鈴鹿8耐がついこないだのことだと思ってたのに、世界耐久は「2019~2020」新シーズンに入って早くも第2戦、初開催のマレーシア・セパン8時間耐久を迎えました。このセパン8耐は、鈴鹿を除いて初のアジア圏での世界耐久! しかも熱帯雨林地域での耐久レースということで注目を集めていた大会だったんです。
 そして、日本勢にとっても大事な大会。それは、2019~2020年世界耐久の最終戦、つまり2020年7月の鈴鹿8耐へのトライアウトの一戦として、このセパン8耐が位置づけられた、ということがあったのです。
 2020年の鈴鹿8耐へのトライアウトは、例年通り全日本ロードレースと地方選手権・鈴鹿ロードレースが対象になるはずですが、毎レースとも全日本のトップチームが順に参戦枠を埋め、トライアウト対象チームにとっては、なかなかの狭き門。セパン8耐は、そのトライアウトの機会が増えるのと同時に、早めに参戦を決めておきたいチームの思惑が一致する、いい機会というわけなのです。

画像: オープニングセレモニーとしてセパン8耐マシンがマレーシアの市街地をデモラン! これいいなー^^

オープニングセレモニーとしてセパン8耐マシンがマレーシアの市街地をデモラン! これいいなー^^

 そのこともあって、セパン8耐へは日本勢チームの参加も目立ちました。日本勢は以下の通り。
#88 ホンダアジアドリームレーシングwith SHOWA
#80 TONE RT SYNCEDGE 4413 BMW
#10 KRP三陽工業& will raise RS-ITOH
#73 Team PLUS ONE
#98 Team 阪神ライディングスクール
#28 Team KODAMA
#69 山科カワサキ KEN Racing & オートレース宇部
#27 Trance Map Racing with ACE CAFÉ
#17 Team SUGAI RACING JAPAN
#51 Team MOTOKIDS icu TAKADA I.W NAC SANYO

上記チーム以外にも、#71 スズキJEG KAGAYAMAから浦本修充と津田拓也が、#55 ナショナルMOTOSから大久保 光が、そして#87 Team R2CLから今野由寛が、このセパン8耐にエントリー。上のライダーやチームは、全日本ロードレースのスケジュールが終わってからも、このセパン8耐の準備に忙しい日々を送っていたというわけですね。

画像: 世界耐久レギュラーチームからスポット参戦のオファーを受けて出場した大久保光(左)と今野由寛

世界耐久レギュラーチームからスポット参戦のオファーを受けて出場した大久保光(左)と今野由寛

さらにこのレースには、もうひとつの注目チームが参戦! なんと、ヤマハファクトリーチーム扱いで「ヤマハセパンレーシング」が参戦。ゼッケンは21番でしたから、これは2020年の鈴鹿8耐参戦権クリア用のチームだろうな、と思っていたら、なんとライダーがマイケル・バン・デル・マークにフランコ・モルビデリ、そしてファフィズ・シャリーンのスーパー・トリオ!
 WSBKのエースとしてマイケル、地元マレーシアの英雄ファフィズ、そしてヤマハMotoGPライダーであるフランコ! 1980年代とか90年代に、鈴鹿8耐に超豪華メンバーが参戦していましたが、それに匹敵するインパクトだったみたいです! それだけ、EWCがセパン8耐を成功させたい、と思ってる証でしょうね。ちなみにこのチームは、2019年のMotoGPをひっかきまわしたペトロナスYAMAHAが母体になっているようで、チーム結成当初はマイケルじゃなくてファビオ・クアルタラロが参戦するって言われてましたからね。
 

画像: セパンでは「ドリームチーム」と呼ばれていた、左からvd・マーク、モルビデリ、シャリーン

セパンでは「ドリームチーム」と呼ばれていた、左からvd・マーク、モルビデリ、シャリーン

 世界耐久のフル参戦チーム、鈴鹿8耐の参戦権獲得を目指すチーム、そして超豪華チームあわせて50チームが参戦、さらにマレーシアで初の世界耐久を開催と、注目ポイントがテンコ盛りだったセパン8耐。2019-2020シーズンみたいに年またぎで選手権を開催して、鈴鹿を最終戦として、セパン8耐をスタートさせて――いよいよ世界耐久が新しい世代に突入してきたな、って感じですね。
 

