前後に履かされた超幅広の低圧タイヤ!

浜松のスズキ本社でVanVan RV90を渡され、いろいろと説明を受けた。車体そのものは、70年の東京モーターショーで参考出品されたものと変わりないように見える。そもそも何でボクがここにいるのかと言うと、在籍していた編集部に、このバイクをスズキが貸してくれると連絡があり、それならいっちょツーリングでもして、レポートを書いてみようということになったからだ。

このバイクは、かなり「変わっている」。というか「ヘン」でもある。誰もがまっ先に目にするのは、前後に履かされた超幅広の低圧タイヤだ。どのくらい幅広かと言うと、前も後ろも6・70! もある。しかも前から見ると「四角い」。ブリヂストンがレクタングル(長四角形)と名付けたこのタイヤは、もともと泥濘地や深い砂地といった、普通のバイクならお手上げの場所でも「走れてしまう」ことを狙ったものだ。

そんな場所に遭遇したときは、よりグリップさせるためにタイヤのエア圧を抜くといいそうだ。その調整を容易にするため、VanVan RV90のメインフレーム左側にはエアポンプが装備されているのだ。だけど、渡されたこのバイクにはそれが見当たらない。取り付け用のキャッチはあるのだが、そのものがないのだ。エア圧を調整すれば、どんなところでも名前のとおりバンバン行けちゃいます! と説明を続けるスズキ本社の彼に、それとなくエアポンプは? と訊いてみると「あ〜、間に合ってないんですね」とこともなげに言われてしまった。んじゃ、いま説明したことって意味ないじゃん…。

画像: 4.3リッター容量のガソリンタンクでは航続距離も知れている。なので5リッターの予備タンクを携行して何とか凌いだのだけど、今ではガソリンスタンドで、この手のタンクに給油してくれなくなってしまった。70年代はいい時代だったのだ。

4.3リッター容量のガソリンタンクでは航続距離も知れている。なので5リッターの予備タンクを携行して何とか凌いだのだけど、今ではガソリンスタンドで、この手のタンクに給油してくれなくなってしまった。70年代はいい時代だったのだ。

タイヤのエアは無闇に抜いてはならない…!

冷静にRV90を眺めてみると、極太のタイヤを支えるFフォークがいかにも頼りない。これは相当「ゆっくり」走ることを想定したモデルに違いない。だとすると、2泊分の予定を組んだこの企画は、道中がえらくタイクツなものになるぞ…、などと早くも先行きが不安になってきた。それでも「何とかなるさ」と気を取り直して、スズキ本社を後にしたのだけれど、RV90は市街地の交差点で、さっそくワガママを言い出した。

げげっと思うほど、曲がらないのだ。普通のバイクのつもりで寝かしにかかると、すごく重い。それならと強く寝かし込むと、すかさずピョコン! と起き上がってくる。接地面はほぼフラットなのだが、サイドは直角に近く切り立っているから、何とかタイヤのカド近くまで寝かせようとしても、けっこうな反発力で戻されてしまうのだ。

それならと、あえて車体を寝かそうとしないで、ものすごく速度を落とし、ハンドルを気持ちイン側に切るようにしてみた。そうすれば何とか曲がることが判明したのだけれど、峠道だったらどうなるんだろう? これは先が思いやられる。

やがて未舗装の林道に出喰わした。ここでタイヤのエアを少し抜いて走ってみることにする。そうしたら、いったいどんな走りをみせるのだろう? という興味本位である。どうなるのか試してみたい気持ちがあったし、もともとパワーの知れた空冷2スト90㏄エンジンだからと、ナメていたところもあった。

結果は、やるんじゃなかった感、ハンパなし。エアを抜かれたタイヤは無闇にグリップがあがってしまい、直進する力ばかりが働いて、道なりに走るのも大汗である。一刻も早く、もとに戻したいのだけれど、エアポンプがないのでどうしようもない。ものすごい後悔を背中に、それでも何とか走りきり、ガソリンスタンドにたどり着いたときは、正直ホッとした。

ヌルヌルの泥濘地、またはタイヤがもぐってしまうような砂地ならともかく、ドライの未舗装林道ではロクなことが起こらない。ちょっと考えれば、わかりそうなものである。これ以降、タイヤのエアバルブには触れないことにした。

その日は旧街道の風情濃厚な妻籠の宿に泊まったが、ここにたどり着くまでの難行苦行を振り返ると、明日以降のことが思いやられた。ムムム…いったいどうしてくれようか? だけど、ちょっとヒラメイタこともあって、さっさと寝てしまうことにした。ダメでもともと、である。

画像: 工事中の未舗装林道で、片側通行の順番待ち。トラックのお兄さんたちが「なんじゃ、こりゃ?」という目で見てる。まぁ、そうだろうなぁ…。

工事中の未舗装林道で、片側通行の順番待ち。トラックのお兄さんたちが「なんじゃ、こりゃ?」という目で見てる。まぁ、そうだろうなぁ…。

コーナリング開眼!? そして大シッパイ!

