やるべきことを予定通りに8時間やり続ける

鈴鹿8耐ヘ向けて、事前合同テストも終わり、いよいよ決勝まであと11日! 今年の鈴鹿8耐は決勝日が7月30日のため、毎月1日発売の本誌では、いかなフル回転で超速報をしようとしても、誌面に速報が載ることはありません。なので、レース前情報、鈴鹿入りしてからのニュースは、ここWebオートバイで詳報します! よろしくご覧ください^^

さて、カウントダウン②は2015~2016年の鈴鹿8耐2連覇を達成している、ヤマハファクトリーレーシングの中須賀克行インタビューです!

画像: 全日本の3レース連続転倒も引きずっていません。それだけオートポリス優勝は力になった!

全日本の3レース連続転倒も引きずっていません。それだけオートポリス優勝は力になった!

8耐のニュースをお伝えする前に、まずは今シーズンの中須賀のことからお話ししなきゃいけません。全日本ロードレースでは5連覇/7回のチャンピオンを獲得している中須賀ですが、今シーズンは誰も予想すらしなかった不振にあえいでいます。開幕戦・鈴鹿200kmで転倒リタイヤ、第2戦・菅生200マイルも転倒リタイヤ、第3戦・もてぎも決勝中に転倒(これは周回遅れを抜く際に完全に当てられた感じでした)し、再スタートから9位フィニッシュ、そして第4戦・オートポリス大会でようやく初優勝。オートポリスのレース後、表彰台下でスタッフに迎えられた中須賀は、泣いていました。

画像: オートポリス戦、ゴール後にはこの姿(撮影/赤松 孝)

オートポリス戦、ゴール後にはこの姿(撮影/赤松 孝)

「いや、あの涙は……(笑) ヤマハのwebサイトとかあちこちのレースレポートにも大きく扱われて、あんなの使っちゃうのー、って(笑)。いや、でもそれだけ嬉しかったんです。待ち望んだ優勝、まるで初めて優勝したときみたいな気持ちだったんですよ」と中須賀。
決して自分の調子は悪くない、それでも結果は出せていない、自信持っていいんだ、でもそろそろ焦る、そんなタイミングでの初優勝でした。
「8耐のことを考えても、本当にオートポリスで勝ててよかった。あれで弾みがついた、上向きのムードで8耐に臨めます。もしオートポリスでも結果を出せていなかったら、きっと焦って『8耐こそなんとかしなきゃ』って空回りしていたと思います」

まずは、全日本シリーズのこと。本人は「決して不調ではない」と言うけれど、結果が出ていなかったのは事実。2015-16年と、なにが違っていたのだろう。
「まずは今年からのレギュレーションで、17インチタイヤを装着したことが大きいと思います。と言うのも、去年までは16.5インチタイヤを使っていて、17インチ仕様のテストをする時間、ハッキリ言ってなかったんです。マシンも、ほぼ去年のままで、サイズ的なアジャストをしただけで17インチタイヤを履いてるんです。開幕戦の鈴鹿、その事前テストが初乗りでした」

中須賀は、私が思うに、タイヤ使いの名手、タイヤに対する理解度では日本でトップクラスのライダーです。だからこそ、17インチに戸惑ったのではなく、16.5インチを「知りすぎて」いた。これには、本人も「…そうなりますかね」と同意してくれました。
「初乗りでも、普通にタイムは出ていたんです。違和感はほとんどなかったし、もちろんロングランもやった。それが、開幕戦・鈴鹿の木曜かな、合同走行でS字コーナーで転んでしまった。あれ、攻めすぎたか、と深刻には考えていなかったんです。ただ、その転倒に予兆や不安感がなく、あっけなく転んだ、ってことはありました。そして金曜には、今度セーフティカー介入練習の時にビッグハイサイドを喰らって、大転倒しそうになったんです」

セーフティカー介入練習とは、レース中の転倒やコースコンディションの悪化などで、走行ペースを抑えるためにコースインするセーフティカーのペース、後続する間隔を準備しておく走行のことです。もちろん、レーシングスピードからはるかに遅いペースで隊列走行するもので、そのスピードは60-70km/h。つまり、レーシングスピードで走っている時より、タイヤの温度がガクンと下がってしまうのです。
「セーフティカーについてどれくらい走ればどれくらいタイヤ温度が下がって、どういうペースは危険か、ってことは肌でわかっていたはず。でもそれは16.5インチタイヤのことでした。だから17インチは、想像以上に温度が下がって、うわぁこんなに冷えるか、って気をつけていたんです。それなのに……」

そして決勝レース、中須賀は転倒しました。それも、1周目に転倒者が出て、セーフティカーが介入、その後方で隊列走行をしている中で、転んでしまいました。
「何が何だか分かんないうちに転んでいました。ヤバい、って予兆もなかったし、なにかタイヤ側からインフォメーションもなかった。なにも感じずに転んだんです。おそらく、タイヤが冷えてしまったんだと思いますけど、金曜に同じような場面で転びそうになっていたので、気をつけすぎるほど気をつけていたんですけど……17インチタイヤへの理解が足りなかった、ということだと思います」

