7/5~6、2日間とも雨に見舞われた「鈴鹿8耐メーカー合同テスト」に続き、7/10~12にも公開テストが行なわれました。便宜上、この流れを「テスト01/02」とあらわしますが、これで鈴鹿8耐エントラントは、公式テスト日程を終了。あとは各チーム、鈴鹿のスポーツ走行枠を使って走り込んだり、コースを数メーカーで占有してのプライベートテストを残すのみ。ほとんどのチームは、あとはレースウィークを待つのみ、となりました。

テスト02では、注目ポイントがいくつか。テスト01がレース日程とかぶっていたWSBK勢がチームに合流したんです。WSBK勢とは、ヤマハファクトリーレーシングチームのアレックス・ロウズ/マイケル・ファン・デル・マークをはじめ、レッドブルホンダwith日本郵政のレオン・キャミアだったり、カワサキTeamグリーンのレオン・ハスラム(はイギリススーパーバイクですが)/ジョナサン・レイだったり、です。特に注目を集めたのは、WSBKの3Timesワールドチャンピオンのジョナサン・レイ! ご存知のように、レイはこれまで、ハルクプロ、TSRホンダで鈴鹿8耐に参戦経験があり、WSBKでホンダ→カワサキへ移籍してから初めての鈴鹿8耐。

「鈴鹿に帰ってこられてうれしいよ。レースは相変わらずキツくてハードなんだろうけど(笑)、やっぱり鈴鹿はいいね。素晴らしいコースだし、日本のファンのみんなに会えるのも楽しみだよ」とレイ。

画像: TSRホンダで8耐を勝った後、カワサキへ移籍して3Timesワールドチャンピオンとなったジョニー・レイ なんだか貫禄がでてました

TSRホンダで8耐を勝った後、カワサキへ移籍して3Timesワールドチャンピオンとなったジョニー・レイ なんだか貫禄がでてました

いきなり見せた世界チャンピオンの実力

そのレイを擁するカワサキTeamグリーンがいきなり魅せます。ハスラムこそ、6月中旬のプライベートテストで、すでに8耐用マシンのシェイクダウンは済ませていますが、レイは初めて。ふたりとも本格テストはこの日からで、レイは走り出しからすぐに2分08秒台をマーク! 日本に到着してすぐに鈴鹿に移動、サーキットに到着してすぐの1本目の走行はパスする予定でしたが、レイはすぐに着替えてコースインしたそうです。最終的には初日に2分07秒、2日目には06秒台に入れてきました! 普段使っているマシンでもないし、タイヤもピレリからブリヂストン、なのにアッという間にこのタイム、スゴいとしか言いようがありません!

「WSBKではピレリタイヤを履いているけど、ブリヂストンタイヤの鈴鹿8耐マシンでも、全く問題ないよ。もちろん、タイヤグリップやハンドリングのフィーリングは変わるけれど、すぐにアジャストできたさ。カズマ(渡辺一馬)が作り込んできてくれたマシンをベースに、レオン(ハスラム)とセッティングのバランスを取り始めて、もういい方向に向かっているよ」(レイ)

タイヤに関しては、実はタイヤブランドが違うと「いろんなもの」が違って、例えばケース剛性やコンパウンドはもちろん、タイヤサイズ、外径さえ違うもの。一度、シーズンをまたいでA社からB社にタイヤブランドチェンジしたチームのマシンを撮影させてもらったことがありましたが、肉眼でもちゃんとわかるほど、タイヤ外径(つまりバイクの高さ)が変わっていました。
その乗り換えを、こんなにイッパツで済ませるなんて、ちょっと信じられない--ってのが普通の感想。やっぱりワールドチャンピオンは、まったく普通じゃありませんでした。

レイの走り、数年ぶりにこの目で見ましたが、あいかわらず派手さがない、すごくオーソドックスな乗り方ですね。無駄がないし、数年ぶりに鈴鹿を走っているはずなのに、もう何万周もしている、日本のベテランライダーのようなマシンの動きです。

走りを見ていても、マシンは暴れないし、苦もなくインにつくラインをクリアしているから「あ、まだペース上げてないんだな」と思ったら、それが驚速タイムだったり――そういうライダーなんです、レイってひとは。ハスラムが、マシンをばんばん振り回して暴れまくるバイクをきちんとコントロールしているのと対極にいますね。これはタイヤの持ちが良くて燃費がよさそう!
しかもこのふたり、テスト最終日のロングランで、ウォーターバッグ仕込まずにコースインしたそうです。気温30度オーバー、路面温度50度オーバー、エンジン熱100℃(これは未確認・笑)でツナギ着てヘルメットかぶって1時間走行。「水しょってかなくていいの?」ってマネージャーの言葉に「1時間でしょ?大丈夫だよ」ってケロッと答えたそうです。帰ってきても「あー疲れるね」ってそんだけーー?? すごいな、ワールドクラス! そういえば去年ハスラムは、終盤2時間を連続走行して脱水症状による筋肉痙攣で記者会見に出られなかったんですよね。て、鉄人じゃん!

