比類なき先進性を誇った2005年型を造ってしまったからには、それを超えるものを開発しなければならない。大きなプレッシャーを背後に、未踏の地に足を踏み入れた2006年。残念ながら最初の一歩は予想をやや外れていた。すぐに軌道修正して開発を続行するが、3連覇はならず。レースの厳しさと開発の難しさを感じさせた2006年だった。

Text:Nobuya Yoshimura Photos:Teruyuki Hirano

990cc最終型のYZR-M1を徹底解剖

YAMAHA YZR-M1(2006)

画像1: 990cc最終型のYZR-M1を徹底解剖
画像: フロントカウルの内部の全パーツを支持するのは、さまざまな役割を兼ねたメーターパネル。プレートを介してフレームに固定されたこのパネルをブラケットとして、他のパーツがマウントされている。

フロントカウルの内部の全パーツを支持するのは、さまざまな役割を兼ねたメーターパネル。プレートを介してフレームに固定されたこのパネルをブラケットとして、他のパーツがマウントされている。

画像: フロントカウル下部の吸気口は、ダクト先端に上からかぶせるように取り付けられており、底板に見えるのはダクトの内側である。吸気口中央部上側に見える台形の穴は、オンボードTVカメラの前方撮影用窓。カメラは、ダクト先端部にあるボルトで固定される。

フロントカウル下部の吸気口は、ダクト先端に上からかぶせるように取り付けられており、底板に見えるのはダクトの内側である。吸気口中央部上側に見える台形の穴は、オンボードTVカメラの前方撮影用窓。カメラは、ダクト先端部にあるボルトで固定される。

画像: 開口部から中をのぞき込んだところ。中央部にある縦向きのリブは、ステアリングシャフトのカバー。その両脇でフレームの穴を貫通したダクトは、背後にある吸気ボックスにつながる。

開口部から中をのぞき込んだところ。中央部にある縦向きのリブは、ステアリングシャフトのカバー。その両脇でフレームの穴を貫通したダクトは、背後にある吸気ボックスにつながる。

エアダクト先端部の構造はかなり複雑ではあるが、実は非常に合理的で、整備性にも充分に配慮していることがわかる。

組み立ては、まず、周辺パーツのステーを兼用するダクト本体に、ダクト先端部分を差し込んで両サイドにあるバックルで固定し、ウィング状のプレートを、ダクトの底面にあるクイックファスナーで取り付ける。

このウィング状のプレートは、フロントカウル/サイドカウルの前側ステーであると同時に、フロントフォーク・アンダーブラケット下を通ってラジエターに達する空気の導風板の役割をも兼ねている。

画像: ダクト本体をフレームに固定している部分のアップ。中央に見えるコの字断面の三角形のプレートは、後ろ側を1本のボルトでフレームに、前側をメーターパネルに取り付けられている。ここから下側ベアリングの取り付け部に達するフレームは非常に細い筒状になっており、その内側をステアリングシャフトが貫通し、両脇をエアダクト(三角形プレートの下)が通る構造である。

ダクト本体をフレームに固定している部分のアップ。中央に見えるコの字断面の三角形のプレートは、後ろ側を1本のボルトでフレームに、前側をメーターパネルに取り付けられている。ここから下側ベアリングの取り付け部に達するフレームは非常に細い筒状になっており、その内側をステアリングシャフトが貫通し、両脇をエアダクト(三角形プレートの下)が通る構造である。

画像: メーターパネルを裏側(車体の正面)から見たところ。周辺の多くのパーツの取り付け基板となっているメーターパネルには、何本ものボルトを用いて強固にフロントカウル・アッパーステーが取り付けられている。マルチファンクションメーターの裏側に各種の信号線のコネクターが並んでいるが、これらはメーターに直接つながるのではなく、この部分がフロントまわりの信号線中継箱になっているものと思われる。向かって右のダクト上面にエアフローセンサーらしきものがマウントされ、そこからの信号線が上に伸びている。その左奥に見える赤い箱は、レーシングマシーンのデータシステムをサービスするドイツ・2D社製のデータロガー本体である。

メーターパネルを裏側(車体の正面)から見たところ。周辺の多くのパーツの取り付け基板となっているメーターパネルには、何本ものボルトを用いて強固にフロントカウル・アッパーステーが取り付けられている。マルチファンクションメーターの裏側に各種の信号線のコネクターが並んでいるが、これらはメーターに直接つながるのではなく、この部分がフロントまわりの信号線中継箱になっているものと思われる。向かって右のダクト上面にエアフローセンサーらしきものがマウントされ、そこからの信号線が上に伸びている。その左奥に見える赤い箱は、レーシングマシーンのデータシステムをサービスするドイツ・2D社製のデータロガー本体である。

