モトGPにおける戦略の転換を図ったホンダは、ヘイデンにタイトルを取らせるためのマシンと態勢を用意。ニュージェネレーションと名づけられたそのマシンは、狙いどおり、2006年のモトGPチャンピオンに輝いたが結果だけでなく、狙いを絞ったコンセプトとそれを形にした技術、そして、鍛え上げた努力にも心から称讃を贈りたい。今回は#69ニッキー・ヘイデンのRC211Vと#26ダニ・ペドロサのRC211Vの違いを観察する。

Text:Nobuya Yoshimura Photos:Teruyuki Hirano

異なるコンセプトで開発された2種類のマシン。その似て非なる細部を比較

モトGP元年となった2002年にデビューした初代RC211Vからの正常進化を受け継ぐ2006年モデルが“オリジナル”で、それとはコンセプトを異にするスペシャルマシンが、990cc最後のシーズンに実戦投入された“ニュージェネレーション”である。

#69 Nicky Hayden RC211V(2006)

画像1: #69 Nicky Hayden RC211V(2006)

#69 Nicky Hayden RC211V(2006)

このマシンでだれかに勝たせる…ではなく、ヘイデンが勝てるマシーンを造る…へ。990㏄で戦う最後のシーズンに、2年連続でライバルに奪われていたタイトルを取り戻すのを目標に、RC211V“ニュージェネレーション”は開発された。

画像2: #69 Nicky Hayden RC211V(2006)

#69 Nicky Hayden RC211V(2006)

車名こそRC211Vのままではあるが、共通寸法/共用パーツは皆無といってよい別マシンである。2006年のチェコGP直後にテストをしたが、性能が安定しておらず、シーズン終盤の実戦投入を見送って開発を続け、2007年シーズンのヘイデン専用車として完成し、タイトルを獲得した。

画像: ヘイデンひとりが駆った“ニュージェネレーション”は、クランクシャフト〜ドライブスプロケット間を短縮したほか、各部をギリギリまで小型化したエンジンを、従来モデルよりも30㎜長いスイングアームを持ち、剛性バランスを見直された新形状フレームに搭載する。

ヘイデンひとりが駆った“ニュージェネレーション”は、クランクシャフト〜ドライブスプロケット間を短縮したほか、各部をギリギリまで小型化したエンジンを、従来モデルよりも30㎜長いスイングアームを持ち、剛性バランスを見直された新形状フレームに搭載する。

画像: “ニュージェネレーション”モデルの左サイド。“HONDA”の文字のある円形のカバーがクランク軸の位置で、その直後にある金色のクラッチレリーズシリンダーがミッションのメインシャフトの位置、そしてドライブスプロケットがカウンターシャフトの位置であり、クランクシャフト〜ミッション間の距離を大幅に短縮したのがわかる。

“ニュージェネレーション”モデルの左サイド。“HONDA”の文字のある円形のカバーがクランク軸の位置で、その直後にある金色のクラッチレリーズシリンダーがミッションのメインシャフトの位置、そしてドライブスプロケットがカウンターシャフトの位置であり、クランクシャフト〜ミッション間の距離を大幅に短縮したのがわかる。

#26 Dani Pedorosa RC211V(2006)

画像1: #26 Dani Pedorosa RC211V(2006)

#26 Dani Pedorosa RC211V(2006)

75.5度V型5気筒という、まさにホンダならではのマシン造りを感じさせたRC211Vは、多くのライダーに勝てるチャンスを与える汎用性、サテライトチームにもメインテナンスを任せられる耐久性/マシーントラブルを起こさない信頼性など、レーシングマシーンとしての戦闘力以外の性能でも抜きん出た存在だった。

画像2: #26 Dani Pedorosa RC211V(2006)

#26 Dani Pedorosa RC211V(2006)

こうした従来型の特性をさらに磨き、正常進化させたのが2006年モデルの“オリジナル”であり、ヘイデンを除くライダーに供給され、“ニュージェネレーション”とともに激しいトップ争いを展開した。

画像: ヘイデン以外のライダーに供給された“オリジナル”は、2002年にデビューしたRC211Vの、これまでの進化の延長線上にあるマシン。ヘイデンに“ニュージェネレーション”を任せた2006年は、同じワークス直営チームのダニ・ペドロサをメインに開発を進めた。安定性/信頼性だけでなく、整備性/量産性にも配慮した設計は、多くのライダーに平等にマシーンを提供するという、かつての戦略を象徴している。総合的な完成度という点では、当然、こちらのほうが上だろう。

ヘイデン以外のライダーに供給された“オリジナル”は、2002年にデビューしたRC211Vの、これまでの進化の延長線上にあるマシン。ヘイデンに“ニュージェネレーション”を任せた2006年は、同じワークス直営チームのダニ・ペドロサをメインに開発を進めた。安定性/信頼性だけでなく、整備性/量産性にも配慮した設計は、多くのライダーに平等にマシーンを提供するという、かつての戦略を象徴している。総合的な完成度という点では、当然、こちらのほうが上だろう。