翌日はR(半径)の小さなコーナーが連続する峠道が目の前だった。そこで夕べ思いついた、ある方法を試してみることにする。手順はこうだ。まず、コーナーに向かってめいっぱい加速して進入する。次に、前後に長いシートの前端まで腰を移動し、シート先端にアウト側のヒザを引っかけるようにして、腰をストンと落とす。体重をこれでもか、というほど前輪に乗せて、次に車体を立てたまま、ハンドルを気持ちイン側に切る。そしてアクセルを全開!

すると荷重の抜かれた後輪は、山肌に響き渡るほどの悲鳴を上げながらアウトにスライドを始めたではないか! RV90はゴーカートのようにドリフトしている。うん、思ったとおりだ。この走り方でコーナリングマシンに変貌してくれたVanVan RV90は、前日までは悩みのタネだったワインディング走行を、楽しいものに変えてくれたのだ。このバイクで、こんな走りをする人はいないだろうな〜と思いながら、今の今まで味わったことのないコーナリングに、すっかりゴキゲンになったボクは、この日の宿に決めた志賀高原まで足を延ばした。

このコーナリングはフラットな道はもちろん、登りでも下りでも通用することがわかったボクは、翌日の道中でオフロード車のツーリンググループに遭遇した。

ヤマハDT-1やスズキのハスラーTS250など5〜6台のグループである。ここで悪いクセが出た。この走り方は速いのか、遅いのか? ちょっと試してみたくなったのだ。

さっそく彼らの末尾に、ピタリとくっ着いてみる。彼らのペースは、いたって普通で、飛ばすわけではないけれど、遅いわけでもない。やがて峠道にさしかかった。行くぞ〜!

RV90のリアタイヤは、早くも凄まじい悲鳴を上げる。目の前にいるハスラーのライダーが、ギョッとしてミラーを覗いたのがわかった。そりゃ、ビックリするだろうな〜。ヘンなバイクが、おかしなコーナリングフォームで追いかけてくるのだから。彼らのペースは変わらない。そしてRV90は、後れをとることなく着いて行けるのだ。ニンマリ、である。やがて峠は開けた景色になり、目の前には右の90度ターンが控えている。これに対応する姿勢をとり終わった直後、目の端にイヤなものがチラリと見えた。

路面に砂利が浮いてる! そのとたん、いつもの腹の底に響くようなタイヤのスキール音がスッと消えた。RV90はアウト側に音もなく吹っ飛び、ボクは右腕から路面に叩きつけられてしまった。大転倒、である。ツーリンググループは気がつく様子もなく、どんどん視界から消えて行った。後続車がいないことはわかっていたので、あわてることなくRV90を起こして各部をチェックする。軽いバイクはありがたい。レバーやグリップ、ステップにいたるまで、どこにも損傷個所が見当たらないのだ。さすがに右腕はジ〜ンとしていて、路面に当たってめくれたトレーナーの袖を見ると、みごとなハンバーグ状態になっていた。トホホ、である。

画像: 転倒後だから腕はシビレて痛いのだが、ムリして金峰山の大弛峠(当時は全ルートが未舗装)にトライ。頂上付近で余裕のつくり笑いをしてみた。

転倒後だから腕はシビレて痛いのだが、ムリして金峰山の大弛峠(当時は全ルートが未舗装)にトライ。頂上付近で余裕のつくり笑いをしてみた。

タイヤのグリップと路面の状態に依存したコーナリングは、実にアブナイ。こんな当たり前のことを思い知らされた次第だが、VanVan RV90でのこのコーナリングは、機会があれば、また試してみたいという思いが今でもある。それほど面白い体験だったのだ。家にたどり着き、オキシフルを腕に垂らされて白い泡が傷口を包んだとき、生まれて初めて「気絶寸前」を味わったことをつけ加えておく。

画像: こちらのジャンプは兄貴分の125

こちらのジャンプは兄貴分の125

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