画像: 土曜はEWCのセパン8耐、日曜には4輪のWTCRが行なわれました これも新しいスタイルですね

土曜はEWCのセパン8耐、日曜には4輪のWTCRが行なわれました これも新しいスタイルですね

 そのセパン8耐ですが、日本時間12/14の土曜日・14時スタートの予定で開催されましたが、これが大問題と大波乱で大騒ぎ! マレーシアといえば暑い、ってイメージがあるでしょ? それと同時にスコール、雨が多い国でもあります。この雨が、すんごいレーススケジュールをイタズラしちゃったんです。ちなみにマレーシアの年間降雨量は約2800mmで、世界で8位。日本は梅雨って季節があるのに48位で約1700mmですからね。(※グローバルノート:国際統計データより)
公式スケジュールは11日水曜日に事前テスト、12日木曜日の公式予選&トップ10トライアル、そして金曜日はオフで、土曜日に決勝。もちろん、毎日のように一定時間スコールがあったし、各チームとも土曜の決勝レースも当然スコールを覚悟していたんでしょうが、それどころではなかったんです。決勝日の土曜、朝から豪雨だったんです!!
 日本とマレーシアとの時差は+1時間。マレーシア時間で13時スタート21時ゴールの8耐です。このレースも、世界耐久選手権の一環として日テレG+ <http://www.ntv.co.jp/G/> さんが完全ナマ中継してくれたんですが、テレビ放送の開始時刻のころ、スタート前から降り出した雨が、スコール的に一時的に降るんじゃなくて、ガッチリ振り続けていたんです!
 それもまぁまぁの豪雨が、レーススタート時刻になっても止まないものだから、開始時刻ディレイ。レースレギュレーション上では、この時間にスタートし、経過時間は進んでいますから、ゴール時刻は変わらない――つまり雨が降り続いてスタートが1時間遅れたらレースは「実質7時間耐久」に、3時間遅れたら「実質5時間耐久」になるのです。
 この間、編集部では現地の天気予報をずっと調べながらの観戦で、どうも現地時刻19時ごろには止みそうだ、と。え、そうしたら2時間耐久になっちゃう――いやまさか、それはなかろう……なんて、刻々と時計の針は進んでいくわけです。

画像: ようやく始まったレースも、最初はこんなスタイル この先導付きが8周続きました

ようやく始まったレースも、最初はこんなスタイル この先導付きが8周続きました

 ようやく現地が動いたのは現地時刻15時過ぎ。これで、実質6時間耐久か、と思いつつ、セーフティカーに続いてコースインする形でレースがスタート。おぉ、やっと始まったか! これでライダーがコースコンディションを確認できたら、数周でセーフティカーが退出してローリングスタート――と思いきや、セーフティカー先導が続き、予選順位のまま、追い抜き禁止で3周、5周、7周、9周。すると、そのあたりでライダーが続々と挙手のアクション。これは「危ないよ、いったん止めようよ」というサインで、レースは9周でいったん中断。止むかに思われた雨は再び強さを増し、雨は強いわ、コースは深い水たまりだわで、レースはいったん中断されることになってしまいました。
 レース中断中のマシン作業を禁ずるために、出場マシンはすべてレースディレクション保管。またも、そのまま刻々と時間は過ぎていきます。マレーシアはこの日、気温も上がらずに寒い日となっていたため、いろんなピットを移す国際映像には、寒そうで暇そうなチームスタッフがたくさん映ってましたね。
 