画像: “HONDA”の文字のある円形のカバー/金色のクラッチレリーズシリンダー/ドライブスプロケットの3つの位置関係を見比べると、こちらのほうがクランクシャフト〜ミッション間の距離が長いことがわかる。2車の比較では“ニュージェネレーション”の激変ぶりに目を奪われがちであるが、こちらのほうも開発は継続されており、コーナー進入時のホッピング対策として、従来は横への振れを抑える方向で開発していたが、2005年モデルで一定の成果を得た後は、縦方向への振れを抑えるのを重要なテーマとして改善を進めた。

“HONDA”の文字のある円形のカバー/金色のクラッチレリーズシリンダー/ドライブスプロケットの3つの位置関係を見比べると、こちらのほうがクランクシャフト〜ミッション間の距離が長いことがわかる。2車の比較では“ニュージェネレーション”の激変ぶりに目を奪われがちであるが、こちらのほうも開発は継続されており、コーナー進入時のホッピング対策として、従来は横への振れを抑える方向で開発していたが、2005年モデルで一定の成果を得た後は、縦方向への振れを抑えるのを重要なテーマとして改善を進めた。

画像: クランクシャフトに対するミッションの軸配置やクランクケースのアウトラインは従来モデルに似るが、クラッチは従来型とも“ニュージェネレーション”とも異なる新作である。熱対策に悩まされている部分だけに、何か新しい試みが盛り込まれているのかもしれない。

クランクシャフトに対するミッションの軸配置やクランクケースのアウトラインは従来モデルに似るが、クラッチは従来型とも“ニュージェネレーション”とも異なる新作である。熱対策に悩まされている部分だけに、何か新しい試みが盛り込まれているのかもしれない。

画像: 剛性バランスの見直しを受け、従来モデルとは構造が異なるスイングアーム。左側面上部に見られた、いかにも補強然としたプレスラインがなくなり、上から下までひとつの大きな面で構成されたものになった。リアアクスルを支持するテールエンドピースの結合部分にも変化が見られ、上部に当たっていた補強パッチはその姿を消している。

剛性バランスの見直しを受け、従来モデルとは構造が異なるスイングアーム。左側面上部に見られた、いかにも補強然としたプレスラインがなくなり、上から下までひとつの大きな面で構成されたものになった。リアアクスルを支持するテールエンドピースの結合部分にも変化が見られ、上部に当たっていた補強パッチはその姿を消している。

画像: 2004年モデルでアッパーリンクに変化したリアサスペンションは、2005年にボトムリンクに戻り、2006年もボトムリンクを継続する。リンクのレバー比やショックユニットの中身は“ニュージェネレーション”と異なっているかもしれないが、素材や製法は同じに見える。

2004年モデルでアッパーリンクに変化したリアサスペンションは、2005年にボトムリンクに戻り、2006年もボトムリンクを継続する。リンクのレバー比やショックユニットの中身は“ニュージェネレーション”と異なっているかもしれないが、素材や製法は同じに見える。

画像: サイドカウルの内側に、サブチャンバーを持つダクトを取り付ける構造は従来型と同じ。“ニュージェネレーション”とは異なり、エアクリーナーエレメントは単独で交換可能。より市販車に近い構造だ。

サイドカウルの内側に、サブチャンバーを持つダクトを取り付ける構造は従来型と同じ。“ニュージェネレーション”とは異なり、エアクリーナーエレメントは単独で交換可能。より市販車に近い構造だ。

画像: ゼッケン下左右の吸気口は、試行錯誤の末、この形状に落ち着いた。

ゼッケン下左右の吸気口は、試行錯誤の末、この形状に落ち着いた。

ホンダのレース史上最も純粋なワークスマシンという形容がぴったりの“ニュージェネレーション”モデルに対して、尖った性能を丸め、削ぎ落とされた余裕を持ち続けているのが“オリジナル”モデルである。

ヘイデンの“ニュージェネレーション”とペドロサの“オリジナル”を見比べると、大きな違いに驚かされる。“オリジナル”のほうは、エンジンの形状/フレームの構成とも、2002年モデルから2005年モデルへの進化の延長線上にあるが、“ニュージェネレーション”のほうは、それを感じさせない形状/構成だ。

「耐久面での余裕は落としている」と明言されているように、“ニュージェネレーション”は、どのチームのだれに任せてもよいマシンではない。シーズン中にエンジン関係で5回、車体関係で6回のバージョンアップをしたことからも、まさにつきっきりで世話をしなければならないマシーンだったのに対し、“オリジナル”のほうは、高い安定性/信頼性という長所を生かしたマシーンだったということができる。

コンセプトの異なる2種のマシーンを用意し、それぞれの特性を生かした戦略を立ててもなお、容易にはタイトルを獲得できないほど、5年目にして990㏄最後のモトGPは、激しく厳しいシーズンだったのである。

HONDA RC211V(2006)<No.05>へ続く

Powered By Bikers Station

日本のバイク遺産シリーズ「MotoGP伝1-2」はアマゾンでも購入できます

「MotoGP伝」関連記事はこちら

This article is a sponsored article by
''.