第2戦菅生でも同じように「いつの間にか転倒」は起こってしまいました。雨の予選では4コーナーの左ヘアピンで、そして決勝ではSPアウトの左コーナーであっけなく転んでしまいました。もともと、左コーナーの数が少ない菅生で、これも気をつけすぎるほど気をつけていた、といいます。
「菅生の決勝は、もうなにがなんだか……。ドライの事前テストでは普通に調子が良くて、雨の予選で転んで、決勝でも転んでしまった。決勝なんか、アクセルも開けていない時にリアからスーッと転んでいるんです。あれ、これはおかしいぞ、と。マシンの剛性バランスをこう変更したらいいんじゃないか、っていう疑問がようやく沸いたんです。それで、もてぎに向かったんですね」

画像: 雨の菅生、予選の4コーナーで転倒する中須賀。中須賀には珍しいスリップダウンでした

雨の菅生、予選の4コーナーで転倒する中須賀。中須賀には珍しいスリップダウンでした

第3戦もてぎでは、予選でまたも転倒を喫してしまったものの、最終的にはトップタイムをマークし、決勝レースでもぶっちぎり、独走優勝を飾るはずのラスト半周、というところで、不可解なライン取りをした周回遅れライダーに接触され、転倒してしまった。
「もてぎでは、新しいスイングアームを投入してもらいました。フィーリングは変わらずに良くて予選で転んだときには『まだダメなのかな』って不安もあったんですが、イヤ大丈夫、自信もっていくぞ、って走りができました。決勝の接触はもう、あれ僕のせいじゃないですよね(笑)。焦ったわけでもないし、無理やり周遅れをパスしに行ったわけでもない間隔で、横にスーッと寄ってこられて当てられちゃったんです。もちろん故意じゃないでしょうが、あれ僕は悪くないもん!(笑)」

そして初優勝は第4戦オートポリスでした。事前練習ではドライコンディションで走れたものの、土曜の予選はひどい雨、そして決勝では雨、曇り、霧、スタート時刻遅延、レースは赤旗中断の後に再スタートと、もう条件がころころ変わる悪コンディションのなかで、中須賀は勝ちました。強い速い上手い、昨年までの中須賀の勝ち方そのものでした。
「オートポリスは嬉しかったですねぇ。もう、レースキャリア初優勝みたいな嬉しさです。自分ではミスしていないし、調子も悪くなかったのに、2連続転倒リタイヤ、3戦目で転倒再スタートで完走しての9位でしょう。それでも心は折れなかった。ただ、チームのみんなに心配も迷惑もかけたので、優勝って結果を持ち帰れたのは本当にホッとしました。さぁここから8耐だ、って気持ちも切り替えられましたね。オートポリスもダメだったら、8耐でこそなんとかしなきゃいけない、って心が空回りして、張り切りすぎて失敗しちゃってたと思います。だからオートポリスの優勝は、ホントによかった、うれしかった」

画像: 破顔一笑! オートポリスの優勝が、悪い流れをすべて断ち切りました。

破顔一笑! オートポリスの優勝が、悪い流れをすべて断ち切りました。

8耐ならではの3人セッティングの合わせ込み

そして、鈴鹿8耐への初テスト。まずヤマハファクトリーは、合同テストではなく、鈴鹿を占有してのプライベートテストを敢行します。マシンは、基本的に16年仕様をベースに大きな変更はなく、中須賀、アレックス・ロウズという去年と同じ顔ぶれの中に、マイケル・ファン・デル・マークを加えることへのテスト、アジャストに主眼が置かれました。
「アレックスのことは、去年も苦楽を共にしていますからわかっているつもり。マイケルもホンダ系のチームから8耐に出て2回も勝ってるし、彼の速さは僕も知ってます。マイケルはオートポリスでも全日本仕様マシンに乗って、実はあれは僕の仕様のまま乗ってもらって、テストしてもらっていたんです。あとは3人のセッティングを合わせる段階ですよね」

ライダーひとりづつの速さは折り紙付き。あとは3人の好み、セッティングを合わせ込んでいくだけ。3人で走ることが当たり前になった今の鈴鹿8耐では、この「合わせ込み」が大きなテーマになります。3人の好みを平均的に合わせるか、だれか突出した仕様に合わせて、1人、または2人がそれに合わせるか、という選択をしなければなりません。

