「Babes Ride Out/ベイブス・ライド・アウト」。10月にアメリカ・カリフォルニアにあるジョシュア・ツリー国立公園で開催されたこのイベントは、昨年に開催4回目を迎えた、女性の、女性による、女性のためのバイカーイベント。
1600人の女性バイカーが集まったこのイベントを、BMWの「MAKE LIFE A RIDE」キャンペーンやBMW設立100周年を記念するコンセプトバイク「Motorrad Vision Next 100」の写真ビジュアル、またヤマハ・ヨーロッパのカスタムプロジェクト「Yard Built」に参加した木村信也氏の“Fastor Son”の写真撮影を担当したスペイン人女性写真家・Kristina Fender(クルスティナ・フェンダー)が撮影&レポートします。

女性ライダーの先入観を打ち破れ!
6:00 am
私は暗い部屋の中で目覚めた。ベッドにひとり腰掛けて周りを見回しても、いまの状況を把握できずにいた。旅の始まりはいつもこうだ。突然、私はそこに現れる。どうやってそこにやってきたかなんてことはあっという間に忘れ去ってしまうのだ。そんなことは重要じゃない、その証拠だ。
4歩先にあるドアを開けると、私の住むスペインではすっかり秋だと言うのに、夏のように暑いカリフォルニア州のジョシュア・ツリー国立公園の中の砂漠が広がり、自分が再びアメリカにやってきたことを思い出した。
表に出てタバコを吸っているあいだも、私はまだ完全に目覚めていなかった。しかし燃えるように鮮やかに焼けた地平線が一日の始まりを告げ、そのオレンジの光りが広がるのをタバコの煙越しに眺め、間違いなく今日も暑くなる、と感じた。
2年前にも、同じような経験をしたことをよく覚えている。2014年に訪れた「Babes Ride Out」は、私にとって衝撃だった。誰かに格好いいイベントがあると教えられ、最初はそのビジュアルだけを見てクールなイベントだと感じた。しかし私は、そのイベントが70人の女性ライダーだけで行われたと言うことを知り、大いに驚いた。いずれにしても、筋肉で武装し、ヒゲで飾った男どもの干渉を受けず、女たちだけで如何にバイクに乗り、楽しむのか。それを確かめる必要があると思ったのだ。



「Babes Ride Out」は、友人であるアーニャ・ヴァイオレット(Anya Violet)とアスモア・エリス(Asmore Ellis)がスタートさせたイベントだ。2013年6月、その年にオフロードバイクに乗り始めた二人が訪れた、カリフォルニアで開催されているカスタムバイク系イベント“Born Free Motorcycle Show/ボーンフリー・モーターサイクルショー”での二人の会話が始まりだった。
そのアイディアはじつに単純で、女の子のバイカーばかりが集まる“ガールズ・ウィークエンド”をSNSだけで呼びかければ何人が集まるだろうか、というものだった。彼女たちはそのイベントをその年の10月下旬に開催すると決め、そのために動き始めた。モットーは“男ナシ、媚びる必要ナシ”と“偏見と戦う必要のない、すべての女性のための空間を造り上げること”だ。
アーニャとアスモアは当初、10~15台は集まると考えていた。しかし告知を始めると日に日に参加台数が増え、イベント当日の集合場所には、遠く東海岸からの参加者を含む70人のライダーが集まっていた。そして彼女たちは砂漠の街/ボレゴスプリングス近くの砂漠で、サソリに囲まれながら、許可なくキャンプをして過ごしたのだった。
その経験は、彼女たちにとってかけがえのないものになった。そしてその経験をより多くの人々に伝え、共有する必要があると感じ、再びそのイベントを開催しようと考えるようになった。しかし次回はオフィシャルに開催するためキャンプサイトと契約し、トイレと水を確保する必要があった。そして彼女たちは翌年、彼女たちの地元であるジョシュア・ツリー国立公園内のキャンプ場に場所を移し、500人の女性ライダーを集めイベントを開催した。