画像: 2004年型まではフロントカウル内部に集中していた電装系パーツの多くは、2005年型から吸気エアボックス上部に移された。アルミの底/ドライカーボンの胴/ドライカーボンのフタという3層構造のエアボックスの上に電装系取り付けベースがあり、その上に、左から順にイタリア・マレリ製のフューエルインジェクション用ECU、目的不明の2Dのパーツ、スロットル制御用ECUとおぼしきブラックボックスが並んでいる。そのさらに前方、ステアリングのトップブリッジ直後にカバーがあり、メインの点火系ECUなどはこの中にあると思われる。

2004年型まではフロントカウル内部に集中していた電装系パーツの多くは、2005年型から吸気エアボックス上部に移された。アルミの底/ドライカーボンの胴/ドライカーボンのフタという3層構造のエアボックスの上に電装系取り付けベースがあり、その上に、左から順にイタリア・マレリ製のフューエルインジェクション用ECU、目的不明の2Dのパーツ、スロットル制御用ECUとおぼしきブラックボックスが並んでいる。そのさらに前方、ステアリングのトップブリッジ直後にカバーがあり、メインの点火系ECUなどはこの中にあると思われる。

画像: V型エンジンと比べると幅の広い並列4気筒のシリンダーヘッドを取り囲むような形状のフレーム。前側のエンジンマウントは2カ所で、フレームと一体のエンジンハンガーがクランクケース前部に、エンジンハンガー〜メインフレーム間のステー部分(これも一体)の途中にボルト留めされたブラケットがシリンダー背後に取り付けられている。フレーム表面に走る無数の切削痕に注目。このマシーンのフレーム部材はほとんど削り出しパーツで、それらを溶接して構成している。

V型エンジンと比べると幅の広い並列4気筒のシリンダーヘッドを取り囲むような形状のフレーム。前側のエンジンマウントは2カ所で、フレームと一体のエンジンハンガーがクランクケース前部に、エンジンハンガー〜メインフレーム間のステー部分(これも一体)の途中にボルト留めされたブラケットがシリンダー背後に取り付けられている。フレーム表面に走る無数の切削痕に注目。このマシーンのフレーム部材はほとんど削り出しパーツで、それらを溶接して構成している。

画像: クランクケース前側とエンジンハンガーの結合部分。シリンダー背後とブラケットの結合部分と比べ、こちら側は非常に強固な造り。

クランクケース前側とエンジンハンガーの結合部分。シリンダー背後とブラケットの結合部分と比べ、こちら側は非常に強固な造り。

画像: できるだけフロント分布荷重の割合を大きくするのがロードレース用マシーン設計の基本。フロントフォーク最大ストローク時にフロントタイヤが干渉しないギリギリの位置にあるラジエターの背後には、エグゾーストパイプを通すために必要な最低限のすきましかない。もちろん、シリンダーの前傾角も、これらを考えて決定されている。

できるだけフロント分布荷重の割合を大きくするのがロードレース用マシーン設計の基本。フロントフォーク最大ストローク時にフロントタイヤが干渉しないギリギリの位置にあるラジエターの背後には、エグゾーストパイプを通すために必要な最低限のすきましかない。もちろん、シリンダーの前傾角も、これらを考えて決定されている。

画像: 背面ギアトレインによるカムシャフト駆動方式の採用により、シリンダー間に駆動メカニズムはないが、ギアトレインで駆動される吸気側カムシャフトと排気側カムシャフトをつなぐギアが必要になるため、そのギアセットを設けた2/3番気筒間のシリンダーヘッドには、外から見てわかる円形の張り出し部分がある。

背面ギアトレインによるカムシャフト駆動方式の採用により、シリンダー間に駆動メカニズムはないが、ギアトレインで駆動される吸気側カムシャフトと排気側カムシャフトをつなぐギアが必要になるため、そのギアセットを設けた2/3番気筒間のシリンダーヘッドには、外から見てわかる円形の張り出し部分がある。

画像: エグゾーストパイプは、軽量で剛性の高いチタン製。2本の排気バルブからのポートにつながるヒョウタン型から、ストレート部分の円形へ、断面形状が連続して変化しつつ下向きに曲がる部分なので、機械加工はできず、短い筒を溶接で継ぎ合わせて造られている。ネジ留めされた細いパイプは、負圧取り出し用。この部分のエグゾーストパイプ内を流れる排気の流速によって生じる負圧(ベルヌーイの定理)を利用し、クランクケース内を減圧し、ポンピングロスを低減させている。細い負圧パイプは、ここからシリンダーヘッドカバー上を通り、途中でゴムホースに材質を変えながら、吸気エアボックス底の凹んだ部分を通過してリードバルブに達している。