画像: ついにレース再開! 序盤は#21vd・マークと#5ディ・メリオがトップ争いでした

ついにレース再開! 序盤は#21vd・マークと#5ディ・メリオがトップ争いでした

 そして、ついにレースが再スタートしたのは現地時刻18時10分ごろ! これでレースは、実質「2時間50分ほど耐久」レースとなってしまったんです。ともあれ、天気のことは文句言えないですもんね。出場選手の安全を第一に、思い切ってレース開始時刻を遅らせたのは、FIM/EWCという主催者の大英断だったと思います。参加者はタイヘンだったでしょうけどね。
 レースは、再びセーフティカー先導でのスタートで、ローリングスタートから飛び出したのは、ポールポジションからのスタートだった#21 ヤマハ・セパンレーシング。ライダーはマイケル・vd・マークで、開始早々、2番手以下を引き離す勢い。さすが鈴鹿8耐優勝経験者でWSBKライダー、格が違うかぁ……と思ったら、2番手の#5 TSRホンダのマイク・ディ・メリオがぐんぐん追いついてきて、ついに#5TSRホンダフランスがトップに浮上! それでも背後につける#21ヤマハは、数周後にvd・マークがディ・メリオをかわすと、その直後に最終コーナーでディ・メリオがスリップダウン! そのままvd・マークを巻き込んで両者が転倒してしまったんです!
 

画像: 一時トップに立ったディ・メリオを、再びvd・マークがパスした直後に……

一時トップに立ったディ・メリオを、再びvd・マークがパスした直後に……

 いち早くマシンを起こして再スタートするディ・メリオ。マシンにダメージもなく、トップをキープしたまま再び周回を開始すると、vd・マークはマシンのダメージがあったか、ピットインしてマシンチェック。vd・マークもケガしたっぽかったけれど、マシン修復の後にライダー交代なしで再スタート。ケガはなかったみたいです。#21ヤマハは10分ほどピットに留まって、40番手あたりでレースを再開することになりました。
 
 トップ争いの2台が両者転倒という、ひとつめの事件のあと、レースは#5TSRホンダと#7YARTヤマハが新しくトップ争い。#7YARTヤマハは、スタート早々電子制御系のトラブルに見舞われ、一時は20番手以下にポジションダウン! しかも、その症状は治らず、カネパがどうにかなだめすかして走っていたそうです! この雨の中、トラクションコントロールもエンジンブレーキコントロールも効かない中で走ってたの、カネパ! それでレース中盤にはトップグループに追いつくってスゴい! それでも、#5TSRディ・メリオのペースもよく、2番手との差はなかなか縮まらない――と思ったら、後方から追い上げてきた#71スズキJEG KAGAYAMAの浦本修充がついに2番手に浮上! ここ数シーズン、日本を離れてスペイン選手権スーパーバイクを戦っている浦本の勇姿に日本ファンは大騒ぎ! 特にG+のナマ中継に解説者として出演していたチームカガヤマのオーナー、加賀山就臣は気が気じゃなかったでしょう。
「いつもナオミチには世界に向けて印象に残る走りをしろ、って言っているんです」(加賀山)と言うとおり、印象を残しました、浦本!
 

画像: レース中盤、確実にレースの主役だった浦本 マシントラブル、惜しかった!

レース中盤、確実にレースの主役だった浦本 マシントラブル、惜しかった!

 レースは走行1時間をすぎて、残り2時間。ずっと雨が降り続けているため、スタートライダーがライダー交代なしで2スティント目も走り続ける「ダブルスティント」戦術をとるチームが多かったですね。これは、雨で1時間走り続けたスタートライダーと、いきなり雨レースにコースインする2人目のライダーでは、どうしてもウェット走行の習熟に差が出るから、交代なしで走り続けることが多いんです。雨のレースでは体力の消耗もドライに比べて少ないですからイケる戦術なんです。
トップグループは#5TSRホンダに#71 KAGAYAMAスズキ、#88ホンダアジアドリーム、#37 BMWモトラッド、#7YARTヤマハといった面々。
 そして、次の事件はトップ独走中の#5TSRホンダの単独転倒! ダブルスティントで2回目の走行をしていたディ・メリオですが、ピットストップの間に#7YARTヤマハのニッコロ・カネパにかわされながら、再スタートでカネパをパスして再びトップを走行。再び2番手以降を引き離し始めた頃に転倒してしまったのです!
 これでレースは#7YARTヤマハ、#71 KAGAYAMAスズキ、#37 BMWモトラッド、#88 ホンダアジアドリームの順。しかし、ここで#71浦本のマシンがエンジンストップ! うわぁ、浦本惜しかった! それでも世界耐久に強烈な印象を残したかもしれませんね!
 

