ダカールラリーのモト部門は、排気量450ccの制限を敷いてから競技として先鋭化してきた。安全面や、レースとしての魅力を増強させる一方で、ダカールの大きな魅力の一つであった「冒険味」が失われてしまったという見方もある。だが、本来冒険などというものは、未開の地を行くものだけを指すのではないだろう…冒険は自分の中に、ある。車椅子ライダーのニコラ・デュットのダカール挑戦は、そんな想いを思い出させてくれるはずだ。

ダカールを、あきらめない

画像: ダカールを、あきらめない

ピエモンテに生まれ3歳からスポーツに慣れ親しんできたイタリア人、ニコラ・デュッティ。山岳地方でスキーに明け暮れた幼年時代だったと言う。「スキーのバランス感覚と、バイクは似てたからかな」とデュッティは次第にモーターサイクルに傾倒。デュットは、ダカールラリーを夢見て、エンデューロから始め、ファラオラリーなどに参戦し、生涯をかけ準備してきたのだという。2008年にはスズキとの契約を得て、欧州の選手権を勝ち続けた。

しかし、2010年、デュットはイタリアン・バハ(本家バハではなく、ベネチア近郊でおこなわれるラリー)において脊椎を損傷。160km/hで先頭を走行中にちょっとした、岩のかけらに掬われたのだ。結果的に、へそから下の感覚を失い、バランスをとれなくなってしまった。ベッドの上で、座れないほどに。デュットは、それから車椅子での生活を余儀なくされた。

デュットはバイクを諦めなかった。2011年の11月には病院のベッドを出て、バギーでバハ1000にチャレンジすることを決めた。レースを終えて、デュットは「 I will take on the challenge to compete on a motorbike again.」と一言。下半身の感覚がなく、バギーでバハを完走できただけでも想像しえないことだが、再び二輪に挑戦すると言う。その意志に、多くの仲間や企業が、協力を惜しまなかったそうだ。

その二輪への復帰は、たった1年でかなえてしまう。2012年、デュットは歴史上はじめての500kmのバハ・アラゴンを完走した下半身不随のライダーとなったのだった。

ケージで上半身を支える、デュット専用のバイク

画像: Nicola Dutto's amazing story: Riding the Dakar Rally when you’re paraplegic? Yes, you can! youtu.be

Nicola Dutto's amazing story: Riding the Dakar Rally when you’re paraplegic? Yes, you can!

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二輪に復帰するにあたって、もっともデュットにとって大きな力になったのは、おそらくリハビリテーションの器具を開発する、デュッセルドルフのVICAIRという企業だろう。VICAIRにとっても、企業が誇るテクノロジーをアピールするのに最適だった。

画像: 143 DUTTO Nicola (ita), KTM, Offroad Adventure Crew, Moto, during the Dakar 2019, Scrutineering, verifications, Peru, Lima, on january 4 to 5 - Photo Florent Gooden / DPPI www.dakar.com

143 DUTTO Nicola (ita), KTM, Offroad Adventure Crew, Moto, during the Dakar 2019, Scrutineering, verifications, Peru, Lima, on january 4 to 5 - Photo Florent Gooden / DPPI

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ダカールマシンとして用意したデュットのマシンは、450RALLYではなく450EXCベースで仕立てたもの。デュットの下半身を支えるケージをマシンに張り巡らせ、腰を固定するシートをかぶせた仕様だ。

椅子にはエアクッションが仕込まれていて、下半身でショックを吸収できないデュットのボディアクションを補っている。この仕様で、デュットはバハ1000を完走、ダカールを完走するためのテストをこなし、いまダカールラリーを走っている。下半身不随になって、ダカール完走を目指す。不可能だろうか。いや、彼はすでにステージ3をこなして明日の準備をしているのだ!

「足を守るためのロールバーを装着して、フロントブレーキとリアブレーキ、そしてギアチェンジとスロットルができるようにモディファイしたハンドルを装備したKTMで戦う。俺は、完全にバイクに締め付けられている。単独で走行するのではなく、3人のライダーが前と、後ろと、横を追走する。チームワークで乗り切るんだ。これまで、メルズーガと、モロッコラリーをこなしてきた。スタートへのモチベーションは最高潮だ。怖いか? Nothing scare me.
ダカール公式ページより www.dakar.com

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