エグゾーストパイプは、軽量で剛性の高いチタン製。2本の排気バルブからのポートにつながるヒョウタン型から、ストレート部分の円形へ、断面形状が連続して変化しつつ下向きに曲がる部分なので、機械加工はできず、短い筒を溶接で継ぎ合わせて造られている。ネジ留めされた細いパイプは、負圧取り出し用。この部分のエグゾーストパイプ内を流れる排気の流速によって生じる負圧(ベルヌーイの定理)を利用し、クランクケース内を減圧し、ポンピングロスを低減させている。細い負圧パイプは、ここからシリンダーヘッドカバー上を通り、途中でゴムホースに材質を変えながら、吸気エアボックス底の凹んだ部分を通過してリードバルブに達している。

画像2: 990cc最終型のYZR-M1を徹底解剖

エグゾーストパイプは、2005年型と同じ4-2-1集合タイプ。左側の2気筒/右側の2気筒をオイルパン脇で先に集合した後、管長を稼ぐために(ドライブチェーンを避けるためでもある)エンジン下を横切って車体右側に取り回し、スイングアームピボット下あたりで1本にまとめている。

画像3: 990cc最終型のYZR-M1を徹底解剖

このあたりは断面形状/直径とも一定のため、プレス成型した板材を組み合わせて造っている。ホースバンドには、以前、クイックリリースタイプが用いられたこともあったが、2005年型以降は、信頼性重視の鉄製極太ワイアバンドに統一された。

画像: 2006年型で強化されたリアサスペンションのボトムリンク周辺。中央の三角形のプレートは、前方(写真では左)がフレーム、後方がリアショック下部に結節しており、スイングアームの動きは、細いロッドを介して三角形プレートの底部に伝わる。このロッドにはターンバックル式アジャスターがあり、ここを伸縮させると車高が変化する。

2006年型で強化されたリアサスペンションのボトムリンク周辺。中央の三角形のプレートは、前方(写真では左)がフレーム、後方がリアショック下部に結節しており、スイングアームの動きは、細いロッドを介して三角形プレートの底部に伝わる。このロッドにはターンバックル式アジャスターがあり、ここを伸縮させると車高が変化する。

画像: 2-1集合部より後ろの部分は、微妙に内径を拡大しつつサイレンサーに達しており、ここも短い円筒形材料を溶接で継ぎ合わせた構造。

2-1集合部より後ろの部分は、微妙に内径を拡大しつつサイレンサーに達しており、ここも短い円筒形材料を溶接で継ぎ合わせた構造。

画像: カーボンボディのサイレンサーは、内部にパンチングメタルと消音材が入っている。効果はともかく、装着するのがヤマハの方針である。

カーボンボディのサイレンサーは、内部にパンチングメタルと消音材が入っている。効果はともかく、装着するのがヤマハの方針である。

画像: リアショック上部はクランクケース後端上部にマウント。オーリンズの最新式ユニットは、超小型のリザーバータンク/ダイアル式の手動プリロードアジャスター/2種の減衰力調整ダイアルを備えている。

リアショック上部はクランクケース後端上部にマウント。オーリンズの最新式ユニットは、超小型のリザーバータンク/ダイアル式の手動プリロードアジャスター/2種の減衰力調整ダイアルを備えている。

画像: スイングアームもフレーム同様、アルミ削り出しパーツを溶接で組み立てた製法。撮影時のスプロケット歯数は、ドライブ16/ドリブン38で、チェーンは60リンク120ピン。スイングアーム軸間は655 近辺。ドリブンスプロケットはチタン製。大きな力のかかる左側チェーンプラーは、外側側面に穴ではなくポケット加工が施されており、表裏とも穴加工の右側チェーンプラーとは異なっている。ホイールの位置調整は、スイングアーム後端にねじ込まれたボルトを緩めるとチェーンプラーが後退し、調整後にロックナットで固定するタイプである。

スイングアームもフレーム同様、アルミ削り出しパーツを溶接で組み立てた製法。撮影時のスプロケット歯数は、ドライブ16/ドリブン38で、チェーンは60リンク120ピン。スイングアーム軸間は655 近辺。ドリブンスプロケットはチタン製。大きな力のかかる左側チェーンプラーは、外側側面に穴ではなくポケット加工が施されており、表裏とも穴加工の右側チェーンプラーとは異なっている。ホイールの位置調整は、スイングアーム後端にねじ込まれたボルトを緩めるとチェーンプラーが後退し、調整後にロックナットで固定するタイプである。

YAMAHA YZR-M1(2006)<No.03>へ続く

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