テストライダーとして、そしてジャーナリストとしてバイクに乗り、評価をする仕事を続けてきた私にとって「忘れられないバイク」とは、素晴らしいことに留まらず、バイクという乗り物に更なる可能性を感じさせてくれる1台のことである。その技術が展開され、もっと素晴らしい乗り物になっていくと実感できれば、もう気分も最高である。

そう考えたとき、真っ先に頭に浮かぶのは、1999年の4月にイタリア・モンツァで乗ったMVアグスタのF4。とにかく、コントロール性が見事で、バイクに抱いてきた「理想像」が見事に具現化された1台だった。当時、比較の対象は750ccのスーパーバイクレプリカである。それらはアルミツインスパーフレームによって車体が高剛性化され、安定性は高いものの、セッティングやタイヤに対しピンポイント的な性格だった。それに、高剛性ゆえに無機質で、マシンから情報を得るにも集中力を保つ必要があった。

画像: ジャーナリスト人生で最も感銘を受けた「スポーツバイクの理想像」【MV AGUSTA F4 SERIE ORO(1999年)】(和歌山利宏)

ところがF4は、高速コーナーで車体が振れても、決して増幅することはなく、振れが情報となって、接地感がみずみずしく伝わり、コントロール性と安心感を高めてくれる。バイクからの情報、排気音やスロットルレスポンスも含め「ここまでバイクはライダーを楽しませ、感動させることができる乗り物なんだ」と感心した。

マシンだけでなく、開発責任者のマッシモ・タンブリーニの凄さにも感激した。彼が関わったビモータのDB1やドゥカティの916にも通じる持ち味が、並列4気筒車でさらに高次元に具現化されていたのだ。

そればかりか、試乗会ではそのタンブリーニ自身が、試乗車を1台ずつ、サスの動きやスロットルレスポンスなどをチェックして僕らに渡してくれる。雨が降り始めたときは、タンブリーニが雨でマシンが汚れるのを嫌がって、なんと中断になった。転倒者が出たときの彼の悲しそうな目も思い出深い。

このF4の試乗を通じて、彼の思い入れ、ライダーに感激を与えるパッションに深く感銘を受けた。ジャーナリストという仕事をやっていて良かったと思った瞬間である。

ただ、後年改めてF4に乗ったが、そのときに比べ感激は薄くなっていた。おそらく、多くのバイクがF4の感動性能に影響を受け、高水準化していったためだと思う。それほど、F4は他車に与えたインパクトも大きかったということだ。

画像: 当時、その走りはまさに異次元。「イタリアの至宝」と呼ばれるだけのパフォーマンスだった。

当時、その走りはまさに異次元。「イタリアの至宝」と呼ばれるだけのパフォーマンスだった。

画像: 初期ロットの限定車「セリエオーロ」は、各所にマグネシウムパーツを使ったスペシャル仕様。

初期ロットの限定車「セリエオーロ」は、各所にマグネシウムパーツを使ったスペシャル仕様。

画像: テールから突き出す4本出しのエキゾーストが、唯一無二の個性と存在感を誇示。

テールから突き出す4本出しのエキゾーストが、唯一無二の個性と存在感を誇示。

MV AGUSTA F4 SERIE ORO(1999)
●エンジン型式:水冷4ストDOHC4バルブ並列4気筒
●総排気量:749.4㏄
●最高出力:126PS/12500rpm
●最大トルク:7.5kg-m/10500rpm
●車両重量:189㎏
●燃料タンク容量:21L
●タイヤサイズ(前・後):120/65ZR17・190/50ZR17

和歌山 利宏

1975年にヤマハ発動機に入社、テストライダーを務める傍ら、レースにも参戦。豊富な経験を活かして1990年からはジャーナリストとなる。海外ショーに毎年足を運び、国際試乗会にも数多く参加する大ベテラン。

画像: 和歌山 利宏

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