その時「Babes Ride Out」は、それまでと違う局面を迎えた。彼女たちのインスタグラムはフォロワーが一気に増え、世界中の女性たちが、バイクを通じた、女性の世界を知り始めたからだ。彼女たちは、それまで隠れていた、バイクカルチャーに対する女性の情熱をあぶり出し、それを広く知らしめたのである。「Babes Ride Out」の成功の鍵は、ここにある。アーニャは、日常生活の中では見いだすことが難しい、しかし成長を続ける女性ライダー・コミュニティのパワーを信じていたのだ。
「Babes Ride Out」に参加した女性ライダーたちは、イベントに参加するしないに関わらず、互いに何ら可能方法で繋がり、バイクに乗り、出会う方法を見つけ出していたのかもしれない。そしてそれまでの経験を笑い飛ばし、お互いが出会ってからの新しい冒険をシェアし合っただろう。男たちと一緒に走るのも悪くない。しかし女同士で走る「Babes Ride Out」で感じる友情のような一体感は、ほかでは感じることができない。
「Babes Ride Out」のゴールは、女性たちがバイクに乗ることを後押しすること。それは自身のバイクであろうとなかろうと、関係ない。それよって、バイクは男性だけのものではないと示すことができる。そして女性たちが冒険に出かけ、素敵な人々と出会い、快適な空間を生み出し、それが実現可能だと知る素晴らしいきっかけになること、だ。




8:00 am
すっかり夜が明けた。人々がゾンビのようにカフェテリアに向かう。明け方まで続いたライブで踊り狂い、その後グッと下がった気温によってすっかり体力を奪われてしまったのだ。おそらく皆、3時間ほどしか寝ていないだろう。でも今日は、きっと良い日になる。ここに居る皆が、そう信じていた。事実この日は、前回開催から1年間待ちに待った、メインイベントのライディングDayだ。すると、どこかでバイクのエンジンが掛かり、あちこちで笑い声と朝の挨拶も聞こえる。そしてコーヒーとともに、ガソリンの匂いが漂い始めた。
バイクに乗って出かけるには、まだ少し早い。でも、あたりに立ちこめる光りは完璧だ。私はカメラを抱えてテントエリアの中を歩き、笑顔と言葉を交わす。するとあるテントから女性が一人、飛び出してきた。彼女はそこで、自由気ままに服を着替え始めた。恐れることも隠すこともせず、すべてがシンプルで自然だった。
“Good Morning!”そう声を掛けてきた彼女は、私をコーヒーに誘った。そしてこう尋ねた。“午前中の予定は?ここに居る?それとも一緒に走りに行く?”。マドリッドからカリフォルニアにやってきた私は、ここまで男性がライディングするバイクのタンデムシートに乗ってやってきた。申し訳ないが、私はそこがキライだった。しかし彼らと離れ、このキャンプサイトに一人残されるのもツライと考えていた。だから、その誘いに対する私の答えは決まっていた。“Yes!一緒に行く”


10:00 am
用意ができた。大小さまざまなグループがキャンプサイトを離れ始める。それぞれが、それぞれの冒険の旅に出るのだ。あらかじめ、いくつかのオススメルートが設定されているが、それぞれのグループがどれくらい走りたいか、またグループのライディングテクニックや経験、その他さまざまな要素を踏まえて自由にルートをアレンジしていく。キャンプサイトから離れた場所で再び出会ったり、午後早くに戻ってきたり、その選択は自由だ。そしてほとんどのグループは夕暮れあたりにキャンプサイトに戻ってくるだろう。
私は、私を誘った彼女が現れる前に、騒然となり始めたキャンプサイトで目を閉じてみた。目の前をバイクが走り去る排気音、甘く切ないガソリンとオイルの焼ける匂い。それはいままで、男性を中心としたイベントで感じたそれと変わらない。しかし目を開けると、そこは今までとは違う景色があった。神話に出てくる、ワルキューレのように美しい女性で溢れ、カラフルに染め上げた髪が煙とホコリのなかでゴージャスに輝いていた。彼女たちは、美しい。
私を誘った彼女はハーレーダビッドソンに乗って現れた。そして彼女の後ろに飛び乗り、キャンプサイトの出口で“どのルートを選んだの?”と聞くと“ビッグベアー!”と返ってきた。それからの出来事は、私の網膜と写真に残っている。それは品行方正なものばかりじゃない。ばかげたことも、少なからずあった。
今年は1600人の女性ライダーがジョシュア・ツリーに集まった。いま「Babes Ride Out」は東海岸やイギリスでも開催している。もちろん言うまでもないが、この手のイベントの開催地は砂漠のような場所が適している。しかしさまざまな声をまとめると、問題は場所ではなく、この空気だ。


