金曜から始まったレースウィーク、残念ながらツインリンクもてぎは雨続きでした。最終的にはこれが、近代グランプリには珍しい、3日間ともずっと雨、ってコンディションになっちゃうんですが、これが日本人ライダーたちを苦しめました。普段乗っていないマシン、moto2の水野涼と榎戸育寛は初めてのmoto2ワンメイクエンジン、水野に至っては乗ったことのないカレックス+ダンロップタイヤ、MotoGPの野左根航汰と青山博一はひとのマシンとテストでしか乗っていないミシュランタイヤ、中須賀克行はいつも開発テストで乗っているYZR-M1とはいえ、終盤のチャンピオン争いを見据えた新しい仕様。そりゃぁ、こんな初めてだらけの条件では、ドライコンディションで乗りたいに決まってます。
ただし、この条件を歓迎していたのは、YZR-M1の開発テストライドを担当する中須賀でした。
「雨は、ウェットでしか試せないことができるから、むしろ歓迎ですよ。バレンティーノとマーベリックにはウェット時のリクエストももらっているから、そこを確認できるし。ただ、走行ごとに仕様が違っていてタイムを出すことを狙っていけないのがちょっとね。でもそれが僕の仕事です。雨でも晴れでも、やることはたくさんある」と中須賀。
レーシングライダーとしては「①乗って→②フィーリングを確認して→③好みの仕様、フィーリングのいいセットに仕上げていく」のがセッティングなんですけど、中須賀の場合は③が違うんですね。「①乗って→②フィーリングを確認して→③好みにかかわらず次の仕様にトライする」だから、タイムが伸びていくかどうかは③の段階次第。
今回のヤマルーブYAMAHAファクトリーレーシングの鷲見監督は「通常のレーシウィークでは決してやらないような大きな仕様変更と、装着パーツの大幅変更もやりました。ウェットで路面温度も低い、でも中須賀のプロ意識が、冷静でリアリティのある分析をしてくれた」と言います。これが、テストライダーの仕事なんです。

画像: 世界の実戦の舞台での開発 中須賀はもてぎでいちばん重要な任務を担っていたのかも

世界の実戦の舞台での開発 中須賀はもてぎでいちばん重要な任務を担っていたのかも

野左根は、金曜にテック3ヤマハのサテライト仕様YZR-M1に初ライド。今シーズン、YZR-M1のテストライダーとしても活動している野左根ですが、まだまだ開発というよりは、テスト。中須賀との役割も当然違いますが、このレースに臨む環境も大きく違う。つまり、中須賀のYZR-M1は、いいとは限らない、試したいこといっぱいの最新仕様、対して野左根のYZR-M1は、ここまで14戦を戦ってきた現役バリバリの実戦使用、ただしヨナス・フォルガー専用。もし成績を出すために、足かせなくマシンを選べと言われたら、中須賀もきっと、フォルガーのマシンを選ぶでしょう。
だからなのか、野左根は金曜のFP1で15番手、FP2で13番手という、すばらしい走りを見せました。2階の総合順位も13位、これはウェットコンディションに苦しむレギュラーライダー、11位マーベリック・ビニャーレスと12位バレンティーノ・ロッシに続くポジションで、ロッシに遅れること、わずか0秒018! これには、ロッシも「ノザネはすごいね。初のヨナスのマシンに初乗りであの順位にいるの? まだ若いし、彼はMotoGPに合ってるんじゃない?」と高評価。
しかし、野左根はここからさらにステップアップするべくアタックした結果、土曜のFP4で激しいハイサイドで大転倒! 右手を骨折し、計時予選に出場はするものの、2周だけして予選最後尾へ。うーむ、無念! 

画像: ケガさえなければ残りのレースも…という野左根 コータ、もう1回チャレンジだ!

ケガさえなければ残りのレースも…という野左根 コータ、もう1回チャレンジだ!

中須賀は土曜にはテストよりもタイム出しに集中できたものの、雨量の多かったセッションということもあって、十分に走行はできなかったみたい。今回が6回目の日本GPワイルドカード参戦だけど「いちばん苦しい」状態だったみたい。おそらく、ビニャーレスとロッシに近い仕様で走ったんじゃないかな、結局はこれも形を変えた「いきなり仕様」だから、予選は最後列の23番手でした。

画像: 青山と言えば「石橋を叩いて渡る」男 ムチャせず着々と課題をひとつずつ解消していきました

青山と言えば「石橋を叩いて渡る」男 ムチャせず着々と課題をひとつずつ解消していきました

青山はまず、ウェットコンディションでのマシンとミシュランタイヤのマッチングを探るところからスタートしています。FP1は最下位24番手、FP2は22番手、そして2日目のFP3は17番手、FP4は15番手です。青山らしく、着々と順位を上げてきましたね。
「金曜にミシュランのウェット特性を理解して、土曜にタイム出ししていった感じでした。フルウェットの状態では大丈夫なんですが、今回の予選みたいに路面が乾き始めていくなんてコンディションになると、まだ話が変わってきちゃう。ウェットタイヤだとオーバーヒートしちゃうし、スリックを履くにはまだ濡れてましたから……」と青山。
まさに三者三様のワイルドカード。ここまでが、ほぼレースですね。決勝レースは、あくまで結果でしかない、と僕は思っています。金曜、土曜の準備こそが、この3人が直面したタイヘンさだったと思います。
スターティンググリッドは、青山が7列目21番手、中須賀が最後列23番手、野左根がビリの24番手。雨で、厳しい条件での予選だったとはいえ、これが世界最高峰のMotoGPクラスでのこの3人の実力だと思います。ワールドクラスはそんなに甘くない! 予選は苦しんだけど、決勝レースではイチかバチかのギャンブルが的中、スパッと前に出て大活躍……なんてファンタジーの世界だもんね。

