最新モデル、そして絶版車が人気のなか「ちょっと前の最新モデル」って、案外忘れられがち。今回の「ちょっと前の最新型」はカワサキZ1000。スーパースポーツじゃない、ツーリングバイクじゃないZ1000の強烈な魅力は——ワープ力だ! 
※月刊オートバイ2019年11月号掲載「現行車再検証」より

いつでもどこでも誰とでも上手くやれるZ

画像: KAWASAKI Z1000/消費税10%込み117万1,500円

KAWASAKI Z1000/消費税10%込み117万1,500円

Z1000で街中をスイーッと流していると、デジタルメーター上部の白色LEDバーグラフがチカチカし始める。

ん? なんだ、トラクションコントロールが介入してるの? と思ったけれどさにあらず。エンジン回転数が4000回転まではタテ表示、それ以上はヨコ方向にバーグラフが伸びる、これはタコメーターなのだ。

おかしな2段階表示だな、と思ったけれど、Z1000はこの「タテからヨコ」の境目で、態度を豹変させて来る乗り物なのだ。ここからグンと来ますよ、っていうサインなのかな。

パワーフィーリングをチェックするでもなく、まだまだスイーッと流している。街中を走るスピードなんて50〜60㎞/hで、とんとんとシフトアップしていくと、トップギア6速の2000回転くらいが50㎞/hあたり。スロットル開度は、せいぜい1/8とか1/16で、このあたりの回転域の力の出方が、なんとも優しいモデルだ。

しかし、少し前方が空いてムチを入れてみると、タコメーターのバーグラフがタテからヨコ方向に伸び始めるあたりで、Z1000はもうひとつの顔を見せ始める。このエリアで、トルクをもうひと乗せしているようなトルク特性になっていて、遠くから吸気音がヒューンと響き始める。ひょっとすると、このエアリアまで、パワーがありすぎるから削ってあるのかもしれないけれど、なんたる演出だ!

4000回転を超える頃になると、エンジンはとたんにギュルギュルギュルと獰猛なパワーを吐き出す準備を始めて、スロットルに敏感になり始める。これ、けっこうヤンチャな性格が与えられているのだ。

画像: いつでもどこでも誰とでも上手くやれるZ

Z1000とは、カワサキ1000㏄クラススポーツバイクのスタンダードな軸だ。カウル付きモデルとしてニンジャ1000を、アドベンチャーテイストにヴェルシス1000を持ち、ってことはZ1000はネイキッドスタイルのスポーツバイクだってことになる。

この1000㏄クラスのネイキッドっていうのは、いま各メーカーともちょっと苦戦しているカテゴリー。高速道路ツーリングメインに使うならば、カウル付きニンジャやヴェルシスがいいし、ストリートランをメインに使うならば、なにも1000㏄で140PSも要らないんじゃないか――と思われているクラスなのだろう。

けれど、有り余るパワーは上手に手なづけられていて、決して使いこなせない力ではない。ライダーの右手の動き次第で、凶暴にもジェントルにも走らせることができるオートバイ。

考えてみれば、カワサキZってそういうモデルだ。ホンダCBもスズキGSXも、いつでもどこでも誰とでも上手くやれるタイプなんだけれど、ひとたびムチを入れるととんでもない走りを味わうことができる。

それが、メーカーの「顔」。Z1000は、まぎれもなくZ1の血統を受け継いでいる。

軽さと安定感の絶妙バランスがお見事

画像1: 軽さと安定感の絶妙バランスがお見事

ツーリングバイクなのか峠のスポーツバイクなのか、今ひとつ掴みづらい「万能スポーツ」Z1000。こんな時は、わかるまで乗りまくるのみだ。

そして僕は、Z1000に乗りまくった。まず、この記事の撮影用に箱根まわりをツーリング。ほかの取材にもZを引っ張り出して、乗りまくり、キャンプにも行ってきた。

結果、約2週間で、乗りも乗ったり約1460㎞! 撮影車としてカワサキからお借りしている車両だから、返却する時には、走行距離をチェックした担当者の方が「!」って顔をしたの、僕は見逃さなかった(笑)。

画像2: 軽さと安定感の絶妙バランスがお見事

高速道路と一般道を走った比率は7対3くらい。高速道路では、独特のヘッドライトナセルが整流効果を発揮してくれて、風圧が大変、なんてことはなかった。

ハンドリングは、フロントにしっかり安定感があって、軽すぎない手応えを感じながら走ることができる。ただし、ホイールベースかトレールの設定なのか、直進安定性がビタッ、と来るまでにはいかなかった。

いつも次のアクションに準備ができている感じで、高速道路のレーンチェンジでよっこらしょ感が皆無な代わりに、一定スピードでクルージングしていても、俊敏に動くことができる。

これはワインディングでも感じたことで、シャープすぎず、重くもない、絶妙なバランス。ニンジャよりも軽快感があるセッティングで、うまく両モデルの差別化を図っているのだろう。

カワサキって、こういう味付けがめっぽう上手いね。

何にも突出していないと、どんな用途にも使える

画像1: 何にも突出していないと、どんな用途にも使える

エンジンは、二面性があるキャラクターだと言っていい。

スロットル開度を小さく、ぽんぽんとシフトアップをして低回転で走ると、穏やかでジェントルなフィーリングで、ひとたび4000回転以上を使い始めると、とたんに反応が俊敏に、パワーがギュルギュルと爆発を待ち始める——そんな印象だ。

2週間のあいだ毎日のように乗って、Z1000のオールマイティさが本当に良く分かった。自然なライディングポジションと、コントロールしやすいエンジンで、長野のワインディングを気持ちよく走るのも、都内の大渋滞と安全に一体化するのもイージーだったのだ。

どちらかと言えば、やはりワインディングを流すのが本当に気持ちよかった。Z900よりもトルクでグイグイと走り、ZX-10Rよりもラクに流すこともできる、そんなキャラクターだ。

画像2: 何にも突出していないと、どんな用途にも使える

2週間を走っての平均燃費は、走るステージによって15〜25㎞/Lと言ったところで、平均燃費は22㎞/Lといったところ。140PSをマークする並列4気筒1000㏄エンジンとしては、充分に合格点だ。

ただし、改善してほしいところもひとつ。それはシートの薄さと硬さだ。このシートがスポーツランを想定しているのは分かるんだけれど、バイクのオールラウンドな性格とは、ちょっとマッチしない。今回は走れば走るほどお尻が痛く、どう乗車姿勢を変えても、なかなか痛みは和らがなかったからね。

画像3: 何にも突出していないと、どんな用途にも使える

街乗りをして、ふと停車しているZ1000を遠くから眺めてみる。なんともイカツいルックスのロードスターは、インパクトがデカくて、ちょっと所有を自慢したくなるカフェレーサーチックでもある。

ビッグロードスポーツのベーシックな軸として、これからもスーパースポーツやツアラー、アドベンチャーに押されてしまうであろうネイキッドカテゴリー。それでも、どんなバイクかつかみづらいってことは、どんな用途にも使える、ってことだ。

考えてみたら、カワサキZって、ずっとそんなバイクだ。その意味でも、Z1000は紛れもなくZ1の現代版なのだ。

文:中村浩史/写真:島村栄二

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