女性同士であることのほうが、より楽しい時間を過ごすことができるという理由を解明するには、社会学的な研究が必要かもしれない。しかし、似たようなことは、すでにほかでも起こっている。男たちは友情や、血の繋がらない兄弟関係について、多くのストーリーを持っている。しかしそれは、あくまでも男の世界での話。女性は個々のキャラクターを磨き、エネルギーを充填し続けることが、その原動力になる。そしてそこで得た大きな満足感が、楽しい時間の源かもしれない。
自分は社会学者ではないが、それを理解するために思考を巡らせている。私は、イベントで会ったひとりの女性が言ったことを覚えている。何度もこのイベントに参加している彼女は、それぞれの年のことをよく覚えているという。そして彼女はこう言った。大人になっても、旅先で一晩中とりとめのない話で盛り上がり笑い合う、ティーンエイジャーのパジャマパーティのようなたわいもない時を過ごす。忘れかけていたこんな時間が、とても重要なのだ、と。



一方で、このイベントについてある男性と喋っているとき、彼はこのイベントでは間違いなくフェミニズムがテーマになるだろうと結論づけた。一見するとその通りだが、私はこのイベントは違う局面を持っていると考えている。主催者の一人であるアスモアは言う。
「そのとおり。このイベントは、女性ライダーにとって安全な環境を造り上げることがその目的。誰からも蔑まれたり、急かされたりすることなく、ね。そしてバイクに乗る女性たちが、出会える場所を造り上げること。それがきっかけで、また誰かが違うイベントを開催すればいい」と。
この手のイベントが、アメリカ以外の場所で成功をおさめるかどうか、私には分からない。ただここには、じつに多様な地域から人が集まり、それらが新しいコミュニティを造り、バイクで走ることを楽しんでいる。そんな景色は、どこででも見られるものじゃない。これほど多くの女性が、多様な地域から集まるイベントも、ほかにはないだろう。彼女たちの多くは、アメリカ以外の国から10000マイル以上の道のりを、自らのバイクに乗ってやってきているのだ。恐らくそれは、彼女たちのなかに、ヨーロッパやアメリカを開拓してきた巡礼者としての遺伝子があるからかもしれない。
「Babes Ride Out」は、女性ライダーというステレオタイプな先入観を、完璧なまでに打ち破っている。この成功は、バイクカルチャーが進化していることの証だ。

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Kristina Fender/クルスティナ・フェンダー
広告やファッション写真を数多く手掛けるフォトグラファー。自身もバイクに乗り、以前はサイドカーレースのパッセンジャーとしてレースにも参戦していた。近年はスペインのカスタムビルダーEL SOLITARIOのオフィシャルカメラマンを務めるほか、「YAMAHA/Yard Built」「Motorrad/MAKE LIFE A RIDE」「BMW Motorrad/Motorrad Vision Next 100」の撮影も担当している。

▼クリスティ・フェンダーさんのオフィシャルTumblrとInstagramは以下のリンクになります。
この企画で彼女に興味を持ったなら、是非ご覧下さい。
▼Babes Ride Outのオフィシャルサイト
Triumph presents: Babes Ride Out 4
youtu.be翻訳:河野正士