画像: 計時予選は1周が精いっぱい… 全力で走らせてあげたかった…

計時予選は1周が精いっぱい… 全力で走らせてあげたかった…

決勝レースは、このウィークでいちばん雨量が多かったんじゃないか、って思えるほどのコンディションでスタート。スタートでポンと飛び出したのは最後尾の野左根でした。24番手スタートで19番手に順位を上げたんですが、21番手に下がった4周目に転倒、そのままリタイヤしてしまいました。右手を骨折しながら、朝のウォームアップでは9番手タイムを出し、決勝も行ける、と出場を決めたのですが、ムリしてたのかな。痛いに決まってる、それでも結果を出したかったんでしょう。
「ウォームアップでは痛み止めを注射して、なんとか走れました。決勝は午前中よりも雨が激しくて、ケガがなかったら走り切れたかもしれませんが、リタイヤになりました。ファンの皆さんにも、チームにもヤマハにも申し訳ない気持ちでいっぱいです。ただ、この3日間は夢のような時間でした。チャンスをもらえて、本当に感謝しています。たくさん応援ももらえて、ありがとうございました」と野左根。レギュラーライダーのフォルガーの体調不良もあって、今後の代役参戦も予定されていたかもしれないけど、骨折で予定も変わったのかもしれませんね。今週末のオーストラリアGPへは、ブロック・パークスの起用が発表されました。

画像: 開始2周目にあわや転倒のビッグスライド ヒロは1年ぶりの実戦でウィーク無転倒とはすばらしい!

開始2周目にあわや転倒のビッグスライド ヒロは1年ぶりの実戦でウィーク無転倒とはすばらしい!

青山は、用心深くスタートを切った2周目、リアタイヤを大きくスライドさせてコースアウト。最後尾からの追い上げを強いられます。ひとつ前の順位を走るサム・ロウズ(アプリリア)を追いかけ、その差を詰めたあとは、ずっとアルバロ・バイティスタ(Teamアスパードゥカティ)と一緒に走っていましたね。1台、また1台と転倒で姿を消すレースの中、最大で5秒はあった前のライダーとの差を詰めて、最後にはバウティスタの背後にまで! そのバウティスタも転んじゃったので、完走ライダー中の最下位18位でフィニッシュ。しっかり走り切りました。これだけでも大仕事!
「ウェットだから、かえって自分の経験を生かせると思ったんですが、2周目に転びそうになって、僕のレースは終わっちゃいました。チームが一生懸命マシンを作ってくれたから、残念です。代役で1レースだけ走るって、本当に難しい」(青山)

画像: 12位フィニッシュ、4ポイント獲得 出場した日本GPで全戦ポイントを獲得している中須賀 スゴい!

12位フィニッシュ、4ポイント獲得 出場した日本GPで全戦ポイントを獲得している中須賀 スゴい!

そして中須賀は、決勝日朝のウォームアップで、ウィークベストの状態に仕上がったようで、マシン全体のフィーリングが良くなったんだそう。
「最後列からのスタート、レース人生で経験がないけど、シグナルが見にくかったw スタートしても、まず1コーナーの混雑で巻き込まれないように一歩引いて入っていきました」と中須賀。
23番手スタートで、1周目に順位をひとつ上げ、その後もひとつずつポジションをアップ。9周目にはポイント圏内の15番手まで順位を上げてきました。ラップごとのデータを見ると、まわりの集団より明らかに中須賀の方が速いんですね。ロウズを抜き、エクトール・バルベラ(アヴィンティアドゥカテイ)を抜き、ティト・ラバト(マークVDSホンダ)を抜き、スコット・レディング(プラマックドゥカティ)を抜き、レース後半は13番手を走行。
終盤、ロウズに抜かれるんですが、最終ラップのフィニッシュライン直前でロウズを抜き返して12位でフィニッシュ! ロウズはフィニッシュ直前でガクッと失速しましたね。トラブルがあった、ってコメントしているけど、ライン間違えて、スタンドに手を振り始めたように見えたなぁ……w

結果だけ見ると、野左根が予選24番手/決勝リタイヤ、青山が予選21番手/決勝18位、そして中須賀が予選23番手/決勝12位。なーんだ、3人ともベスト10にも入ってないじゃん、って言うのは簡単だけど、この苦しい、難しい状況の中での結果だったんです。

MotoGPクラスの日本人ライダー3人、お疲れさまでした!

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