷重を生かしてトラクションを高めていくというパターンを明確にしたかったのだという。もちろん、こうした特質は度が過ぎれば欠点になることを承知のうえでである。

そのために、エンジンを小型化するとともにマスを集中化させている。具体的には、エンジンの3軸配置を見直してクランク軸とドライブスプロケットの軸間を25mm短縮するとともに、クランク軸位置を20mm上方に移動。あえてロングスイングアーム化は図らず、同ピボットは従来型の位置をほぼ維持している。結果、エンジンの重心は後方に移動。

これはエンジンが車体重心に接近したことでもあるので、マスの集中化が図れる。また、ジャイロ効果を発生するクランク軸をライダーに接近させることで、一体感のあるハンドリングを実現。それでいて、シリンダーの前傾角を増すことで高重心化を避けつつ、吸気系を前方上側に移動し、ニーグリップ部の狭小化も実現したという。

画像2: 並列4気筒が本来的に持つ個性で世界の頂点に挑む、カワサキ渾身のモトGPマシン

さらに新エンジンでは、トラクション性能の向上を目指し、新しい不等間隔燃焼方式を採用、同時にバランサー軸を新設している。カワサキは2005年に、クランクが同位相の1/4番と2/3番を同時点火、あるいは1/4番のみ同時点火とする不等間隔燃焼方式を投入してきたが、2006年型は一般的な180度クランクではなく90度クランクとし、90度ごとに4気筒に点火した後、360度の休止期間を設ける方式としている。

90度クランクでは、位相が180度ずれた気筒どうしで一次慣性力を打ち消し合うが、両者の間には距離があるためエンジンを横揺れさせるような偶力が発生する。それをバランスさせるために一次偶力バランサーを装着しているのだ。また、4番気筒のみに装備されていた電子制御スロットルが3/4番気筒への装備となったことも2006年型の特徴である。

This article is a sponsored article by
''.