画像: 今どきのヒジ張りじゃない自然なライディングフォームで、しかもスムーズで速いレイ!

今どきのヒジ張りじゃない自然なライディングフォームで、しかもスムーズで速いレイ!

高橋+中上 3人目は……

もうひとつ話題だったのが、レッドブルホンダ(もうチーム名からしてかっこいい・笑)で高橋巧、中上貴晶とトリオを組むWSBK組のレオン・キャミア。しかしキャミア、違う意味でも話題を作ってしまって、なんとテスト02の走行1回目、走り出しすぐに転倒! そのまま負傷チェックのため病院へ直行し、残りの走行枠をキャンセルしてしまったんです。

テスト01は中上が合流するも雨、テスト02でキャミアが来るも、本人10周かそこらで転倒と、ヤマハの4連覇を阻止するはずのTeam HRCに暗雲が垂れ込めています。

画像: テスト02、結局高橋ひとりで走ったようなもの 巧よ、それがワークスライダーの重みだぞ、踏ん張れ!

テスト02、結局高橋ひとりで走ったようなもの 巧よ、それがワークスライダーの重みだぞ、踏ん張れ!

「僕がドライのセッティングをピシッと決めてふたりにマシンを渡す、って方向で進めるしかないですね。3人のセッティングを合わせるも、一緒に走る機会がないんだからやるしかないです。今はマシンのセッティングも周回タイムも、もういとつ上乗せしたい状態です」とは高橋巧。テスト02では、キャミア負傷の後、テスト項目をぜんぶひとりで消化しなけりゃならないため、相当にハードに走り込んでいました。いま汗かいとけば、あとできっといいことあるよ、巧!

画像: 孤独に、黙々と走り込みをしていた高橋 いまやることをやるだけ、って心境です

孤独に、黙々と走り込みをしていた高橋 いまやることをやるだけ、って心境です

しかし、3日目も走行をキャンセルしたキャミア。全セッション終了後には、ホンダから「レオン・キャミア 鈴鹿8耐出場欠場のお知らせ」というペーパーが出されます。脊椎に微小なクラックが発見されたため、参戦取り止めを決定した、という内容でした。

さぁ、困ったレッドブルホンダ! 選択肢はいくつかありますが、ひとつが高橋巧/中上貴晶のふたり体制で走るか、もうひとりライダーを追加するか、です。

画像: テスト01で雨の中を走り込んだランディ・ドゥ・ピュニエ HRCの正ライダーになる可能性も?

テスト01で雨の中を走り込んだランディ・ドゥ・ピュニエ HRCの正ライダーになる可能性も?

追加されるライダーは、おそらくランディ・ドゥ・ピュニエでしょう。ランディはテスト01の2日間、ホンダ全体のテストライダーとしてハルクプロのマシンに乗っていましたし、決して派手さはないけれど、昨年の大会でもTSRホンダからエントリーし、きちんと3位表彰台に立った立役者となりました。その去年の大会では、終盤にマシンのアンダーカウル内にたまったタイヤカスが発火してしまって、黒旗を提示されて強制ピットインとかしてましたもんね。それを乗り越えての表彰台でした。ステファン・ブラドルも候補のひとりでしょう。去年もハルクプロで乗る可能性があったし、直近のMotoGPではフランコ・モルビデリの代役で乗りましたしね。

または、もっと恐ろしいサプライズがあるのかな……。MotoGPも休止期間ですし、つい最近に今シーズンいっぱいで現役引退を発表した、あの「小さなサムライ」だって口説き落とせば……。ま、それはないか、でも期待しちゃうよなぁ……。桒田室長、がんばって!(笑)

※追記:7月18日に3人目のライダーが発表されました。ライダーはパトリック・ジェイコブセンで、ジェイコブセンがもともと出場予定だったハルクプロには、テストで乗っていたランディ・ドゥ・ピュニエが乗ることになりました※(7/18 21:00)

スキなしヤマハは万全の準備

圧巻の準備を見せたのがヤマハファクトリーチームでした。テスト01は、WSBK組に来日がないため参加をキャンセルし、満を持してのテスト02参加。ここでヤマハは順調すぎるテストを消化していったのです。

この3人が揃うのはこれが2度目で、今回のテスト02でも、走り出しから速い速い! しかも3人の誰が走っても速いし、8耐マシンでは重視しないはずのベストラップが2分06秒台、さらに周回タイムが2分07秒から08秒台と、まさにスキなしの仕上がり具合を見せたのです。

テストでありがちな、ピットにマシンを入れての長時間作業もなし、走行時刻になったらコースイン、予定通りの周回を消化して予定通りのタイミングでピットイン、さらに予定通りにロングランもこなすという充実ぶり。この「予定通り」の項目を「予知通り」にこなすのが、どんな種類にしろ、テストでいちばん大事なことですよね。

画像: 全日本、鈴鹿8耐と絶対王者ぶりを見せつける中須賀 いちばん大事なのは準備! それが上手く行ってる!