画像: オートポリスでマイケルに一時前を走られ、のちにパッシングした中須賀。

オートポリスでマイケルに一時前を走られ、のちにパッシングした中須賀。

「15年と16年は、完全に僕の仕様で乗ってもらいました。15年のポル・エスパルガロとブラッドリ・スミスも、16年のアレックスも、ひとのセッティングであれだけ速く走る、その能力が素晴らしいライダーでしたね。当然、マイケルもなんですが、彼だけちょっと体格が違うんですよ。マシンのセットは大丈夫だけれど、このライディングポジションでは1スティントどうしても持たない、って。それで、ポジションを少しマイケル寄りに合わせました」
身長が高く、手足が長いファン・デル・マーク。特に上半身の窮屈さが深刻で、腕の収まりがつかない、という感想だったそうです。その解決は、ハンドル開き角を少し広げること。そうすれば、グリップ位置が少し前へズレ、腕の収まりもなんとかなる。しかし、これは中須賀にとってはハンドルが遠くなる、ということでもあります。
「腕の収まりもそうですが、ハンドル位置っていうのは、フロントに体重を乗せたり抜いたり、けっこう重要なんです。マイケルに合わせて、ハンドルが遠くなったことで、僕のタイムは落ちるんですよね。でもその分マイケルのタイムが上がるからいいんです。僕が0秒5遅くなって、マイケルが1秒速くなれば、チームとしては0秒5のタイムアップ。そっちが正解だもん」

画像: 鈴鹿テストでの1シーン まさにマイケルのポジションをチェックしているシーン

鈴鹿テストでの1シーン まさにマイケルのポジションをチェックしているシーン

占有テストを終えて、他チームとの顔合わせもあった合同テストでは、やはりライバルチームの動向が気になったといいます。無理もない、ヤマハの8耐2連覇、全日本5連覇にストップをかけようと、ホンダもスズキもカワサキもニューマシンを投入しているのです。
「テストでホンダと一緒に走った時、うわぁ速いなぁ、と。(高橋)巧くんが乗れてますよ、CBRも進化しているし、ライダーも自信持って走ってる、その相乗効果で、スゴいペースで走ってました。8耐のテストですから、ウチは8耐用の省燃費マップで走っているから、ホンダも省燃費マップのはずだよなぁ…いや、このスピードはフルパワーのはず、そうだったらいいのに、って感じでした(笑)。ヨシムラもカワサキも別組でしたから一緒には走りませんでしたけど、ヨシムラは要注意ですね、ライダーがすごく均等とれていて、(シルバン)ギュントーリも(ジョシュ)ブルックスも淡々とハイペースで走ってました。カワサキは、まだアズラン(シャー・カザルザマン)がケガ上がりであんまり周回してなかった。でも、(レオン)ハスラムがいるし、要注意のチームだと思います。モリワキもTSRも速かったし、今年は去年まで以上にマークすべき敵が多い」

画像: 8耐の事前テスト、夜間走行で高橋 巧、レオン・ハスラムとともに走る中須賀 (撮影/赤松 孝)

8耐の事前テスト、夜間走行で高橋 巧、レオン・ハスラムとともに走る中須賀 (撮影/赤松 孝)

3連勝すればヤマハ初、中須賀が同一チームで3連勝すれば大会記録

中須賀、そしてヤマハファクトリーチームの目標は、もちろん3連勝。8耐の長い歴史上、同チームで3連勝したライダーはまだおらず、93/94/95年にアーロン・スライトが3連勝しているのは、93年にカワサキ、94-95年にホンダで優勝しているのです。
「もちろん3連覇したい! ライバルチームも手強いでしょうが、セーフティカーも雨の影響もなかった16年の大会で、僕たちは218周していますから、まずはそこを目標に、あとどこをどう削れば219周できるか、というところがカギになると思います。もちろん、雨が降るかもしれない、転倒車が出てセーフティカーが出るかもしれないから、その時々の作戦変更、シミュレーションはやっていますし、そこはチームを全面的に信頼しています。今のファクトリーチーム体制になって3年目ですから、チームの対応力はすごいですよ。僕らライダーは、精一杯走るだけ。やることはかわらないです。決められたこと、決まっていることをその通りにクリアし続ける8時間です。もちろん、それが一番難しい、っていことも知ってます」

画像: 8耐合同テストでの中須賀 好調は変わらず、8耐マシンは16.5インチタイヤを履く

8耐合同テストでの中須賀 好調は変わらず、8耐マシンは16.5インチタイヤを履く

予想外の不振、いや予想外の結果で幕を開けた中須賀の2017年シーズン。それも、8耐直前のオートポリス大会でなんとか戻すことができました。3度目の正直なのか、2度あることは3度あるのか、それでもいいことは長く続かない、というジンクスは、全日本の3戦連続転倒ですでに前払い済みのような気もします。

「やることを予定通りやるだけ。でもそれが一番難しい」
そう言う中須賀の、スピードスターとしての速さ、ベテランとしての対応力、そして2連覇という経験力がどういう結果を生むか、すべての答えは7月30日の19時30分に出ます!

鈴鹿8耐 公式サイト

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