画像: なんと約3時間をひとりで走り切ったカネパ。何時間以上走ってはならぬ、ってルールないんですね

なんと約3時間をひとりで走り切ったカネパ。何時間以上走ってはならぬ、ってルールないんですね

画像: 世界耐久のファクトリーチームといえるBMWモトラッド

世界耐久のファクトリーチームといえるBMWモトラッド

画像: うわぁいい写真! 中央の玉田監督は世界選手権初位表彰台! 来年の鈴鹿8耐が楽しみです

うわぁいい写真! 中央の玉田監督は世界選手権初位表彰台! 来年の鈴鹿8耐が楽しみです

 これでレースポジションは安定し始めて、各チーム2回目の、つまり最後のピットストップ。すると、なんとなんと! トップを走る#7YARTヤマハは、ライダー交代せずに、カネパが3時間目のコースイン! トリプルスティントです! 聞いたことない! コースは雨が止んで、コースはまだウェット部分の方が多いコンディションで、交代するつもりでピット待機していたブロック・パークスもあららら、って感じでカネパを見送っていましたね。
 

画像: MotoGPライダーの凄みを見せつけたモルビデリ 鈴鹿8耐にも来てくんないだろうか^^

MotoGPライダーの凄みを見せつけたモルビデリ 鈴鹿8耐にも来てくんないだろうか^^

 レース終盤で目立ったのは、一時は最下位まで沈んだものの、vd・マークとモルビデリの恐るべき追い上げで順位をぐいぐい上げてきた#21ヤマハと、レース序盤は順位を落としたものの、いつの間にかポジションを上げていた#2 S.E.R.T.ことスズキ・エンデュランス・レーシング・チーム! やっぱりセパンヤマハはズバ抜けた速さだったし、S.E.R.T.はプロフェッショナルの耐久チームらしい強さ、レース運びの上手さが見えましたね。
 
 そしてレースは走行3時間弱で終了。優勝したのは#7YARTヤマハで、なんとなんとカネパがひとりで走り切りました。2位には#88 ホンダアジアドリームで、これは全日本ロードレースでもおなじみの、ザクワン・ザイディ/アンディ・イズディハール/ソムキャット・チャントラのトリオ。チーム監督は、あの玉田誠です! 3位にはBMWの耐久ワークスチームともいえる#37 BMWモトラッドワールドエンデュランス。S.E.R.T.が4位に入り、チャンピオンチームSRCカワサキが5位、6位にはなんとなんとの#21セパンヤマハが最後尾からの追い上げでランクイン! #5TSRホンダは12位でフィニッシュしました。
 

画像: 日本チーム最上位は初マシンBMWを使用したプラスワン! 関口太郎/酒井大作/名越公助が走りました

日本チーム最上位は初マシンBMWを使用したプラスワン! 関口太郎/酒井大作/名越公助が走りました

画像: SSTクラス3位は一度転倒があったもののTONEシンクエッジ! 星野知也/渥美心/石塚健が走りました

SSTクラス3位は一度転倒があったもののTONEシンクエッジ! 星野知也/渥美心/石塚健が走りました

画像: 優勝したYARTは、写真でマシンにまたがってるカネパだけが走行という珍しい勝ち方でした

優勝したYARTは、写真でマシンにまたがってるカネパだけが走行という珍しい勝ち方でした

 上に挙げた日本チーム勢は
#73 Team PLUS ONEが日本チーム最上位の11位
#80 TONE RT SYNCEDGE 4413 BMWはSSTクラス3位入賞の15位
さらに#28 Team KODAMA 22位、#10 KRP三陽工業& will raise RS-ITOH 23位、#98 Team 阪神ライディングスクール 26位、#51 Team MOTOKIDS icu TAKADA I.W NAC SANYO 29位、#27 Trance Map Racing with ACE CAFÉ 30位、#69 山科カワサキ KEN Racing & オートレース宇部 32位、#17 Team SUGAI RACING JAPAN 40位で、参戦した日本チームはすべて2020年の鈴鹿8耐への参戦権を獲得したレースとなりました!

写真/EWC Yamaha 文責/中村浩史

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