全日本、鈴鹿8耐と絶対王者ぶりを見せつける中須賀 いちばん大事なのは準備! それが上手く行ってる!

「8耐で勝つために一番重要なのはいい準備。うちはもう勝ち方も知ってるし、ライダー3人のコンビネーションも問題ない。いい準備ができてます。レースは何があるかわからないけど、その不確定要素をぎりぎりまで削って勝ちます」とは中須賀克行。いい準備ができて、タイムが出て、しかも自信に満ち溢れてるんだもん、このチームがやっぱり大本命です。

画像: マシン、ライディング、コンビネーション、ピットワーク--すべてがベンチマークのヤマハワークス

マシン、ライディング、コンビネーション、ピットワーク--すべてがベンチマークのヤマハワークス

ただひとつの不安材料と言えば、テスト01をキャンセルしたことで、ウェットの走行時間が足りてはいないですね。中須賀の雨の速さは折り紙付きですが、ロウズとファン・デル・マークの雨の速さは未知数ですからね。

ノーマークになると強いヨシムラ

画像: 相変わらずピットワークは神速! この1~2秒がレースタイムに効いてくる!

相変わらずピットワークは神速! この1~2秒がレースタイムに効いてくる!

ヤマハ、カワサキ、ホンダの陰に隠れて、今ひとつ下馬評に上がってこないのがヨシムラスズキ。ヨシムラは、津田拓也/渡辺一樹/シルバン・ギュントーリ/ブラッドリ・レイの4人をライダー「候補」として発表しましたが、レースに出場するのは3人、この4人から誰が本戦に出場するか、直前まで発表しません。

「ヤマハ、ホンダはワークスチームだし、カワサキだってセミワークス。うちはうちなりに、小さな厚木の工場が巨大メーカーに挑んでいく、ってテーマは変わりません」とは、ヨシムラスズキMOTULレーシングの加藤陽平監督。

津田、ギュントーリはまぁ当確でしょうが、陽平監督、渡辺とレイで迷っているんじゃないでしょうか。テスト01/02を見ていると、渡辺は同じスズキのエスパルスドリームレーシングで走るシーンが多かったため、ヨシムラは津田/ギュトーリ/レイで、エスパルスが、すでに発表されている生形秀之/トミー・ブライドウェルに渡辺を加えるんじゃないか、と見られていたんです。

けれど、その渡辺はテスト02の最終日、なんとエスパルスでもヨシムラでも走り、どっちでもトップタイムをマークする、という離れ業を演じてしまいます! ヨシムラのツナギと市販デザインのツナギ2着を着替えて、ヘルメットも替えての出走。渡辺としてみれば「僕はどっちでも行けますよ!」という心境なんでしょう。人事を尽くして天命を待ってますね、カズキ、やるなぁ。

画像: マシン開発の軸となっているシルバン・ギュントーリ スズキGPチームにとっても貴重な人材です

マシン開発の軸となっているシルバン・ギュントーリ スズキGPチームにとっても貴重な人材です

対するレイ、今シーズンのイギリススーパーバイク開幕戦で初優勝し「誰だあれ!」と一躍話題になったライダーですが、そこはヨシムラ、抜かりはありません。

「去年、9月か10月にイギリスに技術サポートに行ってたことがあるんですが、その時テストしてくれたのがブラッドリだったんです。これは面白い、と思って全日本の最終戦にも呼ぼうとしたんですが実現しなくて……。それで今回、ようやく来てもらった、ってこと。今回の8耐には最初からテストだけじゃなく、戦力として考えてます」と陽平監督。

本命ヤマハ、対抗カワサキとする意見が大多数でしょうが、それならばヨシムラが穴になる、そんな気もしています。

優勝候補は多いほど面白い

いずれにしろ、ホンダvsヤマハvsスズキvsカワサキと優勝候補が出そろった、近年まれに見るほどコマが揃った8耐になりましたね。ただ、どうしてもホンダの出遅れが気になります。昔の「常勝ホンダ」なら、何重にもバックアップがあったものですが、そこもなし。今回のばたばたで、モータースポーツをベースから見直すかもしれませんね。育成→全日本→アジア→WSBK→Moto3/Moto2/MotoGP→8耐、という流れとか――。

鈴鹿8耐は1戦だけのことじゃない、モータースポーツ計画全体に及ぶものだ、っていうことをズッシリ思い知らされる2018年の鈴鹿8耐になりそうです!

写真・文/中村浩史

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