仕事柄、これまで数え切れないくらい多くのオートバイに試乗してきたけど、忘れられないオートバイって言ったら、ライディングすること自体が楽しいオートバイってことになるかな。

ぶっちゃけ、MotoGPマシンやワークスレーサーにも数多く試乗したけど、ものすごく良く出来ていて恐ろしく速くても、乗ること自体が楽しいってわけじゃない。速いとかマシンの完成度が高いってことは、必ずしも「楽しい」と直結していないってことだね。

では俺にとって一番楽しかったバイクは何かというと、カワサキのW3だ。俺は高校生の時に限定解除に挑戦してたんだけど、それを聞きつけた大学生の従兄弟が「じゃ、これで練習したら!」って、俺ん家に置いていったのがW3だった。そのW3で練習して無事に限定解除ができたんだけど、なぜか俺が限定解除した後も、従兄弟はW3を取りに来なくて、俺は自分のバイクみたいな顔をして半年くらいW3を乗り回してた。

画像: W3はフロントのダブルディスク化が特徴。フロントフォークは同時にデビューしたZ2と共通のパーツだ。

W3はフロントのダブルディスク化が特徴。フロントフォークは同時にデビューしたZ2と共通のパーツだ。

で、W3の何が楽しかったか? ってことなんだけど、まずエンジン音が素晴らしかった。6000回転くらいしか回らないんだけど、低回転からグリングリンとクランクが回っている感触が伝わってくるし、加速しようとアクセルを開けると、キャブトンマフラーからズバババババッて歯切れの良い排気音が吐き出される。決して吹け上がりが鋭いわけじゃないけど、一発一発燃焼しながら加速してることが感じられて、実に気持ち良い。自分のアクセル操作にエンジンが応えている様を感じられるのは、現在の恐ろしくスムーズに吹け上がるエンジンでは得られない快感だ。

車重の割に細いフロントフォークや古典的なフレーム、オーソドックスなリアサスはお世辞にもバランスが良いとは言えないけど、その分早めに限界を感じられるし、それ以上無理しようとは思わない。低いスピードでもバイクと会話できるし、楽しめるのだ。

セルモーターが付いてないからエンジン始動はキックしなくちゃいけないし、おまけにプライマリーギアじゃないから、キックするたびにギアをニュートラルに戻さなくちゃいけない。いちいち手間が掛かるのだけど、慣れてしまえばW3を目覚めさせる為の「儀式」として楽しめるし、コツをつかめば自信にもなる。手間が掛かるからこそ楽しいと思えることもあるのだ。良く出来た現代のバイクでは味わえない楽しさがW3にはある。

画像: 400RS、750RS(Z2)とともに、650RSは「RSシリーズ」の一員としてデビューを果たした。

400RS、750RS(Z2)とともに、650RSは「RSシリーズ」の一員としてデビューを果たした。

画像: 空冷OHV・バーチカルツインは624㏄で53PSを発揮。強い鼓動感がライダーをその気にさせた。

空冷OHV・バーチカルツインは624㏄で53PSを発揮。強い鼓動感がライダーをその気にさせた。

KAWASAKI 650RS W3(1973年)
●エンジン型式:空冷4ストOHV2バルブ並列2気筒
●総排気量:624㏄
●最高出力:53PS/7000rpm
●最大トルク:5.7㎏-m/5500rpm
●車両重量:215㎏
●燃料タンク容量:15L
●タイヤサイズ(前・後):3.25-19・4.00-18

八代俊二

1984年に初代TT-F1のチャンピオンに輝いた後、1987年からはHRCのワークスライダーとしてフル参戦。最新のワークスマシンから市販車まで幅広く試乗評価するかたわら、WSBK中継の解説も務めるなど、マルチに活躍するジャーナリスト。

画像: 八代俊二

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