ライダーが走り込んでいるのと同時に、各チームともに走行して、または机上で計算しまくっているのが「レースシミュレーション」です。これは目標周回数を決め、そこからピット作業やピットアウト&ピットインのロスタイムを差し引いて目標平均ラップタイムを決めるもので、昨年の鈴鹿8耐は、優勝したヤマハファクトリーレーシングが218周回を達成。今年は、そこを上回る219周が優勝周回数目標値となるわけですから、下記のような計算式がひとつの目安になります。
まず、8時間=480分=2万8800秒。さらに、ここから7回ピットとしてピット作業7回分を引いて、ピットイン&アウトラップのスピードダウン分、フレッシュタイヤで周回するピットアウト後の周のタイムダウンも引いて、もちろんスタートもル・マン式スタートのタイムダウン分を引く、という複雑な計算式が出来上がるのです。
もちろん、たとえば雨が降ってペースダウン、転倒車が出てセーフティカーが介入、さらに転倒やコースアウトなどで想定ペースを外れた時に、どうシミュレーションを組み直すか――それがトップチームの「チーム力」なんですね。

画像: 3連覇へ向かって死角なし、のヤマハファクトリー。しかし敵は全員、打倒21番を狙っています

3連覇へ向かって死角なし、のヤマハファクトリー。しかし敵は全員、打倒21番を狙っています

画像: 驚速ぶりを披露してカワサキをひっぱるのがレオン・ハスラムです

驚速ぶりを披露してカワサキをひっぱるのがレオン・ハスラムです

それでは毎年恒例(笑)、優勝チームのデータを公開しちゃいます。昨年優勝のヤマハファクトリーレーシング、中須賀克行/ポル・エスパルガロ/アレックス・ロウズの218周です。
まず、ル・マン式スタートの1周目は2分18秒232。これ、中須賀がちょっとスタートでミスして出遅れるんですが、2015年に優勝した時の1周目が2分25秒086でしたから、なんと7秒近くタイムアップしています。なんだろこの、異常なタイムアップは…。
7回のピットインについては、ピットインでピットレーン入り口からボックスまで速度制限がかかり、ピット作業をすませ、ピットアウトでも、コースインの瞬間まで60km/h制限がかかりますから、ここもタイムダウンします。

ピットインの周は
1回目:27周目=2分25秒055 2回目:55周目=2分24秒342
3回目:82周目=2分24秒456 4回目:110周目=2分23秒883
5回目:138周目=2分26秒250 6回目:165周目=2分23秒141
7回目:193周目=2分24秒743
恐るべきタイムのそろい方! さらにピット作業を終えてのアウトラップでは、燃料満タン、数時間ぶりに走るライダーが、新品タイヤでコースインするわけですから、ややタイムダウンします。

アウトラップは
1回目:28周目=2分51秒521 2回目:56周目=2分55秒582
3回目:83周目=2分57秒264 4回目:111周目=3分13秒531
5回目:139周目=2分56秒399 6回目:166周目=2分59秒950
7回目:194周目=2分57秒171
タイムは2分50秒台、3分以内が目安ですが、111周目のアウトラップが3分を越えているのは、このあたりで後続との差が大きく広がり、ピット作業で急ぐより、確実に時間をかけてタイヤ交換と給油作業をしよう、という戦略のあらわれでしょう。

ピットインとピットアウトを7セットやるわけですから、足し算してみます。
1回目=5分16秒576 2回目=5分19秒924
3回目=5分21秒720 4回目=5分37秒414
5回目=5分22秒649 6回目=5分23秒091
7回目=5分21秒914 7セット分合計は37分43秒288、オープニングラップの2分18秒232を足すと、40分01秒520となります。

オープニングラップの1周、ピットin&アウトの7周×2=14周を足すと15周。218周から、タイムダウンのない周は218-15=203周ということになりますね。

これで平均ラップタイムを求めると
8時間-40分01秒520=2万8800秒-2401秒520=2万6398秒480
これで203周を走るとなると 2万6398秒480÷203=130.0417
つまり、2分10秒0417が、2016年のヤマハファクトリーチームの平均ラップタイムとなるわけです。す、すげぇタイムですが、これ、あくまでもざっくり計算していますから、お忘れなく。

画像: ヨシムラはシルバン・ギュントーリのペース、スピードが優勝へのカギになりそうです

ヨシムラはシルバン・ギュントーリのペース、スピードが優勝へのカギになりそうです

画像: 高橋裕紀、清成龍一に、ブリティッシュスーパーバイクのダン・リンフットを加えたモリワキ。

高橋裕紀、清成龍一に、ブリティッシュスーパーバイクのダン・リンフットを加えたモリワキ。

ちなみに、もうひとつ周回数を伸ばすカラクリがあって、レース開始8時間経過の午後7時半の段階で、トップを走るマシンがどこを走っているか、も問題になるわけです。つまり、レースタイムが8時間を経過してから、トップを走るライダーがチェッカーを受けるまでがレースなので、7時間59分59秒にコントロールラインを通過すると、まるまる1周が周回数に追加される、ってことです。
ちなみに昨年のヤマハファクトリーチームのレースタイムは、8時間40秒124。つまり8時間が経過した瞬間、チェッカーライダーのアレックス・ロウズは、コントロールラインから40秒手前……130Rくらいなのかな、そのへんにいたというわけです。これがもし、あと40秒速く走っていたら、つまり7時間59分59秒の寸前にコントロールラインを通過していたら、優勝チームの周回数は219周になっていた、ってことです。

2016年は、雨も降らず、セーフティカーも介入しないという、すごく稀な8時間完全耐久レースになりました。しかし通常は、ここから雨が降った時のペースダウン、バックマーカーをかわしたときのタイムロス、セーフティカー介入という不確定要素が起こるたびに、ピットで計算し直し、戦略を立て直す、というすさまじい戦いがピットで行なわれているわけです。…なんか計算専用ソフトとかあるのかな…いや、HRCとかヨシムラ、ヤマハファクトリーもチームグリーンも、オリジナルソフトを作ってそうだな。そういうチーム力が、優勝するチームには備わっているというわけです。

コースでは、開始30分もすると周回遅れが発生します。トップグループは、そこから7時間半もの間、ずーっとバックマーカーを処理しながら、戦術通りのラップタイムペースを守り予定周回数をこなすライダーと、1周ごとのラップタイムを入力して、残り時間の戦術を決め続けるピットの頭脳、そして0秒1たりともミスをしないようにタイヤ交換と給油を行うピットクルー、帰ってきたライダーの疲労を少しでも回復させようとケアして、ライダーやメカニックが欲しがるタイミングで、食べ物、飲み物、おしぼりを用意するヘルパーのみんなの力が合わさって、8時間を少しずつ消化していくわけです。イカン、涙出てきた><

鈴鹿8時間耐久ロードレース、いよいよ今週末の7月30日(日曜)午前11時半にスタートします!

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